連句通信111号
2006年10月18日発行
或る日の雷神 玉木 祐
或る夜更のことだった。眼裏の閃光で目が覚めた、実はまだ覚めきれていない。何が起こったか分からない頭の中を、過ぎったのは、子供のころに見た、照明弾の明かりのような気がした。あれは、一度の爆音の後、ふうぁふうゎ、真暗がりの街を宙に舞いながら、昼間のように街を照らした。
だが今夜の光は、一瞬の光のあとは、消えたと思ったとたんに、がらがらごろごろ、あの時とは、反対にビルが破壊されたような、物凄い音が後から来た。「雷」とやっと気がつく。
私のベッドは十三階の東側窓の側においてある。窓を開けて空を見る。まだ雨は降りだしていないようだ。音が消えると、また光る。東南の空から、はたまた東から、南西に向かって、自在に光る。時には、ひかりの真ん中が、赤く燃えているような、弾けたような、光が走る。その後の音は、今まで聞いたことが無い、爆音のようだ。夜中、街は暗いと思っていたが、実はなんとも明るい。昼間は感じないでいた、信号が、緑色の鮮やかなこと、赤に変わる。一台の自動車がとまった。遠くのマンションビルは、一晩中明かりを点けていてさながら不夜城。
部屋の明かりを点し時間を確かめる。三時十五分。今日は九月十一日。五年前にアメリカでテロのあった日だ。あれからイラク戦争が始まった。「戦争」の死者は、米軍だけで約三千人、同時多発テロ事件の米国内の犠牲者と、ほぼ同数になった。との新聞を読んだ。この戦争とは一体何だったのか。未だに不可思議だ。アメリカ、ブッシュ氏の独りよがりの感じが強い。
雷神の怒る今夜の罪と罰
いつの間にか、外は、雨が降り出している。ベッドの中からひとしきり雨を見ている。かんだんなく雷は落ちてくるようになり続いている。この雷は人災ではない。と思いはするが、何故か、空襲戦争を思い出させる。
どのくらい時間がたったのか、先ほど一番電車が、走り出したようだ。
雷鳴のうつつと時のあわいかな
そろそろ生理的現象か、何となく眠くなる。あれ程蒸し暑かった部屋も自然が涼しくしてくれた。明日は寝坊をするだろうと思いつつ、夏蒲団を肩まで引き上げる。香りの高いコーヒーがのみたい。あしたの朝は、豆をひいて、美味しく入れよう、そんなことを考えながら、明け始めた、空を眺めてつくづく戦争は嫌だ。空襲の中を、一晩中逃げ歩いた記憶は未だに忘れられない。今の平和に感謝しつつ、眠りに着く。
いづこにも何時もいくさや夜半の雷 (たまき ゆう)
二十韻「逆上がり」
逆上がりやっとできた日赤蜻蛉 杉浦和子
涼月を待ち炊く五目飯 坂本統一
おのこ等の秋の狩り場に駈けるらん 古谷禎子
群れたる犬の吐く息づかい 藤尾 薫
ウ
抱きよせる胸のふくらみ確かめて 古賀直子
そばかす美人はメリーウィドウ 和子
幣振りて卑弥呼祈りし世の鎮め 統一
奈多の海岸白砂青松 禎子
風吹いて風鈴売りは音を売る 薫
麦稈帽は父のおさがり 直子
ナオ
国際線出発ロビー賑わいて 和子
検問解消アリババ街道 統一
千一夜三千の美女湯浴みする 禎子
恋の病で医者通い 薫
月の門に届きてうれし鰤と酒 直子
インターホーンを凩が押す 和子
ナウ
唱えつつ般若心経写す人 統一
ばあやの里は蛙合戦 禎子
遊覧の船追っかける花吹雪 薫
うららうららと双子誕生 直子
2006年9月2日 於永山講座室
二句表「楽譜のにほひ」
新しき楽譜のにほひ秋灯 古谷禎子
恩師の瞳浮ぶ更待 峯田政志
