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エクリクシナトサウルス2:修正と検証


大きい画像 (7 m)

Calvo et al. (2004) の骨格復元図には、胴の短いケラトサウルスのようなシルエットが描かれている。これはアベリサウルス類の体形としてはいかにも怪しい。実はこの骨格図をスケールバーで測ると、全長は5.9 m しかない。この論文では7-8 m と推定しているのに、骨格復元図は一致していないのである。
 ではこの骨格復元図はいい加減なのか、というと、そうでもないようである。大腿骨77 cm、脛骨(tibiotarsusとして)69 cm、上顎骨42 cm (44.2 cm)、などをスケールを合わせて書き込むと、大体は一致している。ただし頭は小さく想定しているようだ。そこで論文の骨格復元図の方に大体合わせて作成したのが最初のイラストで、全長は6 m となった。しかしやはり少し体が短く、ティラノ的な印象となり違和感がある。そこで、7 mに合わせたのが修正版で、アベリサウルス類らしくはなった。

個々の脊椎骨の大きさが正確なら、勝手に伸ばすことはできないはずである。Calvo et al. (2004)、Juárez Valieri et al. (2010)には脊椎骨の測定値がない。Grillo and Delcourt (2017)のTable3, 4から、後方の頸椎の椎体の長さは9 cm、前方の尾椎の椎体の長さは11.9 cm なのでこれらを書き込むと、骨格図と一致する。胴椎の数値はいっさいないが、椎体の長さも大体合っているようにみえる。尾椎についてはMéndez, A.H. (2014) とも一致する。
 そこでA4の紙の都合で7.2 mとし、7.2 mに合わせていろいろ調整すると、図のようにマジュンガ的な体形になった。マジュンガサウルスよりは後肢が長い感じで、こんなものか。頭骨を83 cmとすると元の図よりはかなり大きいので、頭骨+頸椎は長くなる。胴椎は少しつぶれていると考えて伸ばしたが、ちょっと伸ばしすぎの感もある。尾の比率は大体108%になっている。7.4 mが限界のような気もする。いずれにしても、この骨格で全長10 m以上というのは、最初から無理があるのではないか。

ちなみにCalvo et al. (2004) の、中央の尾椎を背面からみた図のスケールバーが10 cm とあるが、5 cmの誤りの疑いが強い。



論文中の画像は比較のため引用。Copyright 2004 Calvo et al.


参考文献
Méndez, A.H. (2014). The caudal vertebral series in abelisaurid dinosaurs. Acta Palaeontologica Polonica 59 (1): 99-107.
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エクリクシナトサウルス



大きい画像 (6 m )

まず、名前が覚えにくい。Ekrixi がギリシャ語で「爆発」、natoがラテン語で「生まれた」で、「爆発で生まれたトカゲ」。ガスのパイプライン建設工事で、岩盤をダイナマイトで爆破したところから発見されたという、時々あるパターンである。

エクリクシナトサウルスは、白亜紀“中期”アルビアン-セノマニアンにアルゼンチンのパタゴニア(ネウケン州)に生息した大型のアベリサウルス類で、2004年に記載された。その後2010年に、保存された骨の測定値とカルノタウルスやマジュンガサウルスとの比較から、全長10-11 mと提唱する研究が出ている。これはカルノタウルスやアベリサウルスに匹敵する大型のアベリサウルス類なので、どんなすごい恐竜なのかと思って文献を調べるとがっかりする。例によって、簡単な記載しかされておらず、フル記載はされていない。それどころか、主要な骨の写真も載っていないのである。
 Calvo et al. (2004) には骨格復元図があり、少なくとも胴椎、仙椎、尾椎、腰帯、後肢はかなりの部分が発見されているようにみえる。しかし、見つかっている部分が明確でないところがある。特に疑問なのは胴椎で、骨格復元図では大部分の胴椎と肋骨があるようにみえ、神経棘の先端が割れているように描いてあることなど、半関節状態で見つかった産状のようにも見える。ところが本文中には「仙前椎はほとんど保存されていない」とあり、ホロタイプの説明でもa dorsalと書いてある。胴椎の記載部分でも1個の椎体について記述しているだけで、他の胴椎については全くふれていない。これはいかにも不自然である。どうなっているのだろうか。
 前頭骨や頭頂骨に特徴があるのに、その写真も図も載っていない、上顎骨は6行、歯骨は10行しか記述がなく、それぞれスケッチが1枚で記号も各部の名称もない。今回は予備的な記載で一部の骨に限ると書いてあるが、選ばれた骨についても説明が不十分に思える。

