goo

2023年カレンダー販売のお知らせ


2023年カレンダー「最近の獣脚類」を販売します。
「最近の」とは、新たに発見された新種だけでなく、再記載や再研究を含めて、何らかの形で話題になった種類を含みます。

開くとA3、閉じてA4(絵はほぼA4)サイズ。12ヶ月で16種類の恐竜入り。2700円+送料です。ご希望の方は
ytakahashi295@gmail.com

までご連絡ください。

体裁はこんな感じです。


内訳は、

表紙 ルカルカン 後期白亜紀 アルゼンチン

1 アロサウルス・ジムマドセニ 後期ジュラ紀 米国
2 ケラトスコプス 前期白亜紀 イギリス
3 オクソコ 後期白亜紀 中国
4 マイプ対ピクノネモサウルス 後期白亜紀 アルゼンチン
5 diving baryonichine 前期白亜紀 イギリス
6 アトロキラプトル 後期白亜紀 カナダ
7 チアンジョウサウルスとコリトラプトル 後期白亜紀 中国
8 メラクセス 後期白亜紀 アルゼンチン
9 アロサウルスとルソヴェナトル 後期ジュラ紀 ポルトガル
10 ラハスヴェナトルとバジャダサウルス 前期白亜紀 アルゼンチン
11 ダウルロン 前期白亜紀 中国
12 ダスプレトサウルス・ウィルソニ 後期白亜紀 米国


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ナトヴェナトル



ナトヴェナトル・ポリドントゥスNatovenator polydontusは、後期白亜紀(Baruungoyot Formation)にモンゴルのゴビ砂漠(Hermiin Tsav)に生息したドロマエオサウルス類(ハルシュカラプトル亜科)で、2022年に記載された。ホロタイプ標本は、ほとんど完全な頭骨を含む、大部分が関節した骨格である。ハルシュカラプトルと似ており、同様に半水生の生活をしていたと考えられた。

この発見により改訂されたハルシュカラプトル亜科の特徴は、背腹に扁平な前上顎骨、前上顎骨に多数の神経血管孔がある、前上顎骨歯が大きく密集し、遅延した置換パターンをもつ、前方の上顎骨歯が縮小している、外鼻孔が後退し背外側にある、非常に長く伸びた頸椎、前方の頸椎の後関節突起が癒合して葉状になっている、尺骨が扁平となり鋭い後縁をもつ、第2と第3中手骨が同じ太さである、などである。

ハルシュカラプトルとも異なるナトヴェナトルの固有派生形質は、前上顎骨の前端近くに幅広い溝がある;前上顎骨の鼻孔間突起internarial processが長く、鼻骨を覆い外鼻孔の後方まで伸びている;大きく切歯形の13本の前上顎骨歯;最前方の3本の上顎骨歯が縮小し密集している;外鼻孔が前後に長い(眼窩の前方部の30%);軸椎の側面に後側方を向いた突起がある;頸椎にプレウロシールがない;肋骨の基部が後側方を向き、また水平に近い;第2中手骨の中央がくびれているhourglass-shapedなどである。

前上顎骨には多数の歯があり、歯槽が骨の隔壁で仕切られることなく密集している。歯冠はハルシュカラプトルと同様に高く切歯形である。置換歯が大きいことから、前上顎骨歯の置換はハルシュカラプトルと同様に遅いと考えられた。ただしナトヴェナトルでは前上顎骨歯は13本で、ハルシュカラプトルの11本より多い。上顎骨では、最も前方の3本の歯が、前上顎骨歯や後方の上顎骨歯よりも顕著に小さい。このパターンはハルシュカラプトルにもみられるが、ハルシュカラプトルでは縮小した歯は2本である。上顎骨と歯骨の歯は鋭い牙状で鋸歯がなく、それぞれ23本以上と考えられた。

頸椎は10個だが一個一個が長く伸びている。そのためほとんどのドロマエオサウルス類よりも首が長く、頸椎全体は胴椎全体よりも長い。しかしハルシュカラプトルよりは短い(ハルシュカラプトルでは頸椎全体が胴椎+仙椎と同じ)。頸椎にはプレウロシールがない。一方ハルシュカラプトルでは、第7から第9頸椎にプレウロシールがある。


