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肉食の系譜
2015特別展・南アジアの恐竜時代
関西方面の方は夏休み早々に行かれたと思いますが、9月の連休にようやく福井に行ってきました。タイ・ラオス・中国南部といえば福井県立が共同研究で多くの成果を上げている地域でもあり、また恐竜化石については、まだまだこれから発展の期待される地域でもあるので、大変楽しみにしていました。昨年のコンカヴェナトルのような特定の種類に思い入れのある恐竜展ではないですが、普段は目にする機会のない大変貴重な標本が見られて充実した経験ができました。
三畳紀の中国南部でよく海生爬虫類を見かけるのは、古テチス海に面していたからなのですね。三畳紀の魚竜ミクソサウルスは、肋骨が非常にきれいに保存されているだけでなく、その間に2頭の胎児(卵胎生)がはっきり確認できました。子持ちシシャモのようなお得感です。ノトサウルスの化石もすばらしい保存状態でした。タイのイサノサウルスや大型の古竜脚類に続いて中国の雲南省と四川省に入ると、ジンシャノサウルスの頭骨がすばらしい。花粉化石からタイ産マメンチサウルスは白亜紀初期かもしれないというのも興味深かった。
数年前によく見かけたスゼチュアノサウルスはヤンチュアノサウルスに統合されたので、ヤンチュアノサウルス復元骨格。2012年に、ヤンチュアノサウルス・マグヌスはほとんど大きさしか違わないということでヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシス(「生命大躍進」にいたやつ)に統合された。またスゼチュアノサウルスは数種あったが、一部はヤンチュアノサウルス・シャンヨウエンシスに統合され、一部はヤンチュアノサウルスの別種となったようですね。つまりスゼチュアノサウルスは消滅。しかしこの骨格は、少なくとも前肢の角度はちょっとあれですね。
タイの白亜紀前期に入ると、プウィアンゴサウルスも一応写真は撮ったが、いつもながら大きくてフレームに収まらない。解説映像でも腸骨の特徴などをちゃんと紹介していたので、私は印象に残ったが、一般のお客さんはどうなんでしょう。そして、イクチオヴェナトルは‥‥針金アートか。しかしこのワイヤーフレームは、ちゃんとスピノサウルス類の顔をしてるし、なかなか良くできていると思いました。イクチオヴェナトルの特徴は過去の記事でも書いた通りですが、腰のあたりを見ると神経棘の指状の突起とか、腸骨・恥骨・坐骨の比率とかが確認できました。お客さんが「頭がないのがつらいな」と言っていましたが、まあ、詮方ないですね。
今回、全身骨格として美しいのはこれですね。研究中のタイ産イグアノドン類。ラチャシマサウルスの下顎はかなり細長い。研究中の方はラチャシマサウルスとは異なる可能性があるということは、歯骨はあるということか。ラオス産イグアノドン類も並べてありました。またラオスのティタノサウルス形類タンバヨサウルスも、なかなかの標本ですね。尾椎がしっぽの先まで揃っているのと、後肢が左右合わせるとほとんど完全なのが良いです。
浙江省のテリジノサウルス類は研究中ということで、この種類の特徴は特に書いていないが、立派なものですね。解説ではテリジノサウルス類の頭骨の植物食への適応として、最近のエルリコサウルスの頭骨の解析にもふれているようです。角質のクチバシは独立して何回か生じたのだろうか。上顎骨が縮小したりしているのは、肉食恐竜の魅力とは逆方向なので私としてはあれですが。
今回、イクチオヴェナトル以上に楽しみにしていたのがこれです。コラート産獣脚類の頭骨(カルカロドントサウルス類)。前上顎骨、多数の歯、脳函、上角骨がある。上角骨とは微妙な‥‥上顎骨があればかなり進むと思うが、せめて歯骨があれば他のカルカロドントサウルス類と比較できるのでしょう。前上顎骨や脳函は比較できますね。しかしこれはすごい。上角骨は55 cmあり、頭骨全体では1 mに達するとあるので、全長10 mくらいはあるのかな。歯の形はいかにもカルカロドントサウルス類という感じで、なかにはカルカロドントサウルスそのものの歯にかなり似ている歯もあるように見えた。カルカロドントサウルスのシルエットに当てはめて化石を並べてあるが、大きさの比率は結構あっているのがすばらしい。これはコク・クルアト層(アプチアン)なのでイグアノドン類などを獲物にしたのだろうか。欲を言えばもう少し骨が見つかってほしいが、とにかく楽しみです。
シアモサウルスの神経棘なんてあったっけ?と思ったが、図録によると研究中のようですね。同じ地域ですがシアモサウルスの歯はサオ・クア層で、新しく見つかった頸椎・胴椎などはコク・クルアト層です。シアモサウルスとは別種のスピノサウルス類ということか。アクロカントのように神経棘の伸びたカルカロドントサウルス類という可能性はないのかしら。これも研究の進展が楽しみです。
最後は中国浙江省の卵化石や福井県立が共同発掘したアンキロサウルス類の標本があった。この地域でノドサウルス類とアンキロサウルス類が共存していたことが分かったという。出口には福井県立の開館15周年の年表などがあり、そのため特別展のショップというものはなく、図録だけが販売されていた。別の場所のショップにTシャツ、エコバッグ、マグカップなどはあった。図録は特別展の内容がコンパクトにすべて収録されていて、良くできていると思いました。
福井駅前には恐竜モニュメント(動刻)が設置されているわけですが。ちょっと驚いたのは、この恐竜たち、日が暮れた後も動いて吠えているんですね。9時から21時まで稼働していて、22時までライトアップされているようです。結構働き者というかブラックというか。夜になってほとんど人通りのない時にも、恐竜だけが「グルルル」と唸っているというシュールな光景でした。実際に動く部分というものは消耗しますから、部品のメンテナンスなどいたわってあげて欲しいですね。福井県はスキー場もあるし雪が降るはずですが、冬場にはフクイティタンの首や背中に雪が積もったりするのでしょうか。雪の中、吠えるフクイラプトルもちょっと見てみたい気はしますが。。。
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アウストラロヴェナトル
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ネオヴェナトル科のメガラプトル類アウストラロヴェナトルは、2006年から2010年にかけてオーストラリア恐竜の時代博物館とクイーンズランド博物館の発掘調査により発見され、2009年に記載された。アウストラロヴェナトルの化石は、ティタノサウルス類ディアマンティナサウルスの骨とともに散在して発見された。2009年の論文では、分離した歯、左の歯骨、数本の肋骨、腹肋骨、前肢と後肢の部分骨格が見つかっていた。
その後、前肢や後肢の追加の骨が発見されて、2012年に続報の論文が出ている。新しく見つかった前肢の骨は、左右の上腕骨、右の撓骨、右の撓側骨(手根骨)、右の第1遠位手根骨、右の第I中手骨、左の指骨II-1, II-2, III-3、ほとんど完全な右の指骨II-3(末節骨)である。右の指骨I-2 とIII-4は既に見つかっていたが、今回の追加で第I、第II、第III指の末節骨がそろったことになる。また前肢全体としてもほとんどの骨が見つかっているので、コンピュータ上で復元した像(手)が示されている。
図1 アウストラロヴェナトルの右手の復元(発見されている骨を示す)。Copyright 2012 White et al.
