(写真)大株となったフェンネル
梅雨の時期は、フェンネルが最も美しい時期だ。
1メートルを超えるスリムな姿。
網の目のような柔らかな葉が光をかく乱し、
茎の頭上には明るいイエローの花が星のように散らばる。
雨を受けると雨粒が霧の水滴のようにやわらかな葉を滑り落ち、きらりと輝く。
こんなすばらしい植物が、794年からはじまる平安時代には日本に伝来していたようだ。
(写真)星のようなキラメキのフェンネルの花
フェンネル(fennel)
・セリ科ウイキョウ属の耐寒性がある多年草。
・学名は、Foeniculum vulgare.var dulce。英名がFennel(フェンネル)、Sweet Fennel、和名は、ウィキョウ(茴香)中国名ホイシャン。
・原産地は、地中海沿岸地方(ヨーロッパ南部からアジア西部)
・古代ギリシャ・ローマでも栽培されていたという由緒あるハーブで、中世には、魔術の草として知られた。
・草丈は、1~2mと高いので株間を取る。
・花は、黄色の小花が梅雨時から8月頃まで咲く。
・果実は、10㎜以下の長楕円形をして、1本の花柄に2個が対になってつき、秋には茶褐色に熟す。
・甘い香りと苦味が特徴で消化促進・消臭・肥満防止に効果があり、香辛料・ハーブとして利用。
・移植を嫌うので、植え替えはしない方がよい。
・4世紀ごろ中国に伝わり、魚肉の香りが回復するのでウイキョウ(茴香)と名づけられる。
・日本には平安時代に中国から渡来。「延喜式」に“呉母(くれのおも)”と記載されたものがフェンネルだといわれる。
・葉は魚料理に、ホイルの包み焼きなどでフェンネルの葉を使うとなま臭さが消え、おいしさがます。
・さらに望ましいのは、アルコールの毒性を低下させる成分が含まれているというからうれしい。
(写真)フェンネルの花
フェンネルと日本のハーブの歴史
チョッと日本のハーブの歴史が気になったので調べてみると・・・・
フェンネルは歴史上で最も古いハーブの一つ。
原産地は、ヨーロッパ南部からアジア西部の地中海沿岸地域で、
全ての部分が利用できる比較的丈夫なハーブだ。
エジプトの古都テーベの墓地に埋葬されていたミイラとともに1冊の本が出土した。
エジプトでの薬草での最古の本“エーベルス・パピルス”で、
紀元前1552年頃に著作されたと考えられており、
ここには、アニス、クミン、ウィキョウ(フェンネル)、コエンドロ(コリアンダー)、カルム(キャラウエイ)
などが薬草として記載されていた。
フェンネルは、健胃、去痰の薬として使われていたが、
邪気を取り払う力があると信じられており呪術に、
また防腐効果があるので保存料としても使われていた。
玄関ドアに飾る飾りもの(リース)にフェンネルを巻き込むというが、
この魔よけの呪術での使われ方の名残でもあり、
『聖ヨハネ』の前夜祭に当たる6月23日に飾るという。
では、日本でのハーブのはじまりはいつ頃だろうか?
ここでのハーブとは、①薬草として ②宗教的な使われ方 ③香辛料として ④食材として
等を意味している。
日本のハーブの歴史
3世紀頃に書かれた『魏志倭人伝』 (著者は西晋の陳寿)に
邪馬台国を中心とした倭の国(日本)のことが書かれており、弥生時代後期後半の日本を知ることが出来る。
そこには、サンショウ、ショウガ、ミョウガは食品・香辛料としても使われていない。
ということが記載されており、
今では日本の代表的なハーブであるが
邪馬台国があったという2~3世紀でもこれらすら使われていなかったことがわかる。
(訳文:その山には丹あり。その木にはダン杼・豫樟・ホウ・櫪・投・僵・烏号・楓香あり。その竹には篠・カン・桃支。薑・橘・椒・ジョウ荷あるも、以て滋味となすを知らず。)
712年(和銅5年) 太朝臣安萬侶(おほのあそみやすまろ)によって書かれた『古事記』には、
ハジカミ(山椒)、ヒル(ニンニク)、蒲黄(ほおう、ガマの穂)などの和製ハーブが登場。
仏教伝来とともに中国の医学が伝わり、ハーブ類も薬草として利用される ようになり、
イナバの白ウサギを治療した蒲黄(=ガマの穂)は、文献に残る日本初の薬草ということになる。
ショウガもハジカミといわれるようになるが、もともとはサンショウのことをさす。
平安時代中期の905年(延喜5年)に醍醐天皇の命により編纂がはじまり、
967年より施行された法律『延喜式(えんぎしき)』 、及び
同じ時代に醍醐天皇に侍医として仕えた深根輔仁(ふかねすけひと)が編纂した
日本最古の薬物辞典『本草和名(ほんぞうわみょう)』には
ワサビ、カラシ、メカ(ミョウガ)、ハジカミ(山椒)、クレハノハジマミ(ショウガ)
コミラ(ニラ)、オオヒル(ニンニク)、イヌエ(シソ)などの名前が載っている。
さらに注目したいのは、
コニシ(コエンドロ=コリアンダー)、クレイオモ(ウイキョウ=フェンネル)、スエツムハナ(紅花=サフラワー)
といった地中海沿岸のハーブがはじめて登場する。
ということは、
10世紀にはフェンネルなどのハーブが中国或いは百済経由で日本に伝来し、
薬草として使用されるようになった。
フェンネルは、いまでは“魚のハーブ”“魔よけのハーブ”として知られているが、
魚、季節のきのこ、そしてフェンネルをいれたホイルの包み焼きは、
塩・コショウだけでも十分おいしく仕上がるのでこれはお奨めです。