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肉食の系譜
帰ってきたアロサウルス
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カルカロドントサウルス2
ニジェールの白亜紀後期セノマン期の地層から発見されていたカルカロドントサウルスの化石が新種と考えられることがわかったため、カルカロドントサウルス属とその2つの種の特徴について比較・考察した結果が報告されている。
カルカロドントサウルスは元々、1927年にアルジェリアで発見された2枚の歯が模式標本であったが、現在その記録が残っておらず、事実上失われているという。エジプトで発見され、Stromer (1931)がカルカロドントサウルス・サハリクスと記載した部分的な頭骨などの標本は、第二次世界大戦の空爆で失われた。Sereno et al. (1996) がモロッコで発見した保存の良い頭骨も同じ特徴を示すカルカロドントサウルス・サハリクスである。今回新種とされたニジェール産の標本は、上顎骨、脳函と頭蓋天井、涙骨、歯骨、歯、頸椎からなり、カルカロドントサウルス・イグイデンシスとして記載された。
今回、カルカロドントサウルス(属)は、上顎骨の外側面のほとんど全体にわたって彫刻のような文様があり、頸椎の椎体が非常に幅広く、後方の関節面が腎臓型(reniform)で、腹側のキール(ventral keel)が非常に強く発達しているなどの特徴をもつアロサウロイドとして定義された。そのうち、カルカロドントサウルス・サハリクスCarcharodontosaurus saharicus は、上顎骨の前眼窩窩の腹側縁が側方に張り出している、上顎骨の内側面と前内側突起の間に深い窪みがある、上顎骨歯の前縁と後縁の両方に顕著なエナメルのしわがみられる、などの特徴をもつカルカロドントサウルス類とされる。一方、カルカロドントサウルス・イグイデンシスCarcharodontosaurus iguidensisは、前眼窩窩の腹側部分が非常に縮小していてmaxillary fenestraの付近に限られる、上顎骨の前内側突起が正中に向かって幅広く盛り上がっている、などの特徴をもち、カルカロドントサウルス・サハリクスの固有の形質を欠くカルカロドントサウルス類である。
カルカロドントサウルス・イグイデンシスの上顎骨は、上方突起など一部が欠けているが、保存された部分をサハリクスの対応する部分と比較すると、丈は大体同じで長さが83%とやや短い。サハリクスでは上顎骨の腹側縁がカーブしているが、イグイデンシスでは腹側縁がほとんどまっすぐで凹凸も少ない。また上顎骨の表面にある彫刻のような文様が、サハリクスでは腹側縁までは達しておらず少しなめらかな部分があるが、イグイデンシスではほとんど腹側縁まで達している。イグイデンシスでは前眼窩窩の腹側部分が縮小していて、maxillary fenestraの後方に限られ、それより後方では急速にすぼまっている。サハリクスや他のカルカロドントサウルス類では前眼窩窩の腹側部分はもっと後方まで(前眼窩窓の全長に沿って)続いている。またサハリクスでは前眼窩窩の腹側縁が側方に突出しているが、この部分がイグイデンシスでは発達していない。
脳函とともに頭蓋天井後部が保存されており、前頭骨について詳しく記載されている。アロサウルスなどでは前頭骨が多少とも眼窩の上縁に面しているが、イグイデンシスの前頭骨では涙骨との関節面と後眼窩骨との関節面が接していることから、(眼窩の上縁は涙骨と後眼窩骨で縁取られるので)前頭骨は眼窩の上縁から排除されている。これはカルカロドントサウルス類に共通する特徴である。カルカロドントサウルスでは前前頭骨prefrontalが涙骨と癒合して、前前頭骨突起prefrontal processとなっているという。この前前頭骨突起と結合する前頭骨の関節面が、サハリクスでは非常に深いがイグイデンシスでは浅い。また上側頭窩の前内側角がサハリクスではより深く窪んでいる。上側頭窩の前面を横切る稜がサハリクスではS字型であるがイグイデンシスではC字型であるという。
数本の歯が発見されており、扁平なナイフ状で後縁がわずかに反っている点はサハリクスと同様であるが、エナメルのしわの発達がサハリクスとは異なる。(獣脚類の歯のエナメルのしわについてはBrusatteらが別に論文を出している。)カルカロドントサウルス・サハリクスでは歯の前縁と後縁の鋸歯に沿って、多数のはっきりした弧状のしわがある。このしわは前方から中央のすべての上顎骨歯にみられる。それに対してイグイデンシスでは、顕著なしわは歯の後縁の基部に限られる。これはマプサウルスやティランノティタンと同様である。ギガノトサウルスではサハリクスと似たパターンがみられるが、それは最も大きい上顎骨歯に限られるという。
カルカロドントサウルス類の歯にはエナメルのしわがあることは有名であるが、単にエナメルのしわがあることを根拠に、分離した一本の歯をカルカロドントサウルス類と同定する風潮がみられることに対してBrusatteらは注意を促している。カルカロドントサウルス類の歯では鋸歯の近くのしわが最も顕著で、歯冠の中央に向かうにしたがって浅く,目立たなくなる。歯冠全体を横断するような浅いしわ自体は、アロサウルス、フクイラプトル、トルボサウルス、メガロサウルスなど基盤的なテタヌラ類に広くみられるという。
参考文献
S. L. BRUSATTE and P. C. SERENO (2007). A new species of Carcharodontosaurus (Dinosauria: Theropoda) from the Cenomanian of Niger and a revision of the genus. Journal of Vertebrate Paleontology, 27(4): 902-916.
