連句通信119号
2007年9月25日発行
こ の 夏 星明子
山の住居に行く夏が来ましたが今年は少し気の重い出発となりました。車無しで滞在する事にしたので不便だろうなあという事と、山の住まいで一番親しかった友人が亡くなったことを知らされていたからでした。
その人とはよく一緒に散歩をし「谷の笹百合が少なくなったね」とか美ヶ原の見える大きな栗の木の下の展望台でそよ風に吹かれながら家族のことなどを話したり・・・去年は花火大会を村の小学校のグランドに見に行ってピエール・ロチの「我々の生(ヴィ)のような花火・・・」などと言う言葉を私は何となく思い出しながら畑の上に打ち上げられる花火を彼女と眺め、来年も叉会いましょうと約束して別れたのでしたが。
山に着いた直後、風邪をひいたのか三九度の熱を出し三日ほど一人で寝ていたのですがやっと直ってほっとするまもなく、今度は私の学校時代からの親友が亡くなったという電話が入りました。入院はしていたのですが「秋にまたお目にかかれるのを楽しみにしています」などと書かれた葉書をもらったばかりだったので驚き、一晩で帰る支度をして、犬とあずさ14号に乗って東京に帰り、その晩のお通夜と翌日のお葬式に出ました。まだ夏の盛でしたので再び山に帰ったところ、今度は犬がおかしくなり牡なのに用を足すとき足も上げられず餌も食べなくなって寝たきりになってしまいました。この犬は一七才なので、犬までがと思うとどうしてもかかりつけの獣医さんに連れて行きたいと思い、叉家の中を片付けて帰る支度をしました。ところがこの話を聞いた近くの人が松本の獣医さんに連れて行ってくださったのです。それが熱中症だという事で注射だけで元通りになって、ひと安心しました。
夏と言えばものみな活力に満ちて、生命力に溢れる季節と思うのですが、お盆や終戦記念日もあってテレビ等も人の一生とか生死の事を考える番組がよく放映されます。山の夜は空には黄色いひっかき傷のような月が出ているだけで星は茂った木々に隠れて見えず、風も止み、上から蓋をしたような闇に包まれます。私は棺の中の真っ赤な口紅を付けた親友の顔や、斎場で体の何処の部分だか分からないけれど長い箸で壺にお収めしたことなどが目に焼き付いてしまい、炎暑でも何でもいい、隣の家の電話のベルの音が聞こえ、靴音が響く都会にどうしても帰りたくなってしまいました。
そして八月のうちに帰郷しました。
二句表「チョコ苺」
おもたせのチョコ苺うれし連句会 藤尾 薫
ゆかしき笑顔似合う香水 峯田政志
ウラ
水族館あしかの曲芸にぎわいて 杉浦和子
いばり散らして生見魂なり 梅田 實
一人坐し月を眺めて酒を酌む 星 明子
ゴーヤ土産に帰りこし彼 玉木 祐
農学部コンパでぽっとひと目惚れ 古賀直子
お料理うまい君でよかった 薫
ナオ
吉原におとなう始め引手茶屋 政志
終い相場に仰ぐ眉月 和子
負けられぬおしくら饅頭へこたれず 實
幼児ロボット不気味に起きる 明子
ゲーム機に飼い呼びかけるバーチャル犬 祐
太公望は今日もうとうと 直子
ナウ
散る花に連絡船の遠汽笛 政志
母と歩いた春日傘道 執筆
2007年6月2日
於関戸公民館ワークショップルーム
二句表「水差しくもる」
カレー屋の水差しくもる大暑かな 古賀直子
一リットルのビール乾杯 玉木 祐
ウラ
ぱそこんの漢字変換あきがきて 坂本統一
秋の浜辺に漕ぎ出だす舟 峯田政志
