20代の若者を中心に新型コロナの感染者が急増している。国は若者の接種の重要性を強調する一方、副反応の心配などでワクチン接種に消極的な若者が少なくないという。ところが、いざ、接種を受けようとすると、予約をとることさえままならない現実がある。東京都内の大学へ通う若者を取材した。



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「若者もワクチン接種を」

 そう呼びかける小池百合子東京都知事の姿に違和感しか覚えなかった。

「実際、どうすればワクチン接種を受けられるの?という感じ。周囲でも『接種したい』という子が増えてきたけど、予約がとれなくてあきらめている人もいるんです」

 そう語るのは、千葉県船橋市の実家で暮らしながら、東京都内の大学に通う20歳の女子学生。彼女にはどうしてもワクチン接種を受けたい、切実な理由があった。

「母は乳がんなんです。検査で見つかったときにはすでに遅く、転移していた。いまは入退院を繰り返しながら抗がん剤治療を続けています」

 母親はワクチンを打つことができない。抗がん剤は副作用として免疫力を落としてしまうため、ワクチンを打っても新型コロナに対する免疫力がつかない。ワクチンを打っても意味がないのだ。ただでさえ治療で免疫力が低下しているうえ、新型コロナに感染してしまえば、その治療も中断せざるを得ない。

 だから、ワクチンを打ちたい。

「もし、私が新型コロナに感染して、母にうつしてしまったら、それが原因で母は死ぬかもしれない。そんな恐怖があります」

■ワクチン供給量が半分以下に

 女性の手元にワクチン接種券が届いたのは7月19日。さっそく、市のホームページから接種を予約しようとしたところ、思いがけない表示を目にして愕然とした。

<7月15日から一時的に予約受付を停止させていただいています>

 市によると「国からのワクチン供給量ががくんと減ったため、どうしても予約を止めざるを得なかった」(保健福祉センター)。

 7月12日に国から市に示されたワクチンの配送量は5月の供給実績の半分以下だった。「7月末までに約8割の高齢者、11月末までに希望するすべての対象者への接種を終えることを目指す」という国の目標に応えるため、市は集団接種会場を2カ所から5カ所に増設した矢先だった(船橋市は8月16日から個別医療機関でのワクチン接種の予約を再開。ただし、集団接種会場再開の目途はたっていない)。

 居住地で接種ができないので、自衛隊が運営する大規模接種センター(東京)に申し込もうとした。だが、ここでも「まったく予約がとれない」と女性は言う。当時、同センターでは毎日受け付けていた約1万人の接種予約をはるかに上回る申し込みが殺到していたのだ。

 最後に頼ったのは、東京都が大学と連携して設置したワクチン共同接種会場だった。これは都内大学に通学する学生や教職員に向けに設けられた会場で、青山学院大学(渋谷区)、一橋大学(国立市)、東京都立大学(八王子市)の3カ所がある。予約受付は7月27日から始まった。

 開始当日、すかさず予約サイトにアクセスしようとするも<しばらくお待ちください>と表示され、なかなか先に進めない。ようやく予約画面にたどり着いたのはアクセス開始から約3時間半後だった。待ったあげく、予約の枠はすでに埋まっていた。女性は「心が折れました」と、ぽつり。

 結局、接種予約ができたのは8月中旬のこと。1回目の接種は8月下旬に決まった。

■接種が授業と重ならないか

 その際にも悩みはあった。3週間後に行う2回目の接種だった。

 一般に、新型コロナのワクチンは1回目の接種後、3〜4週間空けて2回目の接種にのぞむ。となれば、その「3週間後」がいつになるのかもポイントになってくる。女性は言う。

「1回目は夏休み期間中なので大丈夫でしたが、2回目は休み明けで、授業と重なってしまいそうでした。それに接種の翌日以降に副反応が強く出て、授業に出席できなくなるのが心配でした」

 大学はワクチン接種について学生にどのような発信をしているのか?

 東京都は若者にワクチン接種を勧めているが、「感染症予防の効果と副反応のリスクの双方についてご理解していただいたうえで、自らの意志で接種を受けていただいています」というスタンスだ。そのため、大学も学生に対して積極的にワクチン接種を呼びかけているところは少ない。

 一方、ワクチン接種で授業や試験を欠席せざるを得ない――そうした場合、何か配慮はされるのだろうか?

 複数の大学に取材したところ、たとえば青山学院大では、副反応による体調の悪化は、他の「体調不良」などと同じ扱いになり、「特定の理由による欠席を認める『公欠制度』は設けていません」との回答だった。学生各自の判断により無理のないスケジュールで予約することが前提であり、接種にともなう欠席は想定していないという。

 一方で、東京都立大は、「私事による欠席ではない、『出席停止』の取り扱いもできるようにしています。診断書の提出は求めていません」といった対応を検討しているといい、大学間で対応が分かれた。

■募る反感と絶望感

 冒頭の女性には弟がいる。そのワクチン接種の予約をとるため、16日朝、市から配布されたリストに掲載された対応医療機関に電話した。しかし、つながらない。夕方、ようやく電話がつながったが、すでに予約はいっぱいだった。

 市に状況を問い合わせると、「本日の接種枠は予約開始から10分で埋まりました。申しわけありませんが、明日、また病院に電話していただけないでしょうか」。

 すべての自治体ではないにせよ、予約をとるのも難しい現状は確かにある。彼女のような若者にとって、「ワクチン接種を」という呼びかけを耳にしても、反感と絶望感が募るばかりだ。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)