無名会5月 2011年6月7日発行
シロバナエンレイソウ
小さな旅 玉木 祐
ディズニーランドが出来てもう何年になるだろう。何となく年寄りの行く場所とは違う別世界のように思えて、この歳まで行きたいと思ったことは無い。この度、夫に会った時冥途のみやげ話のつもりで、一度は経験してみるのも良かろうと軽い気持ちで出かけた。
我が家からは、中央線で東京に出て京葉線に乗り換える。その構内の長いことエスカレーターで、地下へもぐる。動く歩道を歩く。この辺りからもう、かの遊園地に行くと思しき、人があふれている。みな遊びにいくと言う顔よりも緊張な面持ちが、異様にさえ感じられる。電車に乗り込む。ほっとしたのも束の間舞浜駅に近くなると、窓外には別世界が現れ始め、降りるサインだ。
ひと刷毛の雲立冬の風が吹く 祐
駅の前は、ディズニーランドの出入り口。傍らを走っているモノレールのような電車は、ディズニーランドの専用車。これに乗るとディズニーシー、またはホテルに向うとのこと。われらはゲートを入り、ここでマップとパスポートを受け取る。私には何も解らず、全て娘と孫の役割。このパスポートで、並ばずに早くに乗れるファストパスをとる。娘がその手続きの間、孫はすかさずポップコーンを買う列に並ぶ。容器いっぱいに詰め込んだポップコーンを首からさげて、歩きながら食べる。回りも皆同じスタイルなのも不思議。さあこれから戦闘開始。
私には今までに経験の無いおもちゃの国か、絵本の中に紛れ込んだような、不思議な、違和感が走る。時代遅れの今浦島なのかもしれない。 まず一番はマップの左真ん中に位置する、ウエスタンランドを目指す。そこのビックサンダーマウンテンに乗るべく、列に並ぶ。鉱山列車が猛スピードで駆け抜ける。と言う乗り物。二人乗りのトロッコが五台位連なっている。昔一度だけ乗ったことのあるジェットコースターより視界が開けず、岩山の狭い場所が模してあり、のぼったり下ったり、速度があるので急カーブ、回り込む時は、体が九十度位傾く、宙に放り出されるような気分。若い娘子たちの「きゃぁーきゃあー」の絶叫。風を切る音を感じる間もなく到着。これぞ一瞬の夢の如き体験。娘は「列の中で髪の白い人は母さんだけ、若い人が被っているような、ミッキーマウスの帽子を被れと進めるが、それだけは勘弁ねがい週日白髪を晒して歩く。言われてみると確かに小さいお孫さんをベビーカーに、老夫婦が押している姿を、一度見かけたが、好奇心丸出しの私のような年寄りは、周りは何と思っただろう。それより人のことなど、誰も気にしない。こんな場所が人気の源かもしれない。そんな人込みでも、国際的な中国人、インド人はやはり目に付く。サリーの女性より香料の強い男性には、辟易した。
鰯雲小さくちぎり息吹けり 祐
救われたのは、こんな人工的な庭にもカナダの楓が紅葉している石畳には、馴れた雀がポップコーンを拾い啄ばんでいたことだ。手入れの行き届いた庭のハワイランド辺りにはハイビスカスの赤い花もまだ綺麗に咲いている。人工的だが心休まる。とに角広い半日が瞬く間。お昼を頂くのに、やっと椅子にかける。
歩道の陽温しすずめの肥えており 祐
そろそろ昼のパレードが始まるらしく、沿道に場所取りの縄が張られ出している。パレードはミッキー、ピーターパン蝶の群れが延々とつづく。そこを横に見ながら、次の館に並ぶ。または、ゴーカードにも、孫に乗せてもらう。何しろ園内が広い、歩く、一日にこんなに歩く事がこの頃無かったが、それをあまり意識している暇が無かった。これが正直のところ。 街中が甘いポップコーンの匂いで包まれ、ジングルベルが流れている。園の真ん中には、クリスマスツリーが、耀いている。
