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肉食の系譜
シャオチーロン
シャオチーロンは、白亜紀中頃(後期の初め)チューロン期に中国・内モンゴル自治区に生息した獣脚類で、アジアから初めて報告されたカルカロドントサウルス類である。従来、白亜紀前期から中期のアジアにおける大型獣脚類については化石記録が乏しく、謎に包まれていた。ジュラ紀後期までは、地域に固有の基盤的なテタヌラ類が生息しており、一方白亜紀末になると、ティラノサウルス類が優勢となることは知られていた。しかしその間の6000万年もの期間は、白亜紀前期の熱河生物群で小型のコエルロサウルス類は知られているが、大型の獣脚類は歯や断片的な骨しか発見されておらず、よくわかっていない。他の恐竜についてはアジアの孤立や外部との交流に関する古生物地理学的議論がなされているが、大型獣脚類については手がかりがなかった。
その中で比較的完全なものとして、内モンゴルから発見された一連の標本があり、これはHu (1964)によりチランタイサウルスの新種Chilantaisaurus maortuensisとして記載された。しかしこの標本はチランタイサウルスの模式標本とは重複する要素がないため、この同定は疑問とされた。またHu (1964)はこれをメガロサウルス類としたが、後の研究者はアロサウルス類、ティラノサウルス類、マニラプトル類など様々なグループに分類し、意見が一致していなかった。Brusatte et al. (2009) はこの標本を詳細に再記載し、分岐学的系統解析を行った結果、この恐竜は新属シャオチーロンと命名され、アジアで初めてのカルカロドントサウルス類となった。
内モンゴル自治区MaortuのUlansuhai Formationから見つかった模式標本は、脳函、前頭骨、頭頂骨、鼻骨、上顎骨、方形骨、軸椎、6個の尾椎からなる。すべて同一個体のものと考えられている。
分類基準となる固有の形質は、上顎骨の前眼窩窩が縮小してほとんどなくなっている、上顎骨の内側のparadental grooveがない、鼻骨の後端まで含気腔pneumatic recessが貫通している、前頭骨に矢状稜がある、などである。
上顎骨の側面はなめらかで、派生的なカルカロドントサウルス類のようなごつごつした文様はない。上顎骨の前方突起は長さよりも丈が高く、頬骨突起はアクロカントサウルスやエオカルカリアと同様に後腹方に曲がっている。側面から見て前眼窩窩は、腹側の上顎骨本体に面した部分と、上方突起の後縁の部分に限られていて、派生的なカルカロドントサウルス類よりも縮小している。Promaxillary fenestra とmaxillary fenestraは、おそらく破損していてはっきりしない。歯間板は癒合して長い板になっており、背方に特徴的な縦の深い溝がある。個々の歯間板は長さの2倍以上丈が高いが、これはカルカロドントサウルス類の派生形質であるという。
右の鼻骨の後端には深い含気腔pneumatic recessがあり、多数の腔所に分かれている。鼻骨の含気腔はアロサウロイドにみられるが、シャオチーロンでは後端にも深い含気腔がある点が特徴的である。
シャオチーロンの前頭骨には背側表面から10mm立ち上がった高く鋭い矢状稜がある。一般に矢状稜はある種のコエルロサウルス類にはみられるが、コエルロサウルス類以外のテタヌラ類にはみられない。またシャオチーロンの矢状稜は幅広い表面から立ち上がっている点でユニークである。コエルロサウルス類やアベリサウルス類では前頭骨の幅が狭くなることによって矢状稜が形成される。左右の前頭骨は互いに癒合し、また頭頂骨と癒合しているが、これはカルカロドントサウルス類の特徴である。その他に上側頭窓にもカルカロドントサウルス類の特徴がみられる。さらに、前頭骨の涙骨や後眼窩骨との関節面が拡大しており、前頭骨は眼窩に面していないことから、他のカルカロドントサウルス類と同様に眼窩の上方で涙骨と後眼窩骨が結合していたと考えられる。
著者らは2つの独立した系統解析を行った。まず、この恐竜は過去に様々な獣脚類のグループに分類されてきたので、獣脚類全体のデータを用いて解析したところ、シャオチーロンは明らかにカルカロドントサウルス類(科)の中に含まれた。次に、より新しく詳細なアロサウロイド中心のデータを用いて解析したところ、シャオチーロンはカルカロドントサウルス科の中でも、ゴンドワナのカルカロドントサウルス亜科(カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルス)に近い位置にきた。つまり北アメリカのアクロカントサウルスよりも派生的と位置づけられた。
アジアで初めてカルカロドントサウルス類が発見されたことによって、かつてはゴンドワナ地域に限られると考えられていたカルカロドントサウルス類が、実は世界各地に分布していたことが示された。また白亜紀中期のアジアの大型獣脚類相が、竜脚類や鳥脚類では既にいわれているように、汎世界的な傾向をもっていたことがわかった。
シャオチーロンがカルカロドントサウルス類の中でもゴンドワナ産のものに近いという今回の解析結果が正しいとすると、アロサウロイドがパンゲア超大陸の分裂とともに進化してきたというストーリーに疑問を投げかけることになる。この説では、アジアはパンゲアから最初に分離した大陸なので、アジアのアロサウロイドは基盤的なものであるはずだと考えてきた。今回の結果はアロサウロイドの各グループの起源が、大陸の分裂以前に起こった可能性を示すのかもしれないという。あるいは、白亜紀前期に南北(ゴンドワナとローラシア)間の交流があったことを意味するのかもしれない。
シャオチーロンの同定により、白亜紀中期のローラシアにおいて、ティラノサウルス類ではなくアロサウロイドが依然として優勢な大型捕食者であり、ティラノサウルス類が大型捕食者として台頭したのは比較的遅く、白亜紀末近くの出来事だったことが示唆された。
参考文献
Brusatte, S. L. et al. (2009) The first definitive carcharodontosaurid (Dinosauria: Theropoda) from Asia and the delayed ascent of tyrannosaurids. Naturwissenschaften 96, 1051-1058.