ウ
赤い羽根明日立つ駅を思うらん 玉木 祐
秘湯の宿に先客万来 古賀直子
名作の映画監督腕まくり 藤尾 薫
荷風の日乗雪の日に読み おおた六魚
ふらんすに住む晩年の父訪ね 梅田 實
阿弥陀にかぶる鳥打帽子 杉浦和子
ナオ
オカリナを三つ並べてコンサート 禎子
捨身の刀自に絡みつかれて 政志
徳久利に冷酒たっぷり陶(すえ)狸 祐
水鉄砲で狙う夏月 直子
骨董品テレビ鑑定高値つけ 薫
鼻のほくろを褒める占い 六魚
ナウ
縁日をひやかして行く花の蔭 實
峠の茶屋は霞の中に 和子
2006年9月17日 関戸公民館学習室
二句表「冥府への便り」
冥府への便り書きたし曼珠沙華 古賀直子
君のまなざししのぶ秋空 藤尾 薫
ウ
穭田に月青々と上り来て おおた六魚
ことこと刻む厨から音 梅田 實
不動尊門前市の達磨売り 杉浦和子
狐火見たとブログ書き込む 古谷禎子
年寄れど孫にスキーを教えこみ 峯田政志
我武者羅に読み恋の手引きに 玉木 祐
ナオ
ほろ酔いて源氏気取りで叩くドア 直子
焦がれる想い更に深まる 薫
白玉の石にしみいる波の声 六魚
月影涼し三保の松原 實
万歩計狆の散歩につき合って 和子
どうでもいいやあんたにまかす 禎子
ナウ
乾杯の席花霏々と舞いやまず 政志
のどかな宴にジャズの演奏 祐
2006年9月17日 於関戸公民館第三学習室
二句表「窓のひろさ」
図書館の窓のひろさや赤とんぼ 六魚
歳時記繰れば不知火の文字 和子
ウ
月代に舟漕ぐ人の唱いゐて 直子
ベニスの路地に仮面つけゆく 祐
演舌は言語明瞭意味不明 明子
左右に揺れて花八手咲く 薫
霜焼けの辛そうだねと頬つつみ 統一
疎開学童好きな先生 六魚
ナオ
温泉に戦を偲ぶ二人連れ 和子
犬のドレスはオートクチュール 直子
トリマーの試験に受かり夏休 祐
吾子の眠れる蚊帳に月さす 明子
童謡は砂漠の駱駝ゆったりと 薫
神もめでたるオアシスの酒 六魚
ナウ
花の下むかし人魚と語る婆 統一
春の和菓子のうす紅の色 和子
2006年10月7日 ベルブ永山集会室
二句表「鯉の口」
秋霖や犇くものに鯉の口 古賀直子
無月の宴濁る池の端 玉木 祐
ウ
洋燈つけ秋の袷の針とりて 星 明子
CDで聴くジャズの名曲 藤尾 薫
哀しみは小樽運河に陽の沈む 坂本統一
多喜二忌のビラ駅に受けとる おおた六魚
睦言も夫婦喧嘩も糸電話 杉浦和子
切れそで切れぬ糟糠の縁 直子
ナオ
ご用心飲酒運転事故続出 祐
たらふく食べて財布空っぽ 明子
風そよぎ昼寝のんびり肘枕 薫
赤兎の将軍仰ぐ夏月 統一
張り扇中原に追う夢ひとつ 六魚
芸一筋に貰う勲章 直子
ナウ
甘茶浴び尺の御仏花の寺 和子
幻界の国日永旅する 祐
2006年10月7日 於永山集会室
二句表「拝めるやろか」
十六夜は拝めるやろかすすき刈る 和子
秋の駒引く親方の声 直子
ウ
武豊の凱旋門賞身に入みて 祐
博物館に黙す立像 六魚
考える振りのあなたは認知症 直子
夫を忘れ介護師に惚れ 統一
同色のマフラー編んでそっと巻く 明子
恋謳歌するディズニーランド 薫
ナオ
夢を売る事業展開五大州 六魚
宇宙旅行は一番乗りに 薫
しゃっくりの特効薬はいっき飲み 和子
弁天小僧むせぶ夏月 統一
学童のソーラン節の青法被 祐
線引き厳し北の領海 明子
ナウ
満開の遅咲きの花手に受けて 明子
琴弾鳥の目玉くるくる 薫
*琴弾鳥=鷽(うそ)の別名
2006年10月7日 於永山集会室
