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メガロサウルスの特徴(後編)




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仙椎
5個の仙椎があり、癒合して1つの仙骨となっている。癒合した関節面の周辺部は骨組織が盛り上がっている。3番目と4番目の仙椎が最も強く結合している。
 メガロサウルスでは、ほとんどの仙椎(1、3、4、5)の腹側面は一様に丸い曲面をなすが、第2仙椎だけは異なり、腹側面に角張った縦の稜がある。エウストレプトスポンディルスでは、仙椎の腹側面は一様に丸いが、第4仙椎の腹側面だけに縦の稜がある。ピアトニツキサウルスでは、ほとんどの仙椎の腹側面は一様に丸いが、第3仙椎の正中には平らな帯状部分があり、第5仙椎は幅広く平坦であるという。このように基盤的テタヌラ類では、仙椎の腹側面の形状は種類によって様々である。メガロサウルス・バックランディの4個体の標本で同一の形態がみられることから、この形態は固有形質と考えられる。

肩甲烏口骨
肩甲骨と烏口骨は完全に癒合しており、縫合線は閉じている。癒合した部位は骨が盛り上がっている。このような高度の癒合は、アウカサウルスのようなアベリサウルス類にもみられるが、基盤的テタヌラ類では珍しい。ピアトニツキサウルスとスコミムスでは、肩甲骨と烏口骨は癒合していない。アロサウルス、ネオヴェナトル、アクロカントサウルスでは、肩甲骨と烏口骨は部分的に癒合しているが、縫合線ははっきりしており、骨の過形成は起きていない。
 メガロサウルスでは、肩甲骨の長さと幅の比率は約6.8である。これは他のテタヌラ類やネオケラトサウリアよりも小さく(アクロカントサウルス11.5、アロサウルス13.8、アウカサウルス8.6)、原始的な獣脚類と似ている。ディロフォサウルスは6.5、トルボサウルスは6.8である。
 肩甲骨の中ほどの背側縁に、顕著なフランジ(薄くのびた部分)がある。Walker (1964) はこれをメガロサウルス・バックランディの特徴であると述べており、実際に他のどの獣脚類にもみられないので、これはメガロサウルスの固有形質と考えられる。


系統上の位置

Benson (2010) は基盤的テタヌラ類を中心とした系統解析を行っているが、その後2012年には、さらに多くの種類について包括的な系統解析をしているので、そちらを参照するのがよいと思われる。Benson (2010)の結果では、メガロサウルス科Megalosauridae の中でエウストレプトスポンディルスが最も基盤的で、残りのメガロサウルス類と姉妹群をなした。残りのメガロサウルス類は、ドゥリアヴェナトル、アフロヴェナトル+ドゥブレウイロサウルス、メガロサウルス+トルボサウルスの3つに分かれた。つまりアフロヴェナトルとドゥブレウイロサウルス、メガロサウルスとトルボサウルスはそれぞれ姉妹群となった。

レクトタイプの歯骨については、メガロサウロイドであることを示す特徴は、先に述べたparadental grooveの形状だけであるという。
 上顎骨の貫通していないmaxillary ‘fenestra’は、メガロサウロイドの共有派生形質と考えられる。メガロサウルス科の共有派生形質としては、上腕骨の三角胸筋稜の長さが上腕骨の長さの0.52以上ある、などの形質をもつ。

「イギリス恐竜図鑑」のメガロサウルスのCGは、最も近縁なトルボサウルスを意識したものと思われた。
 メガロサウルスは、メガロサウルス類の中でもトルボサウルスと最も似ている。メガロサウルスとトルボサウルスが共有する形質として、歯間板は丈が高く、上顎骨の外側壁よりも短く終わっている(注:トルボサウルス・グルネイでは異なる);歯骨の外側面の縦の溝が浅くはっきりしない;歯冠の唇側と舌側の表面にバンド状のエナメルのしわがある、がある。また肩甲骨の長さ/幅の比率は両者とも7より小さい。

メガロサウルスは、あくまで英国を象徴する恐竜のようである。イギリス国内では、オックスフォードシャーとグロスタシャーの複数の産地で、ジュラ紀中期バソニアン前期から中期の地層から、かなり多数の化石が産出している。このことから、メガロサウルスは当時のイギリスではかなり優勢な、おそらく頂上捕食者であったと思われる。
 フランスのバソニアンの地層からもいくつか獣脚類が見つかっているが、メガロサウルス・バックランディと同定できるものは存在しない。フランス産のメガロサウルス類としてはポエキロプレウロンとドゥブレウイロサウルスがある。ほぼ同時代のイギリスでは非常に豊富に産するメガロサウルスが、フランスからは発見されないことは注目される。これはフランス産のサンプル数が少ないことによるかもしれないが、もしも実際にフランスには分布していなかったとすれば、当時のイギリスとフランスの間に何らかの物理的・環境的な障壁があったことを示唆しているのかもしれないという。


参考文献
Benson RBJ, Barrett PM, Powell HP, Norman DB. (2008). The taxonomic status of Megalosaurus bucklandii (Dinosauria, Theropoda) from the Middle Jurassic of Oxfordshire, UK. Palaeontology 51: 419-424.