ホロタイプは分離した部分骨格で、左の上顎骨、部分的な右の上顎骨、脳函、左右の歯骨、歯、頸椎、胴椎、仙椎、尾椎、血道弓、肋骨、腸骨、恥骨、座骨の近位部、左の大腿骨、右の大腿骨の遠位端、左の脛骨(距骨と踵骨が癒合)、右の脛骨の近位端、左の腓骨の近位端、中足骨、指骨、1個の末節骨からなる。

エクリクシナトサウルスの特徴は、後眼窩骨と前頭骨の前端の間に1個の孔fenestraがある(図示されていない)、頭頂骨と傍後頭骨突起の結合部に後方を向いた隆起がある(図示されていない)、頸椎が前後に圧縮している、頸椎の神経棘はエピポフィシスと同じ高さである、中央-後方の頸椎の椎体の腹側が平坦である、中央-後方の頸椎に2つの幅広い孔がある、中央-後方の頸椎に小さい神経棘前方の窪みがある、中央-後方の頸椎に小さい神経棘前方の板状部laminaがある、脛骨の骨幹の中央が膨らんでいる、である。
 このうち後眼窩骨と前頭骨の間の孔については、Calvo et al. (2004) には写真も図もないが、Juárez Valieri et al. (2010) には頭蓋天井の写真があり、なんとなくはわかる。しかし、記載の論文ではないので、ちゃんと説明されていないことに変わりない。この特徴はおそらく、ヴィアヴェナトルの論文にあるフリレウサウリア以外の形質と思われる。

上顎骨は短く(42 cm)丈が高い。前眼窩窓のすぐ前方、つまり前眼窩窩の後縁に、1個の背腹に長いmaxillary fenestraがある。上顎骨には16の歯槽があり、一部の歯は保存されている。それらは側扁しており、前方と後方に鋸歯がある。
 歯骨は短く、腹側縁が凸型にカーブしている。外側面からみると歯骨は曲がっており、前端は丸い。内側面をみると前方ではメッケル溝が浅く、後方へ行くにつれてより深く、幅広くなっている。歯骨の後方1/3は丈が高くなっている。第1から第7の歯槽までは歯間板が舌側面の半分を占めており、それより後方では小さくなっている。

カルノタウルスやマジュンガサウルスとの比較から、頭骨の長さは83 cm と推定された。エクリクシナトサウルスの頭骨/大腿骨の比率は1.08と推定された。この比率はカルノタウルスでは0.58 、ケラトサウルスでは 1.00 である。エクリクシナトサウルスの上顎骨はがっしりしており、他のアベリサウルス類と同様に垂直に近い上方突起と癒合した歯間板をもつ。上顎骨の上方突起の形状から、前眼窩窓はカルノタウルスなどと同様に長さよりも丈が高いと考えられる。歯骨が短く曲がっているのも他のアベリサウルス類やケラトサウルスと似ている。


Juárez Valieri et al. (2010) も短報で、主に大きさとプロポーション、その古生物地理学的、古生態学的意義について考察した論文である。まず、エクリクシナトサウルスは頭が大きく、カルノタウルスとはプロポーションが全く異なるといっている。またエクリクシナトサウルスは上顎骨の形から、比較的丈の高い頭骨を持っていた。これは、マジュンガサウルスやルゴプスよりも、ブラキロストラのスコルピオヴェナトルやカルノタウルスと似ているという。さらに上顎骨の長さと頭蓋天井の幅の比率からみて、短めの頭蓋をしており、それはマジュンガサウルスとカルノタウルスの中間で、スコルピオヴェナトルと似ているといっている。上顎骨の比較の図はあり、確かにマジュンガサウルスとカルノタウルスの中間になっている。ただしスコルピオヴェナトルとは並べていない。

