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ヤンチュアノサウルスの特徴



麻婆豆腐を狙うヤンチュアノサウルス

科博の「生命大躍進」の時のヤンチュアノサウルス頭骨は、昔の「中国の恐竜展」と同じもので、肉食恐竜好きなら、ほれぼれするような頭骨である。アロサウルス似だが、ちょっとケラト風味が入っている。頭骨の丈が高めで、鼻骨の隆起があり、歯が長めで、下側頭窓が大きい。
 ヤンチュアノサウルスは多くのアーティストに描かれてきたが、典型的なカルノサウルス類と書かれていることが多く、具体的な特徴が説明されることは少ないようだ。

最初の記載から40年になるが、実はヤンチュアノサウルスの特徴は定まっていない。
Carrano et al. (2012) によると、ヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシス(Dong et al., 1978)とヤンチュアノサウルス・マグヌス(Dong et al., 1983)の原記載論文に記された特徴は、現在の視点からみるとシンラプトル科、アロサウルス上科、テタヌラ類の特徴を含んでいるという。Currie and Zhao (1994) はシンラプトル科とシンラプトルの特徴は定義しているが、ヤンチュアノサウルスの特徴にはふれていない。
 頭骨の高さと長さの比率が、シンラプトルの0.4に対してヤンチュアノサウルスは0.5と、ヤンチュアノサウルスの方が丈が高い。それに伴って上顎骨の丈もやや高い。胴椎の神経棘の高さは椎体の約1.8 倍で、シンラプトルの2.0 倍よりは小さい。またヤンチュアノサウルスでは、頬骨の前眼窩窩の縁が突出しているかもしれないという。しかし詳細な再研究が行われない限り、ヤンチュアノサウルスの特徴を定めることはできないと述べている。

Dong et al. (1983) によるヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシスとヤンチュアノサウルス・マグヌスの違いは、ほとんど大きさの違いに基づいていた。また上顎骨の前眼窩窩の孔の違いは、種内変異とくに成長段階の差による可能性が高く、頸椎の形状の違いは位置による差異とも考えられた。つまりシャンヨウエンシスとマグヌスの形態は事実上同一で、系統解析の形質スコアも同じなので、Carrano et al. (2012) は最初から同一種としている。

原記載が、現在の知見からみると不十分なのは無理もない。1983年といえば、まだシンラプトルもヘピンゲンシスもジゴンゲンシスも、ほとんどのカルカロドントサウルス類もいなかった。他の種類と比較しての考察は、再記載を待つほかない。
 ただし昔の論文でも記載自体は生きているはずなので、学ぶ点も多いはずだ。以下は、ヤンチュアノサウルスの文献に書いてあるというよりも、他の文献や筆者の観察を交えながら考えてみたものである。



(書き込める情報が少ない。。)

ヤンチュアノサウルスといえば一般的には、鼻骨の側面の稜が大きく発達しているのが特徴のように思われる。実際に他のアロサウロイドには見られないくらい発達していると思うが、意外なことに Dong et al. (1983)の中では、この鼻骨の稜について全く触れていない。ヤンチュアノサウルス属やシャンヨウエンシスの特徴の中にも、鼻骨自体の記載の中にも記述がない。特に注目しなかったのだろうか。Currie and Zhao (1994) は、シンラプトルでは鼻骨の稜が単純で比較的まっすぐであるが、ヤンチュアノサウルスでは鼻骨の稜が強くアーチ状に湾曲し、突出していると述べている。
 またシンラプトルでは鼻骨の側面に2個の含気孔がある。ヤンチュアノサウルスの鼻骨でも2個か3個くらい孔があるように見えるが、Dong et al. (1983)には記述されていない。

シンラプトルの記事で述べたように、「シンラプトル科」の特徴として上顎骨の孔がある。シンラプトルと同様にヤンチュアノサウルスでも、上顎骨の前眼窩窩に多数の孔や凹みがある。これについてDong et al. (1983)は、「第1前眼窩窓と第2前眼窩窓(筆者注:maxillary fenestra)の他に、多数の孔や窪みがある」といっているが、詳しい説明はしていない。シンラプトルでは、maxillary fenestra のすぐ後方に1個の孔があり、その後背方に大きな楕円形の窪みがある。その窪みの中には1個の大きい孔と、それより小さい窪みが2個くらいある。ヤンチュアノサウルスの頭骨を観察すると、やはり孔や窪みの配列パターンはシンラプトルとよく似ているように見える。