Benson RBJ. (2009). An assessment of variability in theropod dinosaur remains from the Bathonian (Middle Jurassic) of Stonesfield and New Park Quarry, UK and taxonomic implications for Megalosaurus bucklandii and Iliosuchus incognitus. Palaeontology 52: 857-877.

Benson RBJ. (2010). A description of Megalosaurus bucklandii (Dinosauria: Theropoda) from the Bathonian of the UK and the relationships of Middle Jurassic theropods. Zoological Journal of the Linnean Society, 158, 882-935.
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メガロサウルスの特徴(中編)


メガロサウルスの特徴(Benson (2010)による)

メガロサウルス・バックランディは、以下の歯骨の形質の組み合わせをもつメガロサウロイドである。13-14 本の歯骨歯;歯骨の3番目の歯槽が拡大していない;背面からみて歯骨がまっすぐで、前端が膨らんでいない;歯骨の側面の神経血管孔の列が浅い縦の溝に収まっている;歯間板は高く癒合していない;2個のメッケル孔;メッケル溝は浅い。
 メガロサウルス・バックランディはまた、参照標本に基づいて同定された以下の固有形質をもつ:第1、3、4、5仙椎の椎体の腹側面が一様に丸い;第2仙椎の椎体の腹側面に縦の稜がある;肩甲骨の中程に背側を向いたフランジがある;腸骨の中央稜median ridgeの側面に後背方に傾いた溝の列がある;ほとんど平坦な内側面をもつ前後に厚い座骨エプロンischial apron;顕著な粗い座骨結節ischial tubercle;中足骨IIとIIIの間の関節面に、「溝と稜」構造がある。
 メガロサウルス・バックランディは他のメガロサウルス科のメンバーにはみられない形質として、含気性の頬骨、歯骨の3番目の歯槽が拡大していない、などを示す。また他のメガロサウロイドにはみられない特徴として、上顎骨の前方突起が前後に短く丈が高い。




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上顎骨
Stonesfieldからはレクトタイプの歯骨の他に、2個の上顎骨(OUMNH J.13506, J.13559)が見つかっている。この2つの上顎骨は同じ特徴を示し、また他の産地からの上顎骨も同じ特徴を示すことで、メガロサウルスと同定されている。つまりメガロサウルスの上顎骨の特徴としてDiagnosisに収録されてよいように思うが、Benson (2010)には入っていない。Benson (2009) によると上顎骨の特徴(ユニークな形質の組み合わせ)は、13本の歯;上顎骨の外側面がなめらかである;歯間板の内側面に粗い条線がある;前方突起は前後の長さよりも丈が高い、の4つである。この上顎骨と歯骨が同じ種類と考えてよいかどうかについては、Benson (2009)の中で詳しく解析されている。歯槽の数、歯間板の形、歯の形状(鋸歯密度、エナメルのしわなど)が対応しているという。
 最も完全な上顎骨はOUMNH J.13506で、多くの歯が保存されている。また頬骨突起と鼻骨突起も他の化石より多く保存されている。上顎骨の腹側縁はS字状で、前方でわずかに凸に、後方でわずかに凹にカーブしている。他のほとんどのメガロサウロイドと異なり、前方突起は背腹に高く、前後に短い。他のメガロサウロイドでは前方突起は前後に長く、丈が低い。この上顎骨は前方突起が短いことから、過去にシンラプトル科ではないかとか、アベリサウロイドかもしれないといわれたことがある。
 13個の歯槽があり、腹側からみて亜楕円形をしている。OUMNH J.13506では1、4、6、7、9番目の歯槽に成熟した歯がある。5番目と8番目の歯槽に成長中の歯がある。歯槽の内側には癒合していない歯間板があり、歯間板は幅に対して丈が高い。歯間板の高さはアクロカントサウルスやトルボサウルスのような大型の獣脚類と似ており、体長が同じくらいのアフロヴェナトルやアロサウルスよりも高い。
 メガロサウルスの上顎骨の歯間板の内側面には、粗い縦の条線longitudinal striationsがある。これはアベリサウルス類と同様である。ただし、アベリサウルス類では上顎骨と歯骨の両方の歯間板に条線があるが、メガロサウルスでは歯骨の歯間板の内側面はなめらかである。
 上顎骨の内側面で鼻骨突起のつけねの後方に、2つの含気性の窪みがある。同じような含気性の窪みは、アフロヴェナトルやピアトニツキサウルスにみられる。ドゥブレウイロサウルスとトルボサウルスにはみられない。
 上顎骨の外側面はなめらかである。前眼窩窩はゆるやかな凹みで、境界はあまりはっきりしない。前眼窩窩の中には卵形の、貫通していないmaxillary ‘fenestra’(トルボサウルスの論文ではmaxillary fossa)がある。promaxillary foramenがあるかどうかは、保存が不完全なためわからないという。





