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肉食の系譜
ピクノネモサウルスの再記載
「アベリサウルス類のアロメトリー」の記事で書いたように、ピクノネモサウルスはカルノタウルスを上回る最大のアベリサウルス類であるが、ピクノネモサウルス自体の特徴については調べていなかったので、あらためて簡単にまとめておく。現在でも本当に有効な属なのだろうか。単に大型のカルノタウルスということはないのだろうか。
ピクノネモサウルスは、白亜紀後期カンパニアンからマーストリヒティアン(Parecis Group)にブラジルのマトグロッソ州に生息した大型のアベリサウルス類で、Kellner and Campos (2002) によって記載されたブラジル初のアベリサウルス類である。しかし不完全な部分骨格であることと、当時知られていたいくつかのアベリサウルス類と比較されただけであったため、本格的な系統解析に用いられたのはずっと後のTortosa (2014) (アルコヴェナトルの研究)であるという。そこでDelcourt (2017) は、当時ピクノネモサウルスのホロタイプ標本として認識されていなかった骨要素も含めて新たに再検討し、多数の新しいアベリサウルス類の発見をふまえた現代的な視点から再記載を行った。その結果、ピクノネモサウルスは他のアベリサウルス類と異なる独自の特徴をもつ属としている。
ピクノネモサウルスのホロタイプは胴体の部分骨格で、2個の不完全な尾椎、4個の尾椎の椎体、3個の尾椎の横突起、肋骨、右の恥骨の遠位部、右の脛骨、右の腓骨の遠位部、未同定の骨要素からなる。Kellner and Campos (2002) は3個の尾椎の横突起をホロタイプに含めていなかったが、今回Delcourt (2017)が再検討した結果、これらをホロタイプに含めた。またKellner and Campos (2002)の原記載では5本の不完全な歯が含まれていたが、これらは分離して見つかっており、ピクノネモサウルスのホロタイプに含めることはできないとして除外された。
改訂されたピクノネモサウルスの特徴は、1)恥骨ブーツが小さく丸く、前端が腹方に傾いている、2)後方の尾椎の横突起が鉤状hook-shaped で遠位前端部分が短く曲がっている、3)脛骨の外果lateral malleolus がよく発達し腹側に伸びている、であるという。
尾椎
6個の尾椎は大きさが近いことなどから、いずれも前方の尾椎と考えられる。ピクノネモサウルスの尾椎は他のアベリサウルス類のものよりも大きく、椎体の関節面はケラトサウルス、カルノタウルス、アウカサウルス、エクリクシナトサウルス、イロケレシア、スコルピオヴェナトルと同様に円形である。一方、マジュンガサウルス、アルコヴェナトル、ラジャサウルスでは関節面が楕円形であるという。尾椎の椎体は糸巻き形で、他のアベリサウルス類と同様に側腔pleurocoel はない。椎体は他のアベリサウルス類と同様に両凹形である。
前関節突起はカルノタウルスやマジュンガサウルスと同様に、約45°傾いている。ピクノネモサウルスでは前関節突起が、カルノタウルス、アウカサウルス、スコルピオヴェナトルよりももう少し長く伸びていて、エオアベリサウルス、マジュンガサウルス、アルコヴェナトルと似ている。これらでは前関節突起が椎体の前端を超えて伸びている。一方、カルノタウルス、アウカサウルス、スコルピオヴェナトルでは前関節突起がちょうど椎体の前端に達している。
ピクノネモサウルスではハイポスフェン‐ハイパントラム関節が存在する。これはカルノタウルス、アウカサウルス、エクリクシナトサウルス、スコルピオヴェナトルと同様で、マジュンガサウルス、アルコヴェナトルとは異なる。
神経棘は不完全で、遠位端が欠けているが椎体の後半部の上にあり、そのプロポーションは他のアベリサウルス類と似ている。神経弓の全般的な形も他のアベリサウルス類と似ている。横突起の背方への傾きはカルノタウルス、アウカサウルス、スコルピオヴェナトルのようなフリレウサウリアのアベリサウルス類と似ており、マジュンガサウルス、アルコヴェナトル、エオアベリサウルスとは異なる。3個の分離した横突起には、遠位端の前方に突起がある。小さい(より後方の)横突起は鉤状hook-shaped で短く曲がった突起をもつ。この状態はアウカサウルス、イロケレシア、エクリクシナトサウルス、スコルピオヴェナトルと異なっている。これらの後方の尾椎の横突起の遠位端はもっと長く、直線的である。
恥骨
近位部分は保存されていない。遠位の恥骨ブーツは、カルノタウルスやアウカサウルスのように前後に伸びておらず、また前端が前腹方に傾いている。恥骨ブーツが短い点はエオアベリサウルスと似ている。
脛骨
