連句通信128号
2008年11月16日発行

八月の夜 玉木 祐
今年の夏は、殊の外暑かったように思う。あの暑さの夜、感じた事が手許に、メモして残っていたので、それを基にして、書いてみる。
八月の事だった。べランダに出て涼んでいると、東の空に稲光り、稲妻も雷もない夜空にだ。子供のころ闇夜の稲光に不思議な思いを抱いていたが、ある時「あの光がお米を作る大切な稲光りだ」と教えられた。あれから夜空を、ゆっくり見なかったのか、今年までのあの光の記憶はない。今も鮮明に残っている、ひとつの光が夏になると、八月になると、鮮明に思い起こされる。
一九四五年八月一日の夕方だった。五年生の弟が一枚のビラを持って帰ってきた。米軍の飛行機からばら撒かれたもの。内容は、今夜、八王子市一体を焼夷弾攻撃、場所も地図入りで示されていた。それによると、市街地真ん中に集中して攻撃淺川を挟んで、里山のある地域と反対側の、桑畑の広がる、丘陵地が残されていた。取り敢えず警戒警報と同時に我が家は、大人と私、弟の四人が自転車に、僅かな荷物を、つけて、桑畑のある丘に非難する事にした。この頃になると、政府のうそを、暗黙のうちに大人は知っていたのだろう。もう防火水槽も、いわんや、火打棒で家を守ろうという人は皆無。敵のビラを信じて皆市街地から逃げた。
遥かして警戒警報が解除になりラジオからは「敵B29一機は、富士山付近を北進中なり。」やれやれ何事もなかった、と帰り仕度を始めたときだ。八王子駅が真昼のように浮かび出てきた。空からふわふわと照明弾。その後は、B29の編隊、空襲が出たのはその後、焼夷弾攻撃が始まった。あの光景は、今おもうと、映画の一シーン。....あれから花火が怖い
しゅるしゅるは空襲の音大花火 祐
一晩中桑畑を逃げ歩いた。夜が明けて、ゆっくり市街地の我が家へ戻る。道には丸焦げの死体、警戒が解除になり家に戻った人が、逃げ遅れたらしい。町は蔵のみが、焼けずに残り、家々はまだ、やけ残りが燻り熾きになっている。それでも人は浅ましい、味噌屋のくらに焼けた味噌があると、焼け跡のバケツを持ってとりに行く。たくさんの缶詰が焼けて膨張して撥ねる。その中に、入って焼け焦げた缶詰を拾う。飢えていた。
子供の私は、神風を信じた。「欲しがりません勝までは」も実行した。今おもうと戦に負けたからこそ、この自由があるようにも思える。あんな時代が続いていたならば、一体どうなっていたことか、戦争は何にもよい事はない。
今が大切だが、巷では、金融恐慌を起こしかねない勢いで、不景気が押し寄せている。年寄りが増えている。なぜか、満たされない毎日不安が続く辛い世の中、大人も、子供らも悩んでいる。
したくない出かけたくない草紅葉 祐





二句表 「かくれんぼ」の巻 膝送り
青空に芒がゆれるかくれんぼ 玉木 祐
栗名月に思うご馳走 峯田 政志
ウ
狩自慢獲物の猪を持参して 梅田 實
三人組の旅行計画 宮澤 佳子
上海の路地に老酒売りの旗 古賀 直子
塀の底冷え指された汚職 藤尾 薫
リベートの全てを返し神迎え 祐
温泉郷をめざす両人 志
ナオ
夫々に好きな相手に恵まれて 實
穴にはまったパジェロ動かず 佳
川開きどーんと揚がる小気味良さ 直
山頂で見る雲海の月 薫
シャンゼリゼほっと一息エトランゼ 祐
初孫を抱きまずはシャッター 志
ナウ
開げたる双手にためる花吹雪 實
猫をさすりてのどらかな午後 佳
二句表 「夢さそう」膝送り
サフランや夢さそうごと草ひなた 藤尾 薫
ひらり翔び立つ秋の蝶々 古賀直子
ウ
月みとれ足をとられて転ぶらん 宮澤佳子
水道工事黒き人影 梅田 實
ロボットが御苦労さまと挙手の礼 峯田政志
消防車来るビルの谷間に 玉木 祐
蜜柑むき麻雀囲む悪仲間 薫
おどっています妻の掌の上 直子
ナオ
ブラームスまた行こうよと囁かれ 佳子
興奮いつも閨にもちこみ 實
鍵かけた筈の心で髪洗う 政
マロニエ咲いて匂う月かげ 祐
ガウディの聖家族の塔そびえたち 薫
金賞とった写真道楽 直
ナウ
花たより地酒もともに届きおり 佳
仲間集めて永日の宴 實
2008年11月1日桜ヶ丘ヴィータ第3学習室にて
2008年11月16日発行