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歯骨
レクトタイプOUMNH J.13505はほとんど完全な右の歯骨であるが、後方は一部欠けている。背側からみると歯骨はまっすぐで、内側にカーブしているアロサウルスの歯骨とは異なる。側面からみると腹側縁は微妙にS字状にカーブしている。
 11個の歯槽が保存されており、後方にもっとあったと思われる。かつてはアロサウルスとの比較から、全部で12-13と推定されていた。現在では、同じメガロサウルス類であるドゥブレウイロサウルスと比較されている。ドゥブレウイロサウルスの歯骨には全部で13個の歯槽があるが、メガロサウルスで折れている部位と対応する部位より前方には10個ある。つまりそれより後方には3個ある。そのためメガロサウルスでは11+3で、14 くらいあったと推定されている。歯槽は背側から見て楕円形をしている。4番目の歯槽が最も大きく、最も前後に長いが、横幅は広がっていない。3番目と5番目の歯槽では横幅が広くみえるが、これは交代歯のために歯槽の壁が吸収されている状態で、本来の形ではない。特徴として「3番目の歯槽が拡大していない」と書いてあるということは、他のメガロサウルス類では拡大している、ということである。メガロサウロイド(メガロサウルス上科のメンバー)であるバリオニクス、ドゥブレウイロサウルス、エウストレプトスポンディルス、マグノサウルス、トルボサウルスでは、3番目の歯槽が最も大きく、側方に拡大している。それに対してメガロサウルスでは、メガロサウルス類にしては珍しく、拡大していないという意味である。
 歯骨の内側で、歯間板と歯骨の内側壁の間にdental arteryの通る溝があり、これをparadental grooveという。メガロサウルスでは、前方でparadental grooveが開いており、5番目の歯槽までは歯間板と歯骨の内側壁の間にすきまができている。それより後方では閉じており、歯間板と歯骨の内側壁は密着している。このパターンはメガロサウロイドの特徴で、ドゥリアヴェナトル、エウストレプトスポンディルス、ドゥブレウイロサウルス、バリオニクスにみられる。アロサウルスでは、全長にわたってparadental grooveが開いている。トルボサウルスでは、全長にわたって閉じている。
 メガロサウルスでは、このparadental grooveの状態と3番目の歯槽が拡大していないことを併せ持つことがユニークな特徴をなす。つまりメガロサウルスは、メガロサウルス類らしくないメガロサウルス類ということになる。

歯骨の外側面については、レクトタイプは保存状態がよくないが、BMNH R8304 と R8305をみると、広く浅い縦の溝longitudinal grooveの中に神経血管孔の列がある。これはトルボサウルスと同様である。他の多くのメガロサウルス科では、はっきりした細い溝になっている。
 レクトタイプではメッケル溝の前方に2個のメッケル孔Meckelian foramenがあり、1つは円形で、もう1つはスリット状になっている。これはBenson et al. (2008)では固有形質とされたが、多数のアロサウルスの標本をみると個体変異があることから、Benson (2010)では固有形質ではないと訂正している。


私の持っている安物のレプリカでは、さすがにレクトタイプの写真と同じというわけにはいかない。しかし、全然だめというわけでもない。2個のメッケル孔は、1個が円形で1個がスリット状なのが確認できる。歯槽の形は少しアバウトになっているが、大体は確認できる。paradental grooveの前半部分はなんとか分かる。4番目から5番目のあたりは厳しいというか、わからない。後方の閉じている部分もつらいが、そう思って見ると密着している雰囲気は感じられる。
 このメガロサウルスの歯骨レプリカはSecond Natureというメーカーでも販売しているようだが、カタログの写真を見る限り、似たようなレベルで期待はできない。皆さんも、お手持ちのレプリカで特徴を観察していただきたい。




つづく
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メガロサウルスの特徴(前編)


先日の地球ドラマチック「イギリス恐竜図鑑(1)」の中で、メガロサウルスの標本を並べるシーンがあった。歯骨と上顎骨が置いてあるところに、前上顎骨を並べていた。オックスフォード大学自然史博物館には、確かにこれらの骨の展示があるらしいが、結論からいうとこの前上顎骨はメガロサウルスではないはずである。歴史的にどこかの時点でメガロサウルスとされたが、後に除外された標本と思われる。また上顎骨もバックランドのオリジナル(シンタイプ)にはなく、後から追加されたものである。それでは現在、どの標本までがメガロサウルスなのだろうか。そして何がメガロサウルスの特徴なのだろうか。
 「メガロサウルスは、初めて学問的に記載された恐竜なんだよ。」とウンチクを語りたいお父さんも、子供に「特徴は何なの?」と訊かれて一言も答えられないようでは困るのではないか。「ええと、断片的だから‥‥大きな頭には鋭い歯があって、前肢は短くて後肢は長くて‥」「それは一般的な獣脚類の特徴だよ!」「‥‥」

 英語版Wikipedia には100個もの参考文献があるが、Benson (2010) の論文を中心に読めば大体のことは分かる。これは、断片的な化石が多数ある場合に、どこまでを同じ種類とすればよいのかという、難しい問題の1つの例である。メガロサウルス自体よりもむしろ、そういう場合にどう考えればよいのかという考え方の面で、勉強になる研究と思われた。
 もう1つ、恐竜マニアの方々の中には、メガロサウルスの歯骨のレプリカをお持ちの方もおられるだろう。私もコピーのコピーのようなものを持っているが、どこが特徴なのかがわかれば、より楽しめるというものである。


