最初は10年前に毎日通勤していた頃の話
その日の朝、バス停には5分前についた。
一人待っている。夢中になるかもしれないけど、その人と動けば一緒にうごけばいいから大丈夫と、勝手に安心して本を取り出し読み始めた。(以前一人で待っていたとき、バスが止まったのに気がつかず乗らなかったことがあった。)
とってもおもしろい箇所、やっぱり夢中になった。ふと気がつくと、予定の時間を10分も過ぎている。
このバス停には、隣のバス停で折り返し始発のバスと、遠くの団地始発のバスが来る。来るはずのバスは前者で、これは通常は時刻どおりぴったり。
「あれぇ。」 今日は朝に厳しい仕事の予定があったので、やや素っ頓狂の声をだしてしまった。
先に待っていた人が、困ったような顔で笑いながら振り向いた。
「おかしいですよね、実は折り返すはずのバスが、まだ次のバス停へと通り過ぎて行ってないんですよ。」
そのまま数分待っていると、結局1本飛ばしで、遠くの団地発のバスがこれは時間どおりに来た。
このバスにはこれまでも乗るたびいつも、知的障害の青年が後ろの方の決まった席に座っていた。その日もやっぱりそうだった。
彼は乗っている間中、小さいという範疇をやや越える大きさで、独り言を言ったり歌ったりしている。そして終点の電車の駅の少し手前のバス停で、運転手にちゃんと挨拶して降りて行く。
私は出来るだけ良い条件で本の続きを読まなくてはと、彼から遠く離れた前の席に座った。
暫く進むと、アナウンスがあった。
「○○にて接触事故があり通行止めになりましたので、□□通りを迂回路として△△駅に参ります。
通り一本ずれてしまいますので、申し訳ありませんが途中で降りられる方は、少し歩いてください。」
あっ 彼はだいじょうぶかなっておもった。しかしいつもどおりの独り言が、後ろの方から続いていたので、全然気が付いていないなとおもった。
しかし多分、運転手たちは彼を特に認識しているだろうから、なんとかするのではと期待することにした。
はたして、本来のコースから外れた時、後ろの方から大きな声がした。
「運転手さん、間違い。ホッ、おかしい。」
その後も、戻ろうとか止めろとか、言葉が続き、周りの人がなだめている。
次の停留所に来た時、いつもよりも込んで立っている人をかきわけて、優しそうな若者が、運転手のところにやってきた。
「私の後ろの人が◇の停留所で降りたいと言っているのだけれども。」
運転手は言った。
「彼が、そこで降りたいのは知っています。一番近い▽の停留所で下りて、歩いてもらおうと思っているのですが。」
その人は、また人をかきわけ戻っていった。
すぐ、彼の大きな声が聞こえた。
「無理、▽の停留所なんて知らない。フッ おかしい。ハッ。」
彼はたぶん、いつもの停留所しかおりたことがないのだろう。
改めて、先ほどの人が疲れた顔で前へやってきた。
運転手は、その人がしゃべる前にすぐ話し出した。
「わかりました。終点の駅まで行ってもらいます。そこで対応をとります。」
彼がまた人をかき分けて戻ってゆき、そして後ろの席の騒ぎはやや収まった。
終点につくと、運転手は降りて行く人の定期のチェックをほったらかして、窓越しに関係者を読んで話し始めた。
「ともかく、◇まで連れて行ってやらないといかんだろう・・、誰かいないか?」
「今 通行止めや渋滞で、人の出入りが混乱しているんだ・・・」
論議は続いてゆく。
後ろを振り向くと、彼はすごく緊張して窓の外を時々見ながらじっとしている。きっと彼にとって初めての場所なのだろう。
いい解決がなされることを願った。
電車に乗り換えてから、初の海外出張の時を思い出した(以前思い出として記載)。
あの時は、ヨーロッパを数か所移動。ロンドンに降りるはずが、濃霧でパリへ行ってしまった始まりから、運航キャンセル、途中一緒になった人の荷物の不着、間違ったバスの紹介・・・ いろんなことがあり、非常に心細い思いをした。
おかげで、その後のクソ度胸がついたのだが・・・
彼にとっては、バスが違うコースを走るだけで、そんな感じだったのだろう。
そして、現在の日本を思った。
日本国民全部を乗せたバスが、少し前からやや動きが怪しくなったが、このコロナ禍で未知のコースを走らざるをえないようになった。それでもいつかは今までの道に戻れるはずと、運転手は悪戦苦闘している。
外れても、今回のバスのように、いつか好景気というターミナルに着く道筋があるはずと思っているかのようだ。
もしそうであれば、乗客は到着するや否やいままでのように活動を始めることができる。
しかし、私は今のままでは、この不景気の後には全然風景の違うところに連れていかれるのだろうと思っている。既に世界の産業構造は変わりつつあり、Go to 何とかなんて冗談になるだろう。
まともな運転手ならまだしも、科学技術を理解しようとしない人達が運転しているから・・・
見知らぬ場所についた時に、皆はちゃんと動きだすことができるだろうか。それより このままバスに乗っていていいのだろうか。
(なくなったSNSに書いた記事を、改訂して掲載)
