ススキの穂波がそよぎ、虫の音が高まるこの季節になると、昭和真っ只中生まれのやつがれ、この曲を聴き育った世代でもないのに、脳内に「旅の夜風」のメロディが流れます。たぶん母親の胎内で繰り返しレコードを聴いていたに違いありません。
泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
おとこ柳が なに泣くものか
昭和13年の川口松太郎原作の小説の映画化作品「愛染かつら」の主題曲。映画は上原謙(加山雄三の父)と田中絹代が主演して大ヒットし、国中の若い女性の紅涙を絞ったと聞いています。ストーリーは人口に膾炙していますから省きます。
今時のテレビドラマや韓流ドラマとは違い、主演俳優の面立ちが並外れて佳いと思います。美容整形の無い時代、当時の日本映画界の審美眼の高さに驚きます。現今は制作側の審美眼の劣化が著しいのでしょうか?
男女ともに、どこにでもゴロゴロいる顔がヒーロー・ヒロインを演じます。選び抜かれた美男美女が居ません。
戦後もこの映画は、時々の主演俳優でいくつか制作されましたが、ストーリーが時代に馴染まなくなっていたものか、ヒットとまではいかなかったようです。テレビは当然顧みません。
【旅の夜風】作詞西條八十、作曲万城目正
♩花も嵐も 踏み越えて
行くが男の 生きる道泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
月の比叡を 一人行く♩
恥ずかしいことに、老生はほろほろ鳥(ほろほろどり)をホロホロ鳥のことと疑わず、長く違和感を感じていました。ヤマドリと知ったのはごく最近のことです。
♩優しかの君 ただ独り
発たせまつりし 旅の空
可愛い子供は 女の生命
なぜに淋しい 子守唄♩
発たせまつりし 旅の空
可愛い子供は 女の生命
なぜに淋しい 子守唄♩
「かの君」とか「発たせまつりし」とか、耳触りの佳い男尊女卑的フレーズが並びます。
前年の12年に日中戦争が始まって、漠たる不安が国民に共有され始めていたのでしょう。「花も嵐も踏み越えて」のフレーズに、励戦的な響きを感ずるのは私だけではないでしょう。前進は「男の生きる道」なのです。
何故秋にこの歌が脳裏に浮かぶのか、そのわけは3番目の歌詞にありました。殆ど股旅物の世界です。寂しさが、恋を燃え立たせます。
♩加茂の河原に 秋長けて
肌に夜風が 沁みわたるおとこ柳が なに泣くものか
風に揺れるは 影ばかり♩
最後の4番目の歌詞は、恋する二人を騙します。どんなに障害があっても、ジタバタせずに待つことが肝腎、待っていれば恋は実ると教えています。
♩愛の山河 雲幾重
心ごころは 隔てても
待てば来る来る 愛染かつら
やがて芽をふく 春が来る♩
心ごころは 隔てても
待てば来る来る 愛染かつら
やがて芽をふく 春が来る♩
この国の社会に常套的な解決策は「待つ」こと。「待て」は「已めよ」の別表現。真に受けたら、恋は必ず引き裂かれます。
困難な恋愛を理解し励ますようでいて、兵士と銃後の妻への応援歌のようでもあります。当局はこのように映画も歌謡曲も、戦争遂行へのツールとして利用していたのでしょう。
いつもありがとうございます✨
「愛染かつら」は、私の世代と違いますが
子供の頃、テレビで再放送がありよく見ていたので
記憶がありました、主題歌の「旅の夜風」も
覚えていました、
介護職員となり、デイサービスでこの「愛染かつら」のビデオを見て 利用者様と又、見る機会が増えました、
何回も見るうちに、気がついたのが、主題歌です
比叡よ一人行く、え?舞台は京都だった!
東京は、実家で、病院は、京都、
そして、
可愛い子供は女の命、え?バツイチの子持ちだった!、
西条八十は、詩人、昔のビデオを見ながら
改めて、色んな事が分かりました、
そして、高石かつえは、歌手になりました、
桂の木に2人が手を合わせていましたが、
何神社かは、忘れました、
不朽の名作は、条件が揃ってこそ、名作と
言われるのですね。
返信が遅れてすみません。
「愛染かつら」主題歌「旅の夜風」の作詞と「青い山脈」の作詞は共に西條八十で、七五調がよく似ています。作曲者は違うのですが曲調がよく似ていて、間違えそうになります。
「青い山脈」はフォークダンス曲として親しまれていますが、「旅の夜風」もフォークダンス曲にアレンジしたら、現代に蘇ると思いますが。