てんちゃんのビックリ箱

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モネ それからの100年 展 感想

2018-05-14 03:10:32 | 美術館・博物館 等
展覧会名:名古屋市美術館開館30周年記念 モネ それからの100年
  (英語名 Monet`s Legacy  :こっちをカタカナで書いたものを展覧会名にしたほうがよかったかも )
惹句:ロスコ、リキテンスタイン、ウォーホル・・・ すべてはモネからはじまった
   つまり、モネは印象派ではなくあらゆる現代美術の生みの親ではないのか
場所:名古屋市美術館
期間:2018.04.25~2018.07.01 その後 横浜美術館へ
訪問日:2018.05.11


 久しぶりに配偶者とウィークデー共通の休みをとり、半日の自由時間があったので表記の展覧会を観にいった。
 印象派として大物のモネの偉大さと、その先進性からの現代作家への影響を示そうとする、なかなかに大胆な展覧会だった。作品はモネが1/4、現代作家が3/4。

 少し前に北斎とジャポニズム展で似たような取組があった。それは評価が確立している北斎の作品と、これまた評価が確立している著名の画家(モネも含まれる)の作品の相似を示していくものだった。
 今回の場合、現代美術の大家でも知名度は限られる。まして若い人はまだ評価が不安定という人たちと比較することになる。

 行った日はやはりウィークデイのためか高齢の人が多かった。そしてモネの作品は人が停滞するが、現代作家のところはあっさりと通ってしまう人が多かった。
 私が見る限り説明不足。展示側の自己満足。観客の10人中1人に強いメッセージを伝えることができれば良いと考えているのならば現在の展示でもいいが、入場料を払った人にある程度はメッセージが残るようにしたいと考えるのならば、説明の工夫が必要である。

 モネについての私の理解は、下記である。
①チューブ入り絵具が開発されたことをきっかけに、ほぼ初めて屋外で写生を開始した。
②絵具そのものの輝きを大事にするために、パレットで色を混ぜるのではなくチューブからの絵具そのものをキャンバスに塗り横に混ぜるべき色を並べていくことで、離れてみた場合に混合色に見えるようにした。それに伴う表面の凹凸質感も効果的に扱った。「筆触分割」
 (これは印象派のやり方だが、モネが先陣を切った。)
③屋外の写生の過程で光など自然の移ろいを感じ、それを捉えようと同じ対象の連作を行ったとともに、描く対象そのものからそれに影響を与える、光や空気、水の揺らぎなど形のないものを捉えようとした。
④ほとんど眼が見えない状況でも絵を描こうとした。
⑤最晩年に大きな部屋をぐるりと取り囲む、睡蓮の装飾画としての連作を描いた。(オランジュリー美術館)
⑥上記の過程で、大きく表現方法が変化した。

 上記の①~⑤はそれぞれ従来からの変革を始めることを意味し、新しいことをしていると思う人たちにとっては、先駆者の見本である。特に現代美術作家の先頭を走っている人たちにとっては、やりたいことをやって名声も得ているモネは、見本でもあり共振するのだろう。
  展示会の構成は、下記である。
1.新しい絵画へ  ー立ち上がる色彩と筆触
2.形なきものへの眼差し ー光、大気、水
3.モネへのオマージュ  -さまざまな引用のかたち
4.フレームを越えて   -拡張するイメージと空間 

 私の②が1、③が2に対応する。そして⑤のオランジュリー美術館から4のイメージが広がる。

1.新しい絵画へ
 この章は、対象を描くための色彩やタッチが、対象を離れてそれ自体の魅力を表現する方向へと現代美術は向かっていると主張しようとしている。その最初の例示として、モネの「ヴィレの風景」に対し、丸山真文作「puddle in the wood]。 
 これはどうかなって思った。モネのほうはもっと印象派として名乗りを挙げた初期の作品を出すべきである。そしてモネ自身として抽象的に振れたものとして、このモネの作品も出して3点を並べれば、まだ意図がわかる。この絵では並列筆触の原点がわからない。
 でもこのモネの絵は、印象派の塗り方を離れた離散的なタッチ、塗り残しの活かし方などとても面白いと思った。また丸山さんの絵、色と形のリズム感が楽しい。

  


 この章では、モネのほうは印象派に至る過程の作品が並べられて、とても興味があった。この章における現代美術のほうは、飛んだり跳ねたり。大きくってその時のメッセージはあるけれども、他と並んでしまうと・・・・?  ロスコは自分の作品だけ並べてほしいといったのもわかる気がする。


2.形なきものへの眼差し
 この章は、モネで最も有名な積み藁の連作の中から夕陽の中の一点、そしてテムズ川に関わる連作が含まれる。前者は光の移ろい、後者は空気の揺らぎを描こうとしたものである。そのものずばりの印象派の絵で、それほど大きくなくてもメッセージ力は非常に強い。心の中の時間の流れ、気持ちの揺らぎがここに描かれている感じがする。他の作品と混ざってもメッセージ力は弱まらない。