地芝居の書割月か望の月 祐
夜霧切りさく今宵の虎徹 統一
東尋坊タワーに登り花やぎて 政志
戯れに書く君のイニシャル 直子
ナオ
この人のお嫁になるとお飯事 杉浦和子
兎寒かろ冴えわたる月 政志
節分の豆七十は食べきれず 和子
無頼に在りし若き日の夢 統一
マリア像地平線まで人気なし 祐
ウルトラマンは宇宙ひと飛び 直子
ナウ
ねむりながら微笑む嬰よ花の刻 和子
猫と連れ立ち歩むうららか 政志
2007年7月15日 於関戸公民館第3学習室
二句表「夏果ての雷」
夏果ての雷堂々と一鳴す 古賀直子
首を引っこめちぢこまる蝦蟇 梅田 實
ウ
抽象の絵の中を行く異国にて 玉木 祐
赤い靴はく少女爽やか 峯田政志
月の光ゲ橋のたもとの占師 杉浦和子
千草のように心乱れる 藤尾 薫
次々と可愛い男現れて 實
やらずの雨よお泊りなさい 薫
ナオ
鳩時計電池切れです動きません 直子
回収業者巡る年の瀬 政志
大き荷のサンタクロースに月のぼる 祐
古稀の祝に孫でもやろか 實
紅白のまんじゅう怖い山盛りに 祐
お神酒をあげて地鎮祭する 實
ナウ
多摩の川たゆとうている花筏 和子
春のあけぼの自転車の列 堀越恵美子
2007年8月19日ヴィータ会議室
二句表「昨夜の夢」
蜩や昨夜の夢も忘れたり 六魚
香りも嬉し初茸の椀 直子
ウラ
月見月牛車の音の過ぎるらん 薫
都大路の今はビル街 祐
デナーショーベリーダンスに眼を凝らす 政志
手を握り合ふ膝掛けの下 實
罪を悔い百八煩悩しみじみと 和子
呑む打つ何とかできぬ齢に 六魚
ナオ
原っぱの空まで飛ばせホームラン 直子
タイムマシンでゆくは異次元 薫
合羽着て現れ来たる河童さま 祐
涼しげな月せがむ背の子 政志
浄財を求める寺の手紙来る 實
宝石箱にビックリマーク 和子
ナウ
諭吉さん降らせてみたい花吹雪 直子
蛙の声とともに唱ひて 執筆
首尾 2007年8月19日ヴィータ会議室
二句表「墓洗う」
墓洗う伝えたきこと訊きたきこと 古賀直子
金平糖は秋の靖国 杉浦和子
ウ
賭場になる雨月の宵の寺ありて おおた六魚
婆が夢中のTV時代劇 藤尾 薫
振られたる女の顔を想ってる 梅田 實
丑三ツ刻を寒犬の声 玉木 祐
雪の花ひしと抱き合う忍び逢い 峯田政志
へのへのもへじ書いて逃げ出す 直子
ナオ
六郎の絵本なつかし絣の子 薫
山も聳えて川も流れて 六魚
ここ続く地震の震央青葉木莵 祐
アブサンを呑むバンガローの月 政志
検診の数値をみては一喜一憂 實
株の下落はじっと静観 薫
ナウ
真夜中も絶えず花びら散るという 和子
若鮎つけし藍染の皿 實
2007年8月19日於関戸公民館第3学習室
二句表「つんどく」 膝送り
防災の日やつんどくの本の山 杉浦和子
すいっちょの鳴く土間の片隅 星 明子
ウ
名月に良妻賢母遠からん 玉木 祐
掃除洗濯俺にまかせろ 坂本統一
レスラーの亭主意外と優しくて 藤尾 薫
狐火を見たなんて言わない 古谷禎子
寝正月読書三昧酒三昧 和子
桃源郷を世界遺産に 古賀直子
ナオ
あるはずの無いものの出る不可解さ 禎子
使い回したレシートコピー 明子
茄子焼いてそろそろ買い替えフライパン 薫
月涼しくて月餅を食む 統一
山蒼し風吹き渡る甲斐の国 禎子
念珠取り出すヴィトンの巾着 直子
ナウ
シューベルト生演奏の花の宴 祐
筆竜胆の揺らぐ窓際 明子
2007年9月1日 首尾永山公民館学習室