ナトヴェナトルの胴椎の肋骨は、かなり後側方を向いている。これは地上性の獣脚類と異なり、ウミスズメ、ウミガラス、アビ、ヘビウのような多くの潜水性の鳥類と似ている。これらの潜水性の鳥類では、後方を向いた肋骨は体を流線形にすることで、遊泳を助けている。この後方を向いた肋骨は鳥類のほか、半水生のカモノハシやタニストロフェウスにもみられる。一方、モササウルスやクジラ類のような完全に水生の四肢動物では、胸椎全体が傾いたり、胸郭が前方に集中することで全体として流線形を作り出すのに役立っている。つまりナトヴェナトルの肋骨は、半水生の動物の傾向を表している。

ナトヴェナトルの肋骨のもう一つの特徴は、基部が水平に近く幅広いアーチをなすことで、これは背腹に圧縮された樽状のbarrel-shaped胸郭を表す。これも半水生と推定されるスピノサウルス類やコリストデラ類にみられるという。このようにナトヴェナトルの肋骨はいずれも半水生の生態を支持する。

論文の生体復元図(Fig.5)にはアヒルのように水面に浮いた姿と、潜水して魚を追いかける姿の両方が描かれている。やはり潜水して泳いでいる姿勢の方が良いと思ったので、イラストはそうした。このアヒルのように浮いた姿は、羽毛の性質による。ガンカモ類は防水性の羽毛で空気を含むので、このように浮いていられるが、ウやヘビウの羽毛は防水性ではないため濡れてしまい、長時間水面に浮いていることはできないという。


参考文献
Sungjin Lee, Yuong-Nam Lee, Philip J. Currie, Robin Sissons, Jin-Young Park, Su-Hwan Kim, Rinchen Barsbold & Khishigjav Tsogtbaatar. (2022) A non-avian dinosaur with a streamlined body exhibits potential adaptations for swimming.
COMMUNICATIONS BIOLOGY | (2022) 5:1185 | https://doi.org/10.1038/s42003-022-04119-9 | www.nature.com/commsbio
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

アバター:ウェイ オブ ウォーター

(アバターの世界観を知っている人向けで、ネタバレあり)

IMAX 3Dで見る映像は素晴らしいが、尺が長すぎた。家族の絆、家族愛がたっぷりと描かれているのはよいが、話がなかなか進まない。最後の攻防で、人質としてデッキの手すりに繋がれた子供たちがどうなるのか心配していたが、戦いが延々と描かれてずいぶん経ってからようやく人質の子供たちに戻ってくる。またナヴィ族は人類とは酸素貯蔵能が違うのかもしれないが、また海の民に呼吸法を習ったにしても、水中で活動できる時間が長いような。。キリが見つけたエラ生物をまとうと、水中でも呼吸ができるのはいいのだが。ちなみにエイワと交信したキリが、超能力のようにイソギンチャクを操って戦うのは、子供向けな気がした。

海の民は、同じナヴィでも腕にひれ状のひだが発達し、しっぽが側扁している。海の民が乗る動物は一般にはプレシオサウルスのようなもので、戦士はトビウオ竜みたいなやつに乗る。しかし今回一番重要なパンドラ動物は、トゥルクン(セミクジラ)で、回遊してくるトゥルクンの群れと海の民の交流は重要なエピソードである。しかし本当はスカイピープル(地球人)に親を殺されたが、仲間を殺した疑いで孤立してしまうパヤカンという個体と、ロアクの心の交流とかも欠かせないのかもしれないが、少し長い。

スカイピープルによるトゥルクン漁のシーンは、トゥルクンの脳は感情を司る部分が人間より大きいなど、高度の知能と感情をもつことを知りながらも、漁に協力している研究者など、捕鯨そのものの描写である。脳下垂体?の分泌物(不老長寿の薬として高く売れる)だけを採取して、あとは捨ててしまうというのはいかにもかつてのアメリカ式の捕鯨である。

