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肉食の系譜
リスロナクス(絵)

種として羽毛を持つということと、全身がふさふさの羽毛で覆われていることは別のことである。また全身に毛のような原羽毛があったとしても、長さや密度によって印象はだいぶ異なるだろう。毛があると言ってもスイギュウのような感じかもしれないし、イヌでもグレーハウンドのような短毛種だと体の輪郭にあまり影響を与えていない。タニコラグレウスやオルニトレステスなどもグレーハウンドのような感じだったのではないかと思ったことがある。
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ダスプレトサウルス・ホルネリ
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Baby Louieはベイベイロンに
これは昨年の福井の古生物学会のシンポジウム「恐竜の繁殖」の中でZelenitskyが発表していた話である。ギガントラプトルに匹敵する大型カエナグナトゥス類ということだったが、新種のカエナグナトゥス類ベイベイロン・シネンシスBeibeilong sinensisと命名されたようだ。ギガントラプトルは推定体重1400 - 3246 kgとされているが、ベイベイロンに付随した42 cm のMacroelongatoolithus の卵からは、成体の体重は1100 kgと推定されている。
1980年代から1990年代にかけて、中国河南省の白亜紀後期の地層から、地元の農民たちによって大量の恐竜の卵化石が発掘・採集された。このころ中国政府は化石の輸出を規制しようとしたが、1990年代には多数の化石が違法に海外のマーケットに流出した。このように輸出された卵化石は外国でクリーニングされることもあった。
これらの中でも最も重要と思われるものが、恐竜の卵化石の中でも最も大きいMacroelongatoolithusとともに見つかった小さな胚の骨格であった。未剖出の化石は1993年にThe Stone Companyという会社が米国に輸入した。The Stone Companyが700 時間をかけてクリーニングした結果、胚の骨格と卵殻が剖出された。この化石はナショナル・ジオグラフィックの表紙を飾り、カメラマンの名をとってベイビー・ルーイBaby Louieと名付けられた。
2001年にBaby Louieはインディアナポリス児童博物館によって購入され、そこで12年間展示された。2013年になってようやく、Baby Louieは中国の河南地質学博物館に返還された。
Baby LouieはMacroelongatoolithusと一緒に見つかった唯一の骨格なので、長年謎であったこの卵化石の主を同定するうえで貴重な手がかりである。1994-1995年頃の研究で、卵は大きさを別にすればオヴィラプトル類のものにそっくりであることは知られていた。胚の骨格の研究は困難であったが、徐々にオヴィラプトロサウルス類のものであることがわかってきた。今回、著者らはBaby Louieの骨格と卵が新種の大型カエナグナトゥス類のものであると報告している。
今回、ヤフーニュースのコメント欄では「中国だから信用できない」というレベルのコメントから、「胚の骨格から判定するのは難しいのではないか」という本質を突いたコメントまであったのが面白い。本文中では恐らく胚embryo といっているが、perinate animalという難しい用語も使っている。perinatalは周産期なので、厳密には孵化直前の胚か、孵化したばかりのヒナかわからないということか。ベイベイロンは他の卵の上にいて、卵殻で囲まれてはいなかった。しかし首を曲げて顎が胸の前にくるような、恐竜やワニなどの胚に典型的な姿勢をしていた。また体を曲げた状態で23 cmなので、 40 cmの卵に容易に収まる大きさであった。堆積の過程で卵殻が破れて露出させられた可能性もあるという。
系統解析の結果、他の最近の研究と同様にオヴィラプトロサウリアの中で、カウディプテリギダエ、カエナグナトイデアCaenagnathoidea、オヴィラプトリダエOviraptoridae、カエナグナティダエCaenagnathidae がクレードとなった。ベイベイロンはカエナグナティダエの中で、ミクロヴェナトルよりも派生的で、ギガントラプトルよりは基盤的な位置にきた。この系統的位置は、個体発生の過程で変化すると考えられる形質を入れても入れなくても、変わらなかったという。このことはベイベイロンがギガントラプトルそのものの胚ではないことを示唆しているといっている。しかし本当は成体同士か、胚同士で比較しないと難しいのではないか。
アジア(中国、韓国、モンゴル)や北アメリカでは多数のMacroelongatoolithusの卵化石が見つかっているが、大型カエナグナトゥス類の骨格化石は少ない。しかし今回、Macroelongatoolithusと大型カエナグナトゥス類を関連付ける確かな証拠が得られたことで、カエナグナトゥス類は従来考えられたよりも広く分布し、普通にみられる動物だったことが明らかになってきたという。
参考文献
Pu, H. et al. Perinate and eggs of a giant caenagnathid dinosaur from the Late Cretaceous of central China. Nat. Commun. 8, 14952 doi: 10.1038/ncomms14952 (2017).
