連句通信109号
2006年7月16日発行
下手な横好き
藤尾 薫
今住んでいるところへ引っ越してきて二〇年になる。庭に蝋梅、桃、柿、ソルダムを植えた。蝋梅は例外だが花も実も楽しみたいという欲張りな根性である。蝋梅は年ごとに大きくなった。桃もよく花をつけ実がぎっしりついて 小さい実がよくできた。
柿は植えて丈は一Mくらいなのに木が折れそうな位たわわに実って小さい実をいっぱいつけた。実をつけ始めて三年後くらいから元気がなくなってしまった。おかしいと思ってよく見ると、根元の所に心喰虫が入って、幹に空洞をあけ、木くずがいっぱい固まってくっついていた。たばこのニコチンを溶かして入れてみたがそのうち柿の木は枯れてしまった。心喰虫め。突抜忍冬、茄子、キュウリ、トマト 牡丹、、バラ等を枯らしこれまでの私の園芸生活で心喰虫の被害は数え切れない。宿敵である。
次はソルダム。これは順調に大きくなって、春になると真っ白な花をつけ、花の精が棲んでいるのではと思うほど美しく咲いた。どんな実をつけるかと大いに期待したが実は全くつけないのである。夏が真っ盛りの頃木の下に時として一つくらい落ちている実は小さくいじけて虫に食われ見るも無惨な形である。専門家に聞くと同じ種類の木が複数あると効果があるということだった。狭い庭に二本も同じ木を植える訳にはいかない。木はとても大きくなるのだ。毎年花をみる度に石女の木なのねと、あきらめてもう関心は持たないと決心をした。
ところがである。同種のプラム系の木を接ぎ木をするといいという話を聞いた。そこで今年の三月、花盛りの時期にご近所の大石プラム所有の方と花枝の交換をした。そこの方は別に接ぎ木をする必要もないほどいつもたわわに実っている。そこで勇んで三,四本、枝を削いでテーピングしてしっかり結びつけたのだが・・・未だに新芽がでる気配はない。
三、四年ほど前から蔓のような植物が生えてきてのたうち回っているので蔓を上に引っ張って二階のベランダまであげてみた。どうもキューイくさいなあと思っていたら去年それが一つ花をつけた。そして今年それはぎっしり花をつけ満開となった。いいにおいがするのである。そいつはベランダで布団を干す場所を占拠して勝手気ままにのさばりだした。人によればまさにキューイであった。ところがそれが雌花か雄花かわからない。一つ所に雌雄二つの株がないと実を結ばないというこれまたやっかいな植物なのであった。今これを切り倒してせいせいして布団を干すか、雌雄を確かめてどちらかの苗を植えるか、例によって(怪しい?)接ぎ木をするか決断を迫られている。悩ましい限りである。
二〇年もたつと一つ一つの植物に話があり全部話すときりがない。植物を相手にしていると時間がたつのを忘れてしまうがまともな成果を上げてはいない。気が多いせいか?。
そしてまたもや連句という難しい遊びに首をいれさせてもらった。下手な横好きは性分なのであろう。
二句表 「約束もなし」
今何の約束もなし橡咲いて 玉木 祐
せせらぎ聞きつ夏きざす朝 梅田 實
赴任地のメールの写真笑顔にて 古賀 直子
落鮎の簗準備万端 藤尾 薫
曾我兄弟菊人形にみえを切り おおた六魚
月の奏でる鎮魂の歌 坂本 統一
ゆり椅子でこっくりこっくり船漕いで 杉浦 和子
ゴルフコンペで優勝の夢 峯田 政志
ホテルにて見染めたあの娘グラビアに 祐
御高祖頭巾を照らす繊月 實
熱燗の盃にくっきり紅のあと 直子
政治談議に時を忘れて 薫
いつの間か格差社会のフリーター 六魚
セントヘレナの高き潮騒 統一
花流れ花びら流れ多摩の川 和子
春告鳥に暫しうっとり 政志
