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モノロフォサウルスの再記載(頭骨)


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テタヌラ類の起源と初期の進化を探るには、ジュラ紀前期から中期が重要な時期であるが、この時期の化石記録は乏しい。その中で、中国のジュラ紀中期の獣脚類化石は非常に重要であるが、記載が不十分なために最近の系統研究には用いられないことが多い。

モノロフォサウルスは、ジュラ紀中期に中国新疆ウイグル自治区(ジュンガル盆地)に生息したテタヌラ類で、Zhao & Currie (1993) によって最初に記載された。Zhao & Currie (1993)は、モノロフォサウルスの形態には原始的な特徴と進歩的な特徴が入り混じっているとし、「アロサウルスに近縁なメガロサウルス段階‘megalosaur-grade’の獣脚類」とした。その後の多くの系統研究は、モノロフォサウルスをアロサウルス上科の中に位置づけてきた。しかし最近になって、Smith et al. (2007) の系統解析では、モノロフォサウルスはもっと基盤的なテタヌラ類とされた。そこでBrusatte et al. (2010) は、モノロフォサウルスの頭骨について、より詳細な再記載を行った(胴体については別の論文で記載)。

モノロフォサウルスの特徴は、一般向けには「頭骨の正中線上に一枚のとさかがある」で十分であるが、グァンロンなどが知られている現在、学問的にはどのように表現されるのだろうか。
 Brusatte et al. (2010) によると、モノロフォサウルスの頭骨についての固有の特徴は、(1)前上顎骨の鼻骨突起が、後方の鼻骨と接する部分で二つに分岐している、(2)前上顎骨の外側面に、鼻孔下孔subnarial foramenから鼻骨突起の基部の孔まで達する溝がある、 (3)鼻骨が盛り上がってとさかとなり、その背側縁はまっすぐで、上顎骨の腹側縁とほとんど平行である、 (4)鼻骨のとさかに2つの大きな、同じ大きさの含気窓pneumatic fenestraeがある、 (5)涙骨の背方に突出した、はっきりしたつまみ状の突起tab-like processがある、(6)左右の前頭骨を合わせると長方形で、長さよりも幅の方がずっと大きい(幅と長さの比率1.67)、であるという。
 とさかの他に、外鼻孔が非常に大きいことも特徴的である。これについてはティラノサウルス上科のグァンロンとプロケラトサウルスも、よく似た大きい外鼻孔をもっている。

Brusatte et al. (2010) は今回新たに得られたデータを含めて、Smith et al. (2007) の解析をもとに修正した系統解析を行い、やはりモノロフォサウルスはアロサウルス上科ではなく、より原始的なテタヌラ類と結論している。
 Smith et al. (2007) は、モノロフォサウルスをアロサウルス上科とする根拠として用いられてきたいくつかの形質は、実はアロサウルス上科以外の獣脚類にもみられることを指摘した。Brusatte et al. (2010) はさらに、アロサウルス上科の共有派生形質とされている多くの形質について、一つ一つ検討している。例えば、モノロフォサウルスではアロサウロイドと同様に、(a)前眼窩窩が鼻骨の側面に達している。しかしこの特徴は、原始的な獣脚類であるクリオロフォサウルス、ディロフォサウルス、マジュンガサウルスにもみられるという。またモノロフォサウルスとアロサウロイドでは(b)鼻骨の側面に含気孔pneumatoporeがある。しかし少なくともアベリサウルス類のマジュンガサウルスでは含気孔があり、また多くの基盤的獣脚類では鼻骨が見つかっていないため、この形質の共有派生形質としての使用は限定されるという。(c)方形骨が短いこともアロサウルス上科の共有派生形質とされており、モノロフォサウルスとアロサウロイドにはみられるが、他の獣脚類にもみられることがわかってきた。(d)頬骨の前眼窩窩の後腹側端に含気孔があることもアロサウルス上科の共有派生形質とされたことがあるが、これは大部分のアロサウロイドと基盤的なコエルロサウルス類であるティラノサウロイドにみられることから、アロサウルス上科の共有派生形質ではなく、より大きいグループ(アロサウルス上科+コエルロサウルス類)の共有派生形質とも考えられる。このように検討していくと、確実にアロサウルス上科の共有派生形質といえるものはほとんど残らず、アロサウルス上科が本当に単系統なのかという重大な問題になってくるという。

 一方、モノロフォサウルスの頭骨の原始的な形質としてSmith et al. (2007) は、後眼窩骨が眼窩の下端に達していること、鼻骨・涙骨に加えて前上顎骨が参加するとさかがあること、方形骨と方形頬骨の縫合が側面に露出することを挙げた。Brusatte et al. (2010) はさらに、涙骨に含気性の兆候がないこと、前眼窩窩に副次的な孔が一つしかないこと、頭骨が長いこと(長さと高さの比が3.0に近い)などを挙げている。

 あらためて側面図を見るとなかなかいい顔をしている。とさかには、鼻骨窓nasal fenestra (nfen), 鼻骨孔nasal foramen (nfor), 鼻骨こぶnasal knob (nk) などの部分があり、複雑な構造をしている。ディスプレイの他に上顎を強化する役割もあったのだろう。後の小型のティラノサウロイドのとさかを先取りするような進化をとげていた、といえるかもしれない。

参考文献
Brusatte, S. L., Benson, R. B. J., Currie, P. J., Zhao, X-J. (2010) The skull of Monolophosaurus jiangi (Dinosauria: Theropoda) and its implications for early theropod phylogeny and evolution. Zoological Journal of the Linnean Society, 158, 573-607.
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