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ダスプレトサウルス・ホルネリと向上進化

頭骨の特徴の一部
Carr et al. (2017) はモンタナ州Two MedicineFormation(白亜紀後期カンパニアン)からの新種のティラノサウルス類について報告している。
このTwo Medicineのティラノサウルス類は、主にホロタイプのMOR 590に基づいていくつかの系統解析に用いられてきた。どの研究でも派生的なティラノサウルス亜科になったが、ダスプレトサウルス・トロススと近縁になったりティラノサウルスと近縁になったりして、正確な位置がわかっていなかった。この標本については簡単な記載しかされていなかったので、今回著者らが徹底した記載をした上で系統解析を行った結果、ダスプレトサウルス・トロススと姉妹種となり、ダスプレトサウルス属の新種、ダスプレトサウルス・ホルネリと命名された。
ダスプレトサウルス属の特徴
ダスプレトサウルス(2種)の共有派生形質は、上顎骨の皮下表面が非常に粗い、涙骨に二次的な角状突起がある、涙骨の上顎骨突起が部分的に隠れている、後眼窩骨の角状突起が大きく下側頭窓に近づいている、鱗状骨の前端が下側頭窓の前縁より後方にある、前頭骨の鼻骨突起に稜がある、鋤骨に深いキールがある、口蓋骨の含気窩が背側突起の前縁よりも後方にある、laterosphenoidに横方向のはっきりした稜がある、歯骨の「おとがい」(前腹側突起)が3番目の歯骨歯の下にある、上顎骨歯は13より多い、である。
特にダスプレトサウルスでは、角状突起が発達している。涙骨では、多くのティラノサウルス類にある大きな三角形の角状突起の側面から、二次的な角状突起が突き出している。また後眼窩骨の角状突起は拡大しており、ティラノサウルス科の中でも最も大きいものである。
ダスプレトサウルス・トロススとダスプレトサウルス・ホルネリの違い
涙骨の前方突起と腹方突起の比率から、トロススの方が頭骨がより長く、ホルネリはより短く丈が高い。涙骨の(一次)角状突起の高さはトロススの方が高く(前方突起の高さの69%)、ホルネリでは低い(53%)。
ダスプレトサウルス・ホルネリの特徴
さらにダスプレトサウルス・ホルネリは、ダスプレトサウルス・トロススを含めて他のすべての派生的なティラノサウルス類と識別できる固有の形質をもつ。吻の前方の歯列の弧dental arcadeが幅広く、上顎骨と歯骨の歯列が顕著に前内側に延びていて、上顎骨の最初の歯間板が狭い。これは前上顎骨の歯列と似ているという。歯骨が顕著に側方に曲がっている。その他、涙骨の背側の膨張した部分が内側縁に達しない、涙骨の内側の含気窩が高く狭いスロット状など、細かい形質が多数あげられている。
向上進化と分岐進化
このダスプレトサウルス・トロススとダスプレトサウルス・ホルネリは、系統的にごく近縁であること、地理的に同じ地域であること、時間的な連続性から、アナゲネシス(向上進化)の一つの系統を表すと考えられた。どういうことだろうか。
ティラノサウルス類は化石記録が豊富で、非常によく研究されてきた。また細かく系統解析されていることと優れた層序学的記録があることから、形態の多様性をもたらす進化過程(種形成の様式)について研究できる貴重な例である。
無脊椎動物、トゲウオ、哺乳類などで層序学的に連続した化石記録のある、いくつかの絶滅したグループは、アナゲネシスanagenesis(向上進化)を示すことが知られている。現生種でもコイ科の魚類や島嶼の植物などにアナゲネシスがみられる。アナゲネシスとは1つの系統の中で新種への進化が生じることで、これと対照的なのがクラドゲネシスcladogenesis (分岐進化)である。クラドゲネシスでは祖先の種から新しい種が分岐して、2種を生じるのに対して、アナゲネシスでは祖先の種の集団全体が、新しい種に置き換えられる。つまり時代とともに新種が祖先種全体に取って代わるので、祖先種は残らないわけである。
恐竜進化の研究においては、Horner et al. の白亜紀後期の北アメリカ西部の研究によってアナゲネシスは一般に認知されるようになった。最近また恐竜研究者の間でアナゲネシスに対して関心が高まっているが、これは最近の層序学的に連続した地層からの鳥盤類恐竜(ハドロサウルス類、角竜類)の発見からきている。古生物学者らは、系統の分岐パターンは必ずしも実際の進化過程を反映しているとはいえないのではないか、と考えるようになった。ただし恐竜の進化過程において、アナゲネシスがよく起きる現象かというとそれはわからない。いまのところ、動物の進化全体でクラドゲネシスの方が一般的な種分化の様式と考えられている。