Juárez Valieri et al. (2010) は、大きさの推定についてあまり詳しい計算方法を示しているわけではない。過去の文献からスコルピオヴェナトル6 m、マジュンガサウルス6-7 m、カルノタウルス8-9 mとしている。
上顎骨の長さは、エクリクシナトサウルス44.2 cm、カルノタウルス32.3 cm、 マジュンガサウルス29.2 cm である。エクリクシナトサウルスの上顎骨の長さは、カルノタウルスより36%、マジュンガサウルスより 51%大きい。頭蓋天井、頸椎、尾椎についても同様であるといっている。どうも、カルノタウルスの8.5 m x 1.36 = 11.56 m、マジュンガサウルスの 6.5 m x 1.51 = 9.8 mから、10-11 mといっているようだ。(注:2004年には42 cmとしているが2010年では44.2 cmとしている。)
 後肢の骨については、エクリクシナトサウルスの大腿骨はアウカサウルスよりちょっと長いくらいで、カルノタウルスよりずっと短い。ただしアウカサウルスよりかなり太くがっしりしている。しかしカルノタウルスの大腿骨は推定を含んでいることから、実際はもう少し短い可能性がある。またアベリサウルス類の脛骨には、ほっそりしたタイプとがっしりしたタイプがあり、エクリクシナトサウルスは後肢が太短くがっしりしたタイプである。そう考えると後肢のわりに全長が長くてもおかしくないといいたいようだ。
 Grillo and Delcourt (2017) にいわせると、アベリサウルス類では上顎骨の長さは変異が大きく全長との相関が悪いので、全長の推定には不適当ということだろう。また元々過去のカルノタウルスやマジュンガサウルスの全長推定値は、大きく見積もられていたことになる。論文内では頭蓋天井の幅SKRWについて、全長との相関が悪いので信頼できないといっている。
 さらに、Juárez Valieri et al. (2010) は頸椎、尾椎についてもカルノタウルスより36%、マジュンガサウルスより 51%大きいとしているが、測定値を示していない。Mendez (2014) による尾椎の測定値はそれとは一致せず、エクリクシナトサウルスの尾椎はカルノタウルスよりむしろ小さいという(高さは大きい)。

エクリクシナトサウルスが発見されたCandeleros Formation からは、ギガノトサウルスも発掘されている。Juárez Valieri et al. (2010) は、従来アベリサウルス類の大型化は巨大なカルカロドントサウルス類が絶滅した後になってから起きたという仮説があったが、10 mのエクリクシナトサウルスと13 mのギガノトサウルスが共存したことから否定されるといっている。エクリクシナトサウルスが7.4 mとしても、かなり大型のアベリサウルス類にはちがいないので、確かにカルカロドントサウルス類と共存していた時期があったとはいえるだろう。

エクリクシナトサウルスの特徴として、1)大きく幅広い頭骨、2)眼窩の上方の後眼窩骨の隆起、3)前後に短い頸椎、4)がっしりした比較的短い後肢、があげられる。これらの特徴から、エクリクシナトサウルスはがっしりした体格の動物で、種内あるいは種間での激しい闘争に耐えることができただろうという。
 比較的短い後肢という文脈で、脛骨が大腿骨より短いといっている。ただし、脛骨の長さ/ 大腿骨の長さの比率は、スレンダーとされるアウカサウルスが0.91 で、エクリクシナトサウルスが0.89である。それほど強調すべき差でもないような気もする。それよりも太さの方が重要に思える。


P. S. イラストはイメージなので、非常に厳密なものではないです。
6 m のずんぐりした亜成体ということで。
詳しくはまた後で補足を書くことにします。



参考文献
Calvo, J.O., Rubilar-Rogers, D., and Moreno, K. (2004) A new abelisauridae (Dinosauria: Theropoda) from northwest Patagonia. Ameghiniana, 41: 555-563.

Juarez Valieri, R.D., Porfiri, J.D., and Calvo, J. O. (2010) New information on Ekrixinatosaurus novasi Calvo et al 2004, a giant and massively-constructed Abelisauroid from the ‘‘Middle Cretaceous ’’ of Patagonia. Paleontologia y Dinosaurios en America Latina 161-169.

Grillo, O. N. and Delcourt, R. (2017) Allometry and body length of abelisauroid theropods: Pycnonemosaurus nevesi is the new king. Cretaceous Research 69, 71-89.
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