早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和六年九月 第十一巻三号 近詠 一 名張行

2021-06-08 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年九月 第十一巻三号 近詠 一

   近詠
  名張行
青田中桔槹あげて家遠し

朝涼や山のなだらの葡萄棚

山いつと聳ゆるすがた夏かすみ

朝山に綴る涼しや松五年

  赤目ノ滝
滝のみち宿の浴衣となりて往く

滝詣り蝉とんぼうのひややかに

二徑あり登り嫌へば瀧ひびく

病葉の散るや山骨高きより

彳めば懸泉の空夏の蝶

蝉の下瀧朝水に眼を冷やす

露涼し道に観て来し瀧いくつ

  滝の壺
人聲や險阻罵る瀧の上

岩踏んで早き脚かな青嵐

露に掘る實生楓も若葉かな

水や石や草履の荒び下闇に

峡せまくなるを夏霧たちにけり

瀧水の瀦りに鮠や岩に消ゆ

老鶯のなかなか高し雲は秋

蜩にたちて後澗を割愛す

  名張にて
夏山の二水合して町成れり

日盛りや町におぼえの鳥居立つ

日盛りを入るに藍壺ひややかに

藍壺と子供増やして裏涼み

三若寝のよにごろとしぬ干塲陰

   屏山耬は紺屋伊八なり
行水やこうや伊八が爪の藍 

句を忘れたるに非ずと鮎を焼く

ひとむかしその日も蚊帳の夜なりけり

   陶工鶴山子より近作藍染院芭蕉像を贈らる
陶像や土もおきなの国涼し

   奥田小笛子来る十二年の再会なり
舊友は裸鼎座の西瓜かな 

   名張乙女をうたふ
伊賀は山の乙女どころの日傘哉

水に鮎名張乙女が橋すゞみ

峯巒のなかの祭りの町むすめ

青東風の名張おとめはまる顔に

この里に賣る乙女餅若楓


宋斤の俳句「早春」昭和六年八月 第十一巻二号 近詠 俳句

2021-06-08 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年八月 第十一巻二号

澤明かり行くに羽蟻の小家かな

けふの部屋花が無くして梅雨あがる

朝の間に雀ぬけ羽を落けり

梅干して最合い庭と知られける

巫子涼む簾や奈良はよきところ

芭蕉葉の二枚三枚癈りけり

温泉の客のたぐひ松行く鷭のこえ

笈摺の中から一ツ眞瓜かな

寺町の小間の坂を日傘哉

橋のはなの小家や酢を壓す

旅手帳逢坂越えて酢のこと

笹島が橋下にさやぎ甘酒屋

茄子漬世俗を朝にきらひけり

  早春社七月本句會
夏艸のみちの祠堂も會遊哉

一峰に星あつめりて涼しけれ

星涼し更くるばかりに橋弧なり

  花の句座 灘住吉の藻舟庵の櫻見頃
花寒く樹間に配る火桶百

花に入る切戸の鈴を浴びにけり

おばしまへ花の遅参を詫びにけり

花込めて桔槹あがるところ哉

  朔宵會 (編輯所)
麦秋や松に名ありて寺の門

青麦に低き家居が窓あけし

  朔宵會 夕食後十分間三句
地球儀を長閑廻してゐたりけり

長閑帆のわかれて船の二つかな

   早春社尼崎句會
金龜子朝にとる葉の露のぬれ

金龜子一匹ならず夜の浅き

鴛鴦涼し寺に泊まりて朝の粥

   早春社二葉例會
まくなぎや杉高きより滴して

梅雨闇に鵜舟の篝見え初めぬ

   打出句會
彼岸寺秋する藪を持ちにけり

塔中の梯子けはしく春暑し

   春月句座 (編輯所) 
むぎうづら田舟上下し走りけり

春潮のさすところなる菜種かな

   天長佳節句座 (編輯所)
國はれて牡丹けふの佳節哉

   編輯所句座
傘に餘花の雨晴れ東山

水樓の朝繰る戸なり餘花の中








宋斤の俳句「早春」昭和六年七月 第十一巻一号

2021-06-07 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年七月 第十一巻一号
 
  近詠
泉なる湧く玉空へ消へにけり

梅雨霽れの疊につまむ小蟲かな

夜の庭に草履設けて若葉かな

橋裏へにぐる蟹あり夏の月

子鳥の茶店に飼われ真晝かげ

螢の飛ぶに歩きて身のはなし

