早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和六年五月 第十巻五号 近詠 俳句

2021-06-04 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年五月 第十巻五号 近詠 俳句

   近詠
旅人や清水に叩く花薊

行雁のあな消えしより星となる

竹秋の水に浮かべる烏賊の甲

裏口やひそと宵なる花大根

さくら餅シロホン打てるその前に

傘に来て花せまくなりにけり

蝶裾にほぐれて大河朝の上

鶯に扇使ふて山のぼり

まいまいの三つの一つ失せにけり

ひと時の街の空気や労働祭

   宇治の水色
春寒けの櫻枯れたる影ふみて

あじろ木の水に彳み春なごむ

水春や茶店の脚に薪積みて

朝日山ながめの宿の春炬燵

壁すみの春の炬燵に倚りにけり

隠れ家の三方まどに春枯れて

樹の中の南天ばかり春の風

しづかさは椿の蕾三ツかな

宿の女が香たきゝれて春の晝

舟行や櫨の實枯れの下もいく

鳥空に水にきこゑて春浅き

積む柴の何時の舟待つ春の岸

岩枯れに水神まつり春の閑

春水や下りとなれば櫓に變へて

水の上何も飛ばず薄かすみ

先づおがむ佛の奥や春の暮れ

禪堂を覗いてもいて梅に寒む

瀬をはやる春の落暉の面り

宇治川やゆうべの光り薄かすみ

我等のみ茶店火鉢に鳥の暮れ

  第三回早春社同人大会記
長閑にて箪笥の隅の暮色哉

竹の秋紺屋が川を染めにけり

  早春社四月本句會
花の夜の月は満月地はぬれて

窓押して空を覗くや花の夜

花の夜の負える燈が水にあり

  早春社今津例會
枯れたるは麗かにして櫨くぬぎ

麥踏めば法事来よとの寺の鐘

  早春社同人水曜句會
昨日今日ほうそう痒し桃の花

とりためし貝の乾きや春の風










宋斤の俳句「早春」昭和六年四月 第十巻四号 近詠 俳句

2021-06-04 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年四月 第十巻四号 近詠 俳句

   近詠
芝の夜に陀韃ひゞくお水取り

春の海のこまこまと照る帆なりけり

耕すや古池の日に鳥が浮く

草春に心そだつと臥ておもふ

飯蛸や紅梅すでに散り失せて

梨の花咲けばさびしき遠き山

末黒野の月は細けれ風の雲

街道の松は遠みち菜種ばな

更けて更けて軍港よろし春の月

土ぬくし厨の百合根を盗み植ふ

渡舟にも眩暈のをんな雲雀啼く

宿の庭野より花さく馬酔木かな

巡禮や鳥淫らなるを歩に追ふて

海原に入る日の薊曇りけり

花の夜の星やどれから消えそめし

囀や花か木の芽か雨匂ふ

雛の座のみなでも足らず祖母が歳

鳥雲に巫子欄に袖垂らす

   早春社三月本句會
祝きまつるけふの春光雲の上

昆陽寺の雨の門前もろこ賣

ぬるき日の燕も里の小鳥哉

初諸子いのちを鉢に泳ぎけり

   早春社神戸句會
境内の燈にひとふたり梅を見る

ゆたゆたと舳あつめて雪の舟

   早春社紅葉句會 桃水庵
藪浅く末社初午ともしけり

村の空凪が増えたり麥を踏む

   早春社今津句會
橋の燈の渡るにゆれて夜の雪

杜氏の唄やみて夜の雪降るとしも

   早春社上町倶楽部例會
女正月この家の狆の病気哉

狸汁自在の空の夜のかげ

   二月例會
早蕨やもん平穿いて女の童

蹴合雛白雲急と見据えたり

  早春社富士紡例會
如月の江崎の燈星と連なる

  早春社大鐘句會
焼野来て一眉の山浮きにけり

  故三草子追悼句會
三草山みんなみうけて冴帰る

  冬の句座 (編輯所)
 昭和五年十一月十六日 編輯室には夜も晝がない宋斤先生の机上には山のような句稿である。かたはらの机では木常氏が黙々とペンを走らせてゐる。其処へ大和田から薪社友紹介かたがた桃水氏が見える。毎日の雨村、青花の両君が来る。肥大な浩正氏が来る。椅子が足らなくなったので冷たい籐椅子を持ち出す。
  籐椅子をなほも用ゆるちり紅葉
の姿情である。
 夕方雨が止んで皆が相続いて帰って仕舞ふ。夜は夜で原稿の整理中へ壺白氏が東句會のことで久しぶりの来訪がある。晝の題でくをつくってもらふ。十一月の編輯室はかくして新年号へ多忙を極めてゐる。昭和六年新年号は磊明帳(写真版16頁含)110頁となる。

   踏青句會 大阪市役所
塔や霜大晴れに鳥の飛ぶ

寒菊にしばらくぬくき地靄哉

宋斤の俳句「早春」昭和六年三月 第十巻三号 近詠 俳句

2021-06-03 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年三月 第十巻三号 近詠 俳句

   近詠
春木立欄よりぞ深きかな

塀の下厨に引かれて蜷の水

春愁の眉に寒むしや蝶の風

春夜出て往くに樞の我に落つ  

鳥の巣にちるものありて水の上

鶯の下枝からみて地を失せぬ

春の夕来し帆にはかに下ろしけり

   早春社二月本句會
燈しびの梅ほとりして春の丘

丘の下島々に波しろき哉

   早春社北摂総合俳句會
寒風の鳶を田に見し十五六

凪晴れて氷柱の水が徑わたす

   早春社守口例會
地にかげの尾のけだものや寒の月

風吹いて笹の小判や初戎

   早春社神戸例會
水仙を活けて使わぬ一ト間哉

マスクして厄神詣で北風向ふ

   故住川壽貞子追悼俳句會
    悼句
春隣人につめたき風ふきぬ

宋斤の俳句「早春」昭和六年二月 第十巻二号 近詠

2021-06-03 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和六年二月 第十巻二号 近詠

   近詠
松過ぎしばかりに寒のぬくさ哉

野を帰る牛に踏まれて凧の糸

寒紅やいっしょに包むみすや針

寒凪や漁人のすその潮しづく

牡蠣船の屋根に一鉢万年青かな

跳ね炭に事なかりけり縫ひ上がり

天井に天神花や堀炬燵

みのむしの空春となりあけぼのの

椿照る窓に娘と弟と

手くさりの茂りに霞二月かな

地圖と照らす島の集まり東風の風

橋南の小辻に二月禮者かな

春寒むの星の夜店に聖書賣る

春泥にたてばタクシーにかこまれて

早春の丘に新舊華表かな



家でする丸刈り頭秋の水

掌に蓑蟲と圓ら赤き實と

   早春社新年初句會
初かすみ日の方よりぞ水迅し

お隣の雪葉牡丹にゆるみけり

   早春社富士紡例會
冬はれをきらめく遠き鷗かな

冬晴れや舟つゞき去り水の皺

住むさまや茶の花垣にもの干して

   早春社上町倶楽部例會
杉の枝雪をこぼすに鴛鴦の沓

窓を消す雪のおぼろやクリスマス

   早春社尼崎例會
茶の花や見料取って庵の番

茶の花や一祠置かれで石の上

餅花の梢がのぞく二階かな

   早春社櫻宮例會
冬至空雨降りたれば雲のなし

水面にあそぶ眼や日向ぼこ