二○○六年 五月二一日 関戸公民館学習室
二句表 「利休鼠」
蛸壺や利休鼠の雨に濡れ 坂本 統一
粽かじりつ浜を行く海士 峯田 政志
音羽屋の僧俊寛は評判に 古賀 直子
新京極に鳴ける邯鄲 おおた六魚
鬼だけがまだ待っている望の月 梅田 實
身に入む今宵帰り急ぎて 玉木 祐
寅さんの映画マドンナ誰かしら 實
宿題もせず遊びほうける 藤尾 薫
足首の細きにみとれすってんてん 直子
熱燗をほす妖艶な女 薫
冬月にセレブの姉妹毛皮着て 祐
盲導犬の眼やさしく 杉浦 和子
アユタヤの町の遺跡に石の声 統一
誰も知らない落とし穴あり 政志
花の山桜の奥になお桜 和子
カイヤグラからオーケストラを 六魚
二○○六年 五月二一日 関戸公民館第三学習室
二句表 「らっきょう」
らっきょうの粒一粒の厨ごと 杉浦 和子
胸いっぱいに梅雨空の朝 坂本 統一
アルプスの光る山容拝みいて 藤尾 薫
秋思の宵に鏡ながめる おおた六魚
魚の影月耿耿と湖渡り 梅田 實
古酒も新酒も飲みつくしたよ 古賀 直子
紫の鉢巻がゆく花川戸 星 明子
テンペラ絵画並ぶアトリエ 峯田 政志
もと名士詐欺師となりし彼ささえ 統一
冬の三日月三角の恋 和子
混みあえる羽子板市の夜は更けて 六魚
占いに凝り筮竹を買う 薫
懸賞で当てたギターに弦がない 直子
Q10を飲み精を養い 實
花を背に楽土をめざし亀は行く 政志
子の手離れてあがる風船 明子
二〇〇六年六月三日 於関戸ワークショップ室
二句表 「小鬼」
散歩道小鬼の潜む木下闇 藤尾 薫
夏至の地球のとどまれる音 おおた六魚
良寛の書を写さんと墨磨りて 梅田 實
子らを集めてひょんの実を吹く 古賀 直子
山あいの棚田に光る千の月 星 明子
残り惜しげに渡る雁 峯田 政志
集い来て歌仙になりし世捨人 杉浦 和子
しこたま買い込むカップラーメン 坂本 統一
窓開かぬ列車で酒の替りなし 六魚
団欒の家覗く寒月 薫
凍滝も融ける抱擁くり返し 直子
別れかねてる三度めの恋 實
宰相選裏のかけひき蠢きて 政志
党同伐異神もお手上げ 明子
夢に来て花の吉野の花句会 統一
何やら悲し春の山彦 和子
二〇〇六年六月三日 関戸ワークショップ室
二句表 「雨やまず」
河骨の黄も好し雨は降り止まず 星 明子
でんでん虫の語るなにがし おおた六魚
合唱の指揮者の身振り大げさに 古賀 直子
忘れ団扇を高原ホール 玉木 祐
月今宵だんご数々積み上げて 古谷 禎子
宅急便は浅間のぶどう 杉浦 和子
恒心も恒産なくて風まかせ 明子
プレート沈む海の沈黙 六魚
名画座の暗がりで手を握り合い 直子
口づけ長く月冴ゆる浜 祐
海鼠酢のポンと乗せます小テーブル 禎子
国際会議に国産ワイン 和子
八咫烏かつぎ出されて日の目見る 明子
とくほんぺたり貼って爪切る 六魚
先生の叙勲を祝う花の宴 直子
送りおくられ遅日飛び発つ 祐
二〇〇六年六月十八日 於永山公民館
二句表 「西域の色」
西域の色に石榴は咲きにけり 杉浦 和子
まなざし向けて翔ぶ夏燕 古谷 禎子
あのころはアニメ作家にあこがれて 玉木 祐
運動会で踊るぽんぽこ 古賀 直子
ひそやかに身ぶり手ぶりの閨の月 おおた六魚
新酒に添えてつのる思いを 星 明子
昭和遠く恋文横町消えしとか 和子
親にもらった株が上昇 禎子
眠剤をひと粒ふやす友の愚痴 祐
あれは狐火月の山道 直子
白菜の未だ新しき漬け具合 六魚
俺入りたい女子大学へ 明子
にっこりと天気予報のおねえさん 和子
スタイリストのセンス抜群 禎子
貫之の泡沫の町花吹雪 祐
路面電車のくぐる初虹 直子
二〇〇六年六月十八日 於永山公民館
