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ススキティランヌス

 
片仮名でススキと書くと変な感じだが、Suskiは現地のズニ語でコヨーテの意味である。

ススキティランヌスは、白亜紀後期チューロニアン中期(Moreno Hill formation)に米国ニューメキシコ州に生息した小型のティラノサウロイドで、Nesbitt et al. (2019)によって記載された。同じ大きさの2個体の部分骨格が見つかっている。

ホロタイプは頭骨が主で、上顎と下顎(前上顎骨、上顎骨、頬骨、鋤骨、口蓋骨、歯骨、関節骨、上角骨と方形骨の一部)、脳函の断片、2個の頸椎、中足骨の一部、その他の断片的な骨からなる。パラタイプは頭骨の一部の骨(歯骨、前頭骨、後眼窩骨)とまばらな頸椎、胴椎、仙椎、尾椎、肩甲骨、末節骨の断片、恥骨の一部、比較的完全な後肢からなる。重複した歯骨、頸椎などの特徴が一致し、どちらもティラノサウロイドの形質を示すことから、同一種として記載されている。

ススキティランヌスの固有形質は、1)大腿骨の遠位の関節顆の幅が非常に狭いこと(他のティラノサウロイドでは関節顆がもっと丸く、幅広い)、2)脛骨の近位端の内側顆が後内側に曲がっていること(他のティラノサウロイドでは内側顆がまっすぐ後方を向いている)である。これらは2つともパラタイプにのみみられる形質である。
 ホロタイプについては、形質の固有の組み合わせで他のティラノサウロイドと区別されるという。上顎骨の本体main bodyの丈の高さが一定である、上角骨に厚いlateral shelfと小さい孔foramenがある、頸椎の神経弓が背面からみてX字形で、神経棘が前後に短い、アルクトメタターサルな足などである。

成長段階についても解析している。ホロタイプとパラタイプはほとんど同じ大きさなので同列に扱っている。神経弓と椎体の癒合については、頸椎、前方の胴椎、後方の尾椎では癒合していたが、後方の胴椎、仙椎、前方の尾椎では癒合していなかった。このことから未成熟な個体と考えられた。
 大腿骨の組織切片を作製すると、3本の成長線が観察され、成長速度が低下する兆候はみられなかった。つまり活発に成長している状態の幼体と考えられた。同じように少数の成長線は大型ティラノサウルス類の幼体にもみられるが、ススキティランヌスの切片では骨組織や血管の分布状態が大型ティラノサウルス類の幼体とは異なっていた。このことからススキティランヌスの組織像は小型の獣脚類のものと似ており、成長しても大型のティラノサウルス科のサイズには達しないこと、成長速度は大型ティラノサウルス類よりは遅く、グァンロンのような小型のティラノサウロイドと似ていることが示唆された。つまりススキティランヌスの成体の大きさを推定するのは難しいが、カンパニアン以後の大型ティラノサウルス類よりはずっと小さいだろうといっている。

頭骨は小さく推定25-32 cmで、長く丈の低い吻をもつ。吻の先端はU字形で、すべての前上顎骨歯が内側外側方向を向いている。これはシオングァンロンと白亜紀後期のティラノサウルス類の特徴であるという。他のすべてのティラノサウロイドと同様に、前上顎骨は短く、上顎骨の長さの10%よりも小さい。
 初期のティラノサウロイドやシオングァンロンと同様に、上顎骨は長く丈が低い。上顎骨の腹側縁は、初期のティラノサウロイドと同様にまっすぐである。シオングァンロン、ティムルレンギア、後のティラノサウルス類では腹側に凸にカーブしているという。
 上顎骨の本体は、ほとんど全長にわたって比較的一定の高さを保っている。これは初期のティラノサウロイドやシオングァンロンと同様で、ティムルレンギアや大型ティラノサウルス類と異なる。上顎骨の側面には前眼窩窩が発達しており、大きなmaxillary fenestraと損傷ではっきりしないpromaxillary fenestraがある。

前頭骨は前後に長く、長さ/幅の比率が2.0 より大きく、また眼窩に広く面している。これらの形質はグァンロンやディロングと共通している。後のティラノサウロイドでは前頭骨が短くなり、眼窩の縁に面するのは小さい切れ込み状の部分だけになる。
 歯骨は前方に向かって先細りで、ティラノサウルス科のような前腹側の突起(おとがい)はない。上角骨のlateral shelfが厚いことは、エオティランヌス以後のティラノサウロイドにみられるという。上角骨のposterior surangular foramen は小さい孔として存在する。グァンロンやディロングにはこの孔がない。一方ドリプトサウルスやティラノサウルス科ではこの孔が大きく、窓状に拡大している。

