1088話)『人民日報』の記事・和訳(上)

 4月中旬に大同の私たちの協力プロジェクトを人民日報と新華社のクルーが取材に訪れました。人民日報のほうは5月8日に長文の記事が掲載されました。その和訳を紹介します。


『人民日報』2016年5月8日
雁北に広がる緑 願望を現実に換える
記者 喬 棟(訳 佐藤圭代・河本公子) 

 4月の大同の早朝、山の上の風の寒さに震え上がる。5mに育った樟子松の横で68歳の高見邦雄は風に背をむけて立っていた。彼の足元には20数年来、なじんできた黄土の大地がある。彼の眼前には汗水を注いで育てた50万本の松がある。

 楽観と強靱
 一帯の土地と縁を結ぶ

 4月18日に初めて高見と会ったとき、彼は林のなかでスコップをもち、一心に苗を植えていた。深緑の登山靴は泥にまみれ、緑色のジャケットはしわだらけだった。彼はゆっくりと手袋をはずし、筆者の手を握った。厳粛で真面目というのが彼の第一印象だった。

 高見は日本人である。高見と彼のグループは1992年から大同と切っても切れない縁を結んできた。24年ものあいだ、彼は毎年ボランティアを大同につれてきて、長いときで100日余り、少ない年で数十日、植林をつづけてきた。

 この土地になじんでいることは、言葉でもわかる。中国語を学んだ経験はないが、東京大学を中退した彼は、自習によって普通話を基本的に理解する。筆者とのやりとりで、筆者のことばを理解すると、彼はゆっくり普通話で答える。中国語の経歴について、彼は4本の指を立て、「最初に覚えたのは4つの言葉。ニーハオ(こんにちは)、シェシェ(ありがとう)、ツァイチェン(さようなら)、ツースオザイナーリ?(トイレはどこですか)」
 そばにいた総工会の魏生学さんが「彼は大同弁も話せるんだよ」と口をはさんだ。すぐさま高見は笑顔になり、私の手を握り、大同弁で「ガポウ!」といって、一座の爆笑を引き起こした。どうやら彼は厳粛なだけでなく、いたずらっ子の一面も持ち合わせているようだ。大同事務所の武春珍所長は、「高見さんはおもしろい人です。ある村で木を植えた夜、村の人と酒を飲み、酔った勢いで猛犬を抱いて振り回したんですよ」

 高見は楽観的な人でもある。十数年前、緑化協力団の人と木を植えようとしたが、天候に恵まれず、雨がつづいた。高見は待てるが、ほかのメンバーは滞在期間に限りがあるので、ジリジリしていた。現場は目の前なのに植えることができない。そこで高見は喜びの酒宴を開いた。「ここでは雨は恵みなんだ。苗木がよく育つから」。植林はできなかったものの、みな気分をよくし、大酒を飲んだ。

 楽観は強靱をともなっている。木を植えて育てる過程では思いがけない状況にであう。たとえば1995年、虫害とニセ苗のために、徐疃郷で彼らが苦労して植えた6万本のアンズが全滅した。日本のNHKのカメラを前に、高見は声を失い、泣きだしてしまった。「夢、私たちの夢が破れてしまった」。それでも高見は放棄することなく、さらに多くのアンズやアブラマツを雁北の大地に根付かせてきた。

道行けば知己にあい、
ゆっくりと長い道のりを歩く

 苗木をよりよく育てるために、高見はたくさんの工夫をした。大同の地質構造は複雑で、風砂の害が厳しく、また旱魃がよく発生するが、その旱魃も単純ではない。山の一面は旱魃になり、他の一面は豪雨の被害をうける。どうすべきか?

 彼は日本から専門家を呼んで指導を受け、土壌を持ち帰っては実験室で研究した。やがて木は大きく育ち、そのときの喜びはたとえようもなかった。どのような土質、どのような地形なら、どの木をいつ植えるべきか、長い時間をかけて研究する、それが見識ある専門家、「高見」というものだろう。武春珍は「みんなが一種類だけを植えていたころから、ここでは混植を取り入れ、管理の徹底を率先して取り入れた」と語る。

 これらのことが評価され、彼はたくさんの栄誉を受けてきた。2001年に中国政府の「友誼奨」を受けたとき、「この賞は大同の人たちが受けるべきものを私が代わって受けてきたものだ」と彼は感動的に語った。彼はまた2011年度緑色中国年度焦点人物の国際貢献賞を受けたが、その際にはインターネットの投票で25.3万票を獲得した。

 高見といっしょに村を歩いていると、知り合いが「老高(高さん)、老高」と声をかけてくる。まるで家に帰ってきたような感じである。「ここにはたくさんの知り合いがいて、とても親切です」と高見は話す。道行けば知己にあい、長い道のりを高見はゆっくりと歩いていく。

 前世紀の90年代初頭、一人の日本人が突然村にやってきたとして、地元の人がすぐになじめないのは当然のことだ。彼はその気まずさから逃げることなく、強靱さを発揮して、実際の行動で村人の問いや疑いに応えていった。長くつきあえば、人の心はわかるもの。高見は人びとに認められ、「老高」になったのである。
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