メガロサウルスの危機

「世界最大の」や「ジュラ紀最強の」といった称号は、恐竜研究の進展によって変わってくるが、「最初に記載された恐竜」の名誉は不滅である。それほどの栄誉に恵まれたメガロサウルスだが、断片的な化石しか発見されないために、たえず研究上の困難がつきまとっていた。10年ほど前にも大変な危機に見舞われたようで、メガロサウルス自体が疑問名になりかねなかった。イギリスのプライドをかけたBensonらの精力的な研究によって、メガロサウルスは死守された。
 メガロサウルス属(Buckland, 1824)とメガロサウルス・バックランディMegalosaurus bucklandii(Mantell, 1827)は、イギリス・オックスフォードシャーのStonesfieldのジュラ紀中期の地層から発掘された一連の化石(シンタイプ)に基づいて記載された。その後、メガロサウルス属は世界中の獣脚類がとりあえず命名される、悪名高い「ゴミ箱」にされたことは有名であるが、メガロサウルス・バックランディに限っても、いろいろな化石がそう呼ばれた。イギリスやフランス北部のジュラ紀中期から白亜紀前期の、様々な産地からの多数の標本が、メガロサウルス・バックランディと呼ばれ、混乱を極めていた。そこでvon Huene (1923) によって、メガロサウルス・バックランディはオリジナルの地層であるStonesfield Slateからの化石に限定された。これらの標本はいずれも、同一個体ではない大型獣脚類の分離した骨の化石である。Holtz らの系統解析(Holtz 1994, 2000; Holtz et al. 2004)はこれに基づいて行われた。
 ところが、Allain and Chure (2002) は、Stonesfield産の大型獣脚類の骨には複数の種類が混じっていると提唱した。またDay and Barrett (2004) も大腿骨には2種類のタイプがあると確認した。つまり、メガロサウルス・バックランディの一連の標本は、キメラの可能性があるため系統解析に用いるべきではなく、その学名はレクトタイプの歯骨に限るべきと考えられた。これらの研究者は、歯骨だけからは他の獣脚類と識別できる特徴を見いだせなかったため、メガロサウルス・バックランディを疑問名nomen dubiumとした。これを受けてBenson et al. (2008) はレクトタイプの歯骨を再検討した結果、2つの特徴を見いだしてメガロサウルス・バックランディは有効な分類名とした。ただし、メガロサウルス上科の特徴はみられなかったため、系統的位置は不明の獣脚類とした。そのため、メガロサウルス科Megalosauridaeという用語も用いるべきでないとされた。つまり、歯骨だけになってしまったので、メガロサウルスがトルボサウルスやアフロヴェナトルなどのメガロサウルス類と近縁であるのかどうかも、わからなくなってしまった。
 大変な事態である。イギリスはジュラ紀中期の獣脚類化石を最も豊富に産出する地域なのに、メガロサウルスが同定できなかったり、系統が不明のままでは研究が進まないことになる。

そもそも19世紀以来の長い研究史の中で、メガロサウルスとされる多数の標本は、包括的に記載されてこなかった。特に、他の獣脚類と徹底的に比較した上で、固有形質や形質の組み合わせによって同定できる特徴(標徴形質)を定めるという作業が行われていなかった。一部の研究者は、メガロサウルスは断片的なため、他の獣脚類と識別できる特徴はないと記していた。
 Bensonはまず、Stonesfield のTaynton Limestone Formationから産出した獣脚類化石を徹底的に再検討した。その結果、Allain and Chure (2002)などが指摘した大腿骨などの形態的差異は、死後の変形や個体変異によるものと考えられ、分類学的に意味のある違いはみられなかったことから、Stonesfieldの大型獣脚類化石は1種類であると結論した(Benson, 2009)。これによりStonesfieldの多数の標本はメガロサウルスと考えられ、これらの研究によってメガロサウルスの特徴が定められた。するとその特徴を用いて、イギリス各地の同時代(ジュラ紀中期バソニアン)の地層からの標本の一部がメガロサウルスと同定された。


どこまでがメガロサウルスか

どんな恐竜本にも載っている、有名なメガロサウルスの模式標本(歯骨)は、ホロタイプではなくレクトタイプと呼ばれる。分類学を学んだ方には蛇足であるが用語説明を付する。
[用語(シンタイプ、レクトタイプ、パラレクトタイプ)]
原記載者が、ホロタイプを指定しないで複数の標本を記載した場合、そのすべてがシンタイプsyntypeと呼ばれる。原記載者がホロタイプを指定しなかったり、ホロタイプが失われたり、異なる種類が混じっているなどの誤りがあった場合に、後の研究者によって基準として選び直された標本をレクトタイプlectotype(選定基準標本)という。シンタイプの1つがレクトタイプに選ばれると、残りの標本はパラレクトタイプparalectotypeとなる。
 メガロサウルスの場合、Buckland (1824)が記載した一連の標本がシンタイプである。後にMolnar et al. (1990)の提案によって、歯骨がレクトタイプに指定され、残りの骨がパラレクトタイプとなった。

