ウマの家畜化
ウマは今まで見てきたヤギ・ヒツジ・ウシ・ブタとは少し趣の異なる動物である。
狩猟・採集生活では、ウマは肉を得るために狩猟の対象となっていた。ウマの家畜化は約6000年前に現在のウクライナで始まったと考えられているが、その目的も肉を得るためだったと推察される。また、「馬乳」も利用されていた。
ところが、移動・運搬での際立った有用性に人類が気付いたことで、ウマは人類史に大きな影響を与える家畜へと成長して行った。
ウマの祖先はアメリカ大陸で進化した。そして、約250万年前にベーリング陸橋を経由して、ユーラシア大陸へと渡り、現在のウマの祖先に進化する。一方、南北アメリカ大陸に残ったウマ科の動物は約1万年前までに絶滅した。
ウマの祖先はヤギ・ヒツジ・ウシと同じように、草原で主に雑草を食べて生活していたと考えられている。ウマは長い盲腸を持っており、そこに生息する微生物を使って植物繊維を分解している。ところが、反芻動物の四つの胃に比べると、食物繊維の消化効率は半分程度とかなり低い。このため、反芻動物との生存競争に勝てず、生存数を減らしていたと考えられる。おそらく、人類がウマを家畜化しなければ、ウマは絶滅していたであろう。
ウマの最大の特長が、長距離を高速で移動できることだ。例えば、1キロメートルの距離であれば時速60キロメートル以上で走り、100キロメートルの持久走でも時速25キロメートルを維持できると言われている。高速で疾走できるのは、そのための骨格と筋肉を進化させたからだ。一方、長距離を移動できるのは、汗をかけるからだ。
どういうことだろうか。
人に加えてウマは、体温調節のために大量の汗をかくことができる珍しい動物だ。普通の動物はあまり汗をかくことができない。このため、運動を続けると次第に体温が上昇し、ついには動けなくなってしまう。一方、ウマと人では、かいた汗が蒸発する時に気化熱を奪うことで体が冷却されるので、持久的な運動が可能なのだ。
ウマは人を乗せることができる。また、荷車を引くこともできる。この時に重要な器具が、ウマの口につける「ハミ」だ。ウマの歯並びは変わっていて、前歯と奥歯の間に隙間がある。この隙間に棒をさし込む器具を作れば、ウマの頭部をしっかりと固定できる。これがハミだ。
ハミを作り出したことで、人はウマの動きを自由にコントロールできるようになった。約5500年前のカザフスタンのボタイ遺跡からは、ハミの使用によって削れた歯を持つウマの遺体が見つかっている。
こうしてウマは、機械式の車が発明されるまでの長い間、移動・運搬手段として大活躍した。特に、騎馬遊牧民族が成立するためには、ウマは無くてはならない存在だった。