2006年7月16日発行
下手な横好き
藤尾 薫
今住んでいるところへ引っ越してきて二〇年になる。庭に蝋梅、桃、柿、ソルダムを植えた。蝋梅は例外だが花も実も楽しみたいという欲張りな根性である。蝋梅は年ごとに大きくなった。桃もよく花をつけ実がぎっしりついて 小さい実がよくできた。
柿は植えて丈は一Mくらいなのに木が折れそうな位たわわに実って小さい実をいっぱいつけた。実をつけ始めて三年後くらいから元気がなくなってしまった。おかしいと思ってよく見ると、根元の所に心喰虫が入って、幹に空洞をあけ、木くずがいっぱい固まってくっついていた。たばこのニコチンを溶かして入れてみたがそのうち柿の木は枯れてしまった。心喰虫め。突抜忍冬、茄子、キュウリ、トマト 牡丹、、バラ等を枯らしこれまでの私の園芸生活で心喰虫の被害は数え切れない。宿敵である。
次はソルダム。これは順調に大きくなって、春になると真っ白な花をつけ、花の精が棲んでいるのではと思うほど美しく咲いた。どんな実をつけるかと大いに期待したが実は全くつけないのである。夏が真っ盛りの頃木の下に時として一つくらい落ちている実は小さくいじけて虫に食われ見るも無惨な形である。専門家に聞くと同じ種類の木が複数あると効果があるということだった。狭い庭に二本も同じ木を植える訳にはいかない。木はとても大きくなるのだ。毎年花をみる度に石女の木なのねと、あきらめてもう関心は持たないと決心をした。
ところがである。同種のプラム系の木を接ぎ木をするといいという話を聞いた。そこで今年の三月、花盛りの時期にご近所の大石プラム所有の方と花枝の交換をした。そこの方は別に接ぎ木をする必要もないほどいつもたわわに実っている。そこで勇んで三,四本、枝を削いでテーピングしてしっかり結びつけたのだが・・・未だに新芽がでる気配はない。
三、四年ほど前から蔓のような植物が生えてきてのたうち回っているので蔓を上に引っ張って二階のベランダまであげてみた。どうもキューイくさいなあと思っていたら去年それが一つ花をつけた。そして今年それはぎっしり花をつけ満開となった。いいにおいがするのである。そいつはベランダで布団を干す場所を占拠して勝手気ままにのさばりだした。人によればまさにキューイであった。ところがそれが雌花か雄花かわからない。一つ所に雌雄二つの株がないと実を結ばないというこれまたやっかいな植物なのであった。今これを切り倒してせいせいして布団を干すか、雌雄を確かめてどちらかの苗を植えるか、例によって(怪しい?)接ぎ木をするか決断を迫られている。悩ましい限りである。
二〇年もたつと一つ一つの植物に話があり全部話すときりがない。植物を相手にしていると時間がたつのを忘れてしまうがまともな成果を上げてはいない。気が多いせいか?。
そしてまたもや連句という難しい遊びに首をいれさせてもらった。下手な横好きは性分なのであろう。
二句表 「約束もなし」
今何の約束もなし橡咲いて 玉木 祐
せせらぎ聞きつ夏きざす朝 梅田 實
赴任地のメールの写真笑顔にて 古賀 直子
落鮎の簗準備万端 藤尾 薫
曾我兄弟菊人形にみえを切り おおた六魚
月の奏でる鎮魂の歌 坂本 統一
ゆり椅子でこっくりこっくり船漕いで 杉浦 和子
ゴルフコンペで優勝の夢 峯田 政志
ホテルにて見染めたあの娘グラビアに 祐
御高祖頭巾を照らす繊月 實
熱燗の盃にくっきり紅のあと 直子
政治談議に時を忘れて 薫
いつの間か格差社会のフリーター 六魚
セントヘレナの高き潮騒 統一
花流れ花びら流れ多摩の川 和子
春告鳥に暫しうっとり 政志