レクトタイプOUMNH J.13505 は、右の歯骨である。
パラレクトタイプには、1本の歯(所在不明)、後方の胴椎、仙骨、前方の尾椎、胴椎前方の肋骨、胴椎中後方の肋骨、右の腸骨、右の恥骨、左の座骨、右の大腿骨、左中足骨IIの遠位部が含まれる。Buckland (1824)はその他に、獣脚類のものではない骨の断片をメガロサウルスに含めていたが、それらは除外された。

その他に、Stonesfield産の以下の標本がメガロサウルス・バックランディと呼ばれる。2個の左上顎骨、右の頬骨、右の下顎後部断片、分離した歯、後方の胴椎、2個の仙骨、2個の仙骨断片、2個の前方の尾椎、3個の中央の尾椎、肋骨、左の肩甲烏口骨、4個の右の肩甲烏口骨、右の烏口骨、烏口骨の断片、左の上腕骨、右の上腕骨断片、左の尺骨、末節骨、5個の右腸骨、左の腸骨、右の恥骨、左の座骨断片、3個の右大腿骨、3個の左大腿骨、3個の右脛骨、3個の左脛骨、2個の左中足骨II、右の中足骨III、左の中足骨IV 。

Stonesfield以外の産地としては、グロスタシャーのNew Park QuarryのChipping Norton Limestone Formationなどがある。New Park Quarry産の左の上顎骨と部分的な仙骨は、Stonesfield産の骨と同じ特徴を示すので、メガロサウルス・バックランディと呼ばれる。New Park Quarryからは他にもメガロサウルスとほとんど同じような大型獣脚類の骨が見つかっているが、特徴がないために暫定的にメガロサウルス・バックランディとされるに留まる。

グロスタシャーのOakham QuarryのChipping Norton Limestone Formationからも化石が見つかっており、そのうち左の座骨と左の中足骨IIIはStonesfield産の骨と同じ特徴をもつので、メガロサウルス・バックランディと呼ばれる。しかし、Oakham Quarryの大型獣脚類の骨には異なる種類と思われるものがあるので、同定できない骨はメガロサウルスと呼ぶことはできないという。(このあたり、ちょっと不安にさせるものがある。)

グロスタシャーの産地不明のChipping Norton Limestone Formation(おそらくはNew Park Quarry)から産出した、左の上顎骨と2個の左の歯骨は、特徴からメガロサウルス・バックランディと同定できる。他の化石は同定できないので、メガロサウルス・バックランディと呼ぶことはできない。

その他、Sarsgrove のGreat Oolite Group からの右中足骨IIIと、Workhouse Quarry のSharp’s Hill Formationからの右肩甲骨は、特徴からメガロサウルス・バックランディと同定される。

Benson (2010)の骨格シルエットでは、上顎骨、頬骨、肩甲烏口骨、上腕骨などがあるのでStonesfield産の標本で構成されていると思われるが、微妙に控えめである。末節骨は描かれていない。中央の尾椎は3個はあるはずだが、同じ位置のものが重複しているということか。
 結局、Stonesfield産の大型獣脚類はメガロサウルス。他の産地のものは、同じ特徴を示す標本がメガロサウルスで、同定できないものはそうはいえない、という状態である。
 Oakham Quarryのように異なる種類が存在するということは、同時代のイギリスに他の大型獣脚類が生息していたということだから、Stonesfield産の標本の中にも区別できない近縁種が混じっている可能性は否定できないのではないか。現在のところ、1種である可能性が最も高いということだろう。関節状態でも交連状態でもなく単離した骨というところに、次元の違う困難さがある印象である。

つづく
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コレクタ社の獣脚類2016





コレクタ社のスピノサウルス・スイミングは、頸、胴の長さ、後肢のきゃしゃな感じなど、いま特別展で展示されているイブラヒム復元に忠実に作られているようだ。まだら模様はいらないかな。結構売れているようですね。

購入してみて気に入ったのは、メトリアカントサウルス。全体としてシンラプトルかヤンチュアノサウルスのイメージであるが、背中に沿ったトゲや歯などもかなり精巧に作られていて、大きさと価格のわりには良いのではないだろうか。コレクタ社にしては(失礼)秀逸な作品の一つと思った。ヤンチュアノサウルスに見立てても良いでしょう。

シオングァンロン(グ)も、顔の模様はいらないけど良くできている。ただ、上から見ると腰幅が広すぎると思うが、どうしてこのような安産型なのだろうか。

コレクタ社といえば、マニアにしか受けないマイナーな種類を、ためらいもなく商品化してしまう姿勢には好感がもてるが、作ればいいってもんでもない感がある。ついに、ビスタヒエヴェルソルも作ったようだが、購入は控えた。ノアハートクラブが総代理店のはずだがそににはなくて、なぜかシュライヒランドのコレクタランドにあった。
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地球ドラマチック「イギリス恐竜図鑑(2)」