前上顎骨歯は4本で、上顎骨歯よりもかなり小さく、後縁がまっすぐで断面がD字形である。上顎骨歯は13本で、後方に反っていて、前縁と後縁の両方に細かい鋸歯がある。歯骨歯は16本ある。

頸椎の神経棘が前後に短いので、背面からみて神経弓がX字形にみえる。この特徴はティラノサウルス科にはみられるが、シオングァンロン以前のティラノサウロイドにはみられない。

大腿骨頭は多くのティラノサウロイドと同様に(直角に内側でなく)背方に傾いている。大腿骨の遠位端の伸筋溝extensor grooveは浅く凹んでいる。これは、グァンロンやディロングのフラットな表面と、シオングァンロンや後期のティラノサウルス類の深いU字形の中間である。
 後肢で最も顕著な特徴は、アルクトメタターサルな中足骨であるという。つまり第III中足骨の近位部が細くなり、第II、第IVに挟まれている。ススキティランヌスの状態は基本的にティラノサウルス科と同じであるといっている。アルクトメタターサルな中足骨は、アパラチオサウルスやドリプトサウルスにもみられるが、残念ながら重要な位置にあるシオングァンロンとティムルレンギアでは中足骨が知られていない。

著者らは、広く獣脚類の中でのススキティランヌスの系統的位置を確定し、さらにティラノサウルス上科の中での位置を検討するため、多くのコエルロサウルス類や外群を含むデータセットと、2つのティラノサウロイドに特化したデータセットを用いて3通りの系統解析を行った。最初の解析の結果、ススキティランヌスは、シオングァンロンやティムルレンギアと同様に中間段階のティラノサウロイドと位置づけられた。つまりプロケラトサウルス科やディロングのような初期のティラノサウロイドと、後のティラノサウルス科やすぐ外側のアパラチオサウルスなどの間にきた。残りの2つの解析でも細かい違いはあるが、ススキティランヌスは中間的なティラノサウロイドとなった。

チューロニアンの恐竜化石は世界的に少ない中で、Moreno Hill formationからはススキティランヌスの他、ネオケラトプシア類ズニケラトプス、ハドロサウルス形類ジェヤワティ、テリジノサウルス類ノスロニクス、アンキロサウルス類の部分骨格が見つかっている。これらのうちススキティランヌス、ズニケラトプス、ジェヤワティはそれぞれ系統上、白亜紀末に繁栄したティラノサウルス科、ケラトプス科、ハドロサウルス科のすぐ外側に位置する種類であり、また白亜紀末のものに比べて小型である。つまりこれらはカンパニアン以後に発展したグループの祖先に近いものと考えられる。一方、テリジノサウルス類は白亜紀前期にはみられたが、白亜紀末の北アメリカからはほとんど知られていないグループであり、アラスカの足跡化石などに限られているという。Moreno Hill formationの恐竜群集は、白亜紀前期と白亜紀末の間の恐竜相の移行を記録しているきわめて重要なものであるとしている。

モロスの論文とススキティランヌスの論文は、互いのことに言及していない。白亜紀中期のギャップを埋めるという意義がかぶっているし、投稿時期も重なっているのだろう。ススキティランヌスの大腿骨にもaccessory trochanterはあるようである。


参考文献
S. J. Nesbitt, R. K. Denton Jr, M. A. Loewen, S. L. Brusatte, N. D. Smith, A. H. Turner, J. I. Kirkland, A. T. McDonald and D. G. Wolfe (2019) A mid-Cretaceous tyrannosauroid and the origin of North American end-Cretaceous dinosaur assemblages. Nature ecology & evolution, https://doi.org/10.1038/s41559-019-0888-0
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鳥の足のウロコは羽毛が二次的に変化したもので、爬虫類のウロコとは異なる


哺乳類には毛があり、爬虫類には鱗がある。鳥類には羽毛と鱗の両方がある。このうち鳥の足にある鱗の起源については、何十年も前から研究者の興味を引いていて、2つの考え方がある。1つの説は、鳥の鱗は爬虫類の鱗がそのまま残ったものである、というもの。もう1つの説は、鳥の鱗は二次的に羽毛に由来する構造物である、というものである。

鳥の足にある鱗は、いくつかの種類に分けられるが、主に中足骨・指骨の背面にある楯状鱗scutate scale と側面・腹側面にある網状鱗reticulate scale がある。ちなみにワニの身体は背面、腹面、四肢が重複鱗overlapping scale というヨロイ状の鱗で覆われている。