みの蟲や空に楓の若葉蓑

植田空浮雲ひとつ大いなり

僧となる子の夕暮れや月見草

遁ぐること迅き蟷螂生れけり

相弟子の二人さめたり三尺寝

夾竹桃觸れ賣来ても町淋し

蓮飯を湖の廂によばれけり

風鈴や欄べたと海の闇

  夏の水濠
百合きってうつして戻る澤邉かな

青萱のすきすきとして日の縁

  早春社六月本句會
老鶯にひとまたぎする橋なりし

田へ降る町裏橋や蚊の日暮れ

  早春社今津例會
若竹の谷空渡る蝶々かな

水馬水裏の石に日あたりて

  早春社大鐘例會
濱はいまかますご時を鳶うらゝ

虎杖のちゞれ紅もつ葉なりけり

  早春社神戸例會
古寺や蝙蝠舞ひて竹長し

夏座敷簀の子の水ときゝにけり

  早春社上町倶楽部
船あかを汲むに日あつし松みどり

  早春社尼崎例會
魚島の過ぎて海月の潮迅し

柿若葉蠶室の外の涼しさよ

  早春社同人水曜會
春愁の水裏に魚を追ひにけり

汀から蜷あからさま深き哉

  春雨句座 (編輯所)
壺にさす洋花濃きなり春寒し

野や山や春雨ともす家もなく

  十二月水曜句座 (編輯所)
杉苗に山肌ありて冬の霧
 
莖潰し女の安堵暮れにけり














  

宋斤の俳句「早春」昭和六年六月 第十巻六号 芳山若葉吟行 

2021-06-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年六月 第十巻六号 芳山若葉吟行 
 ー第五回楠公ー 五月十七日南朝の昔を偲ぶにもっとも由縁深き吉野山に吟行

  吉野駅より竹林院へ
若葉風峯入衆にうちまぜり

山雲の風にかろさや桐の花

竹の上蝶の吹かれて五月山

  竹林院樻上句會
葉桜の吉野は寒し乙鳥

きざはしに蝶拂ひ若葉晴れ

  如意輪寺への途上
くちなはや茶店の脚の草深に

  如意輪寺 幽香楼にて
青嵐こみあげて来る史興かな

南朝や峯はざくらにもの寒う

欄や浮いて来る蜂谷若葉

山寺や颯立光る梅若葉

   塔微御陵
この陵の京に北面夏曇る

   楠公忌
芳山の若葉に入るや楠公忌

   眼病
眼を病めばくらがり楽な百合匂ふ

セル心地読むこと書くこと許されず

若竹や墨濃き眼鏡かけ馴れる

   冬鶯子氏にまねかれ飛騨にあそべかりしも
飛騨の奥に往けで夜に聞く夏梟



  

 


宋斤の俳句「早春」昭和六年六月 第十巻六号 近詠 俳句

2021-06-04 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年六月 第十巻六号 近詠 俳句

    近詠
篠の子や大野明けたる片畔

葉櫻の一葉散りたる小闇かなふか

鍛冶が火の飯の間燃えて里の夏

燈れば噴水の夏あさからず

雨の日の見てゐる薔薇ひとの剪る

椶櫚扇出して柱に掛け古らす

楠公忌梅若葉して松みどり

峰いらつ花に滴り見たりけり

深うみにほどけ沈むや鮓の飯

疑乃に岸は蘆間の蝶々かな

五月二十七日國旗風晴朗に

若葉寒む朝に鯛の煮凝らす

   早春社五月本句會
五月鯉壕の内町若葉して

鯉幟荷役の河岸の真晝空

ぬれ傘を亭中持ちて青楓

   早春社今津句會
花に来て寒さの空の北斗かな

花澄むに絶えて木履をぬすみけり

   早春社東例會
豆の花馬は厨にあと暮るゝ

魚島や太しき縄に鯛の反る

   早春社尼崎例會
磴や十三詣蝶と行く

陵の水に行くなる蝌蚪の陣

   早春社守口例會と淀川堤吟行
野遊びの水を涼しとふみにけり

閑として蝶々みずに晴れていく
 
茶の花に弦歌晝なる一ト二階

早春社無月例會
雲一つ花の寒さに懸りけり

花寒く筧の音の寺内かな

   早春社上町倶楽部例會
若艸に辨天一祠置かれたる

花いまだ雀ばかりの嵐山

村の口二三小店のおぼろ哉

   早春社同人水曜會
仇に咲く根深の花のすぐれ哉

   故岡田水馬翁追悼句會
    追悼
水馬翁逝きて燈春なれど

   厳寒暖座 

山池の鴨誰が追ひし寒の晴

   碧明會
鴛鴦の往くところ雪降りにけり