goo

ヴィーヘンヴェナトル



ヴィーヘンヴェナトル・アルバティWiehenvenator albatiは、中期ジュラ紀カロビアン(Ornatenton Formation)に、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州北東部に生息した大型のメガロサウルス類である。ドイツ最大の肉食恐竜で、ジュラ紀のヨーロッパではトルボサウルス・グルネイに次いで大きい。属名は発掘地であるヴィーヘンゲビルゲWiehengebirgeという山脈にちなみ、種小名は発見者フリードリヒ・アルバート氏への献名である。

ヴィーヘンヴェナトルのホロタイプ標本は、右の前上顎骨、上顎骨、涙骨、後眼窩骨、方形頬骨の断片、部分的な歯骨、6本の分離した歯、3個の尾椎、5本の肋骨、一対の腹骨(ガストラリア)、一個の手の指骨、左右の腓骨、右の距骨と踵骨からなる。

他のメガロサウルス類と異なるヴィーヘンヴェナトルの特徴は、涙骨の涙骨窓lacrimal fenestraの前方に小さい楕円形の窪みがある;涙骨の前方突起が非常に短い(涙骨の高さの1/2以下);後眼窩骨の眼窩に面した部分に窪みがある;前上顎骨の鼻骨突起の前縁と前上顎骨体の前縁の間にわずかに凹みがある;最も前方の前上顎骨歯が2番目の前上顎骨歯よりもかなり小さい;内側の前上顎骨孔が3番目ではなく2番目の歯槽の上にある;上顎骨の前眼窩窩が縮小している;上顎骨の上行突起に小さな含気性の窪みがある;などである。(前上顎骨以後の形質は他の獣脚類にもみられるが、これらの組み合わせがヴィーヘンヴェナトルに固有)



頭骨は他のメガロサウルス類にみられるように長く丈が低い。鼻孔は前後に長く、比較的大きい。前眼窩窓も前後に長い。眼窩の形はおそらく楕円形で、モノロフォサウルスやアロサウルスのように下半分が狭くなるキーホール形ではない。

右の前上顎骨は前上顎骨体と鼻骨突起の下半分が保存されており、後端と鼻骨下突起は欠けている。3個の歯槽が保存されており、あと1個あるとすると、前上顎骨体は正方形ないし長方形で長さと高さが大体等しい。鼻骨突起の前縁と前上顎骨体の前縁の間にはわずかに凹みがある。トルボサウルスを含めてほとんどの獣脚類では、鼻骨突起の前縁と前上顎骨体の前縁は一致している(連続したラインをなす)。ヴィーヘンヴェナトルと同じようなわずかな凹みは、他にはスキウルミムスでのみ知られている。
 鼻骨突起の基部の中央には、ドゥブレウイロサウルスや他の基盤的テタヌラ類と同様に、1個の大きい孔がある。この孔は内側に通じており、内側の開口部はやや大きく位置がずれている。この内側の孔は2番目の歯槽の後部の上にある。一方、トルボサウルス、ドゥブレウイロサウルス、マジュンガサウルス、マーショサウルスなどでは3番目の歯槽の上にある。
 前方の3個の歯槽が保存されており、2番目が最も大きい。1番目の歯槽は顕著に小さい。このような状態はスピノサウルス類ではみられるが、それ以外のメガロサウロイドでは知られていない。

上顎骨は6個の断片に割れていたが、それらを合わせるとほとんど上顎骨全体が保存されている。上顎骨には13個の歯槽がある。前上顎骨との関節面は少し後背方に傾いているので、その背側端は1番目の歯槽の後縁の位置にある。この状態はトルボサウルス・タンネリとよく似ている。上顎骨の上行突起は、ドゥブレウイロサウルスやドゥリアヴェナトルと同様にはっきりと屈曲している。
 ほとんどのテタヌラ類と比較して、上顎骨の前眼窩窩は小さい。これはトルボサウルス、アベリサウルス類、派生的なカルカロドントサウルス類と似ている。
 上顎骨の内側面を見ると、前上顎骨と同様に歯槽の丈は非常に高く、ほとんど上顎骨体の高さいっぱいまで達している。歯槽の丈は前方から3番目まで高くなり、そこから後方へ徐々に低くなっている。歯間板は少なくとも部分的には保存されている。歯間板はトルボサウルスやアロサウロイドと異なり、明らかに分離している。いくつかの歯間板の内側面には、太い縦の条線が観察される。トルボサウルスやメガロサウルスと同様に、歯間板の腹側縁は、上顎骨の外側の腹側縁よりもかなり背側に位置している。