二○○六年 五月二一日 関戸公民館学習室
二句表 「利休鼠」
蛸壺や利休鼠の雨に濡れ 坂本 統一
粽かじりつ浜を行く海士 峯田 政志
音羽屋の僧俊寛は評判に 古賀 直子
新京極に鳴ける邯鄲 おおた六魚
鬼だけがまだ待っている望の月 梅田 實
身に入む今宵帰り急ぎて 玉木 祐
寅さんの映画マドンナ誰かしら 實
宿題もせず遊びほうける 藤尾 薫
足首の細きにみとれすってんてん 直子
熱燗をほす妖艶な女 薫
冬月にセレブの姉妹毛皮着て 祐
盲導犬の眼やさしく 杉浦 和子
アユタヤの町の遺跡に石の声 統一
誰も知らない落とし穴あり 政志
花の山桜の奥になお桜 和子
カイヤグラからオーケストラを 六魚
二○○六年 五月二一日 関戸公民館第三学習室
二句表 「らっきょう」
らっきょうの粒一粒の厨ごと 杉浦 和子
胸いっぱいに梅雨空の朝 坂本 統一
アルプスの光る山容拝みいて 藤尾 薫
秋思の宵に鏡ながめる おおた六魚
魚の影月耿耿と湖渡り 梅田 實
古酒も新酒も飲みつくしたよ 古賀 直子
紫の鉢巻がゆく花川戸 星 明子
テンペラ絵画並ぶアトリエ 峯田 政志
もと名士詐欺師となりし彼ささえ 統一
冬の三日月三角の恋 和子
混みあえる羽子板市の夜は更けて 六魚
占いに凝り筮竹を買う 薫
懸賞で当てたギターに弦がない 直子
Q10を飲み精を養い 實
花を背に楽土をめざし亀は行く 政志
子の手離れてあがる風船 明子
二〇〇六年六月三日 於関戸ワークショップ室
二句表 「小鬼」
散歩道小鬼の潜む木下闇 藤尾 薫
夏至の地球のとどまれる音 おおた六魚
良寛の書を写さんと墨磨りて 梅田 實
子らを集めてひょんの実を吹く 古賀 直子
山あいの棚田に光る千の月 星 明子
残り惜しげに渡る雁 峯田 政志
集い来て歌仙になりし世捨人 杉浦 和子
しこたま買い込むカップラーメン 坂本 統一
窓開かぬ列車で酒の替りなし 六魚
団欒の家覗く寒月 薫
凍滝も融ける抱擁くり返し 直子
別れかねてる三度めの恋 實
宰相選裏のかけひき蠢きて 政志
党同伐異神もお手上げ 明子
夢に来て花の吉野の花句会 統一
何やら悲し春の山彦 和子
二〇〇六年六月三日 関戸ワークショップ室
二句表 「雨やまず」
河骨の黄も好し雨は降り止まず 星 明子
でんでん虫の語るなにがし おおた六魚
合唱の指揮者の身振り大げさに 古賀 直子
忘れ団扇を高原ホール 玉木 祐
月今宵だんご数々積み上げて 古谷 禎子
宅急便は浅間のぶどう 杉浦 和子
恒心も恒産なくて風まかせ 明子
プレート沈む海の沈黙 六魚
名画座の暗がりで手を握り合い 直子
口づけ長く月冴ゆる浜 祐
海鼠酢のポンと乗せます小テーブル 禎子
国際会議に国産ワイン 和子
八咫烏かつぎ出されて日の目見る 明子
とくほんぺたり貼って爪切る 六魚
先生の叙勲を祝う花の宴 直子
送りおくられ遅日飛び発つ 祐
二〇〇六年六月十八日 於永山公民館
二句表 「西域の色」
西域の色に石榴は咲きにけり 杉浦 和子
まなざし向けて翔ぶ夏燕 古谷 禎子
あのころはアニメ作家にあこがれて 玉木 祐
運動会で踊るぽんぽこ 古賀 直子
ひそやかに身ぶり手ぶりの閨の月 おおた六魚
新酒に添えてつのる思いを 星 明子
昭和遠く恋文横町消えしとか 和子
親にもらった株が上昇 禎子
眠剤をひと粒ふやす友の愚痴 祐
あれは狐火月の山道 直子
白菜の未だ新しき漬け具合 六魚
俺入りたい女子大学へ 明子
にっこりと天気予報のおねえさん 和子
スタイリストのセンス抜群 禎子
貫之の泡沫の町花吹雪 祐
路面電車のくぐる初虹 直子
二〇〇六年六月十八日 於永山公民館