無名会8月 2011年9月14日発行
8月は無名会はお休みでした。
編集人も、あまりの暑さで何もする気にもならず苦しい夏でした・・・。
暑さに強い人がうらやましい・・・。
さて今回は前の続きです。
日常生活、その時々でふと耳にした、目にした言葉がなんか心に残っている。
題して惹かれる言葉です。
特集 惹かれる言葉
星明子
1)橋というものはそこに着いたら、渡れば良い。次の橋はその橋が来た時にゆっくり渡れば良い。
ローラ・インガルス・ワイルダー 作「大草原の物語」より
この物語は今から140年前の北アメリカの開拓時代を自給自足の生活をし乍ら幾多の困難をのり越えて生きた少女の自伝的物語で当時の俚諺が沢山出て来ます。
”十の損にも一の得””強く願えば必ずかなう””終わりよければすべてよし””いそいで結婚してゆっくり後悔する”一番暗い闇は明け方の前””死んだライオンより生きた犬””人間に確実に来るのは死と税金””自由とは選ぶこと””貧者には冬に氷富者には夏に氷”
(私は小心者で、心配で夜寝られない時などいつもこの言葉を思い出します。愛読書等々から選びました。)
2)空に星 海に真珠 そして~そして地には愛を ハイネ詩集 井上正蔵訳
真珠はないけど、あとの二つはあるかな・・。 松葉牡丹
梅田 實
皆さん、この言葉に惹かれませんか?この間友達がこの本を読んだらと貸してくれました。 森村誠一の 老いる覚悟 という本から 共感する言葉を 抜き書きします。
森村さんは1933年生まれ御存じの作家 生涯現役を志す作家です。 東北大震災を踏まえてこの本を書いた。
イ. 晩節(現役が終わった60か70以降を言いますかね)は
貴重な時間 だと分からない年寄りがいる
ロ. 何歳になっても発達途上人であり続ける
ハ. 平凡な中にドラマを自発的に求める覚悟が肝要
私今年84歳になってとみに体が衰えてきました。 歩きのろのろふらふら、 字は速く書けない、頭が痛い、一日のうちにいい時と悪い時があり いよいよ年貢の納め時かと思はないではない。 願いはトンコロリ。
こういう状態の私に前記のイロハは惹かれる言葉です。
特にハは毎日の指針です。
今やっている生活 まだのろのろでも歩けるうちは外に出て人からエネルギーをもらう。これが一番。 歩けなくなっても 連句の仲間からはネットで元気をもらって生きる。 良い仲間があって幸せというものです。
欲を言えばいい連句がときには俳句が詠めないかなということです。
フロックス(花魁草)
いいにおいがします.
古賀 直子
ポール・ヴェルレーヌ「秋の歌」
映画「史上最大の作戦」(The Longest day)で描かれた第2次世界大戦のヨーロッパ戦線、連合軍のノルマンジー上陸作戦が行われた際に、連合軍から仏レジスタンスへ作戦開始の合図の暗号として放送されたのが、かの有名なヴェルレーヌの「秋の歌」でした。
イギリスBBCのラジオ放送を通じて送られたのです。1944年6月のことです。
秋の日の
ヴィオロンの
ため息の が先ず放送されたのです。そして
身に沁みて
ひたぶるに
うら悲し がついに放送されました。
あらかじめ 秋の日のヴィオロンのため息の が流されると作戦決行決定、そして身に沁みてひたぶるにうら悲し の語句が流されるとその後48時間以内に上陸作戦が決行されると決められていたのです。
1962年の映画でした。その後 テレビでも何度も放映され何度もみましたが、あの 秋の日のヴィオロンの を聞いていよいよだと緊張する仏レジスタンスの仲間の姿が忘れられません。ドイツ側もこの情報は掴んでいたそうですが、まさか公共放送を通じてそんな重大事項が流されるとは、、と疑っていたふしがあるそうです。決局連合軍の大勝利、ドイツは敗戦へと雪崩れていったのです。それにしてもBBCがこのノルマンジー上陸作戦の暗号メッセージをその放送の中で流しそれをフランス・レジスタンスのメンバー達が地下などに隠したラジオのボリュームをしぼりスピーカーに耳をくっつけるように聴いていて、しかもその暗号メッセージがかの有名なヴェルレーヌの詩だったいう話はなんともロマンチックですね。電子情報化時代の今と比べると隔世の感ありですね。詩そのものも素敵ですが、あの戦争の只中ヴェルレーヌを流すという西欧の文化に圧倒されました。若かった私の感動的な思い出です。
ハイビスカス
藤尾 薫
いでそよ人を 谷川 雁 作
笹原には 声がないと
見わたすとき ひるがえる白
こころの裏 風すきとおり
谷をうめて ゆれる文字は
いでそよ人を 忘れやはする
あて名なしの うすい手紙
おいてきたか 封もしないで
夜がくれば ながれぼし読む
露にとけた 墨の文字は
いでそよ人を忘れやはする
これは歌集(声楽)に出てきた詞の
抜書きです。美しい旋律でコーラスにもよく歌われるようです。
この曲は言葉が美しくて好きな曲です。作曲:新実徳英。
作詞:谷川雁(1923年- 1995年)詩人、評論家、サークル活動家、教育運動家。
社会主義的な リアリズムを基調とにした詩人。
私が惹かれたのは「いでそよ人を忘れやはする」という言葉。
この言葉は小倉百人一首 大弐三位の歌。
有馬山
猪名の笹原
風吹けば
いでそよ人を
忘れやはする
を連想させます。その和歌の内容については
「どうしてあなたのことを忘れたりするもんですか」ぐらいに理解していました。
調べてみると、反語というかアイロニカルな響きを持って作った歌のようです。
大弐三位は名前は藤原賢子といい母は紫式部。
仲の絶えかけた男が(訪れない自分のことは言わずに)、三位の心変わりを疑ってきた。
それを受けて三位が詠んだ返歌。
有馬山から猪名にかけて風が吹くと笹葉もそよそよと揺らぎます。
さあそれですよ、(私のほうこそあなたの心変わりが不安なのですから、)
どうしてあなたのことを忘れたりなどするものでしょうか。
言外に男に対する抗議も漂わせているらしい。
そこで谷川雁と大弐三位の二つの詩句を比較してみますと、
風、笹原、うすい手紙=短冊 、墨の文字=王朝時代の手紙文は筆文字。と共通の題材です。
内容は谷川雁のほうは、出す気はないが自分の思いをどうしようもなくて綴った人恋しい歌のようです。
どちらかというと感傷的。本名は巌(イワオ)ですが、やや女性的な気持ちの表現にみえます。
大弐三位のほうは宮廷女房の知が勝ったしっぺ返しの歌。この句で
相手のこころが戻ってきてくれるとは到底おもえません・・・。
谷川雁の詩は趣向が違った百人一首の本歌取りの歌なのでしょう。
谷川の歌を歌曲で歌うと、旋律と良くあってとても抒情的で惹かれました。
カクトラノオ