特集 私の心に残る詩歌 後半 2015年5月25日発行
前回に引き続き「私の好きな短詩形」の後半の部です。
皆様のを読ませていただくと、胸の奥のほうが何やら暖かくなって、目も潤んでしまいます。
さまざまに豊かな人生を歩まれてきたのですね~。
∞∞∞∞∞ 私の心に残る句など 古賀 直子 ∞∞∞∞∞
1)酒も少しは飲む父なるぞ秋の夜は 大串 章
私がかつて所属していた「百鳥」主宰であり、現俳壇の高名な俳人の一人です。
私と同年でもありますが、掲句は30歳そこそこの若き日、
初めてのお子さんの誕生の知らせを聞き作られた句だそうです。
抒情の俳人と言われていますが、まさに若い父親の抒情に
胸キュンとなりそうです。
2) 新緑やもったいなくて帽子とる 太田土男
「百鳥」の重鎮同人です。牧草の研究家です。
優しく自然いっぱいの句にいつも惹かれていました。
掲句は新緑のころの、まさに今時分のこと。
溢れんばかりの新緑の木々のもとを行くときいつもこの句を思います。
帽子をかぶっていてはほんとうにもったいない!
3) てふてふが一匹韃靼海峡を渡っていった 安西冬衛
詩です。ずっと昔、まだ十代の頃目に留まってずっと好きな詩です。
韃靼海峡ってどこだろうと地図を開いた記憶があります。
小さな蝶が一匹、懸命にひらひら海の上をとんでゆく、
まるで白昼夢のような妖しさを感じます。七十代になった今もです。
4) ≪蝶来たれり≫韃靼の兵どよめきぬ 辻 征夫
数年前、ネット上で見つけました。前記の句に呼応しているんだなあ、、
とちょっと感動しました。
こんな上質な遊びができる作者は詩人だそうです。
冬衛の詩は、当時大陸で病んでいて日本への帰国が適わなかった作者が、
自由に日本へ飛んでゆく蝶に託した思いがこめられているとか、、。
なのでほんとうは韃靼の兵がどよめいたわけではないですね。
でも私は蝶が来た~と韃靼の踊りで盛り上がる兵達を想像しています。
5) 嫁がせてお嫁さん来て雛祭 古賀直子
僭越ながら昔作った私の句です。
わが人生さしたることもなく終わりそうですが、
嫁がせてお嫁さん来て孫も七人、良し、、といたしましょう。
(ハコネウツギ)
∞∞∞∞∞ 私の好きな句、詩歌 藤尾 薫 ∞∞∞∞∞
1) 我が宿のいささ群竹吹く風の音のさやけきこの夕べかも 大伴家持
万葉集 巻19-4291
俳句とか和歌とかに、落語に出てくる「ちはやぶる神代も・・・」の
熊さん八っあん程度の知識しか持ち合わせてない私がいつの間にか
連句の世界に入れていただいてこんなことまで書くことになるとは・・・。
中学時代の国語で習った詩歌がなぜか覚えていて時折口に出てきます。
2) おみなにてまたも来む世ぞ生まれまし
花もなつかし月もなつかし 山川登美子
前世は多分男子であったのではと、自分のことを思いますが、
なぜか今世で思うことは生まれ変わっても女がいいなぁです。
男に生まれたら責任やらなんやら大変!単なる怠け者です・・。
3) 金亀子擲つ闇の深さかな 高浜虚子
*金亀子(こがねむし)
夜の深さをすさまじく感じます。
4) 蟲時雨銀河いよいよ撓んだり 松本たかし
和歌俳句等あまり詳しくない私ですがこの人の句はいつもとても惹かれます。
蟲の音と星屑がいっぱいの紺青の空が共鳴してるような。
5) ものの種子にぎればいのちひしめける 日野草城
いとおしいような感情がジマ~と沸き起こってきます。
そのほかに上田敏訳の「海潮音」の「時は春、日は明日~」でカタツムリが出てくる
Pippa’s Songの「春の朝」詩は何故かいいなぁと思います。「神空にしろしめす・・・」
調子が良くて口ずさみやすいせいかもしれません。
∞∞∞∞∞ 私の好きな句 玉木 祐 ∞∞∞∞∞
1) でで虫に筆圧があり密書なり 前田 弘
蝸牛の歩いた後に残された光る跡、
それを比喩に筆圧と捉え最後密書なりと断定し、拡げる。
ドラマ的でたった17文字で小説の1頁を読んだような面白さを感じた。
2) 八十八夜毛穴から昭和かな 前田 弘
上五に時候の八十八夜をすえ、からだを覆う
皮膚の毛穴そこから昭和、実にびっくり、
だがその感覚は私には、実感できる。
人生の大半を昭和で育ち今がある。
このところの季節の違変、一番感じるのは四季が崩れてしまった、
特に春、秋、人が快感を感じるその境が最も顕著、
そんな季間が下敷きに見える。
本来この季節一番生き物にとって、色々の意味で伸びる時期、
自然を感じる季節の息吹を詠ったと思った。
と同時に時候の異変をも憂いている句で深い示唆をかんじた。
3) フルートは体温の音フリージア 小森谷正枝
フルートは木管楽器の横笛で美しい澄んだ音色を出す。
その音をだす息を吹き込むことを体温の音と表現したのだ。
この辺りが作者の感性の豊かさであり、ポエジーを生み出す要素と思う。
取り合わせとしての花がフリージア、一見可憐に見えるが、
中々切り花としても存在感があり、何より芳香りを放つ。
花の形からも、上向きに横一列に咲く姿はどこかで笛との繋がりを感じさせてくれる。
読者は、聴覚、嗅覚、視覚と、体感をフルの活用させてくれる。
それが心地よく、うつくし広がっていく。
4) ジョーカーは真っ赤な椿かの子の忌 春田 千歳
ジョーカーはトランプの中のただ一枚、他のカードに属さない、
しかもゲームの中でもいろいろの役割を持つ、オールマイテイーの札だ。
それとかの子の忌の取り合わせの妙は実にうまい。
若いころ読んだ瀬戸内の『かの子繚乱』の衝撃が蘇えった。
5 グランドピアノの製造過程黒南風や 遠山 陽子
俳句的に考えると黒南風の季語を;や;で切っているのは
上五に据えるのが常套と思われるが、下五に置くことで、
円環され句が上に戻ることで、面白くなる。
もし黒南風が上にあると、中七からの読みは説明になってしまうであろう。
勿論世に受け入れられるのかは別として、私は好きな句だ、
作者はまだ正式に発表していないので、気にはなったが、
皆さまは如何でしょう。勝手な私流な読みを書きました。
いかがでしたか?どうぞ、ご感想をコメントなりメール等でお送りくださいませね。
またそれが発展して次のテーマにになるかもしれませんね~
シモツケソウ