てんちゃんのビックリ箱

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大原美術館訪問 (暫く前)

2019-04-14 09:58:55 | 美術館・博物館 等

 以前倉敷訪問の際、大原美術館以外のことしか書かなかった。その宿題がずっと残っていた。すこしずつは書いていたけれども書きたいことがいろいろあってまとまらなかったためである。

 でも年度が替わってしまったので、それなりに終わらせることにします。

 大原美術館は、結婚後神戸に住んでいたころそこからの手ごろな距離ということで、2人で初めに遠出をした場所だった。その時はクラシックとモダンが不思議に混ざった美術館だと思ったが、むしろそれを見ている配偶者の反応のほうが気になっていた。
 今回改めて訪問し、以前に比べて新館もでき、配偶者のペースも分かっているのでじっくりと堪能することができた。

 この美術館の構成は、以下の通り
(1)西洋の近代から現代美術
(2)日本の近代から現代美術
(3)オリエントおよび東洋の古代美術
(4)富本健吉や棟方志功などの季題工芸美術家の特集展示
(5)地域の芸術家の作品展示

 書くことはいろいろありすぎるが、特に印象の強いことのみを西洋の作品を中心に挙げて記載する。

1から7までが西洋の近代から現代美術、8に日本美術、9にオリエント文明のものを挙げる。


1. ロダン 「カレーの市民―ジャン・デール」
 西洋美術館で、高い台の上に集団で乗っているもののうち、鍵を持った一人のみが美術館の入口に立っている。重要なのは、入口に立った時に銅像もほとんど見る人と同様の高さにあるということである。ロダンは展示の時にその高さを要求していたので、西洋美術館の展示は彼からすると間違っている。
そして確かにほぼ同様な目の高さに立つと、死に直面した彼の気持ちを一層感じることができる。




2.セガンティーニ 「アルプスの真昼」
 子供のころ家にポスターが飾ってあり、母が好きだった。イタリアに近いスイスの牧場の夏の絵で、印象派特有の光が溢れている。私もそこに行って日差しを浴びたくなる。
母は北海道の農場で生まれたので、これで自分の故郷を思い出したのだろう。残念ながら故郷は山陰地方であり、こんな光は望めない。この絵を見ると父がなくなるまで故郷で苦労していた母を思い出す。




3.エル・グレコ 「受胎告知」
 この美術館の看板であり、美術の教こ科書に取り上げられている作品。ちょうど写生を習っている頃に教科書でこの絵が出てきた。マリアがずいぶん歪んで描かれているのでおかしいと思った。先生はドラマチックに見せるために身体をねじっているのだといったが・・・
 実際に1m×0.8mのサイズのこの絵に、近くによってみると、デフォルメがそれほど気にならず、絵が動き出し生き生きと伝わってくる。タッチの凹凸による輝きも感じとてもドラマチックである。視野の多くをこの絵が占めて初めてわかる。実際に本物を見なければわからないいい見本の絵だと思う。



4.F.ホドラー  「木を伐る人」
 木を切り倒そうと身体全体をしなわせた緊張感のある絵。 絵画で作者がどういった状況を完成とみなすのか考えたことがあった。
この絵の場合、絵をかきながらどんどん緊張していって、これ以上色や線を追加すると、絵の緊張感が崩れるので耐えられない、下手なことをすると緊張感が崩れる・・・ そうなった時、サインして筆をおくのだろう。




5.ジャコメッテイ 「ヴェニスの女 1」
 この人の作品は、美術のグラフ誌で見ていた。人をその存在よりも非常に細く製作している。これは何だろうと思った。そして最初に出会ったのは大原美術館。存在を削りに削ることで対象の存在を確認しようとしているのではないかと考えた。彼自身は自分以外の人との存在の遠さを表現したといっている。そうならばいわゆる現代人の孤独を表現していることになる。
 どちらにしてもこの彫刻にはドキドキするような緊張感があり、好きだ。



6.イブ・クライン 「青いビーナス」
 この像を見たとき、形よりもその青の鮮やかさにびっくりした。異常な輝きで、周りの彫刻がくすんで見えた。青空のような非物質を物質化したものとして特許がとられ、工業化もなされているとのこと。そしてこれは死後の彼の指示による再製作品だそうだ。
 芸術とは驚きであるということの顕著な例。そしてその驚きはファッションに適用され、工業化されるのだ。下の写真よりも本物はずっときれい。たぶん光沢によるのだろう。



7.ポロック 「カットアウト」
 子供の頃、美術グラフ誌で天井からひもをたらし、ぶら下がって絵の具を垂らしている」写真を見た。アクションペインティングというポロックが実施している手法だった。これは絵を描いているのと思ったがこの美術館で始めて見た。そして絵具を垂らしたカンバスに人模様をカットし他のカンバスと重ねたものは、確かに面白いと思った。特にカットアウトが面白く、踊りだしそうな楽しさがある。



8.関根正二 「信仰の悲しみ」
 この絵を見たとき、行進する女性集団の強い悲しみが伝わってきた、あまり知らない人だったので確認すると、20歳で夭折した大正の天才画家。幻想画家の範疇に入るとのこと。この絵は評価され、重要文化財になっているとのこと。彼はこの絵が描かれた一年後に亡くなったのだが、このような残バラ髪の悲しみに沈んだ数人の女性の行進を時々幻視していたとのこと。
 心の中の原野に、とてもリアルに見える女性たちが紛れ込んで流離っているようだ。




9.藍地色絵金彩宝珠文細口瓶
 14世紀のペルシャの器。絵具や陶器の青というのが非常に贅沢ということを中学校くらいに知った。その後青色はちょっと注目していたが、ペルシャの青は最もきらびやかで素敵と思っていた。
 この瓶は、その青と金を組み合わせて、一層華やかに魅せている。




 大原美術館は第2次世界大戦の前に欧州の著名な美術品を集め、それほど美術への理解のない時代に美術館として開館した。そして戦争中はロダンの銅像などの軍需物質への供出要求や空襲の脅威を生き抜き、そして戦後産業の大幅な変換に伴う財政難を乗り越え、実に現代美術の大規模な蒐集をしている。 
一般にここは西欧の近代美術のコレクションが有名だが、現代美術については日本ではもっとも充実していると思う。もう20年もしたらそれがクラシックなものになり、そちらの面で世界で名をはせるのではないか。

 大原美術館は下記の使命を宣言している。非常に意識の高い宣言であるとともに、これに恥じない活動を行っていると思う。

1.アートとアーティストに対する使命
 先人の偉業を保全・検証し、新しい創造活動への挑戦を支援・推進します。
2. あらゆる「鑑賞者」に対する使命
 人生がより豊かで真実味あるものとなるように、美術や文化に接する自由で良質の場を提供します。
3.子どもたちに対する使命
明日を担う子どもたちが幼児から美術や文化にかかわることが出来るように、さまざまな体験の場を提供します。
4.地域に対する使命
 誇りと愛着を持って倉敷に生き、質の良い日本と世界の出会いの場として地域とともに生き続けます。
5.日本と世界に対する使命
世界の人々の相互理解と融和を進め、日本文化の心根を広く世に伝えるために、「多文化理解の装置」としての美術館を磨き高めます。




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