一日の早かった事。そろそろ夕闇が迫ってくる。夜の部は又パレード、花火と続くらしい。 もう帰ることに決める。朝早くから一日経験の無い日常と異なる時間と空間を過ごしたからだは、疲れより心が空っぽになったような、気分が飢餓状態のような妙な高ぶりを味わいつつ電車の人となった。老人の一日であった。
さらさらと前頭葉は黄落期 祐
(2010年 秋記)
シラネアオイ
歌仙 「緑増す」 梅田 實捌
街路樹やそぼ降る雨に緑増し 初夏 實
でんでん虫をはやす子供等 三夏 直子
書斎には名作選を並べいて 明子
鉛筆ばかり削る半時 六魚
大時計ふいに鳴り出す宿の月 三秋 直
車の前に秋の七草 三秋 實
ウ
古酒少しなめてみている娘たち 晩秋 魚
初めてなのにサドの香りが 明
なぜかしら離れられない仲となり 實
仏の顔も三度までとか 直
エルメスの財布はたいて豪華船 明
オムレツ好きのパリの公爵 魚
白鳥に乗せて行きたい夢のあと 三夏 直
雲の切れ間に冴える月影 三夏 實
官邸にひそと妖怪居り候 魚
遠隔操作で動くロボット 直
列島の花前線を追って行く 晩春 明
蜜蜂の箱ずらり並べて 三春 實
ナオ
流れ来る復活祭の弥撒の曲 晩春 明
行列をして「夜警」鑑賞 魚
復興のボランチアを志願して 實
アンパンマンをつけたジーパン 直
野馬追いの若武者の鞭銀の鞍 晩夏 明
昼寝のいびき老爺頻りに 三夏 魚
露天湯のうなじみとれつつい長湯 直
おのが小町をしっかりと抱き 實
不渡り手形は未だ破かずに 魚
信濃の国の深き山道 明
月美しき全ての川の注ぐ海 三秋 魚
菊師の鋏切れ味の良き 晩秋 直
ウ
爽涼に思いきり打つホームラン 三秋 明
さっと総立ち満場の沸き 實
PTA会長なぜかわたくしで 直
蜆のあぶく鍋に浮かべる 三春 魚
天守閣花爛熳の上に立ち 晩春 實
一日過ごすぬくき庭先 三春 明
(* 季を入れてみました。)
平成23年5月7日期首5月15日満尾
お花見会の計画があったのですが、震災でそんな気分になれなくて延期してたら、新緑の季節になり
新緑をめでる会になりました。昭島の緑が美しいホテルでおいしい中華の昼食をとりながら「源心」を
巻きました。
源心 「昭和の森」 膝送り
夏初月昭和の森の句会かな 薫
玻璃の向こうに揺れる新緑 直子
絵画展色の深さに魅せられて 明子
ベビーカーゆくホテルの庭に 祐
ウ
女将出て暖簾をはずす十三夜 政志
秋の鏡に匂う片肌 六魚
添寝する暖かき床虫時雨 實
赤い電車が登るアルペン 薫
僧院の塔のてっぺん雲流れ 直
葡萄酒の樽味は芳醇 明
おみやげにアンデルセンの絵本買う 祐
辞書を引けどもチンプンカン 志
ナオ
老男女花供懺法会鞍馬寺 魚
耳をすませば田螺鳴くなり 實
地の揺れて種まき惑う民がいて 薫
レトロなものに羅宇屋鋳掛屋 直
ソルフェージュ調子はずれのオクターブ 明
山小屋暮らし放射能さけ 祐
大船に乗った気持ちもうすくなり 志
猫舌なのか?吃っくりのKISS 魚
マッコリを酌み交わしてはしっぽりと 實
小豆洗いの音がしゃかしゃか 薫
ナウ
雪像がはらりと崩れ月の道 直
鮟鱇鍋を友と囲んで 明
家紋入り大漁旗を贈られて 祐
軽く一礼バスは出発 志
百鳥は花を散らして飛び廻り 實
春宵一刻遅遅に遅遅たり 魚
2011年5月15日首尾
昭和の森フォレストイン昭和館にて
イカリソウ