2007年9月25日発行
こ の 夏 星明子
山の住居に行く夏が来ましたが今年は少し気の重い出発となりました。車無しで滞在する事にしたので不便だろうなあという事と、山の住まいで一番親しかった友人が亡くなったことを知らされていたからでした。
その人とはよく一緒に散歩をし「谷の笹百合が少なくなったね」とか美ヶ原の見える大きな栗の木の下の展望台でそよ風に吹かれながら家族のことなどを話したり・・・去年は花火大会を村の小学校のグランドに見に行ってピエール・ロチの「我々の生(ヴィ)のような花火・・・」などと言う言葉を私は何となく思い出しながら畑の上に打ち上げられる花火を彼女と眺め、来年も叉会いましょうと約束して別れたのでしたが。
山に着いた直後、風邪をひいたのか三九度の熱を出し三日ほど一人で寝ていたのですがやっと直ってほっとするまもなく、今度は私の学校時代からの親友が亡くなったという電話が入りました。入院はしていたのですが「秋にまたお目にかかれるのを楽しみにしています」などと書かれた葉書をもらったばかりだったので驚き、一晩で帰る支度をして、犬とあずさ14号に乗って東京に帰り、その晩のお通夜と翌日のお葬式に出ました。まだ夏の盛でしたので再び山に帰ったところ、今度は犬がおかしくなり牡なのに用を足すとき足も上げられず餌も食べなくなって寝たきりになってしまいました。この犬は一七才なので、犬までがと思うとどうしてもかかりつけの獣医さんに連れて行きたいと思い、叉家の中を片付けて帰る支度をしました。ところがこの話を聞いた近くの人が松本の獣医さんに連れて行ってくださったのです。それが熱中症だという事で注射だけで元通りになって、ひと安心しました。
夏と言えばものみな活力に満ちて、生命力に溢れる季節と思うのですが、お盆や終戦記念日もあってテレビ等も人の一生とか生死の事を考える番組がよく放映されます。山の夜は空には黄色いひっかき傷のような月が出ているだけで星は茂った木々に隠れて見えず、風も止み、上から蓋をしたような闇に包まれます。私は棺の中の真っ赤な口紅を付けた親友の顔や、斎場で体の何処の部分だか分からないけれど長い箸で壺にお収めしたことなどが目に焼き付いてしまい、炎暑でも何でもいい、隣の家の電話のベルの音が聞こえ、靴音が響く都会にどうしても帰りたくなってしまいました。
そして八月のうちに帰郷しました。
二句表「チョコ苺」
おもたせのチョコ苺うれし連句会 藤尾 薫
ゆかしき笑顔似合う香水 峯田政志
ウラ
水族館あしかの曲芸にぎわいて 杉浦和子
いばり散らして生見魂なり 梅田 實
一人坐し月を眺めて酒を酌む 星 明子
ゴーヤ土産に帰りこし彼 玉木 祐
農学部コンパでぽっとひと目惚れ 古賀直子
お料理うまい君でよかった 薫
ナオ
吉原におとなう始め引手茶屋 政志
終い相場に仰ぐ眉月 和子
負けられぬおしくら饅頭へこたれず 實
幼児ロボット不気味に起きる 明子
ゲーム機に飼い呼びかけるバーチャル犬 祐
太公望は今日もうとうと 直子
ナウ
散る花に連絡船の遠汽笛 政志
母と歩いた春日傘道 執筆
2007年6月2日
於関戸公民館ワークショップルーム
二句表「水差しくもる」
カレー屋の水差しくもる大暑かな 古賀直子
一リットルのビール乾杯 玉木 祐
ウラ
ぱそこんの漢字変換あきがきて 坂本統一
秋の浜辺に漕ぎ出だす舟 峯田政志