論文の主体をなすresultsの部分は、前肢の骨の形態学的記載が延々と続く。これは研究には絶対不可欠で本質的なことと思うが、アマチュア恐竜ファンにとって面白い部分ではない。興味があるのは、比較して考察している部分である。追加の発見により、アウストラロヴェナトルは四肢の骨についてはネオヴェナトル科の中でも最も完全なものとなったので、他のネオヴェナトル類と比較している。
上腕骨が比較できるのはフクイラプトルとチランタイサウルスしかない。アウストラロヴェナトルの上腕骨は、フクイラプトルと似ている。両者とも骨幹が同じように曲がっており、三角胸筋稜deltopectoral crestは丸く、近位端も遠位端も細くなっている。アウストラロヴェナトルとフクイラプトルでは、上腕骨遠位端のradial condyle とulna condyleの形状が異なるようである。チランタイサウルスの上腕骨はもっとがっしりしており、よりまっすぐである。チランタイサウルスの三角胸筋稜は骨幹から90°近い角度で立ち上がっている。
指骨II-1の形態は、アウストラロヴェナトルとフクイラプトルで異なっている。遠位の関節顆distal condyles と近位端proximal endの高さが、フクイラプトルではほとんど同じであるが、アウストラロヴェナトルでは遠位の関節顆の方が小さいという。
メガラプトル類は、第I指の末節骨が大きな鋭いカギ爪として発達している。メガラプトル、アウストラロヴェナトル、フクイラプトルに共通して、内側と外側で溝の位置が非対称という特徴がある。内側溝medial grooveは先端に向かって中央を通っているが、外側溝lateral grooveは先端に向かって背側を通っている。一方、第II指の末節骨では内側と外側で同様であり、対称的な形をしている。
また、アウストラロヴェナトルでは第I指の末節骨は第II指の末節骨よりもひとまわり大きいくらいで、第I指と第II指でそれほど大きさの差はない。これはフクイラプトルでも同様であるという。一方、メガラプトルでは第I指の末節骨は非常に大きく、第II指の末節骨はそれよりもかなり小さい。つまり第I指と第II指で大きさの差が著しい。
末節骨の基部の高さと幅の比率が、ネオヴェナトル科の共有派生形質として用いられている。それによると、比率が2.3より大きければネオヴェナトル科に含まれることが支持されるという。アウストラロヴェナトルの場合、第I指、第II指、第III指の比率は、それぞれ2.29, 2.22, 2.41であるという。結構微妙な値であるが、論文では、だからどうだというコメントはしていない。このような新しいデータをもとに、基準なども改訂されていくということかもしれない。
図2 アウストラロヴェナトルの前肢の末節骨。White et al. (2012) の論文の3つの図からスケールを合わせて作成した。カギ爪の先端の推定は筆者による。
図3 メガラプトルの前肢の指骨。Calvo et al. (2004) に基づいて作成。カギ爪の先端の推定はCalvo et al. (2004)。
残念ながら頭骨はほとんど見つかっていないが、オーストラリアの博物館には復元骨格(全身ではないようだが)があるらしい。これは吻の形や鼻孔が細長い点など、メガラプトルの幼体の復元を参考にしているようにみえる。
参考文献
White MA, Cook AG, Hocknull SA, Sloan T, Sinapius GHK, et al. (2012) New Forearm Elements Discovered of Holotype Specimen Australovenator wintonensis from Winton, Queensland, Australia. PLoS ONE 7(6): e39364. doi:10.1371/journal.pone.0039364
Calvo JO, Porfiri JD, Veralli C, Novas F, Poblete F (2004) Phylogenetic status of Megaraptor namunhuaiquii Novas based on a new specimen from Neuquen, Patagonia, Argentina. Ameghiniana 41: 565–575.
Hocknull SA, White MA, Tischler TR, Cook AG, Calleja ND, et al. (2009) New Mid-Cretaceous (Latest Albian) Dinosaurs from Winton, Queensland, Australia. PLoS ONE 4(7): e6190. doi:10.1371/journal.pone.0006190
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