その中で比較的完全なものとして、内モンゴルから発見された一連の標本があり、これはHu (1964)によりチランタイサウルスの新種Chilantaisaurus maortuensisとして記載された。しかしこの標本はチランタイサウルスの模式標本とは重複する要素がないため、この同定は疑問とされた。またHu (1964)はこれをメガロサウルス類としたが、後の研究者はアロサウルス類、ティラノサウルス類、マニラプトル類など様々なグループに分類し、意見が一致していなかった。Brusatte et al. (2009) はこの標本を詳細に再記載し、分岐学的系統解析を行った結果、この恐竜は新属シャオチーロンと命名され、アジアで初めてのカルカロドントサウルス類となった。
内モンゴル自治区MaortuのUlansuhai Formationから見つかった模式標本は、脳函、前頭骨、頭頂骨、鼻骨、上顎骨、方形骨、軸椎、6個の尾椎からなる。すべて同一個体のものと考えられている。
分類基準となる固有の形質は、上顎骨の前眼窩窩が縮小してほとんどなくなっている、上顎骨の内側のparadental grooveがない、鼻骨の後端まで含気腔pneumatic recessが貫通している、前頭骨に矢状稜がある、などである。
上顎骨の側面はなめらかで、派生的なカルカロドントサウルス類のようなごつごつした文様はない。上顎骨の前方突起は長さよりも丈が高く、頬骨突起はアクロカントサウルスやエオカルカリアと同様に後腹方に曲がっている。側面から見て前眼窩窩は、腹側の上顎骨本体に面した部分と、上方突起の後縁の部分に限られていて、派生的なカルカロドントサウルス類よりも縮小している。Promaxillary fenestra とmaxillary fenestraは、おそらく破損していてはっきりしない。歯間板は癒合して長い板になっており、背方に特徴的な縦の深い溝がある。個々の歯間板は長さの2倍以上丈が高いが、これはカルカロドントサウルス類の派生形質であるという。
右の鼻骨の後端には深い含気腔pneumatic recessがあり、多数の腔所に分かれている。鼻骨の含気腔はアロサウロイドにみられるが、シャオチーロンでは後端にも深い含気腔がある点が特徴的である。
シャオチーロンの前頭骨には背側表面から10mm立ち上がった高く鋭い矢状稜がある。一般に矢状稜はある種のコエルロサウルス類にはみられるが、コエルロサウルス類以外のテタヌラ類にはみられない。またシャオチーロンの矢状稜は幅広い表面から立ち上がっている点でユニークである。コエルロサウルス類やアベリサウルス類では前頭骨の幅が狭くなることによって矢状稜が形成される。左右の前頭骨は互いに癒合し、また頭頂骨と癒合しているが、これはカルカロドントサウルス類の特徴である。その他に上側頭窓にもカルカロドントサウルス類の特徴がみられる。さらに、前頭骨の涙骨や後眼窩骨との関節面が拡大しており、前頭骨は眼窩に面していないことから、他のカルカロドントサウルス類と同様に眼窩の上方で涙骨と後眼窩骨が結合していたと考えられる。
著者らは2つの独立した系統解析を行った。まず、この恐竜は過去に様々な獣脚類のグループに分類されてきたので、獣脚類全体のデータを用いて解析したところ、シャオチーロンは明らかにカルカロドントサウルス類(科)の中に含まれた。次に、より新しく詳細なアロサウロイド中心のデータを用いて解析したところ、シャオチーロンはカルカロドントサウルス科の中でも、ゴンドワナのカルカロドントサウルス亜科(カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、マプサウルス)に近い位置にきた。つまり北アメリカのアクロカントサウルスよりも派生的と位置づけられた。
アジアで初めてカルカロドントサウルス類が発見されたことによって、かつてはゴンドワナ地域に限られると考えられていたカルカロドントサウルス類が、実は世界各地に分布していたことが示された。また白亜紀中期のアジアの大型獣脚類相が、竜脚類や鳥脚類では既にいわれているように、汎世界的な傾向をもっていたことがわかった。
シャオチーロンがカルカロドントサウルス類の中でもゴンドワナ産のものに近いという今回の解析結果が正しいとすると、アロサウロイドがパンゲア超大陸の分裂とともに進化してきたというストーリーに疑問を投げかけることになる。この説では、アジアはパンゲアから最初に分離した大陸なので、アジアのアロサウロイドは基盤的なものであるはずだと考えてきた。今回の結果はアロサウロイドの各グループの起源が、大陸の分裂以前に起こった可能性を示すのかもしれないという。あるいは、白亜紀前期に南北(ゴンドワナとローラシア)間の交流があったことを意味するのかもしれない。
シャオチーロンの同定により、白亜紀中期のローラシアにおいて、ティラノサウルス類ではなくアロサウロイドが依然として優勢な大型捕食者であり、ティラノサウルス類が大型捕食者として台頭したのは比較的遅く、白亜紀末近くの出来事だったことが示唆された。
参考文献
Brusatte, S. L. et al. (2009) The first definitive carcharodontosaurid (Dinosauria: Theropoda) from Asia and the delayed ascent of tyrannosaurids. Naturwissenschaften 96, 1051-1058.
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