先日モントリオール美術館の陶磁器の記事を掲載しました。その関連です。(2013年8月訪問)
この美術館はカナダのセンター美術館で、百科事典的な古代からの歴史美術、西洋美術、カナダのルーツとしてのインディアンおよびエスキモーの美術、そして現在のカナダおよび世界の美術品を展示しているが、大きな特徴として工芸品や工業デザインなどに関する蒐集に力を入れている。
例えば工業デザインだが、Macのコンピュータ(図1)や、日本ではビクターが販売した球形状テレビ(図2)など、影響の大きかった新デザインの製品の展示がなされている。
図1 iMAC (M) 図2 ビクターのテレビ (M)
また、武器や家具類の歴史的変遷が展示されている。家具類については、ライトや椅子が充実していました。
そのうち椅子の展示が面白かったので、掲載する。 展示状況は、図3/図4に示す。
この記事を書く前に、ネットに椅子の歴史を示す資料はないかと探したら、下記の例などがあったので参考にして下さい。
http://www.murauchi.net/culture/history/index.html/
この資料で表示されたものの代表例はあった。
展示品のほうから、私が流れを書くと下記のようになります。
1.椅子の基本機能の充実
椅子は座るのが目的であり、その基本機能の確保
2.付加的機能追加
権威の象徴としてもしくは注目を浴びるための椅子、座るだけでなくもっとリラックスできる椅子への展開
3.新材料も取り入れた工業的デザインの椅子
4.屋内のモニュメントとしての椅子(座られることから解放された椅子)
1.椅子の基本機能の充実
18世紀には椅子の形が出来ていて、優しく座るため改良、すなわち座席の形状の改善 <背中のあたり方(図5 :イギリスの椅子)、座面や背中のクッション化(図6 パリの椅子)>はすでに適用されている。
図5 イギリス 18世紀の椅子 (M) 図6 パリ 18世紀の椅子 (M)
2.付加的機能追加(ほぼ19世紀)
王の椅子は昔から派手だったが、19世紀には民間にも図7のように、ある意味悪目立ちする椅子が製作された。(イタリア製) またただ座るのではなく、ロッキングチェア(図8)とか、足台つき(図9)のように、仕事から離れてのんびりする椅子が、製作された。なお、19世紀中も一般用の椅子は、デザインの洗練化が進んでいる。
図7 人を目立たせる椅子(M) 図8 ロッキングチェア(M) 図9 足台つき椅子(M)
3.新材料使用の工業的デザインの椅子
19世紀まではほぼ木製であったのが、20世紀から鉄パイプ等の軽量金属、そしてプラスチックが材料として取り入れられた。前者の強度、後者の成形自由度から、椅子のデザインが大幅に広がった。
図10はパイプと硬質ゴムの組み合わせの先陣を切った椅子、図11はプラスチックの強度/成形性を利用した椅子、図12はパイプとナイロン網を組み合わせた椅子である。また木製でも図13のようなカラフルなものが作られた。
そして材料をうまく使った例として、ファイバーグラス製のロッキングチェア(図14)がある。棒高跳びのポールの素材であり、とてもしなやかな素材で、一度座ってみたい。
図10 金属パイプ/硬質ゴムの椅子(M) 図11 プラスチック成形椅子 (M) 図12 金属パイプ/網の椅子(M)
5.モニュメントとしての椅子
これまでは当然ながら椅子に座る人が主役で、その人を気分よく座らせるとか、そこに座る人を王座のように権威づけるのが椅子の役割であった。しかし、人と椅子の関係を断つもしくは逆転させるような、椅子状のものが1980年以降現れた。
図15は燃えた木のような表面の華奢なジグザグの椅子である。そのスマートさに非常に存在感があるが、人々には「えっ 本当に座るの?」で訴えている。図16はヌイグルミがぎっしり敷き詰められた丸いソファである。かわいらしすぎてとてもそこに座ることができない。
図15 ジグザグの椅子 (M) 図16 ヌイグルミの椅子
図17は針金でできたソファである。座ると必ず針金が曲がり、もしかするとそれに絡まって簡単に立てなくなるかもしれない。図18は背の高い椅子であり、玉座であることを象徴する。しかし構造は非常に華奢で、多分成人の体重には耐えきれないと思う。その結果椅子そのものが、王となる。
図17 針金のソファ (M) 図18 華奢な玉座 (M)
図19、図20は人の手を模した椅子である。もしここに座るとするならば、主人である椅子に人は身を委ねることになる。
図19 木製のベンチ 図20 アクリル?の椅子
以上のように、椅子はしばらく前までは、座る人を権威付け、人の座り心地を良くし、リラックスさせるものとして、人に奉仕するものだった。しかし近年それを逸脱し、「椅子のようなもの」として、人を座らせない屋内のモニュメントとして扱うべきものが現れた。
これは、むしろ現代美術が、人にとって抵抗感の小さな椅子の姿を借りて、屋内に現れたものと考える。それとともに、人と密着することが多く、多くの人々にとって認識が共通している椅子は、作者の意図を見る人に伝達しやすい媒体として都合がよかったからだろう。
こういった「座られることから解放された椅子」といった美術的扱いとともに、座ることがもっと快楽につながるといった方向があってもいい。もしかすると日本の電動マッサージ椅子をもっと洗練させると、人々に大きな感動を与える美術品になるのかもしれない。
