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肉食の系譜
Geoworldのカルノタウルス

これはGeoworld社のJurassic eggのカルノタウルスであるが。残念ながら尾椎は進化していないようだ。しかし前肢の角度は変えられるし、全体のバランスはなかなか良いのではないか。
このシリーズ(excavation kit とJurassic egg)では、ヴェロキラプトルも前肢が残念だが、前肢以外は結構よいように思った。そういう点で惜しい。
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カルノタウルスの尾椎

Copyright: 2011 Persons, Currie.
南米のアベリサウルス類であるカルノタウルスやアウカサウルスでは、前方の尾椎の尾肋骨(横突起)が背側方に伸びている。このことについて、機能形態学的に解析した論文が出ている。
カルノタウルスの前方の尾椎では、一般的な獣脚類と異なり、尾肋骨caudal ribが背側方(斜め上方)を向いている。尾肋骨の先端は扁平で広がっており、前方は三日月形に尖り、後方は丸くなって、互いに組み合うinterlockingようになっている。その後、南アメリカのアベリサウルス類(イロケレシア、アウカサウルス、スコルピオヴェナトルなど)において、これに類した独特な尾椎の形態が記載されてきた。
[ここで尾肋骨caudal ribと呼んでいる突起は、従来の多くの文献では横突起transverse processと呼ばれているが、現生のワニなどの爬虫類の発生学的研究から、尾肋骨という方が正確であることが示されているという。]
尾肋骨が背方に傾いていることは、軸下筋hypaxial muscleが増大し、軸上筋epaxial muscleが縮小していることを意味する。アウカサウルスの前方の尾椎では、尾肋骨の腹側面にはっきりした稜がみられるが、これは軸下筋である尾大腿筋M. caudofemoralisと腸骨-座骨尾椎筋M. ilio-ischiocaudalisの中隔septumの付着痕と考えられる。つまり、これらのアベリサウルス類では、尾肋骨の腹側面に、尾大腿筋M. caudofemoralisと腸骨-座骨尾椎筋M. ilio-ischiocaudalisが付着していたと考えられる。尾大腿筋M. caudofemoralisは大腿骨の第4転子に付着しており、後肢を後方に引く主要な筋肉である。
そこで著者らは定量的モデルを作成して、尾椎につく各筋肉の量を計算したところ、カルノタウルスでは比較した他の大型獣脚類よりも尾大腿筋M. caudofemoralisの筋肉量が大きいことが示された。このことから、カルノタウルスは走行性能に優れ、特に短距離の疾走に適していたと推測されるという。
軸下筋が増大する代わりに軸上筋が縮小するが、軸上筋は尾椎を左右、背腹に曲げるとともに、安定に支える役割もある。尾肋骨の先端の前方の突起と後方の突起が互いに組み合うことで、軸上筋の代わりに尾を安定化する機能を果たしたのだろうという。
著者らは南米のアベリサウルス類について、尾椎の形態と時系列に基づいた進化系列を提示している。(これはあくまでも尾椎の形態と時代だけに注目したもので、総合的な分岐解析と混同してはならないとしている。)
マダガスカルと南アジアのアベリサウルス類では、尾椎の特殊な形態はみられない。マジュンガサウルスでは、尾椎の形態は他の多くの大型獣脚類と大きく異なる点はなく、尾肋骨はほぼ水平に突き出しており、また先端に特別な突起はない。
南米のアベリサウルス類のうち、最も生息年代の古いエクリクシナトサウルスとイロケレシアでは、尾肋骨は水平に近いがわずかに背方に傾いており、また先端に前方の突起と後方の突起をもつT字形T-shapedをしている。尾椎が前後に並んだときに突起同士は互いに接しそうになっており、靭帯でつながっていたと考えられている。より新しい時代のスコルピオヴェナトルでは、先端の形はエクリクシナトサウルスやイロケレシアと似ているが、尾肋骨がより強く背方に傾いている。さらに新しい時代のアウカサウルスでは、尾肋骨がさらに上方を向いているとともに、先端の前方の突起が後方の突起よりも細長く伸びて、互いに組み合っている(interlocking)。そしてカルノタウルスでは、三日月形の突起によるinterlockingが完成している。すなわち南米のアベリサウルス類では、尾大腿筋が増大し、尾椎の硬直性rigidityが増すような進化傾向がみられるとしている。
またこのことは、マジュンガサウルスやラジャサウルスの後肢は短くがっしりしているのに対し、カルノタウルスやアウカサウルスの後肢はより細長く華奢であることと対応しているという。アベリサウルス類は全体として後肢が短めであるが、その中でもそれなりに速く走れるように進化していたということだろうか。
参考文献
Persons WS IV, Currie PJ (2011) Dinosaur Speed Demon: The Caudal Musculature of Carnotaurus sastrei and Implications for the Evolution of South American Abelisaurids. PLoS ONE 6(10): e25763. doi:10.1371/journal.pone.0025763
Copyright: 2011 Persons, Currie.