<その日?の帰りの電車からに風景>
その日の朝、バス停には5分前についた。
一人待っている。夢中になるかもしれないけど、その人と動けば一緒にうごけばいいから大丈夫と、勝手に安心して本を取り出し読み始めた。(以前一人で待っていたとき、バスが止まったのに気がつかず乗らなかったことがあった。)
とってもおもしろい箇所、やっぱり夢中になった。ふと気がつくと、予定の時間を10分も過ぎている。
このバス停には、隣のバス停で折り返し始発のバスと、遠くの団地始発のバスが来る。来るはずのバスは前者で、これは通常は時刻どおりぴったり。
「あれぇ。」 今日は朝に厳しい仕事の予定があったので、やや素っ頓狂の声をだしてしまった。
先に待っていた人が、困ったような顔で笑いながら振り向いた。
「おかしいですよね、実は折り返すはずのバスが、まだ次のバス停へと通り過ぎて行ってないんですよ。」
そのまま数分待っていると、結局1本飛ばしで、遠くの団地発のバスがこれは時間どおりに来た。
このバスにはこれまでも乗るたびいつも、知的障害の青年が後ろの方の決まった席に座っていた。その日もやっぱりそうだった。
彼は乗っている間中、小さいという範疇をやや越える大きさで、独り言を言ったり歌ったりしている。そして終点の電車の駅の少し手前のバス停で、運転手にちゃんと挨拶して降りて行く。
私は出来るだけ良い条件で本の続きを読まなくてはと、彼から遠く離れた前の席に座った。
暫く進むと、アナウンスがあった。
「○○にて接触事故があり通行止めになりましたので、□□通りを迂回路として△△駅に参ります。
通り一本ずれてしまいますので、申し訳ありませんが途中で降りられる方は、少し歩いてください。」
あっ 彼はだいじょうぶかなっておもった。しかしいつもどおりの独り言が、後ろの方から続いていたので、全然気が付いていないなとおもった。
しかし多分、運転手たちは彼を特に認識しているだろうから、なんとかするのではと期待することにした。
はたして、本来のコースから外れた時、後ろの方から大きな声がした。
「運転手さん、間違い。ホッ、おかしい。」
その後も、戻ろうとか止めろとか、言葉が続き、周りの人がなだめている。
次の停留所に来た時、いつもよりも込んで立っている人をかきわけて、優しそうな若者が、運転手のところにやってきた。
「私の後ろの人が◇の停留所で降りたいと言っているのだけれども。」
運転手は言った。
「彼が、そこで降りたいのは知っています。一番近い▽の停留所で下りて、歩いてもらおうと思っているのですが。」
その人は、また人をかきわけ戻っていった。
すぐ、彼の大きな声が聞こえた。
「無理、▽の停留所なんて知らない。フッ おかしい。ハッ。」
彼はたぶん、いつもの停留所しかおりたことがないのだろう。
改めて、先ほどの人が疲れた顔で前へやってきた。
運転手は、その人がしゃべる前にすぐ話し出した。
「わかりました。終点の駅まで行ってもらいます。そこで対応をとります。」
彼がまた人をかき分けて戻ってゆき、そして後ろの席の騒ぎはやや収まった。
終点につくと、運転手は降りて行く人の定期のチェックをほったらかして、窓越しに関係者を読んで話し始めた。
「ともかく、◇まで連れて行ってやらないといかんだろう・・、誰かいないか?」
「今 通行止めや渋滞で、人の出入りが混乱しているんだ・・・」
論議は続いてゆく。
後ろを振り向くと、彼はすごく緊張して窓の外を時々見ながらじっとしている。きっと彼にとって初めての場所なのだろう。
いい解決がなされることを願った。
電車に乗り換えてから、初の海外出張の時を思い出した(以前思い出として記載)。
あの時は、ヨーロッパを数か所移動。ロンドンに降りるはずが、濃霧でパリへ行ってしまった始まりから、運航キャンセル、途中一緒になった人の荷物の不着、間違ったバスの紹介・・・ いろんなことがあり、非常に心細い思いをした。
おかげで、その後のクソ度胸がついたのだが・・・
彼にとっては、バスが違うコースを走るだけで、そんな感じだったのだろう。
そして、現在の日本を思った。
日本国民全部を乗せたバスが、少し前からやや動きが怪しくなったが、このコロナ禍で未知のコースを走らざるをえないようになった。それでもいつかは今までの道に戻れるはずと、運転手は悪戦苦闘している。
外れても、今回のバスのように、いつか好景気というターミナルに着く道筋があるはずと思っているかのようだ。
もしそうであれば、乗客は到着するや否やいままでのように活動を始めることができる。
しかし、私は今のままでは、この不景気の後には全然風景の違うところに連れていかれるのだろうと思っている。既に世界の産業構造は変わりつつあり、Go to 何とかなんて冗談になるだろう。
まともな運転手ならまだしも、科学技術を理解しようとしない人達が運転しているから・・・
見知らぬ場所についた時に、皆はちゃんと動きだすことができるだろうか。それより このままバスに乗っていていいのだろうか。
(なくなったSNSに書いた記事を、改訂して掲載)
<その日?の帰りの電車からに風景>