(M)記載は、モントリオール美術館公式HPからの引用
この美術館はカナダのセンター美術館で、百科事典的な古代からの歴史美術、西洋美術、カナダのルーツとしてのインディアンおよびエスキモーの美術、そして現在のカナダおよび世界の美術品を展示しているが、大きな特徴として工芸品や工業デザインなどに関する蒐集に力を入れている。
例えば工業デザインだが、Macのコンピュータ(図1)や、日本ではビクターが販売した球形状テレビ(図2)など、影響の大きかった新デザインの製品の展示がなされている。
図1 iMAC (M) 図2 ビクターのテレビ (M)
また、武器や家具類の歴史的変遷が展示されている。家具類については、ライトや椅子が充実していました。
そのうち椅子の展示が面白かったので、掲載する。 展示状況は、図3/図4に示す。
図3/図4 展示状況
この記事を書く前に、ネットに椅子の歴史を示す資料はないかと探したら、下記の例などがあったので参考にして下さい。
http://www.murauchi.net/culture/history/index.html/
この資料で表示されたものの代表例はあった。
展示品のほうから、私が流れを書くと下記のようになります。
1.椅子の基本機能の充実
椅子は座るのが目的であり、その基本機能の確保
2.付加的機能追加
権威の象徴としてもしくは注目を浴びるための椅子、座るだけでなくもっとリラックスできる椅子への展開
3.新材料も取り入れた工業的デザインの椅子
4.屋内のモニュメントとしての椅子(座られることから解放された椅子)
1.椅子の基本機能の充実
18世紀には椅子の形が出来ていて、優しく座るため改良、すなわち座席の形状の改善 <背中のあたり方(図5 :イギリスの椅子)、座面や背中のクッション化(図6 パリの椅子)>はすでに適用されている。
図5 イギリス 18世紀の椅子 (M) 図6 パリ 18世紀の椅子 (M)
2.付加的機能追加(ほぼ19世紀)
王の椅子は昔から派手だったが、19世紀には民間にも図7のように、ある意味悪目立ちする椅子が製作された。(イタリア製) またただ座るのではなく、ロッキングチェア(図8)とか、足台つき(図9)のように、仕事から離れてのんびりする椅子が、製作された。なお、19世紀中も一般用の椅子は、デザインの洗練化が進んでいる。
図7 人を目立たせる椅子(M) 図8 ロッキングチェア(M) 図9 足台つき椅子(M)
3.新材料使用の工業的デザインの椅子
19世紀まではほぼ木製であったのが、20世紀から鉄パイプ等の軽量金属、そしてプラスチックが材料として取り入れられた。前者の強度、後者の成形自由度から、椅子のデザインが大幅に広がった。
図10はパイプと硬質ゴムの組み合わせの先陣を切った椅子、図11はプラスチックの強度/成形性を利用した椅子、図12はパイプとナイロン網を組み合わせた椅子である。また木製でも図13のようなカラフルなものが作られた。
そして材料をうまく使った例として、ファイバーグラス製のロッキングチェア(図14)がある。棒高跳びのポールの素材であり、とてもしなやかな素材で、一度座ってみたい。
図10 金属パイプ/硬質ゴムの椅子(M) 図11 プラスチック成形椅子 (M) 図12 金属パイプ/網の椅子(M)
5.モニュメントとしての椅子
これまでは当然ながら椅子に座る人が主役で、その人を気分よく座らせるとか、そこに座る人を王座のように権威づけるのが椅子の役割であった。しかし、人と椅子の関係を断つもしくは逆転させるような、椅子状のものが1980年以降現れた。
図15は燃えた木のような表面の華奢なジグザグの椅子である。そのスマートさに非常に存在感があるが、人々には「えっ 本当に座るの?」で訴えている。図16はヌイグルミがぎっしり敷き詰められた丸いソファである。かわいらしすぎてとてもそこに座ることができない。
図15 ジグザグの椅子 (M) 図16 ヌイグルミの椅子
図17は針金でできたソファである。座ると必ず針金が曲がり、もしかするとそれに絡まって簡単に立てなくなるかもしれない。図18は背の高い椅子であり、玉座であることを象徴する。しかし構造は非常に華奢で、多分成人の体重には耐えきれないと思う。その結果椅子そのものが、王となる。
図17 針金のソファ (M) 図18 華奢な玉座 (M)
図19、図20は人の手を模した椅子である。もしここに座るとするならば、主人である椅子に人は身を委ねることになる。
図19 木製のベンチ 図20 アクリル?の椅子
以上のように、椅子はしばらく前までは、座る人を権威付け、人の座り心地を良くし、リラックスさせるものとして、人に奉仕するものだった。しかし近年それを逸脱し、「椅子のようなもの」として、人を座らせない屋内のモニュメントとして扱うべきものが現れた。
これは、むしろ現代美術が、人にとって抵抗感の小さな椅子の姿を借りて、屋内に現れたものと考える。それとともに、人と密着することが多く、多くの人々にとって認識が共通している椅子は、作者の意図を見る人に伝達しやすい媒体として都合がよかったからだろう。
こういった「座られることから解放された椅子」といった美術的扱いとともに、座ることがもっと快楽につながるといった方向があってもいい。もしかすると日本の電動マッサージ椅子をもっと洗練させると、人々に大きな感動を与える美術品になるのかもしれない。
(M)記載は、モントリオール美術館公式HPからの引用