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肉食の系譜
アルバートサウルス2
ティラノサウルス科のうち、アルバートサウルス亜科にはアルバートサウルスとゴルゴサウルスが含まれる。アルバートサウルス亜科はティラノサウルス亜科に比べ、頭骨の丈が低く、吻が長く、後肢の脛骨や中足骨が長く、全体にほっそりした体型をしている。またアルバートサウルスとゴルゴサウルスでは、眼の前方の涙骨の背方部が先の尖った角状の突起(Lachrymal horn)となる。このLachrymal hornの形状は、成長に伴って変化する。幼体のうちは目立たず、亜成体では顕著に尖った角となり、さらに成長した大型の個体では幅が広く、より目立たなくなるようである。ティラノサウルス亜科のティラノサウルスやタルボサウルスでは、角状ではなく、涙骨の背方部全体が拡張してなめらかな稜状の隆起となる。ティラノサウルス亜科でもダスプレトサウルスは中間的で、幼体では低い角状だが、成体では膨らんだ稜状になるという。
アルバートサウルス亜科とティラノサウルス亜科を識別する特徴のうち、アマチュアでもわかりやすいものは、第二前眼窩窓(maxillary fenestra)の位置であろう。ティラノサウルス科の頭骨では、前眼窩窓はおおよそ前方がとがった三角形をしているが、頭骨の表面からみてくぼんでいる部分(antorbital fossa)の輪郭と、内部まで貫通している穴(antorbital fenestra)の輪郭は一致しない。この外側の輪郭(antorbital fossa)と内側の輪郭(antorbital fenestra)にはさまれた斜面の部分に、小さな円形の第二前眼窩窓(maxillary fenestra)があいている。アルバートサウルス亜科でもティラノサウルス亜科でも幼体のうちは、第二前眼窩窓が外側の輪郭と内側の輪郭の中間にある(つまりどちらの輪郭からも離れている)。アルバートサウルス亜科では成体になっても、そのまま第二前眼窩窓が中間に位置しているが、ティラノサウルス亜科では成体になると、第二前眼窩窓が外側の輪郭に接するようになる。(厳密にいうとmaxillary fenestraの前縁が、antorbital fossaの前縁と接している。)またそれと関連してティラノサウルス亜科の方が第二前眼窩窓の直径がより大きい。これらのことは文章で書くとややこしいが実物を見れば簡単にわかる。
それではアルバートサウルス亜科の中でアルバートサウルスとゴルゴサウルスはどこがどう違うのだろうか。両者は非常によく似ており、同じような体型で、ゴルゴサウルスの方がひとまわり小さいという。あまりに似ているため、両者は同属とみなされたり、また分けられたりした歴史をもつ。アルバータ州ドラムヘラー近郊で1884年にジョセフ・ティレルが、また1889年にトーマス・ウェストンがそれぞれ発見した頭骨は、最初ラエラプスあるいはドリプトサウルスと呼ばれたが、結局1905年にオズボーンによってアルバートサウルス・サルコファグスAlbertosaurus sarcophagus と命名された。その後1914年にランベがゴルゴサウルス・リブラトゥスGorgosaurus libratusを報告し、1917年に詳細な記載をした。ところが1970年にラッセルは、アルバートサウルスとゴルゴサウルスは同属とし、別にダスプレトサウルス・トロススを記載した。ポール(1988)やモルナーら(1990)もアルバートサウルスとゴルゴサウルスは同属とした。オルシェフスキー(1995)は別属としている。1980年代、1990年代にもアルバータ州では多くのティラノサウルス科の標本が発見され、また分岐分析の手法も取り入れて研究した結果、2003年にフィリップ・カリーはやはりアルバートサウルスとゴルゴサウルスは別属としている。
カリーによるとアルバートサウルスはゴルゴサウルスよりも少し体が大きく、がっしりした体格であるという。アルバートサウルスでは上顎の口蓋部分に、下顎の歯の先端を収める孔がより多く、より深くあいている。ゴルゴサウルスに比べてアルバートサウルスの方が、後頭顆がより腹側を向いている。脳函の形を箱型とした場合に、アルバートサウルスでは前後の長さよりも左右の幅の方が大きいが、ゴルゴサウルスでは逆であるらしい。(しかしこれでは、アルバートサウルスとゴルゴサウルスを明確に描き分けるのは困難である。)アルバートサウルスとゴルゴサウルスは一定の形態学的特徴で区別できるが、これを属レベルの差異とみるか、種レベルの差異とみるかには任意性が残ることをカリーも認めている。
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