八月の夜 玉木 祐
今年の夏は、殊の外暑かったように思う。あの暑さの夜、感じた事が手許に、メモして残っていたので、それを基にして、書いてみる。
八月の事だった。べランダに出て涼んでいると、東の空に稲光り、稲妻も雷もない夜空にだ。子供のころ闇夜の稲光に不思議な思いを抱いていたが、ある時「あの光がお米を作る大切な稲光りだ」と教えられた。あれから夜空を、ゆっくり見なかったのか、今年までのあの光の記憶はない。今も鮮明に残っている、ひとつの光が夏になると、八月になると、鮮明に思い起こされる。
一九四五年八月一日の夕方だった。五年生の弟が一枚のビラを持って帰ってきた。米軍の飛行機からばら撒かれたもの。内容は、今夜、八王子市一体を焼夷弾攻撃、場所も地図入りで示されていた。それによると、市街地真ん中に集中して攻撃淺川を挟んで、里山のある地域と反対側の、桑畑の広がる、丘陵地が残されていた。取り敢えず警戒警報と同時に我が家は、大人と私、弟の四人が自転車に、僅かな荷物を、つけて、桑畑のある丘に非難する事にした。この頃になると、政府のうそを、暗黙のうちに大人は知っていたのだろう。もう防火水槽も、いわんや、火打棒で家を守ろうという人は皆無。敵のビラを信じて皆市街地から逃げた。
遥かして警戒警報が解除になりラジオからは「敵B29一機は、富士山付近を北進中なり。」やれやれ何事もなかった、と帰り仕度を始めたときだ。八王子駅が真昼のように浮かび出てきた。空からふわふわと照明弾。その後は、B29の編隊、空襲が出たのはその後、焼夷弾攻撃が始まった。あの光景は、今おもうと、映画の一シーン。....あれから花火が怖い
しゅるしゅるは空襲の音大花火 祐
一晩中桑畑を逃げ歩いた。夜が明けて、ゆっくり市街地の我が家へ戻る。道には丸焦げの死体、警戒が解除になり家に戻った人が、逃げ遅れたらしい。町は蔵のみが、焼けずに残り、家々はまだ、やけ残りが燻り熾きになっている。それでも人は浅ましい、味噌屋のくらに焼けた味噌があると、焼け跡のバケツを持ってとりに行く。たくさんの缶詰が焼けて膨張して撥ねる。その中に、入って焼け焦げた缶詰を拾う。飢えていた。
子供の私は、神風を信じた。「欲しがりません勝までは」も実行した。今おもうと戦に負けたからこそ、この自由があるようにも思える。あんな時代が続いていたならば、一体どうなっていたことか、戦争は何にもよい事はない。
今が大切だが、巷では、金融恐慌を起こしかねない勢いで、不景気が押し寄せている。年寄りが増えている。なぜか、満たされない毎日不安が続く辛い世の中、大人も、子供らも悩んでいる。
したくない出かけたくない草紅葉 祐








二句表 「かくれんぼ」の巻 膝送り
青空に芒がゆれるかくれんぼ 玉木 祐
栗名月に思うご馳走 峯田 政志
ウ
狩自慢獲物の猪を持参して 梅田 實
三人組の旅行計画 宮澤 佳子
上海の路地に老酒売りの旗 古賀 直子
塀の底冷え指された汚職 藤尾 薫
リベートの全てを返し神迎え 祐
温泉郷をめざす両人 志
ナオ
夫々に好きな相手に恵まれて 實
穴にはまったパジェロ動かず 佳
川開きどーんと揚がる小気味良さ 直
山頂で見る雲海の月 薫
シャンゼリゼほっと一息エトランゼ 祐
初孫を抱きまずはシャッター 志
ナウ
開げたる双手にためる花吹雪 實
猫をさすりてのどらかな午後 佳





二句表 「夢さそう」膝送り
サフランや夢さそうごと草ひなた 藤尾 薫
ひらり翔び立つ秋の蝶々 古賀直子
ウ
月みとれ足をとられて転ぶらん 宮澤佳子
水道工事黒き人影 梅田 實
ロボットが御苦労さまと挙手の礼 峯田政志
消防車来るビルの谷間に 玉木 祐
蜜柑むき麻雀囲む悪仲間 薫
おどっています妻の掌の上 直子
ナオ
ブラームスまた行こうよと囁かれ 佳子
興奮いつも閨にもちこみ 實
鍵かけた筈の心で髪洗う 政
マロニエ咲いて匂う月かげ 祐
ガウディの聖家族の塔そびえたち 薫
金賞とった写真道楽 直
ナウ
花たより地酒もともに届きおり 佳
仲間集めて永日の宴 實
2008年11月1日桜ヶ丘ヴィータ第3学習室にて