ピクノネモサウルスの脛骨は大きく太く、その大きさはマプサウルスなどの大型獣脚類に近く、他のどのアベリサウルス類よりも大きい。脛骨の骨幹はゆるやかにカーブしているが、その曲がり方はエクリクシナトサウルス、キルメサウルス、ラヒオリサウルスと同様に微妙であり、スコルピオヴェナトルやアウカサウルスとは異なる。
脛骨突起cnemial crest は前方に大きく突出しており、背腹にくびれているので、アウカサウルスと同様に斧形hatchet-shapedをしている。その側面は凹んでいてlateral fossa をなしている。腓骨稜fibular crest はマシアカサウルスやエオアベリサウルスのように垂直であるという。これはカルノタウルスやアウカサウルスなどでは前後に少し傾いている。
脛骨の外果lateral malleolus はよく発達し、腹側に45°の傾きで伸びている。ピクノネモサウルスではこれが他のアベリサウルス類よりも顕著であるという。キルメサウルス、エクリクシナトサウルス、マジュンガサウルス、スコルピオヴェナトルにも腹側への膨らみはあるが、ピクノネモサウルスほどではないという。
系統解析
著者は新しく得られたピクノネモサウルスのデータを、Filippi et al. (2016) のデータセットに加え、修正した分岐分析を行った。その結果、ピクノネモサウルスは断片的な標本にもかかわらず、南米の進化型のアベリサウルス類のグループに含まれた。ただしピクノネモサウルスは、いくつか基盤的なアベリサウロイドと共有する形質ももっている。
ピクノネモサウルスの恥骨ブーツは前後に短く、尖った頂点がない点でエオアベリサウルスと似ている。しかし恥骨ブーツの後端は少し伸びていることから、これは原始形質ではなく二次的なものかもしれないという。
腓骨稜fibular crestが垂直である点は、ヘレラサウルス、ケラトサウルス、コエロフィシス、マシアカサウルス、エオアベリサウルスなどと共通しており、原始形質と考えられるという。
南米のアベリサウルス類らしい形質としては、尾椎の横突起の遠位端が前後に伸びており、尾椎の堅固さtail rigidityを与えている。後方の尾椎の横突起が鉤状であることから、これらのアベリサウルス類では尾椎の堅固さが尾のつけねの1/3を超えていた可能性がある。また横突起が背方を向いていることから、カルノタウルスで研究されているように、強力な尾大腿筋が付着しており、走行に役立っていた。また発達した脛骨の脛骨突起には、迂回筋、大腿脛骨筋、腸脛骨筋といった筋群が付着し、やはり走行に機能していたと考えられる。
ピクノネモサウルスの標本は、尾椎の神経弓と椎体が分離していること、脛骨と距骨が分離していることから、亜成体と考えられる。完全な成体はさらに大きいかもしれないと想像すると面白い。
最近の研究で、ブラジルの白亜紀後期の生態系には多様な獣脚類が存在していたことがわかってきた。ブラジルではカンパニアンとマーストリヒティアンの両方の地層から、メガラプトル類が発見されている。小型のマニラプトル類や、ピクノネモサウルスを含む複数のアベリサウロイドを合わせると、アルゼンチンに匹敵するくらい複雑な獣脚類相があったといえるようである。
感想として、ブラジル産の独自のアベリサウルス類であることはわかったが、断片的な化石はやはり難しいという印象である。新たにホロタイプに追加された尾椎の横突起が役立っているが、後方の尾椎といっても何番目の尾椎かはわからない。ピクノネモサウルスの3つの特徴のうち2つは、カルノタウルスとは比較できていない。カルノタウルスでは後方の尾椎が保存されていないので、横突起の形はアウカサウルスなどと比較している。また脛骨の外果についても、カルノタウルスでは脛骨の遠位端は保存されていないので比較できない。この部分はエクリクシナトサウルスやマジュンガサウルスのような比較的がっしり型のアベリサウルス類にみられるということは、大型化と関連しているのだろうか。しかし程度の問題だとすると難しい形質に思える。
ブラジルのアベリサウルス類が断片的なのは宿命なのか、少し前にブラジル初のカルカロドントサウルス類とされた上顎骨は、最近アベリサウルス類の可能性が高いとなったが、これは本当に上顎骨の断片である。また新種のアベリサウルス類として記載されたサノスは軸椎だけという状態である。これらはピクノネモサウルスと同種か同系統の種類なのだろうか。
参考文献
Delcourt, R. (2017) Revised morphology of Pycnonemosaurus nevesi Kellner & Campos, 2002 (Theropoda: Abelisauridae) and its phylogenetic relationships. Zootaxa 4276 (1): 001–045.
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コンプソグナトゥス類
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