静岡市清水区で2018年6月、中学1年の朝日佳一朗さん(当時12歳)が排水路に転落して死亡した事故で、安全対策を怠ったとして、遺族が17日、排水路を管轄する県に約1000万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁に起こした。母親(49)は記者会見で、「事故を風化させたくない。地元の人々に、事故があったことを忘れないでほしい」と述べ、佳一朗さんの氏名などを初公表した。

 訴状によると、排水路周辺は事故当時、フェンスなどが設置されておらず、誰でも容易に立ち入ることができた。排水路があった事業地を管理する県中部農林事務所は講じるべきだった不特定多数の立ち入りを防ぐなどの措置を怠ったと訴えている。

 遺族側代理人の菅野雄児弁護士は「排水路は傾斜が大きく危険な構造だったが、安全対策は何ら取られていなかった」と指摘。母親は「事故を未然に防げなかった原因と、責任の所在を明らかにしたい」と話した。

 事故は18年6月27日に発生。佳一朗さんは友人と遊んでいて足を滑らせ、急斜面に作られた高さ約25メートル、長さ約60メートルの排水路を滑落して頭を強く打って死亡した。県警は19年6月、農林事務所の当時の所長ら6人を業務上過失致死容疑で静岡地検に書類送検したが、いずれも不起訴処分となった。遺族は20年8月、検察審査会に処分を不服とする申し立てをしたが、審査会は21年4月、不起訴相当と議決した。【深野麟之介】