2回目も満足できました。スカイ島の足跡、ケティオサウルス、プロケラトサウルス、ワイト島のネオヴェナトル対マンテリサウルス、ダケントルルス、ジュラシックコーストでのアマチュア化石コレクターの活動、最後に新種の獣脚類と、申し分のない構成でした。
 プロケラトサウルスの頭骨はレプリカが欲しい(笑)。昔、オルニトレステスと近縁と思われた頃に比べると、ややがっしりした体型になったようだ。Steve Brusatteが、前上顎骨歯が小さいなどのティラノサウロイドの特徴をちゃんと解説していたのが素晴らしい。
 ネオヴェナトルのCGも良かった。顔のアップで見るとカルカロ系で迫力があり(まあアクロカント似か)、引きで全身像をみるとややほっそりしている。確かにネオヴェナトルだ。ただ、ネオヴェナトルがマンテリサウルスの頸に咬みつくシーンなど、同じ映像を3回くらい使っていましたね。最後の咆哮は1回だった。ネオヴェナトルの椎間板の治癒痕とか、マンテリサウルスの神経棘についた歯型は初めて見た。
 このように完璧にCGが作られると、参考にしないわけにもいかないが、CGを見てその通りにイラストを描くのも気がひける。イメージが確立するのは嬉しいが、誰が描いても同じようになるのは面白くない気もする。
 エピソード1、2を合わせるとやはり相当な作品ですね。間違いなく、イギリスの恐竜ファンや子供たちに良い影響を与えることでしょう。

2014年にラヴァーノックで発見されたジュラ紀初期の新種の獣脚類とは、最近記載されたドラコラプトルですね。かなり基盤的な新獣脚類のようです。(まだちゃんと読んでない)PLOS ONEなので無料で読めます。
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オルニトミムス・ヴェロクス


オルニトミモサウリアの中で最初に記載された種類が、オルニトミムス・ヴェロクス Ornithomimus velox である。これは、コロラド州のマーストリヒト期のDenver Formationから発掘された部分的な後肢に基づいて、Marsh (1890)によって命名された。Marsh (1890)はこの論文で、ホロタイプと同じ個体のものと推測される部分的な手の骨についても記載し、オルニトミムス科Ornithomimidae を樹立した。現在、オルニトミムス科にはアジア産のアルカエオルニトミムス、シノルニトミムス、アンセリミムス、ガリミムス、キパロンと、北アメリカ産のストゥルティオミムス、オルニトミムスの7属が知られている。
 オルニトミムス属には、現在2つの種が認識されている。オルニトミムス・エドモントニクスOrnithomimus edmontonicusとオルニトミムス・ヴェロクスである。Sternberg (1933)により命名されたオルニトミムス・エドモントニクスについては、多数のほとんど完全な骨格が知られている。一方でオルニトミムス・ヴェロクスは、断片的であること、小型で幼体の可能性があること、クリーニングが完全でないことなどから、本当に有効名なのか(エドモントニクスと同一ではないのか)という疑問が拭えなかった。Marsh (1890)の描いたスケッチには、実物で観察できないはずの部分の詳細が描かれているなど、一部は不正確・不適切であると考えられた。そこで、Claessens and Loewen (2016) はオルニトミムス・ヴェロクスの標本を完全にクリーニングし、再記載を行った。その結果、オルニトミムス・ヴェロクスはやはり有効な種であると結論している。

ホロタイプYPM 542は、左の脛骨の遠位部、距骨、踵骨、左足の一部つまり中足骨II, III, IVと足の指骨II-1, II-2, II-3 である。参照標本YPM 548は部分的な左手で、中手骨 I, II, III と手の指骨 I-1, II-1, III-1 を含む。
 Marsh (1890) は、後肢YPM 542と手 YPM 548は同じ採集地で近くから発見されており、おそらく同じ個体のものだろうと記している。しかし、手が小さかったことと、当時はオルニトミムス類の解剖学について全く情報がなかったため、手は後肢とは別の若い個体のものである可能性も考えて、慎重に別々の標本番号を付けた。その後、多数のオルニトミムス類の化石が発見され、オルニトミムス・ヴェロクスの足と手の大きさの比率は、他のオルニトミムス類と一致した。そのため現在では、後肢と手を別の個体とする根拠はなくなっている。しかし研究初期に別々のものと考えられたため、オルニトミムス・ヴェロクスを論じる際に手の標本は除外されていた。さらに、Marsh (1890)が提示した固有の形質はすべて、後に発見されたオルニトミムス・エドモントニクスと共通のものであったため、ヴェロクスの有効性は疑問とされてきた。今回、Claessens and Loewen (2016)は、(Marshを尊重して別々の標本番号を用いるが)現在の知見に照らして後肢と手は同一個体のものであり、またオルニトミムス・ヴェロクスは有効であると述べている。

オルニトミムス・ヴェロクスは、以下の固有形質をもつオルニトミムス科の動物である。中足骨が相対的に短く太く、中足骨IIIの最大幅は知られているオルニトミムス科の中で最も大きい。中足骨IIIの骨幹の最大の前後幅/中足骨IIIの長さの比率は11%である。中足骨は手と比べて比較的短い。中足骨Iと中足骨II が接している部分は比較的短く、全長の1/4ほどである。