父ジェイクと母ネイティリの間に長男ネテヤム、次男ロアク、養女キリ、末っ子トゥクかな?の4人の子供がいて、ネテヤムは最後の戦いで敵に撃たれて命を失う。最後は沈没する敵の船から、ジェイクは問題ばかり起こしていたロアクに助けられ、ネイティリは変わり者と呼ばれたキリに救われるという、成長物語である。ただファミリー層向けの「家族が一番」のメッセージが過剰かなという気はした。

ショップではアバター関連商品も販売されていた。パンドラ生物は一番安いバンシー(イクラン)が2700円。今回登場しないサナターが3200円。トビウオ竜が4200円で、ある程度余裕のある層しか買わないだろう。塗装などの質を見るとそれほど欲しいとは思わなかった。高いと感じるのは、多少収まったとはいえ円安と世界的物価高で、日本人の購買力が落ちているのだろう。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ダスプレトサウルス・ホルネリ改



2017年には、ホルネリを甘く見ていた。あくまでダスプレトサウルスという系統の中のバリエーションというイメージだった。しかし今回の結果では、タルボサウルスやティラノサウルスへとつながる移行形のような段階である可能性が出てきた。つまりこれは、ダスプレトらしく描いてはいけないものだった。特に涙骨はトロススとは全く異なり、ティラノサウルスの亜成体のようなよくわからないものである。発見当初は、時代が古いにもかかわらず、ティラノサウルスではないかと言われた標本だったことを思い出した。眼窩の方向も、タルボサウルスやティラノサウルスに近づいていたようである。前前頭骨の方向も同様の傾向を表すのだろう。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ダスプレトサウルス・ウィルソニ



ダスプレトサウルス・ウィルソニは、後期白亜紀カンパニアン(Judith River Formation)に米国モンタナ州に生息した大型のティラノサウルス類で、2022年に記載された。

ホロタイプBDM 107 は分離した部分的な頭骨と胴体の骨で、左右の前上顎骨、右の上顎骨、頰骨、涙骨、方形骨、方形頰骨、歯骨、夾板骨、左の後眼窩骨、鱗状骨がある。その他に部分的な頚椎、仙椎、尾椎、1個の肋骨、1個の血道弓、1個の中足骨がある。頸椎と仙椎はまだクリーニング中であるという。

ダスプレトサウルス・ウィルソニの生息年代はおそらく約76.5 Ma で、ダスプレトサウルス・トロスス(upper Oldman Formation, 77.0 Ma )とダスプレトサウルス・ホルネリ(Two Medicine Formation, 75.0 Ma )の中間の時代と考えられた。

この標本は以下のような形質からダスプレトサウルスと同定された。上顎骨の表面が非常に粗く、盛り上がった稜や窪みはない(ティラノサウルスやタルボサウルスとは異なる);後眼窩骨の角状突起が外側側頭窓に近づいている;鱗状骨の後眼窩骨突起が外側側頭窓の前縁よりも後方で終わっている;歯骨の下顎結合面symphyseal surface が極めて粗い、である。

ダスプレトサウルス・ウィルソニの固有派生形質は、夾板骨のmylohyoid foramen という孔が細長いことであるが、その他にダスプレトサウルスとして祖先的な形質と派生的な形質の組み合わせを多数示す。つまりダスプレトサウルス・トロススとダスプレトサウルス・ホルネリのちょうど中間的な形態を表す。これはかなり細かいのでいくつかの骨について書き留める。

ダスプレトサウルス・ウィルソニの前上顎骨の歯列は、ダスプレトサウルス・ホルネリ、タルボサウルス、ティラノサウルスと同様に、ほぼ真横(内側外側)に並んでいるので、側面から見ると最も外側の1本だけがはっきり見えると考えられる(ウィルソニでは歯は1本しか保存されていないが、歯槽の配列から)。一方、ダスプレトサウルス・トロススやより基盤的なティラノサウルス類では、前上顎骨の歯列は前内側方向に並んでいる。トロススのホロタイプでは側面から見ると2、3本の歯が見える。つまりこの点ではウィルソニはトロススよりも進化的で、ホルネリなどと似ている。

