早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年十二月 第二十巻六号 近詠 俳句

2021-10-20 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年十二月 第二十巻六号 近詠 俳句

   近詠 
  三尾行

  桂
桂川芒老たる日の午かな

桂ゆく焚火ゆかしの山麓 

竹青く暦は冬を句餘せり

  嵐山
渡月橋をたゞ素通りに冬日南

  一茶亭にて
鶲らし障子のそとの南天に

卓上の肱冷やゝかに残菊と

陶床のあるを観てゐる芝枯に

鶺鴒の飛べばまた續ぐ水の閑

落葉焚くけむり跨ぎて嵐山

  太秦
太秦や櫻もみぢが休め畑

  高雄
石磴に降り惜しみ見る紅葉かな

しみしみと冬日あたれる紅葉かな



且つ散つて参差浮くなる紅葉かな



丹の橋や紅葉の底に人渡る



谷に降りてひろさを歩りく紅葉中



山紅葉散るをかむりて登るかな

紅葉

山笛鳴らし賣るは姦しい



初冬の丹の高尾寺紅葉いま



鐘文に山聲萬歳紅葉照る

  

和気清麻呂の墓

をくつきや紅葉登つて竹の冷



秋のこる筧の漏れに口漱ぎ



  山上の一亭にて

外竈けむらする冬浅き哉



山の女のたつつけの膝の毛糸哉



谷霧に紅葉注ぎてたひらかに



  槙尾

紅葉山鳥飛んで空蒼きかな



紅葉川中游こゝに曲がりけり



  栂尾

渓わたる紅葉秀の中寺の屋根



さへさへと三尾凪ぎたる山のいろ



  渓間を二粁・清瀧へ下る

紅葉山夕ぐれ低くなりにけり



渓みちの著莪に日南を戀ひにけり



血を飛んで地にまた降りぬ冬の鳥



蔦枯れて出水のあとを巌に見る



水仙歟らず生えたる矗々と



短日の見渡す崍か襟合す



山中の夕日一棚柿を賣る



  清滝

黄落を踏みゆくほどに冬らしも



苔を冠て藁家々々が冬そむる



清瀧や日の短かさの宿障子



紅葉散るや茶店に賣れる硯石



掌に撫して硯の齢冬日なる



宿の女の犬とたはむれ冬紅葉



仰ぎつゝ愛宕は亥子祭とぞ



京の田を暮れて歩りくや冬姿


   瀧
五本杉いづれ揃ふて爆を透く

爆風に空を空さすとんぼ哉

   神の旅
雲の中はしる白雲神の旅

拍手のうしろに谺神の留守

   小春
櫓の音を見て聞きすます小春哉

   冬の土
冬の土笛を落として汚れなく

   冬の蟲
住吉の燈籠の根の冬の蟲

冬の蟲水邊 となれば高き哉

   紅葉散る
浪音を風が奪へば散る紅葉

   早春社十一月本句會
萬年青の實日南あそんで知りにけり

月明やいまだ色なきおもとの實

林泉やこゝに小庭の萬年青の實

   丸紅俳句會
蝉時雨後架の窓に谷ふかし

川汲んで打つや夾竹桃の下

打水に洗足うれいしや女の子

庭ふかく水打つてゐる光かな

   紅吟會
遥かにも花火上つて舊山河

旅の夜は花火上るへ歩き行く

朝市の西瓜の端を跨ぎけり

晝寝する顔へ西瓜の來りけり

   阪急・草の實句會合同俳句會
二三戸の軒にながれて秋の水

蛇穴に入る露草の露の底

   保坂楓葉君追悼句會
露かなし逝きしといふが甘ケすぎ

鶏頭の露をしどゞにたくましく

鶏頭や莖も染みたち露紅