古生物学者がアナゲネシスの証拠として示すためには、緻密な層序学的サンプリング、正確な年代測定、系統的に近縁な種類の時間的に連続した標本、異なる成長段階を含む多くのサンプル数、などが必要である。ティラノサウルス類は、これらの基準をみたす数少ない恐竜グループの一つである。そこで著者らは北アメリカの白亜紀後期のティラノサウルス類について、このような検証を行った。
ティラノサウルス類の間でアナゲネシスの仮説が成り立つためには、1)それらの種が姉妹種あるいは系統的に連続した種であること、2)層序学的に連続していること、3)系統関係が層序学的な連続と矛盾しないこと、4)地理的に同じ領域(大陸など)で時系列と矛盾しないこと、が必要である。
今回の系統解析ではダスプレトサウルス・トロススとダスプレトサウルス・ホルネリは姉妹種となった。一方ティラノサウルス・レックスは別の、ズケンティランヌスやタルボサウルスと同じクレードに属した。また年代測定の研究からダスプレトサウルス・トロススの化石はDinosaur Park Formationの下方2/3(76.7-75.2 Ma)に限定され、ダスプレトサウルス・ホルネリの標本はTwo MedicineFormationの最上部(75.1-74.4 Ma)に限られているので、これら2つの産地のダスプレトサウルス標本の間には層序学的重なりはほとんどないと考えられた。
よってダスプレトサウルス・トロススとダスプレトサウルス・ホルネリはアナゲネシスの主な基準を満たしていると考えられる。これらは姉妹種であり、層序学的に連続しており、ともに北部ロッキー山脈地域から産出している。一方、ダスプレトサウルスのクレードと、ズケンティランヌス+ティラノサウルスのクレードの分化はクラドゲネシスの結果と考えられる。これらの場合は層序学的に連続した種類とは考えられないためである。
ズケンティランヌス+(ティラノサウルス・バタール+ティラノサウルス・レックス)のクレードも、実はアナゲネシスの仮説と一致するという。ズケンティランヌスは73.5 Ma以前で、T・レックスは67.2–67.4 Ma以後である。もしT・バタールの生息年代がズケンティランヌスとT・レックスの中間であれば、これらのティラノサウルス類の時系列はアナゲネシスの仮説と矛盾しない。ただしズケンティランヌスからT・レックスまでの時間的ギャップはダスプレトサウルスの場合よりもはるかに大きいので、この仮説を論じるにはアジアでの新しい化石の発見を待たなければならないとしている。(著者らは言及していないが、これらの場合はそもそも地理的にアジアから北アメリカに及んでいるので、無理があるのではないだろうか。)
さらに、アナゲネシスは2種のアルバートサウルスにも当てはまる。アルバートサウルス・リブラトゥスとアルバートサウルス・サルコファグスは姉妹種であり、層序学的に連続しており、地理的に同じ地域(ララミディア北部)から産している。
このようにみてくると、アナゲネシスの証拠は良質な化石記録のある他の恐竜グループにも広くみられるのかもしれない、といっている。そうであればアナゲネシスはクラドゲネシスとともに種の多様性を生み出す重要な要因の一つであり、クラドゲネシスとされていた例が実は化石記録が不十分なためのアーティファクトであり、実はアナゲネシスということもあるかもしれないという。
(注:読者はご存知と思うが、トーマス・カーは昔から、タルボサウルスはティラノサウルスと、ゴルゴサウルスはアルバートサウルスと同属という立場である。そう思って読んでくださいね。)
参考文献
Carr, T. D. et al. A new tyrannosaur with evidence for anagenesis and crocodile-like facial sensory system. Sci. Rep. 7, 44942; doi: 10.1038/srep44942 (2017).
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