涙骨の角状突起は、ダスプレトサウルス・ホルネリ、タルボサウルス、ティラノサウルス以外のティラノサウルス科と同様に、はっきりした頂点をもって背側に突出している。この頂点の位置は他のティラノサウルス亜科と同様に、涙骨の腹側突起の真上にある。ウィルソニの角状突起の高さは、トロススとホルネリの中間である。
 Carr et al. (2017) は、涙骨に余分の角状突起accessory cornual process があることが、ダスプレトサウルスの共有派生形質としている。しかし、この突起は他の種類にもみられる涙骨の眼窩上突起supraorbital process と区別できないものであるという。著者らがティラノサウルス、タルボサウルス、テラトフォネウスの涙骨の眼窩上突起を観察したところ、ダスプレトサウルスのものと同一と考えられた。よってこの余分の角状突起という形質は、定量的に示されない限り用いるべきではないといっている。


ウィルソニでは前前頭骨は保存されていないが、涙骨の前前頭骨との関節面から、その方向を知ることができる。それによるとウィルソニとトロススでは、前前頭骨は前後方向を向いている。これはゴルゴサウルス、テラトフォネウス、チアンジョウサウルスにもみられる。一方、ダスプレトサウルス・ホルネリ、タルボサウルス、ティラノサウルスでは、前前頭骨は前内側あるいは内側を向いている。つまりこの点ではウィルソニは、トロススと近く、ホルネリ以上とは異なる。

ウィルソニの後眼窩骨は、トロススと最も似ており、大きな角状突起が後方で外側側頭窓の前縁に近づいている。Carr et al. (2017) は、後眼窩骨の角状突起が外側側頭窓に近づいていることをダスプレトサウルスの共有派生形質とした。しかし、ホルネリのホロタイプでは後眼窩骨の角状突起は外側側頭窓に近づいておらず、むしろティラノサウルスやタルボサウルスのように離れている。
 同様にウィルソニとトロススで共有している形質は、後眼窩骨の角状突起が2つの突起に分かれていることである。眼窩の背側のsupraorbital shelf と、より後腹側にあるcaudodorsal tuberosity である。ホルネリでは角状突起が2つに分かれておらず、ひとかたまりになっている。

後眼窩骨の腹側突起は他のダスプレトサウルスと同様に先細りになっている。ティラノサウルス、タルボサウルス、ゴルゴサウルス、テラトフォネウス、アルバートサウルスでは大きな後眼窩骨の眼窩下突起が前方に突き出しているが、それはみられない。ダスプレトサウルスでも眼窩下突起が全くないわけではないが、他のティラノサウルス科に比べて非常に小さい。


新種といっても既に有名な属だし、ホルネリとトロススの中間ということで、それほど新鮮味はないのかなと思っていたが、これはダスプレトサウルスのとらえ方が変わるかもしれない、重要な研究だろう。今回の系統解析の結果では、ダスプレトサウルスがクレードにならず、多系群になっている。トロスス、ウィルソニ、ホルネリは最も進化したティラノサウルス類(タルボサウルスやティラノサウルスなど)を生みだすための「段階」のようになっている。このことについては、別の論文を投稿中なのでここでは触れないといっている。これらのダスプレトサウルスの各種類はアナジェネシスにより進化したというCarr et al. (2017) の仮説を支持しているが、アナジェネシスの過程が含まれた場合、分岐分析はどうなるのだろうか。分岐しないものに分岐分析を適用できるのだろうか。
 もし今後もこの分岐図が支持されるならば、ウィルソニとホルネリはそれぞれ、ダスプレトサウルスではなく別の属名を与えなければならなくなるとも述べている。いずれにしても今後の研究が楽しみである。


参考文献
Warshaw EA, Fowler DW. 2022. A transitional species of Daspletosaurus Russell, 1970 from the Judith River Formation of eastern Montana. PeerJ 10:e14461 DOI 10.7717/peerj.14461
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )