早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年二月 第十九巻二号 近詠 俳句

2021-09-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年二月 第十九巻二号 近詠 俳句

  近詠
  大和室生寺にて (三句)
澄む冬を室生八峰雲不断

冬麗ら籾塔たつる掌
   注 籾塔は一寸七分の木彫古塔 往昔五穀成就祈願のため一棟に籾一粒を納めて相当数作られたと伝えられるが現存数は十幾等とか
千年の古材かるしや冬霞

水飛んで雌を越しけり鴛鴦の雄

大阪やまだ雪降らず生駒山

今朝の山近か近かと足袋の干ししづく

三歳るすの子のスキー靴穿いて見る

毛絲編み椿の日南まのあたり

鳰けふは居らずに眞ツ日南

山彦に招かれつゝも枯れをゆく

町の空朝のきれいな寒雀

寒肥や風水害の鉢木なる

  祝入榮子(眞銅ふじを君の祝送旗に書く)
軍国の春や股肱と召されつる

學生や東風に帽子の黒びかり

凍解の宿や赤繪の油壺

里霽れて梅に雷鳴りにけり
 
  淡路みくま山
城の冬松かさ人形賣りにけり

霜晴れの島の淡路に春近く

   海員帽自畫賛(淡洲丸船中同機関長に輿ふ)
これを冠つて凪も嵐も春をゆく

   壽盃吟抄
元朝の日天厳と極まりぬ

元朝や杉匂ふ中風匂ふ

歳旦や草ひろひろと樹たかたか

元旦や満珠干珠の島も玉

大初日いくさか濤をはなれけり

丹頂の雪ふるひたつ淑気哉

初鶴の嘴をそろへて東さす

丹頂やさ霧のひまを池にたつ

初風の伊勢路さき来つ天の春

初風の吹き入るからに穂長かな

初手水松の小中にかかりけり

炭籠の輪かざりをして雪の中

年の禮申し橘黄なるかな

初日南句案の膝をくみにけり

初かど出竹杖一竿つきなれを

初山に鳥居も小松まじり哉

筆立に筆をさがしつ去年今年

初日波かゞやくところ千鳥哉

初晴の雲の一點匂ひけり

船も島も港一灣初國旗

山頂や松に一戸の初國旗

たちかへる春を門前柳かな

初東風の葎枯れ中通ひけり

梅見れば山見れば初かすみ哉

枯草に春やあけたるやすらけく

年明けて落葉のうへの日南哉

うらゝかの堤景色を禮者哉

雪旦ふみてぞ出づる恵方かな

初伊勢の方に大日のあがりけり

初詣で伊勢へ旅路のみちの神

あら玉の東風にしらじら汀波

凧の子に旅たち添ひて居たりけり

梅のぞき水仙またぎ鶴太夫

若菜野のはるかにありぬ所不二

ふくさ藁に梅のこぼれを拾ひけり

永陽や石楠に花の芽ごしらへ

初山の焚火にばかり居たりけり

山はじめ花と枯れゐる檪かな

初日南来てしばらくす神の前

初春や蓬生ふるにたゝづみて

かど松を左右に入るや旅籠寺

正月や里のやしろに鈴をふる

正月や炭火にあつき掌

正月のまど の明るさ濤の音

正月の子供あふれて里もみち

野の風に正月の顔たてゝゆく

枯れ山のふかく正月ぬくき哉

みち往くに正月ぬくし噴井水

海村の夜は正月のくらさ哉

正月の山に吹きゆく小鳥笛

正月や山の埃を縁に踏む

正月の人集めけり城のうへ

正月の燈を木間より見上げけり

正月や山門入って甃

朝波にたちて正月ごころ哉

端居して正月ほがら霜の花

野木の空仰いでひとりお正月

正月やひと日泊れば二日經つ

日の坂を正月びとののぼりゆく

   夜寒
雑念を欄に立ち夜寒かな

宿の女に山をしへられ雲夜寒

ふところの句帳ぬいたる夜寒哉

  早春社初本句會
日あまねし鳳巾澄む下の鳰

山かつらいつとや晴れて凧の空

ひと日出て旅のこゝろにいかのぼり

  春袋  社にて初詣人にこれを授くるところあり
めでたさの黄をたゝみけり春袋

春袋紐の色若く長かりし

   闇汁會 師走の早春社年中行事 十六日 六橋観
闇汁の闇慣れてきて見ゆるもの

闇汁の二た釜も底すりにけり

   早春社無月例會
雪に照る山脈々と初湯まど

丹頂の凍てを動かす歩み哉