Dong et al. (1983)はヤンチュアノサウルス属の特徴として、前頭骨と頭頂骨が癒合している(fused)といっている。前頭骨と頭頂骨が癒合しているのはカルカロドントサウルス類やアベリサウルス類にみられる形質であるが、本文中でtightly associated といっているので、co-ossification という意味ではないのかもしれない。

ヤンチュアノサウルスでは、アロサウルスよりも頭頂骨の突起が大きく発達して背方に伸びているとある。しかし他の獣脚類と比べてそれほど目立つわけでもないような気もする。マジュンガサウルスのように目立つわけではないようだ。

Dong et al. (1983)のスケッチでは、後眼窩骨の後方突起(鱗状骨突起)がかなり長いように描かれているが、頭骨レプリカを観察すると、この突起はシンラプトルほどではないが、ある程度短いように見える。この辺りはシンラプトルとの類縁を感じる。

頭骨レプリカを観察していて気がついたが、鱗状骨の形がシンラプトルとは異なるようである。これはDong et al. (1983)の中で記載されている。鱗状骨の前方突起と腹方突起の間に、板状の稜laminar ridgeがあると書いてある。ヤンチュアノサウルスに固有というわけではないだろうが、シンラプトルとは異なる特徴には違いない。

アロサウルスとは異なり、シンラプトルと同様に、下顎には大きな外側下顎窓がある。これはアロサウロイド全体の中でどうなのかわからないが、アベリサウルス類のような原始的な状態なのだろうか。

ヤンチュアノサウルスの歯は一般的な獣脚類の形状をしており、前上顎骨歯4、上顎骨歯14-15、歯骨歯14-15 である。頭骨の左側の歯列は完全に保存されている。左の上顎骨では2, 5, 7, 9 番目の歯が最も大きく、剣状で側扁しており、前縁と後縁に鋸歯がある。これらの歯冠の高さは5.6 cm で後方に反っている。1, 3 番目の歯は比較的小さく、高さが3.5 cm である。11-15 番目は小さく、薄く、最大2 cm であるという。
 上顎と下顎が強く閉じているため正確な測定や記載はできないが、歯骨歯についても記述している。



特徴といっても色々あって、メトリアカントサウルス科の中のグループ、つまりクレードとしてのヤンチュアノサウルス属の共有派生形質なら、Carrano et al. (2012) のAppendixを見ればわかる。
 ヤンチュアノサウルス属の共有派生形質は4つあり、そのうち2つは腰帯の形質である。1つは座骨の遠位端が三角形に拡がっていることで、ジゴンゲンシスでは特に顕著である。もう一つは恥骨の閉鎖孔という孔が閉じていることである。これは厳密には「恥骨の閉鎖孔が閉じていて、座骨の孔は開いている状態」に相当する。恥骨の基部から座骨の基部にかけて、原始状態では3つの孔があるという。恥骨の閉鎖孔はヤンチュアノサウルスでは閉じているが、シンラプトルやシャモティラヌスでは微妙に開いている。(ちょっと気になるのは、Gao (1993) のジゴンゲンシスの腰帯のスケッチではこの孔が明らかに閉じているが、恥骨の写真を見るとどうも破損しているようにみえることである。この肝心な部分が推定ということはないのだろうか。閉じていると考えて記載しているのは確かなので、何か根拠があるのかもしれない。)
 その他、腸骨の後端の形や、恥骨ブーツの角度なども、シンラプトルとは異なることがわかる。このように腰帯を並べてみると、“スゼチュアノサウルス”がなぜヤンチュアノサウルスとまとめられたのか、理解しやすい。

参考文献
Dong, Z., Chang, Y. H.,Li, X. M. & Zhou, S.W. (1978). [Note on the new carnosaur (Yangchuanosaurus shangyouensis gen. et sp. nov.) from the Jurassic of Yangchuan District, Szechuan Province.] Kexue Tongbao, 5, 302-304 [In Chinese].

