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恋歌

2018年05月03日 | 
『恋歌』朝井まかて著 講談社文庫
樋口一葉の師、中島歌子は知られざる過去をかかえていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗党の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く。 本書より抜粋



中島歌子は明治期に一世を風靡した歌人だ。<萩の舎>を開き門下には一葉をはじめ上流階級の令嬢、令夫人を多く抱えていた。私生活では恋愛問題をはじめとするスキャンダルの多い人物でもあったようだ。この恋物語のなかには安政の大獄がある。夫の生死もわからぬままに投獄されてからの牢屋敷の描写、糞尿と血のにおいの充満する地獄のような日々。維新後江戸へ戻ってから中島歌子と改名して和歌の修行に励む。

文中の和歌をあげておこう。
 
 さく梅は風にはかなく散るとても にほひは君が袖にうつして

 山吹の実はなきものと思へども つぼみのままに散るぞかなしき

 ひきつれて帰らぬ道をゆく身にも やまとごころの道は迷はじ   

 うれしさをひとり聞くこそ悲しけれ 憂きをば共に嘆きしものを

 国のため君のためとぞ思わずば いかにしのばむ今日のわかれ路

 君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ

戦の中で男が志なかばで死んだあと、女たちはどのようにして生き抜いたのか。

彼女の遺言を門下生が読むという構成、時代の流れに少々とまどったが、読みごたえは充分重い作品のひとつになった。
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