S. L. BRUSATTE, R. B. J. BENSON, T. D. CARR, T. E. WILLIAMSON, and P. C. SERENO (2007). The systematic utility of theropod enamel wrinkles. Journal of Vertebrate Paleontology, 27(4): 1052-1056.
カルカロドントサウルスは元々、1927年にアルジェリアで発見された2枚の歯が模式標本であったが、現在その記録が残っておらず、事実上失われているという。エジプトで発見され、Stromer (1931)がカルカロドントサウルス・サハリクスと記載した部分的な頭骨などの標本は、第二次世界大戦の空爆で失われた。Sereno et al. (1996) がモロッコで発見した保存の良い頭骨も同じ特徴を示すカルカロドントサウルス・サハリクスである。今回新種とされたニジェール産の標本は、上顎骨、脳函と頭蓋天井、涙骨、歯骨、歯、頸椎からなり、カルカロドントサウルス・イグイデンシスとして記載された。
今回、カルカロドントサウルス(属)は、上顎骨の外側面のほとんど全体にわたって彫刻のような文様があり、頸椎の椎体が非常に幅広く、後方の関節面が腎臓型(reniform)で、腹側のキール(ventral keel)が非常に強く発達しているなどの特徴をもつアロサウロイドとして定義された。そのうち、カルカロドントサウルス・サハリクスCarcharodontosaurus saharicus は、上顎骨の前眼窩窩の腹側縁が側方に張り出している、上顎骨の内側面と前内側突起の間に深い窪みがある、上顎骨歯の前縁と後縁の両方に顕著なエナメルのしわがみられる、などの特徴をもつカルカロドントサウルス類とされる。一方、カルカロドントサウルス・イグイデンシスCarcharodontosaurus iguidensisは、前眼窩窩の腹側部分が非常に縮小していてmaxillary fenestraの付近に限られる、上顎骨の前内側突起が正中に向かって幅広く盛り上がっている、などの特徴をもち、カルカロドントサウルス・サハリクスの固有の形質を欠くカルカロドントサウルス類である。
カルカロドントサウルス・イグイデンシスの上顎骨は、上方突起など一部が欠けているが、保存された部分をサハリクスの対応する部分と比較すると、丈は大体同じで長さが83%とやや短い。サハリクスでは上顎骨の腹側縁がカーブしているが、イグイデンシスでは腹側縁がほとんどまっすぐで凹凸も少ない。また上顎骨の表面にある彫刻のような文様が、サハリクスでは腹側縁までは達しておらず少しなめらかな部分があるが、イグイデンシスではほとんど腹側縁まで達している。イグイデンシスでは前眼窩窩の腹側部分が縮小していて、maxillary fenestraの後方に限られ、それより後方では急速にすぼまっている。サハリクスや他のカルカロドントサウルス類では前眼窩窩の腹側部分はもっと後方まで(前眼窩窓の全長に沿って)続いている。またサハリクスでは前眼窩窩の腹側縁が側方に突出しているが、この部分がイグイデンシスでは発達していない。
脳函とともに頭蓋天井後部が保存されており、前頭骨について詳しく記載されている。アロサウルスなどでは前頭骨が多少とも眼窩の上縁に面しているが、イグイデンシスの前頭骨では涙骨との関節面と後眼窩骨との関節面が接していることから、(眼窩の上縁は涙骨と後眼窩骨で縁取られるので)前頭骨は眼窩の上縁から排除されている。これはカルカロドントサウルス類に共通する特徴である。カルカロドントサウルスでは前前頭骨prefrontalが涙骨と癒合して、前前頭骨突起prefrontal processとなっているという。この前前頭骨突起と結合する前頭骨の関節面が、サハリクスでは非常に深いがイグイデンシスでは浅い。また上側頭窩の前内側角がサハリクスではより深く窪んでいる。上側頭窩の前面を横切る稜がサハリクスではS字型であるがイグイデンシスではC字型であるという。
数本の歯が発見されており、扁平なナイフ状で後縁がわずかに反っている点はサハリクスと同様であるが、エナメルのしわの発達がサハリクスとは異なる。(獣脚類の歯のエナメルのしわについてはBrusatteらが別に論文を出している。)カルカロドントサウルス・サハリクスでは歯の前縁と後縁の鋸歯に沿って、多数のはっきりした弧状のしわがある。このしわは前方から中央のすべての上顎骨歯にみられる。それに対してイグイデンシスでは、顕著なしわは歯の後縁の基部に限られる。これはマプサウルスやティランノティタンと同様である。ギガノトサウルスではサハリクスと似たパターンがみられるが、それは最も大きい上顎骨歯に限られるという。
カルカロドントサウルス類の歯にはエナメルのしわがあることは有名であるが、単にエナメルのしわがあることを根拠に、分離した一本の歯をカルカロドントサウルス類と同定する風潮がみられることに対してBrusatteらは注意を促している。カルカロドントサウルス類の歯では鋸歯の近くのしわが最も顕著で、歯冠の中央に向かうにしたがって浅く,目立たなくなる。歯冠全体を横断するような浅いしわ自体は、アロサウルス、フクイラプトル、トルボサウルス、メガロサウルスなど基盤的なテタヌラ類に広くみられるという。
参考文献
S. L. BRUSATTE and P. C. SERENO (2007). A new species of Carcharodontosaurus (Dinosauria: Theropoda) from the Cenomanian of Niger and a revision of the genus. Journal of Vertebrate Paleontology, 27(4): 902-916.
S. L. BRUSATTE, R. B. J. BENSON, T. D. CARR, T. E. WILLIAMSON, and P. C. SERENO (2007). The systematic utility of theropod enamel wrinkles. Journal of Vertebrate Paleontology, 27(4): 1052-1056.
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