Dong, Z., Zhou, S. W. & Zhang, H. (1983). [Dinosaurs from the Jurassic of Sichuan.] Palaeontologica Sinica, New Series C, 23 (Whole Number 162), 1-136 [In Chinese].

Matthew T. Carrano, Roger B. J. Benson & Scott D. Sampson (2012). The phylogeny of Tetanurae (Dinosauria: Theropoda), Journal of Systematic Palaeontology, 10:2, 211-300.
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不遇なヤンチュアノサウルス


YouTubeには、Jurassic World Evolution というゲームの、メトリアカントサウルスのCG動画が上がっている。当然ながらほぼシンラプトルであるが、なかなか良いものである。そのコメント欄に、英国の恐竜なので感慨深い、という声があった。なるほどやはり、バリオニクスやメトリアカントサウルスが登場するのは、イギリスの恐竜ファンを意識したものなのだろう。

私は中国人ではないが、なんとなく「シンラプトル科」がアジアで独自に進化した固有のグループだった方が良かった。イギリスのメトリアカントサウルスさえいなければ、「シンラプトル科」のままであった。もちろん古生物地理学上、メトリアカントサウルス類が広くユーラシアに分布していたことは意義のある発見である。
 メトリアカントサウルスは断片的な化石であるが、歴史的に早く記載された方が優先権がある。それはわかる。アベリサウルスよりもカルノタウルスの方が完全であるが、アベリサウルス科になったわけである。

しかし、それならばシンラプトル科の樹立の時点で、なぜ「ヤンチュアノサウルス科」にならなかったのだろうか。ヤンチュアノサウルスは1978年と1983年で、シンラプトルの1993(1994) 年よりも先に記載されている。そして、Currie and Zhao は最初からシンラプトル科にヤンチュアノサウルスが含まれるといっている。それなら普通は、「ヤンチュアノサウルス科」になるはずである。
 確かにCurrie and Zhaoのシンラプトルの詳細な記載は、この時代の恐竜研究の1つの金字塔のような仕事のようだ。それに比べるとヤンチュアノサウルスの記載は、他の種類との比較が不十分で、標徴形質も不完全なものかもしれない。当時としても正式な記載とはみなされなかったのだろうか?しかし1978年は短報であるが、1983年は正式な記載論文の形をとって出版されているように見える。個々の骨について、簡潔かもしれないが一応は記載している。なぜこれが無視されなければならなかったのか。欧米の研究者には読めない中国語の論文だったからか?

ともあれシンラプトルやヤンチュアノサウルスなどはシンラプトル科になり、主として中国の恐竜として長年認識されてきた。それが今度は、断片的なメトリアカントサウルスに科の名称を奪われた形になってしまった。中国の恐竜ファンは残念ではないのだろうか。

これまたどうでもいいことだが、ヤンチュアノサウルスは昔サファリ社のフィギュアとして商品化されたことがある。しかしそのポーズが、なぜかお辞儀をするように頭を下げた「反省」姿勢だった。もっと普通のポーズにすれば売れたのではないだろうか。私は、閉館間近のユネスコ村恐竜探検館に行った時、このヤンチュアノサウルスが大量に在庫処分されていたのを見て、心を痛めたことがある。
 博物館や恐竜展のショップで販売されているカロラータのジュラ紀恐竜セットでも、どうもアロサウルスが主役で、ヤンチュアノサウルスは力が入っていないような気がする。何かと不遇な恐竜ではないか。
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2018 新宿ミネラルフェア続き


土曜日は、三井ビルのスクンビットソイというタイ料理店でランチ。メインメニュー1種にビュッフェ付きで、豚肉の黒胡椒炒めが絶品だった。

Krautworst Naturstein にはいつも通りディプロドクスの骨などがあるが、メッセルのワニ頭骨化石(ただし割れている)や南米の有袋類頭骨、ヒエノドンの下顎断片6000円などがあった。いつもの始祖鳥や翼竜のレプリカプレート類が、写真撮影禁止となっていた。





Eldoniaのキノディクティスは頭骨がついて完成。



イタリアのお兄さん作のイクチオヴェナトルは値引きしてもらった。

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