オルニトミムス・ヴェロクスの手では、中手骨Iが中手骨IIより少し長く、中手骨IIが中手骨IIIより少し長い(MC I > MC II > MC III)。このパターンはオルニトミムス属に特徴的なものである。北アメリカのオルニトミムス科であるストゥルティオミムスを含めて、他のすべてのオルニトミムス科のメンバーでは、中手骨Iが中手骨IIよりも短い。(アンセリミムスではIとIIはほとんど同じ長さであるという。)
 現在オルニトミムス・エドモントニクスとされている標本は、Kaiparowits Formation、 Dinosaur Park Formation、Horseshoe Canyon Formationから報告されており、7650万年前から6770 万年前までの900万年近い期間にわたっている。今回オルニトミムス属の中に少なくとも2種あることが確認されたことで、これらの標本は複数の種を含んでいる(species complex)可能性が考えられ、再検討が必要かもしれないとしている。

幼体である可能性については、骨表面の組織構造 surface texture を観察している。幼体では、急速な成長を表す、成長の方向に沿った平行な線条parallel striationsがみられる。成長が鈍化すると、まだらmottling や絡み合いinterweavingの構造が出現し、最終的には平行な線条がはっきりしなくなる。オルニトミムス・ヴェロクスの中手骨の表面を観察したところ、骨の成熟と関連した絡み合いのパターンがみられた。また足の中足骨にもみられたという。このことからこの個体は成体と考えられた。
 小型であるにもかかわらず、オルニトミムス・ヴェロクスの足は、オルニトミムス・エドモントニクスやストゥルティオミムスを含めた他のオルニトミムス類と比べてがっしりしている。一般に、獣脚類の成長過程では足の太さは増大する。またこのパターンはオルニトミムス科のシノルニトミムスでも観察されている。従って、もしもオルニトミムス・ヴェロクスの足が成体でないとすれば、その頑丈さは成長過程でさらに増大し、成体ではもっと太くなることになる。ストゥルティオミムスでは、マーストリヒト期の標本が最も大型であるが、マーストリヒト期のオルニトミムス・ヴェロクスはオルニトミムスの中で最も小型であり、このグループでの小型化の例かもしれないという。


参考文献
Leon P. A. M. Claessens & Mark A. Loewen (2016) A redescription of Ornithomimus velox Marsh, 1890 (Dinosauria, Theropoda), Journal of Vertebrate Paleontology, 36:1, e1034593, DOI: 10.1080/02724634.2015.1034593
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地球ドラマチック「イギリス恐竜図鑑(1)」


NHK地球ドラマチック「イギリス恐竜図鑑」、良かったですね。英国自然史博物館やオックスフォード大学博物館などに行きたくなります。
 バリオニクス、メガロサウルス、イグアノドンまでは予想通りとして、まさかヌテテスとは。。。ヴェロキラプトルそっくりの骨格図のイメージが出ていましたが、歯と顎の断片だからなあ。ヨーロッパでは他にもヴェロキラプトル亜科とされる歯がありますが、Rauhut はドロマエオサウルス類の歯は原始的なティラノサウロイドの歯とも似ているので、ジュラ紀後期から白亜紀前期のイギリスあたりの歯については注意が必要といっているはずです。イギリスはかなり多くの恐竜に恵まれている国ですが、イギリスの恐竜ファンもやはりドロマエオが欲しいのかしら。
 スケリドサウルスの全身骨格は、文句無しにすごいですね。CG映像もやはり良くできている。メガロサウルスの縞模様なんかがいちいち良い。来週も楽しみです。
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ボレオニクス




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ボレオニクスは、白亜紀後期カンパニアン後期(Wapiti Formation, Unit 3)にカナダのアルバータ中西部に生息したドロマエオサウルス類で、2016年に記載された。
 アルバータ中西部のWapiti Formationには、様々な恐竜を含む典型的な白亜紀後期の動物相が保存されている。しかし種類を同定できるような特徴的な骨要素が乏しいために、Wapiti Formationの化石の分類は難しく、科レベルより細かく分類された化石はわずかしかない。これまでにハドロサウルス類エドモントサウルス・レガリスEdmontosaurus regalis と角竜類パキリノサウルス・ラクスタイPachyrhinosaurus lakustai が同定されている。パキリノサウルス・ラクスタイはパイプストーン・クリークPipestone Creekという場所のボーンベッドから、27体分もの骨が発掘されている。このパキリノサウルスの骨に混じって、いくつかの小型獣脚類の骨が発見された。研究の結果、これらの化石は新種のドロマエオサウルス類と同定されたので、Bell & Currie (2016)によって記載された。
 Boreonykus certekorumの属名は「北方の爪」で、古代ギリシアの北風の神Boreasが語源らしく、種小名は発掘調査をサポートしたCertek Heating Solutions(「サーテック暖房機器」会社名?)に対する献名ということである。

ホロタイプTMP 1989.055.0047は、右の前頭骨のみである。参照標本として前肢の末節骨II-3、後肢の末節骨II-3、後方の尾椎がある。さらに多数の分離した歯が暫定的に含まれている。末節骨などは、重複した骨がないことや大きさが一致することから、暫定的にホロタイプと同一個体と考えられるが、歯についてはおそらく別個体に由来するもので、同一種と考えることには注意が必要であるといっている。

