【消えゆく雪の中に】(3)
父の死
運転していたのは若い男で、人が川に落ちたのを知ると一目散に逃げてしまった。
そのため発見が遅れ家に報せがあったのは三人がちょうど床に着いた頃だった。
玄関の戸を叩く音に急ぎ出て行った母は、その知らせを聞き心配そうな二人の前に青い顔をして戻ってきた。
家に戻った父には何の外傷もなく、冷たい川へ落ちたことによる心臓麻痺であることは明らかであった。
思わぬ事故で鬼籍に入ってしまった父、でもなぜかその表情は温和で…満足そうで…亜矢子の記憶の中にあったものと違っていた。
父の抱いていた現世の憎むべき何かは、その魂とともに消え去ったのだろうか…と思った。
でも生前にもっと幸を得るべきだったのではないのか、そう思うと悲しさと悔しさがこみ上げてくるのだった。
まだ早い、もっと生きていて欲しかった。
彼女は涙を流した。
母と文春は涙を少しも見せなかった。
それぞれじっと耐えているようだった。
二日後、葬儀が行われ、そして父は埋葬された。
葬儀以来、三人は寡黙になった。
四十九日が済んでから東京へ戻った亜矢子は、学生生活にピリオドをうった。
親切な下宿の奥さんの紹介で入ったある小さな会社の事務員として働き始めた。
その後の二年間、東京での亜矢子の生活は平穏であった。
月給は僅かだが、きちんと出るので少しずつ進学した弟のために仕送りができるようにもなっていた。
あえて友達づきあいもせず、会社と下宿の往復のような生活で、平穏と言えば平穏な…ただ単純な日々の繰り返しだった。
(4)(完)へ続く・・・。
ユーチューブよりお借りしました。
雪 中島みゆき cover/1385hiro
1981年にリリースされたアルバム「臨月」に収録されている曲です。
歌詞を載せておきます。※1385hiroさんのユーチューブより転記
【雪】
作詞:中島みゆき
作曲:中島みゆき
雪 気がつけばいつしか なぜ こんな夜に降るの いま あの人の命が 永い別れ 私に告げました
あの人が旅立つ前に 私が投げつけたわがままは いつかつぐなうはずでした 抱いたまま 消えてしまうなんて
雪 気がつけばいつしか なぜ こんな夜に降るの いま あの人の命が 永い別れ 私に告げました
手をさしのべればいつも そこにいてくれた人が 手をさしのべても消える まるで 淡すぎる 雪のようです
あの人が教えるとおり 歩いてくはずだった私は 雪で足跡が見えない 立ちすくむ あなたを呼びながら
手をさしのべればいつも そこにいてくれた人が 手をさしのべても消える まるで 淡すぎる 雪のようです
あの人が教えるとおり 歩いてくはずだった私は 雪で足跡が見えない 立ちすくむ
あなたを呼びながら
雪 気がつけばいつしか なぜ こんな夜に降るの
いま あの人の命が 永い別れ 私に告げました
【雪】は中島みゆきさんが、父親の亡くなった時、雪降る中、
火葬場から煙が上がっていくのをただ黙って見つめていたという思い出を書いた曲だと言われています。(本人がツアーの中で語る)
ただこの詩は、誰とは定まっておらず、父・母・恋人・友人など、誰でもよくて、「それぞれの思っている人」として感情移入ができるところが凄いとされています。
現に私も父を亡くした時(56歳)も母を亡くした時(69歳)も、そんな思いでした。
私もこんな詩が書ける「中島みゆきさんは凄い」と思います。
本人歌唱の曲はユーチューブでは探し出せず39万回ものアクセスのある、※1385hiroさんのカバーをお借りしました。
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