最近Wu et al. (2018)は、ニワトリの羽毛、ニワトリの楯状鱗、ワニの重複鱗の発生過程を比較し、それぞれの原基の全遺伝子発現プロフィールを比較した結果、鳥類の楯状鱗は爬虫類の鱗よりも鳥類の羽毛に近いものであると報告している。

ニワトリの羽毛と楯状鱗の原基は、両方とも初期の段階では円形のプラコード(外胚葉が肥厚したもの)からできてくる。羽毛原基ではプラコードが伸びて、bud状になっていく。楯状鱗の原基では円形のプラコードが、一部隣のプラコードと癒合して、長方形に近い形になることでヨロイ状の配列が形成される。一方、ワニの重複鱗の原基では丸いプラコードが形成されず、徐々に四角い碁盤の目状になっていく。楯状鱗の最終的な形態や配列は、ワニの重複鱗と似ていた。

著者らは過去に、ニワトリの羽毛原基と楯状鱗の原基の間で、全遺伝子の発現パターンを比較し、多数の“羽毛関連遺伝子群”と“鱗関連遺伝子群”を同定していた。そこで今回は、ニワトリの羽毛、ニワトリの楯状鱗、ワニの重複鱗の3つのサンプルの間で、これらの遺伝子群の発現パターンを比較した。(もちろんニワトリには存在するがワニには存在しない遺伝子もあるので、上記2つの遺伝子群のうちワニのゲノム上に存在する遺伝子群に注目した。)
 その結果、“羽毛関連遺伝子群”はニワトリの羽毛原基では高いレベルで、ニワトリの楯状鱗原基では低いレベルで発現していた。ワニの重複鱗の原基では全く異なるパターンを示した。次に“鱗関連遺伝子群”は、ニワトリの羽毛原基では低いレベルで、楯状鱗原基では高いレベルで発現していた。一方、ワニの重複鱗の原基ではどちらとも異なるパターンを示した。多くの遺伝子は楯状鱗原基と同様の発現レベルを示していないといっている。

結局Wu et al. (2018)は、ニワトリの楯状鱗とワニの重複鱗は、最終的な形態形成の様式は似ているが、前者は発生初期に羽毛と同じ丸いプラコードから生じること、全遺伝子発現のパターンが似ていないことから、収斂進化によって同じようなウロコの形態になったと結論している。

この“鱗関連遺伝子群”のデータに関しては、ややデータの解釈が難しいところがあると思う。ワニの重複鱗でいくつかの遺伝子はニワトリの楯状鱗と同様に高く発現しているようにみえる。それらが形態形成に関係しているのかもしれない。全体としては似ていないというが、動物種がかけ離れている割には、似ているようにもみえる。つまり何をもって似ている似ていないというのか、基準を決めて定量的に示す必要があるのではないか。その他コメントしたいことはあるが、ここでは割愛する。

ニワトリの楯状鱗が羽毛と同じ丸いプラコードから生じるなどの観察は、この研究が最初ではなく、何十年も以前から知られてきた。そして楯状鱗は羽毛原基から二次的に生じたという考え方も、以前から提唱されていた。その中でも重要なのは、Dhouailly (2009) の総説である。これは羊膜類の皮膚派生物について、ニワトリやマウスの実験発生学、発生遺伝学、ミクロラプトルなどの化石の発見をもふまえて、進化のシナリオを提唱したもので、EvoDevoに興味のある方は参照されたい。

Dhouailly (2009)の考えによると、哺乳類の皮膚は毛を形成する機構を、鳥類の皮膚は羽毛を形成する機構を、それぞれ基本的なプログラムとして持っている。それを調節することで、毛の代わりに皮脂腺を、羽毛の代わりに鱗を作り出しているという。
 もともと現生鳥類の中でもイヌワシやフクロウのように指まで羽毛で覆われている種類もいる。また家禽ではハトやチャボの品種で、指に羽毛が生えているものも知られてきた。さらに、ニワトリでは比較的簡単な実験操作で、羽毛と鱗を変換することができる。その仕組みは完全にはわかっていないが、重要な調節機構の一つはWnt/β-カテニンシグナルである。β-カテニンシグナルのレベルが高いと羽毛が形成され、やや低いと鱗が形成される。マウスではβ-カテニンシグナルのレベルが高いと毛が生え、低いと皮脂腺になってしまう。