2006年10月18日発行
或る日の雷神 玉木 祐
或る夜更のことだった。眼裏の閃光で目が覚めた、実はまだ覚めきれていない。何が起こったか分からない頭の中を、過ぎったのは、子供のころに見た、照明弾の明かりのような気がした。あれは、一度の爆音の後、ふうぁふうゎ、真暗がりの街を宙に舞いながら、昼間のように街を照らした。
だが今夜の光は、一瞬の光のあとは、消えたと思ったとたんに、がらがらごろごろ、あの時とは、反対にビルが破壊されたような、物凄い音が後から来た。「雷」とやっと気がつく。
私のベッドは十三階の東側窓の側においてある。窓を開けて空を見る。まだ雨は降りだしていないようだ。音が消えると、また光る。東南の空から、はたまた東から、南西に向かって、自在に光る。時には、ひかりの真ん中が、赤く燃えているような、弾けたような、光が走る。その後の音は、今まで聞いたことが無い、爆音のようだ。夜中、街は暗いと思っていたが、実はなんとも明るい。昼間は感じないでいた、信号が、緑色の鮮やかなこと、赤に変わる。一台の自動車がとまった。遠くのマンションビルは、一晩中明かりを点けていてさながら不夜城。
部屋の明かりを点し時間を確かめる。三時十五分。今日は九月十一日。五年前にアメリカでテロのあった日だ。あれからイラク戦争が始まった。「戦争」の死者は、米軍だけで約三千人、同時多発テロ事件の米国内の犠牲者と、ほぼ同数になった。との新聞を読んだ。この戦争とは一体何だったのか。未だに不可思議だ。アメリカ、ブッシュ氏の独りよがりの感じが強い。
雷神の怒る今夜の罪と罰
いつの間にか、外は、雨が降り出している。ベッドの中からひとしきり雨を見ている。かんだんなく雷は落ちてくるようになり続いている。この雷は人災ではない。と思いはするが、何故か、空襲戦争を思い出させる。
どのくらい時間がたったのか、先ほど一番電車が、走り出したようだ。
雷鳴のうつつと時のあわいかな
そろそろ生理的現象か、何となく眠くなる。あれ程蒸し暑かった部屋も自然が涼しくしてくれた。明日は寝坊をするだろうと思いつつ、夏蒲団を肩まで引き上げる。香りの高いコーヒーがのみたい。あしたの朝は、豆をひいて、美味しく入れよう、そんなことを考えながら、明け始めた、空を眺めてつくづく戦争は嫌だ。空襲の中を、一晩中逃げ歩いた記憶は未だに忘れられない。今の平和に感謝しつつ、眠りに着く。
いづこにも何時もいくさや夜半の雷 (たまき ゆう)
二十韻「逆上がり」
逆上がりやっとできた日赤蜻蛉 杉浦和子
涼月を待ち炊く五目飯 坂本統一
おのこ等の秋の狩り場に駈けるらん 古谷禎子
群れたる犬の吐く息づかい 藤尾 薫
ウ
抱きよせる胸のふくらみ確かめて 古賀直子
そばかす美人はメリーウィドウ 和子
幣振りて卑弥呼祈りし世の鎮め 統一
奈多の海岸白砂青松 禎子
風吹いて風鈴売りは音を売る 薫
麦稈帽は父のおさがり 直子
ナオ
国際線出発ロビー賑わいて 和子
検問解消アリババ街道 統一
千一夜三千の美女湯浴みする 禎子
恋の病で医者通い 薫
月の門に届きてうれし鰤と酒 直子
インターホーンを凩が押す 和子
ナウ
唱えつつ般若心経写す人 統一
ばあやの里は蛙合戦 禎子
遊覧の船追っかける花吹雪 薫
うららうららと双子誕生 直子
2006年9月2日 於永山講座室
二句表「楽譜のにほひ」
新しき楽譜のにほひ秋灯 古谷禎子
恩師の瞳浮ぶ更待 峯田政志
ウ