地芝居の書割月か望の月 祐
夜霧切りさく今宵の虎徹 統一
東尋坊タワーに登り花やぎて 政志
戯れに書く君のイニシャル 直子
ナオ
この人のお嫁になるとお飯事 杉浦和子
兎寒かろ冴えわたる月 政志
節分の豆七十は食べきれず 和子
無頼に在りし若き日の夢 統一
マリア像地平線まで人気なし 祐
ウルトラマンは宇宙ひと飛び 直子
ナウ
ねむりながら微笑む嬰よ花の刻 和子
猫と連れ立ち歩むうららか 政志
2007年7月15日 於関戸公民館第3学習室
二句表「夏果ての雷」
夏果ての雷堂々と一鳴す 古賀直子
首を引っこめちぢこまる蝦蟇 梅田 實
ウ
抽象の絵の中を行く異国にて 玉木 祐
赤い靴はく少女爽やか 峯田政志
月の光ゲ橋のたもとの占師 杉浦和子
千草のように心乱れる 藤尾 薫
次々と可愛い男現れて 實
やらずの雨よお泊りなさい 薫
ナオ
鳩時計電池切れです動きません 直子
回収業者巡る年の瀬 政志
大き荷のサンタクロースに月のぼる 祐
古稀の祝に孫でもやろか 實
紅白のまんじゅう怖い山盛りに 祐
お神酒をあげて地鎮祭する 實
ナウ
多摩の川たゆとうている花筏 和子
春のあけぼの自転車の列 堀越恵美子
2007年8月19日ヴィータ会議室
二句表「昨夜の夢」
蜩や昨夜の夢も忘れたり 六魚
香りも嬉し初茸の椀 直子
ウラ
月見月牛車の音の過ぎるらん 薫
都大路の今はビル街 祐
デナーショーベリーダンスに眼を凝らす 政志
手を握り合ふ膝掛けの下 實
罪を悔い百八煩悩しみじみと 和子
呑む打つ何とかできぬ齢に 六魚
ナオ
原っぱの空まで飛ばせホームラン 直子
タイムマシンでゆくは異次元 薫
合羽着て現れ来たる河童さま 祐
涼しげな月せがむ背の子 政志
浄財を求める寺の手紙来る 實
宝石箱にビックリマーク 和子
ナウ
諭吉さん降らせてみたい花吹雪 直子
蛙の声とともに唱ひて 執筆
首尾 2007年8月19日ヴィータ会議室
二句表「墓洗う」
墓洗う伝えたきこと訊きたきこと 古賀直子
金平糖は秋の靖国 杉浦和子
ウ
賭場になる雨月の宵の寺ありて おおた六魚
婆が夢中のTV時代劇 藤尾 薫
振られたる女の顔を想ってる 梅田 實
丑三ツ刻を寒犬の声 玉木 祐
雪の花ひしと抱き合う忍び逢い 峯田政志
へのへのもへじ書いて逃げ出す 直子
ナオ
六郎の絵本なつかし絣の子 薫
山も聳えて川も流れて 六魚
ここ続く地震の震央青葉木莵 祐
アブサンを呑むバンガローの月 政志
検診の数値をみては一喜一憂 實
株の下落はじっと静観 薫
ナウ
真夜中も絶えず花びら散るという 和子
若鮎つけし藍染の皿 實
2007年8月19日於関戸公民館第3学習室
二句表「つんどく」 膝送り
防災の日やつんどくの本の山 杉浦和子
すいっちょの鳴く土間の片隅 星 明子
ウ
名月に良妻賢母遠からん 玉木 祐
掃除洗濯俺にまかせろ 坂本統一
レスラーの亭主意外と優しくて 藤尾 薫
狐火を見たなんて言わない 古谷禎子
寝正月読書三昧酒三昧 和子
桃源郷を世界遺産に 古賀直子
ナオ
あるはずの無いものの出る不可解さ 禎子
使い回したレシートコピー 明子
茄子焼いてそろそろ買い替えフライパン 薫
月涼しくて月餅を食む 統一
山蒼し風吹き渡る甲斐の国 禎子
念珠取り出すヴィトンの巾着 直子
ナウ
シューベルト生演奏の花の宴 祐
筆竜胆の揺らぐ窓際 明子
2007年9月1日 首尾永山公民館学習室