ここからはDhouailly (2009)の考えではなく私の感想であるが、羽毛を獲得した恐竜は、ある段階以後は、比較的容易に羽毛と鱗の両方を作り分ける機構を獲得したと考えられる。そう考えるとティラノサウロイドの中でも、ディロングのように羽毛で覆われた種類より後の時代に、うろこ状の皮膚で覆われた大型種が出現しても不思議はなく、十分にあり得ることのように思える。また羽毛を獲得したのが獣脚類の祖先なのか、恐竜全体の祖先なのか、オルニトスケリダで1回なのかにもよるが、クリンダドロメウスやプシッタコサウルスのような状態もさして驚くべきことではないのかもしれない。



参考文献
Ping Wu, Yung-Chih Lai, Randall Widelitz & Cheng-Ming Chuong (2018) Comprehensive molecular and cellular studies suggest avian scutate scales are secondarily derived from feathers, and more distant from reptilian scales. Scientific Reports 8:16766 | DOI:10.1038/s41598-018-35176-y
https://www.nature.com/articles/s41598-018-35176-y

Dhouailly (2009) A new scenario for the evolutionary origin of hair, feather, and avian scales. Journal of Anatomy 214, 587-606.
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2019 岡山理科大学・恐竜学博物館


岡山駅から20分なので、東京からはさすがに遠いですが、関西圏の人にとっては行きやすい所のようです。バスに乗って行くと大学は丘の上にそびえ立っており、バス停から正門までの標高差に驚きましたが、上り専用エスカレーターがあります。
 守衛所で恐竜博物館の見学に来たと告げると、ガイドマップを渡してくれます。連絡橋を通ってC1棟に入り、エレベーターで降りて外に出て、隣のC2棟へ。メイン展示のガラス張りの標本処理室・展示室に到着。

観光地ではないので、GWだからといって特別に混雑していることもなく、平たく言うと空いていました。見学者はメイン展示でも2、3組、サテライト展示は一人でゆっくり回れました。
 まずガラス越しに、プロトケラトプス、幼体の集団化石、タルボ幼体、アヴィミムス、ヴェロキラプトルの脚が並んでいる。中にはゴビヴェナトルの骨格、テリジノ爪、ハドロサウルス類の骨などが置いてある。





 展示室に入ると、4月に論文が出版されたゴビハドロスの骨格、竜脚類の足跡化石、タルボ頭骨と復元模型、アジャンキンゲニアの全身骨格などが並んでいる。標本処理室ではカメやよろい竜(ピナコサウルス)頭部のクリーニング作業中ということで、学芸員さんの好意で中にあるものも解説していただいた。ゴビヴェナトルは頭だけ3Dプリンターで作成したようです。その他、棚に積まれた箱にはさりげなくノミンギアやトカゲ化石などがある。一つ、謎の獣脚類の部分化石(腰のあたり)があって、タルボ幼体のように見えるが恥骨ブーツの形が異なるものがあった。





C2棟3階の図書室にサテライト展示があり、入口を入るとトリケラトプスとプロトケラトプスの頭骨がお出迎え。棚一面を占めるコリトサウルスの骨や、ボトリオレピス、イクチオステガ、セイモウリア、カプトリヌス、メソサウルス、マストドンサウルスなどのレプリカがいる。
 図書室の一角という限られたスペースに、様々な恐竜その他の脊椎動物が展示されている。全身骨格としてはアロサウルス亜成体、ヒプシロフォドン、ジュンガリプテルス、パタゴプテリクスがある。頭骨レプリカはアロサウルス、ストゥルティオミムス、デイノニクス、プラテオサウルス、ガストニア、エドモントサウルス、ステゴケラスなど。翼竜と鳥の翼の比較、始祖鳥、コンプソグナトゥスなどもある。



A1棟の1階でしっぽが見えるので何かと思ったら、こんなところにタルボさんが。卒業研究で製作されたタルボサウルス全身骨格は、エスカレーターと窓側の間に収容されていて、なんと全身が見られない。しっぽまで見たい。適切な場所がなかったのでしょうね。将来的には、もっと広い場所に移して、晴れ姿を披露できるようになることを願います。夏休みには岡山シティミュージアムの方で展示されるようですね。

タルボサウルスですっかり満足して忘れるところだった。4階の図書室の中に、サテライト展示がある。サウロロフスとタルボサウルスの後肢の比較展示がある。ハドロサウルス科では大腿骨の遠位端を通る腱のための溝が閉じてトンネル状になっていること、タルボサウルスの中足骨のアルクトメタターサルの説明などがある。
 奥の方にはモンゴルの発掘調査の実際を感じられる写真展示があり、実物大の竜脚類足跡、発掘に使用する工具、測定機器などの紹介、調査隊員の1日のスケジュールなどが解説されている。解説DVDも見ることができる。

すっかり満足して、岡山駅できびだんごを買って帰りました。
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