1230話)名人芸

立花吉茂先生は実務に長じた人でした。大同でさまざまな活動をしていると、むこうの技術者たちが挑んでくるんですね。すると先生は、それに正面から立ち向かう。

鍬をつかっても、スコップをつかっても、彼らよりずっと板についています。ちいさな種を蒔くときなんか、先生がパーッと蒔くと、みごとに均一に散らばっていきます。

地元の人たちの度肝を抜いたのは、刃物研ぎです。彼らがつかっている剪定挟みをとりあげて、ウエスとポーチに常備しているふつうのヤスリでサッと研いで返します。手近の枝を切ってみて、切れ味のちがいに魔法でもかけられたかのようにびっくりするんですよ。

挿し木や接ぎ木の刃物を砥石で研ぐときも、1~2分しかかかりません。地元の人たちは、自分だったら半日かかってもこんなふうには研げない、といいます。
それをみていたおかげで、私も包丁やナイフはじょうずに研げるようになりました。はまぐり刃というのだそうですけど、自然にそう研げます。

そんなふうにして、立花先生は地元の技術者のなかに信頼をかちとっていかれました。

あるとき、先生のお宅を訪ねたら、「錆びないし、研がなくてもいいんだよ」と出してこられたのがセラミック包丁。「研ぐのがあんなに上手なんですから研ぎたくなりませんか?」と言ったら、「そうなんだよ」といって含み笑い。
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