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2013信州新町化石博物館



 絶好の行楽日和に恵まれて、何よりだった。バスの便数は想像以上に少なかった。
 美術館側から入っていくと、恐竜模型コーナーがあり、フェバリットコレクションの過去の一連の製品が展示されている。一応解説もある。その中に、「ゴルゴサウルスの頭部」模型が一緒に展示されていたのは、どなたの作品でしょうか。




 地元の化石として、世界最古のセミクジラ属シンシュウセミクジラがある。次に鮮新世のセイウチ、オントケトゥスの頭骨がある。これはわかりやすい。現生のセイウチよりも牙が短く、より強く曲がっている。また現生のセイウチには門歯がないが、オントケトゥスには門歯がある。後頭部が盛り上がっているなど、一見サーベルタイガー風にも見える。なかなかすばらしい。
 鰭脚類としては、他にもオットセイに近い原始的なアシカ科の下顎骨や、シナノアロデスムスなどが見つかっているようである。
 天井には北海道のエラスモサウルス類の全身骨格が泳いでいる。奥の方には三葉虫、アンモナイト、魚類、植物化石や魚類の耳石、微化石などの関係者向きの標本もある。フィルターフィーディングの例としてヒゲクジラのヒゲとともに、プテロダウストロの顎が並べてある。フォッシル・ラボのコーナーが調整中だったのは残念だった。

 荒木さんの模型とともに、アロサウルス対カンプトサウルスの光景。






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リンヘラプトル




大きい画像(記号付き)

リンヘラプトルは、白亜紀後期カンパニア期 (Wulansuhai Formation) に中国内モンゴルのバヤン・マンダフBayan Mandahuに生息したドロマエオサウルス類で、2010年に記載された。非常に保存の良い、完全に近い全身骨格が関節状態で見つかっている。ドロマエオサウルス科の中ではツァーガンと最も近縁で、この2種が姉妹群をなすと考えられている。

他のドロマエオサウルス類と区別できるリンヘラプトルの固有形質は、上顎骨のmaxillary fenestraが外鼻孔とほぼ同じ大きさにまで拡大していること、頬骨の外側面にいくつかの大きな孔があることである。
 またリンヘラプトルは、ツァーガン以外の他のドロマエオサウルス類とは以下の特徴で区別される。maxillary fenestra (mf)が大きく前方に位置している、涙骨(l)に側方フランジlateral flangeがなく、また比較的幅広い内側板medial laminaがある、方形頬骨(qj)の前方突起と上方突起の間の角度が狭い、頬骨(j)と鱗状骨(sq)が接して下側頭窓(itf)から後眼窩骨(po)を排除している、である。
 リンヘラプトルはツァーガンとは、前眼窩窓の一部を遮る骨性の内壁がない、前眼窩窩の腹側縁にくっきりした縁がある、後眼窩骨の前頭骨突起と頬骨突起の間の角度が小さい、などの特徴で異なっている。

リンヘラプトルの模式標本は、脊椎骨の神経椎体縫合が完全に閉じていることや脛足根骨の癒合から成体と考えられ、全長1.8 mと推定されたが、これは他のアジア産ドロマエオサウルス類とほぼ同様の大きさである。リンヘラプトルの頭骨はツァーガンよりも丈が低い(細長い)。しかしヴェロキラプトルのいくつかの標本にみられるように、頭骨のプロポーションは保存状態によってかなりの変異があるので、注意が必要であるという。

ドロマエオサウルス科の中でもリンヘラプトルとツァーガンの共有派生形質と思われる特徴は、大きなmaxillary fenestraが前方にあり、前眼窩窩の前縁に達していることである。ヴェロキラプトルを含めて他のドロマエオサウルス類では、maxillary fenestraは前眼窩窩の前縁よりもかなり後方にある。ただし、ツァーガンのmaxillary fenestraは比較的丸いのに対して、リンヘラプトルのmaxillary fenestraはより細長くスリット状である。ツァーガンとは異なり、小さなpromaxillary fenestraが側面から見えていてmaxillary fenestraの腹側に位置している。2種のヴェロキラプトルでは、promaxillary fenestraはより大きくもっと背側に位置している。ヴェロキラプトルともツァーガンとも異なり、リンヘラプトルでは前眼窩窩の腹側縁が鋭い縁を形成している。多くの獣脚類と同様にリンヘラプトルの前眼窩窓は全面的に空いている。ヴェロキラプトルとツァーガンでは、前眼窩窓の前方部分に小さな骨性の内壁がある。
 T字形の涙骨はツァーガンと同様に、下方突起を覆う側方フランジlateral flangeがなく、また比較的幅広い内側板medial laminaをもつ。がっしりした頬骨の側面に、数個の比較的大きな孔がある。ツァーガンとのみ共有する特徴として、頬骨の後眼窩骨突起が鱗状骨と接して、下側頭窓から後眼窩骨を排除している。リンヘラプトルでは、後眼窩骨の前頭骨突起と頬骨突起の間の角度は90度よりやや大きいくらいであるが、ツァーガンでは約135である。ツァーガンと同様に、方形頬骨の前方突起と上方突起の間の角度は90度より小さい。方形頬骨は方形骨孔quadrate foramenの前方及び側方の縁をなすが、この方形骨孔が非常に大きく発達する点ではリンヘラプトルはヴェロキラプトルと似ている。