涙骨は腹側端のわずかな部分以外は保存されている。他の多くの獣脚類と異なり、涙骨の前方突起は非常に短く丈が高い。(他のメガロサウルス類ではどのくらいなのかは書かれていない。)
 涙骨の外側面は、前背側の隅から前方突起にかけてと、腹側突起の腹側端の前方に前眼窩窩が入り込んでいる。ヴィーヘンヴェナトルでは、この前眼窩窩の背側部分と腹側部分がつながっておらず、前方に突き出した涙骨の外側面(lateral blade )の前縁によって隔てられている。これはトルボサウルス、スピノサウルス類、スキウルミムスとは異なり、ドゥブレウイロサウルス、アフロヴェナトル、アロサウロイドなど多くの獣脚類と同様である。 
 涙骨の後背側のコーナーには前眼窩窩から広がった涙骨窓lacrimal fenestra という穴があり、丸い含気性の腔につながっている。涙骨窓の前方の前眼窩窩に、小さい楕円形の窪みがある。

歯骨は保存が悪く、3つの断片に割れていたが、9個の歯槽が保存されている。最も前方の歯槽は特に小さい。他のメガロサウルス類と同様に3番目の歯槽が最も大きい。内側面は歯間板も歯も保存されていないが、歯槽の丈は高くほとんど歯骨の高さ全体を占めている。歯列の前方では歯槽が前背方に傾いている。

系統解析の結果、ストレプトスポンディルスを除くと、メガロサウルス科に相当するクレードが得られ、それは「メガロサウルス亜科」「エウストレプトスポンディルス亜科」と呼びうる2つのサブクレードに分かれた。ヴィーヘンヴェナトルは、一貫してメガロサウルス亜科に含まれ、トルボサウルスと姉妹群となった。メガロサウルス亜科に含まれることを支持する形質は、上述の歯間板の腹側縁の位置や、歯骨の前端が膨らんでいないこと(メガロサウロイドの共有派生形質の逆転)などである。

全長の推定については、ヴィーヘンヴェナトルの上顎骨はトルボサウルス・グルネイ(10 m)の82% であるという。また尾椎の大きさは、トルボサウルス・タンネリ(9 m)と同等のサイズであるという。そうするとヴィーヘンヴェナトルの全長は8-9 mというところか。 

この論文では、ジュラ紀におけるメガロサウロイドからアロサウロイドへの交代(ターンオーバー)について定量的なグラフを示して論じている。まず生息年代に沿って獣脚類全体の内訳を見ると、獣脚類の進化史において、三畳紀末の大絶滅よりもジュラ紀前期から中期への変化の方が、重要な時期と思われるという。三畳紀末にラウイスクス類などが絶滅しても、前期ジュラ紀までの獣脚類としては様々なコエロフィシス類が存続しており、大きな変化はなかった。それが中期ジュラ紀に入ると、急激にテタヌラ類やケラトサウリアが放散し、獣脚類相を占めるようになった。
 中期ジュラ紀にはメガロサウロイドが圧倒的に優勢であったが、後期ジュラ紀になるとアロサウロイドの方が優勢となり、また多様なコエルロサウルス類もかなり出現していた。確かにそのような交代はみられるが、地理的な偏りなどの影響もあるので注意が必要であるという。例えば中期ジュラ紀ではヨーロッパのメガロサウルス類が多く、後期ジュラ紀では北米のモリソン層の化石産地が多いために、サンプリングバイアスがかかっているかもしれない。ヨーロッパではジュラ紀の獣脚類化石が見つかると、メガロサウルス類とされやすく、米国ではアロサウルスとされやすいなど人為的な影響もありうるという。これら獣脚類の生息環境としては、メガロサウロイドは沿岸部に多く、アロサウロイドは内陸部に多いという傾向がみられた。


参考文献
Rauhut, Oliver W.M., Hübner, Tom R., and Lanser, Klaus-Peter. 2016. A new megalosaurid theropod dinosaur from the late Middle Jurassic (Callovian) of north-western Germany: Implications for theropod evolution and faunal turnover in the Jurassic. Palaeontologia Electronica 19.2.26A: 1-65
palaeo-electronica.org/content/2016/1536-german-jurassic-megalosaurid
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

PNSO ヤンチュアノサウルスとチュンキンゴサウルス



全体としては非常に良いです。確かにジュラ紀の四川省の情景が浮かんでくる。
ただし多少の不満もないわけではない。これは恐竜博物館シリーズではあるが、ヤンチュアノサウルスとチュンキンゴサウルス、台座もセットの価格なので、個々の恐竜は成長シリーズくらいのレベルと考えられる。最近の恐竜博物館シリーズの良いものと比べると、どうなのかなという気もする。中国の恐竜だから優先して初期に出したということだろう。