  


 それに対し現代美術群、惹句でトップネームのロスコさんもここにある。
「赤の中の黒」 2色 やはりこれも空気の色なのだろう。周りと切り離してみれば、赤や黒の中の微妙な色合いの変化や輝きの変化を感じ、ずしりとくる。でもここは百家争鳴の中。
 モーリス・ルイスのワインという大きな作品が、モネの積み藁の色合いと似ているとされているが、モネのニュアンスはない。

  


むしろ小さなスティーグリッツの写真群に魅力を感じた。そしてリヒターの「アブストラクトペインティング」 これは睡蓮の池のイメージのすぐ隣。


 ここで最もほっとしたのが、水野勝規の映像。池を定点で撮影し輝きの変化を写し撮っているが、モネの連作って今はこうすればいいんだとわかる。

3.モネへのオマージュ
 いろいろな人がモネへのオマージュを捧げている。そこで特に重要になるのがオランジュリー美術館のモネの部屋である。モネの睡蓮装飾画が周りにぐるりと展示されている。現代美術の大家たちは、それにインスピレーションを掻き立てられている。とすればその部屋の写真くらいは、説明に使うべきと思う。
 惹句に挙げられたリキテンスタイン、ウォーホルもここに展示されている。
 リキテンスタインの積み藁。これの色違いを油絵で描いて並べてゆく。


 ウォーホルの花。(これは展示品とは色違いのものを、持ってきました。)  このパターンを展示室にずらっと並べたとのこと。今回は壁の少ししか展示されないが、これを部屋中に貼り付けて、自分が作るイメージの中だけで、作品を見せたいという欲望を持っている。

 
 このオマージュの中では、堂本尚郎さんの「連鎖反応―クロード・モネに捧げる」が気に入った。とまった池の水ではなく流れ。ゆらゆらとした水面に映る花や緑の木々。2方向からの波のパターンが面白い。深緑がきれい。



4.フレームを越えて
 モネの連作、そしてオランジュリー美術館の部屋を支配する展示等から、キャンバスの枠を越えた拡張性を対象とした展示がなされている。また同時にモネの高齢期の展示もされている。
 後者については、「柳」が横山大観のなんかの柳の描き方に似ていて興味を持った。緑の中に混じる茶色がいい。そして水面の輝きが遠くへ行くほどキラキラとして、柳が揺れる中のどっかで空に代わってしまう。
 また、「睡蓮 水草の繁栄」。私はこの絵葉書を買ったが、手前側の睡蓮の花たちと左上側からの触手を伸ばす異世界の存在のような水草のせめぎあいが面白い。

  


 前者の大物としてはサム・フランシスの「Simplicity SEP80-68」 白地にカラフルな色斑が踊り、その間を水虫がやはりカラフルな履歴を残して泳ぎ回っている。


 
 ここは単純なカンバスだけでなく、2重構造の壁や写真の特別なプリント技術、そして映像など、いろんな現代美術が入ってくる。最後に美しいプリント技術の作品。鈴木理策作の「水鏡」。



 モネの作品は最初欧州で売れなかったが、アメリカではわりと早い段階から売れていたとのこと。そして今回の惹句の作家に見られるように、アメリカの現代美術作家への影響、もしくは彼等からの信奉が強い。
 結局今回の美術展については、日本の作家はさておき、米国の現代美術家の作品をどう受け入れるかだと思った。
 
 今回あらためて感じたが、かつて印象派の絵は新しく出現した時、従来の絵とも、また印象派の中の人たちの絵とも協調性はなかった。それぞれの画家が個々に自分はここにありと叫ぶだけだった。最近は見る人にとって、印象派も従来の絵と協調してそれぞれの主張を認うめ合うまでに、見る人側は許容度が広がった。それは欧州が多民族ながらも協調しようとする意識があったからだと思う。日本も協調型なので受け入れるのが容易だった。

 しかしアメリカを中心とする現代美術は、自立意識の強い非協調型の集団に評価が高い。これは、集団とはいっても、中で局所的な人々に圧倒的に受けているのが、それが目立っているので全体でとなっているのだろう。そして作者側は当たりの人に対しては、意思伝達の徹底化を図るために、巨大な作品としたり部屋ごとすべて自分の作品にして、自分の世界に取り込みたいと思っているのだろう。今回のようないろんな人の並んだ百家争鳴状態では、個々の作品の魅力は大幅に低下するのではないか。
 今回は、日本の現代美術作家の作品が案外いいように思ったが、日本は民族的に、作品を並べても協調の要素が入っているからかもしれない。 

 いずれにせよ、現代美術の見方、そしてその手法の発展については今後とも考えていきたい。
 
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