ところが、最近になって雲行きが怪しくなってきた。2012年にアメリカ自然史博物館から、ドロマエオサウルス類の系統分類についての包括的な総説(Turner et al. 2012)が出版されたが、この中でリンヘラプトルは有効な種として認められていないのである。
 Turner et al. (2012) によると、リンヘラプトルはツァーガンの異名に過ぎないという。

前述のようにリンヘラプトルの記載論文(Xu et al. 2010)では、リンヘラプトルとツァーガンが共有する4つの形質を挙げており、ツァーガンとは異なる形質(11個)がリンヘラプトルの特徴となっている。Turner et al. (2012) は、これらの特徴を一つ一つ検討した上で、別の種類とするほどの違いは認められない、と結論している。

Xu et al. (2010) は、ツァーガンでは前眼窩窓の前方部分に骨の内壁があるがリンヘラプトルにはないとしている。しかしリンヘラプトルの頭骨は、この骨の内壁があるかないかを論じるほど十分には剖出されておらず、CTスキャンもされていない。よって結論できないという。
 Xu et al. (2010) は、ツァーガンよりもリンヘラプトルの方が前眼窩窩の腹側縁が鋭い縁をなしてくっきりしていると述べている。しかしTurner et al. (2012)が実際に両方の標本を観察した結果、前眼窩窩の腹側縁の形状にはほとんど違いはなかった。
 Xu et al. (2010) によると、後眼窩骨の前頭骨突起と頬骨突起の間の角度がリンヘラプトルでは約90度で、ツァーガン(約135度)よりも小さいという。しかしTurner et al. (2012)が測定した結果、リンヘラプトルでは95度で、ツァーガンでは100度であった。これは実は前頭骨突起と頬骨突起の間の角度というよりも、後眼窩骨の前縁の凹み方の問題である。またこの程度の違いは、ヴェロキラプトルの個体間にみられる変異の範囲内である。よってこの特徴は分類基準には不適当であるという。
 またリンヘラプトルとツァーガンで鱗状骨の方形頬骨突起quadratojugal process of the squamosal や方形骨の側方フランジlateral flange of the quadrateの大きさが異なるとされたことについても、頭骨を同じ大きさに合わせて標準化してみるとリンヘラプトルとツァーガンの間で差はないという。
 ツァーガンでは方形骨がより後方に傾いている、リンヘラプトルの方が耳後頭突起paroccipital processesがより側方を向いているといった違いについては、これらはツァーガンの模式標本の方が縦につぶれているという保存状態によるアーティファクトであり、実際の形質ではないと指摘している。
 Xu et al. (2010) によると、リンヘラプトルでは軸椎に含気孔があるが、ツァーガンにはない。しかしドロマエオサウルス類の脊椎骨の含気性には変異があり、ヴェロキラプトルでは標本によって軸椎や胴椎に含気孔があるものとないものがある。よって新しい種類とする根拠にはならない。

以上のような考察からTurner et al. (2012)は、リンヘラプトルは有効な分類名ではなく、ツァーガンと同じ種であると結論している。
 それにしても、アメリカ自然史博物館のNorell博士は最初のリンヘラプトルの論文(Xu et al. 2010)にも共著で名前が入っているのであるが(このときはツァーガンの標本を貸しただけなのかもしれないが)、2年で見解が変わったということになる。Turner et al. (2012) では31種のドロマエオサウルス類を再検討した結果、26種が有効と認められた。ミクロラプトル・グイがなくなるなど、結構、目が離せない状況である。

参考文献
XING XU, JONAH N. CHOINIERE, MICHAEL PITTMAN, QINGWEI TAN, DONG XIAO, ZHIQUAN LI, LIN TAN, JAMES M. CLARK, MARK A. NORELL, DAVID W. E. HONE and CORWIN SULLIVAN (2010) A new dromaeosaurid (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous Wulansuhai Formation of Inner Mongolia, China. Zootaxa 2403: 1-9.

Alan H. Turner, Peter J. Makovicky, and Mark A. Norell (2012) A Review of Dromaeosaurid Systematics and Paravian Phylogeny. Bulletin of the American Museum of Natural History, Number 371:1-206.

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