ボレオニクスの固有形質は、前頭骨の上側頭稜supratemporal ridgeが、左右を合わせると他のドロマエオサウルス類よりも鋭い角度(55°)をなすことである。また次の形質の固有の組み合わせによって他のドロマエオサウルス類と識別される。長くほっそりした前頭骨;円弧をなす低い上側頭稜;上側頭稜のすぐ後方の領域がなめらかで後腹方に傾斜している。
 ボレオニクスは時代の近いサウロルニトレステスとは、よりがっしりした前頭骨、上側頭稜がS字状でないこと、前頭骨の後側方面に顕著な孔がないことで区別される。またドロマエオサウルスとは、長くほっそりした前頭骨、背面が平坦なこと、前方内側が鼻骨によって広く離れていないことで区別される。

ホロタイプは完全に近い右の前頭骨であるが、側面と後眼窩骨突起は破損している。前後に長い形状はサウロルニトレステスと似ており、比較的短いドロマエオサウルスの前頭骨とは異なっている。しかし、ボレオニクスの前頭骨は同じ大きさのサウロルニトレステスの前頭骨よりもがっしりしている(骨の厚みのようなことか)。背側からみると、ボレオニクスの前頭骨では前方の鼻骨との関節面が、2つのVが連なったような形をしている。(前方の幅広いVと後方の深いVである。)この形はサウロルニトレステスと似ている。一方、ドロマエオサウルスではこの形状が誇張されている(exaggerated とは、前方のVと後方のVがよりはっきり分離しているということらしい)。この形はツァーガンやヴェロキラプトルの鼻骨/前頭骨縫合とも異なっている。
 左右の前頭骨の縫合面interfrontal sutureのうち前方2/3の部分には、長くのびた溝があり、おそらく反対側の前頭骨の稜と結合していたと思われる。このようなtongue and groove構造によって、ドロマエオサウルス類の前頭骨はトロオドン類の前頭骨と区別される。トロオドン類の前頭骨では、この縫合面が全長にわたって、細かく指状に入り組んでいるfinely interdigitated 。
 後眼窩骨突起よりも前方では、前頭骨の背面はサウロルニトレステスと同様に平坦である。ドロマエオサウルスでは、ここに顕著な縦の溝sulcus がある。その結果、ボレオニクスの前頭骨はドロマエオサウルスにあるような矢状稜midline crestを形成しない。
 後方には上側頭窩の前内側縁をなす上側頭稜がある。この上側頭稜は正中線に向かって凹形のカーブをなす。このカーブはドロマエオサウルスとは似ているが、サウロルニトレステスのS字状のラインとは大きく異なっている。ボレオニクスでは、上側頭稜のはさむ角度が、他のすべてのドロマエオサウルス類よりも鋭い(55°)。

参照標本の後肢の末節骨II-3は、ドロマエオサウルス類に典型的な大きく発達したカギ爪である。それは薄く、強くカーブしており、外周に沿って測ると82 mmある。内側溝medial grooveと外側溝lateral grooveは非対称であり、内側溝は外側溝よりも背側を走っている。この非対称性は派生的なドロマエオサウルス類に典型的なものであり、原始的なミクロラプトル類ではより対称に近い。また、メインの溝の腹側に、より短くはっきりしない溝がみられるが、これもドロマエオサウルス、サウロルニトレステス、ヴェロキラプトルのような派生的なドロマエオサウルス類に典型的なものである。屈筋結節はバンビラプトルよりはよく発達しているが、サウロルニトレステスやヴェロキラプトルと同様である。

ホロタイプと参照標本(分離した歯も含む)すべての標本を用いて系統解析した結果では、ボレオニクスはヴェロキラプトル亜科Velociraptorinaeとされるクレードに含まれた。ここではボレオニクスは、ヴェロキラプトル、ツァーガン、アダサウルス、アケロラプトルとポリトミーをなしている。しかし今回も含めカリーらの研究ではLongrich and Currie (2009)などのデータマトリクスに基づいているため、アメリカ自然史博物館のTurner et al. (2012) などの分岐図とは内容が全く異なっている。今回の分岐図ではヴェロキラプトル亜科とドロマエオサウルス亜科を合わせたクレードよりも外側に、アトロキラプトルとデイノニクスがきており、バンビラプトルとサウロルニトレステスはさらに外側に位置している。依然としてエウドロマエオサウリアの系統関係については、なかなか意見が一致しないようである。
 また、著者自身が注意が必要と述べている、分離した歯を除いて系統解析すると、ヴェロキラプトル亜科もドロマエオサウルス亜科も崩壊してしまったという。largely similar といっているが図は示していない。エウドロマエオサウリアの一種というくらいしかわからないということらしい。やはり断片的なものは難しいのだろう。


参考文献
Phil R. Bell & Philip J. Currie (2016) A high-latitude dromaeosaurid, Boreonykus certekorum, gen. et sp. nov. (Theropoda), from the upper Campanian Wapiti Formation, west-central Alberta. Journal of Vertebrate Paleontology, 36:1, e1034359, DOI: 10.1080/02724634.2015.1034359
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