赤い羽根明日立つ駅を思うらん 玉木 祐
秘湯の宿に先客万来 古賀直子
名作の映画監督腕まくり 藤尾 薫
荷風の日乗雪の日に読み おおた六魚
ふらんすに住む晩年の父訪ね 梅田 實
阿弥陀にかぶる鳥打帽子 杉浦和子
ナオ
オカリナを三つ並べてコンサート 禎子
捨身の刀自に絡みつかれて 政志
徳久利に冷酒たっぷり陶(すえ)狸 祐
水鉄砲で狙う夏月 直子
骨董品テレビ鑑定高値つけ 薫
鼻のほくろを褒める占い 六魚
ナウ
縁日をひやかして行く花の蔭 實
峠の茶屋は霞の中に 和子
2006年9月17日 関戸公民館学習室
二句表「冥府への便り」
冥府への便り書きたし曼珠沙華 古賀直子
君のまなざししのぶ秋空 藤尾 薫
ウ
穭田に月青々と上り来て おおた六魚
ことこと刻む厨から音 梅田 實
不動尊門前市の達磨売り 杉浦和子
狐火見たとブログ書き込む 古谷禎子
年寄れど孫にスキーを教えこみ 峯田政志
我武者羅に読み恋の手引きに 玉木 祐
ナオ
ほろ酔いて源氏気取りで叩くドア 直子
焦がれる想い更に深まる 薫
白玉の石にしみいる波の声 六魚
月影涼し三保の松原 實
万歩計狆の散歩につき合って 和子
どうでもいいやあんたにまかす 禎子
ナウ
乾杯の席花霏々と舞いやまず 政志
のどかな宴にジャズの演奏 祐
2006年9月17日 於関戸公民館第三学習室
二句表「窓のひろさ」
図書館の窓のひろさや赤とんぼ 六魚
歳時記繰れば不知火の文字 和子
ウ
月代に舟漕ぐ人の唱いゐて 直子
ベニスの路地に仮面つけゆく 祐
演舌は言語明瞭意味不明 明子
左右に揺れて花八手咲く 薫
霜焼けの辛そうだねと頬つつみ 統一
疎開学童好きな先生 六魚
ナオ
温泉に戦を偲ぶ二人連れ 和子
犬のドレスはオートクチュール 直子
トリマーの試験に受かり夏休 祐
吾子の眠れる蚊帳に月さす 明子
童謡は砂漠の駱駝ゆったりと 薫
神もめでたるオアシスの酒 六魚
ナウ
花の下むかし人魚と語る婆 統一
春の和菓子のうす紅の色 和子
2006年10月7日 ベルブ永山集会室
二句表「鯉の口」
秋霖や犇くものに鯉の口 古賀直子
無月の宴濁る池の端 玉木 祐
ウ
洋燈つけ秋の袷の針とりて 星 明子
CDで聴くジャズの名曲 藤尾 薫
哀しみは小樽運河に陽の沈む 坂本統一
多喜二忌のビラ駅に受けとる おおた六魚
睦言も夫婦喧嘩も糸電話 杉浦和子
切れそで切れぬ糟糠の縁 直子
ナオ
ご用心飲酒運転事故続出 祐
たらふく食べて財布空っぽ 明子
風そよぎ昼寝のんびり肘枕 薫
赤兎の将軍仰ぐ夏月 統一
張り扇中原に追う夢ひとつ 六魚
芸一筋に貰う勲章 直子
ナウ
甘茶浴び尺の御仏花の寺 和子
幻界の国日永旅する 祐
2006年10月7日 於永山集会室
二句表「拝めるやろか」
十六夜は拝めるやろかすすき刈る 和子
秋の駒引く親方の声 直子
ウ
武豊の凱旋門賞身に入みて 祐
博物館に黙す立像 六魚
考える振りのあなたは認知症 直子
夫を忘れ介護師に惚れ 統一
同色のマフラー編んでそっと巻く 明子
恋謳歌するディズニーランド 薫
ナオ
夢を売る事業展開五大州 六魚
宇宙旅行は一番乗りに 薫
しゃっくりの特効薬はいっき飲み 和子
弁天小僧むせぶ夏月 統一
学童のソーラン節の青法被 祐
線引き厳し北の領海 明子
ナウ
満開の遅咲きの花手に受けて 明子
琴弾鳥の目玉くるくる 薫
*琴弾鳥=鷽(うそ)の別名
2006年10月7日 於永山集会室