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パンテラ・ズダンスキィ(トラの祖先)

Copyright 2011 Mazak et al.
獣脚類でも恐竜でもないが、肉食性の哺乳類、特にネコ科も好きなので。
大型ネコ類であるヒョウ亜科は、現生種の他に、主に更新世中期から後期のいくつかの化石種を含む。また現生種と考えられるすべての化石は更新世のものである。
更新世前期、または鮮新世/更新世境界ごろのパンテラ・パレオシネンシスという動物が、トラの系統の最古のメンバーと考えられてきた。しかし最近の分岐学的、定量形態学的解析によると、パンテラ・パレオシネンシスはトラに近縁ではなく、ヒョウ亜科の中でより基盤的な位置にくるという。確かにトラと考えられる最古の化石は、更新世前期 (Calabrian) の中国・藍田から見つかった上顎と下顎の断片であるが、ある程度完全な頭骨はすべて更新世中期か後期のものである。現生のトラの亜種は形態学的、遺伝学的な差異を示すが、ずっと遅く10万年ほど前に分岐したと推定されている。
2004年に中国甘粛省のLongdanで、哺乳類化石を含む更新世前期の層が発見され、古地磁気学的データから255-216万年前と推定された。これは伝統的には鮮新世の末期であるGelasianに相当するが、Gelasianは最近では更新世初期とされている。化石の中にはヒョウ類の吻部があり、最初は大きさからパンテラ・パレオシネンシスと思われた。しかしその後、完全で保存の良い頭骨が発見されたことにより、これらはパンテラ・パレオシネンシスではなく、ジャガーほどの大きさのヒョウ類の新種であり、パレオシネンシスよりも形態学的にずっとトラに似ていることがわかってきた。
パンテラ・ズダンスキィの分類学的特徴は、以下のようである。ジャガーくらいの大きさのヒョウ類で、頑丈な頭骨をもつ;よく発達した頭部の稜;大きく頑丈な犬歯;頭骨長に対して長い鼻骨;鼻骨が上顎骨-前頭骨の縫合よりも後方に延びている;ハート形の外鼻孔;腹側の輪郭がまっすぐで頑丈な下顎;相対的に大きな裂肉歯と全般に大きな歯;上の裂肉歯P4に顕著なectoparastyleとよく発達したprotoconeがある;下の裂肉歯M1にはっきりしたtalonidと、短く低いparaconid と protoconidがある(以下、歯の咬頭の名称がわからないので略)。
どこがトラと似ているのだろうか。パンテラ・ズダンスキィではトラと同様に上顎の犬歯がよく発達して大きく、その歯冠の高さが頭骨の長さ(condylobasal skull length, CBL)の23.7%に達する。これは現生のトラ(0.166–0.230)よりもむしろ大きく、ジャガー(0.160–0.206)、ヒョウ(0.132–0.202)、ライオン(0.141–0.185)、パレオシネンシス(0.200)よりもずっと大きい。もう一つのトラに特徴的な形質は、頭骨長に対して鼻骨が長いことである。パンテラ・ズダンスキィでは鼻骨の長さはCBL の34.5%であり、これは現生のトラ(0.333–0.417)としては低い方の範囲に入るが、ジャガー(0.275–0.346)、ヒョウ(0.296–0.347)、ライオン(0.287–0.357)の上限にあたり、P. atrox やP. spelaeaよりも大きい。パンテラ・ズダンスキィでは、鼻骨が上顎骨-前頭骨の縫合よりも後方に延びているが、これもトラの特徴である。パレオシネンシスでは鼻骨と上顎骨-前頭骨の縫合は同じくらいの位置にある。さらに頬骨弓が太い点もトラと似ている。
下顎はがっしりしており、腹側の輪郭がまっすぐである点でトラと似ている。これまで、原始的なトラは現生のトラと比べて比較的小さい裂肉歯をもっており、大きい裂肉歯をもつトラは更新世後期になって初めて現れたと考えられていたが、パンテラ・ズダンスキィはそうではないことを示している。パンテラ・ズダンスキィの上の裂肉歯P4の長さはCBL の13.4%で、これはトラ、ジャガー、ヒョウ、ライオンなどの範囲の大きい方に入る。下の裂肉歯M1は下顎長の14.7%で、ヒョウ属の他の種よりも大きい。興味深いことに、パンテラ・ズダンスキィの下顎の歯列は、非常に短く低いparaconid と protoconidをもつ点で、他のヒョウ属と比べてユニークである。
パンテラ・ズダンスキィの標本が完全であることで、これまでよりも総合的にトラの形態進化について推測できるようになった。トラはもともとジャガーほどの大きさの、頑丈な頭骨をもつ動物で、トラ的な頭骨と上顎歯列は進化の初期から獲得していた一方で、下顎と下顎歯列はまだ原始的で、その後の進化で急速に変化したと考えられる。同じようなモザイク的進化はチーターでも知られており、原始的なチーターAcinonyx kurteniはチーター的な頭骨と原始的な歯列をもっていたことから、このようなパターンはネコ科の進化に共通しているかもしれない、としている。
参考文献
Mazak JH, Christiansen P, Kitchener AC (2011) Oldest Known Pantherine Skull and Evolution of the Tiger. PLoS ONE 6(10): e25483. Doi: 10.1371/journal.pone.0025483
Copyright 2011 Mazak et al.

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