ヤンチュアノサウルスについては、歯と塗装に今ひとつの感がある。
ヤンチュアノサウルスには思い入れがあるので、パッケージ写真を見た時にちょっと顔が違う気がした。顔が長く吻の先端が尖っているように見えた。しかし写真というのも難しいもので、開梱して実物を見たら印象が違って、大丈夫だった。顔が短めで吻の先端は垂直に近く、鼻骨の稜から涙骨の突起、眼窩は逆滴形、眼は猛禽類のような精悍な目つきで良い。上顎にちょっと青色をさしているのもなかなか良い。確かにヤンチュアノサウルスである。

しかし歯は、上位機種のティラノサウルスなどでは歯の一本一本がちゃんと鋭いのに対して、このヤンチュアノサウルスでは写真でもわかるように杭状である。サイズが小さいからやむを得ないかとも思ったが、成長シリーズでもチアンジョウサウルスでは一本一本が尖っている。まあ全身像では目立たないものの、ちょっと気にはなる。

塗装については、全身を見てちょっと尾の色が薄いように見えないだろうか。パッケージ写真では、尾の付け根に3本くらい黒い縞があり、その先はセピア色の縞がずっと続いている。付け根の3本は黒+オレンジ色で、その先はセピア色+オレンジ色という構造になっている。ところが手元の商品は、ロットによるのかもしれないが、セピア色が部分的で弱いので、ほとんどオレンジ色だけのように見える。尻尾の縞が途中で途切れているように見える。(胴体と尾で模様が異なるというデザインなのは理解できる。それにしてもである。)セピア色の塗りが雑であるとすれば、PNSOには珍しいことであり、多くの成長シリーズよりも下のレベルとなってしまう。

中国の獣脚類として、チアンジョウサウルスやユーティラヌスを出したのはセンスが良いと思う。ヤンチュアノサウルスは、また単品で大きいのを出して欲しい。シンラプトルでもいいが。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ジュラヴェナトルはメガロサウルス類の幼体かもしれない



ジュラヴェナトルについても調べてみると、面白いことがあったので簡単にメモする。
ジュラヴェナトル・スタルキJuravenator starkiは2006年に後期ジュラ紀のドイツ南部ゾルンホーフェンから報告された小型の獣脚類化石で、非常に保存の良い全身骨格である。カギ爪のケラチン質まで保存されており、最初の記載では尾椎の近くにウロコ状の痕跡があった。その後、2011年の詳細な記載論文ではUV光の照射によって、体の周囲に原羽毛と考えられる細かい繊維状構造が確認された。

私は2006年のNatureで最初にこれを見たとき、顔が「ワニ口クリップ」に似ていることと、コンプソグナトゥス類にしては妙に足が短いと思ったことを記憶している。ワニ口クリップというのは、頭骨がややつぶれて眼窩が少し下方にずれているので、クリップの支点(軸)のように見えたのと、歯列が前方に偏っているためである。歯の数が少ないのはスキピオニクスも同様で、幼体であるためとも考えられる。上顎骨歯の数はジュラヴェナトルが8、スキピオニクスが7、コンプソグナトゥスが14とある。(標徴形質のところと本文中で数が少し異なっている。)

Chiappe and Göhlich (2011)はフル記載で、系統解析はしていないが、ジュラヴェナトルはコンプソグナトゥスと最も似ておりコンプソグナトゥス類と考えている。ただし彼らも当時から「コンプソグナトゥス科」には問題があると意識していたらしい。「コンプソグナトゥス科」が単系であるかどうかは確立しておらず、徹底した系統解析が必要であると述べている。

Chiappe and Göhlich (2011)の最後の図(Fig.26)ではゾルンホーフェン産の小型獣脚類として、ジュラヴェナトルとコンプソグナトゥスの全身骨格を並べているが、そもそも体形がかなり異なっている。頭と首の比率、頭と後肢の比率も差がある。ジュラヴェナトルはかなり頭が大きく、後肢は短いのである。コンプソグナトゥスはコエルロサウルス類らしく鳥に近い体形に見えるが、ジュラヴェナトルは下手をするとポポサウルスのような二足歩行のワニ類に似ていなくもない。メガロサウルス類とすれば納得できる体形である。

この全身骨格図ではジュラヴェナトルはかなり尾が長いようにみえるが、この推定も今からみると興味深い。コンプソグナトゥス類という前提で、シノサウロプテリクスと比較しているのである。ジュラヴェナトルでは保存された尾椎は44個で、尾の後端は保存されていない。シノサウロプテリクスのホロタイプ標本には64個の尾椎があり、尾の長さは頭胴長の170%である。そこでシノサウロプテリクスと同じプロポーションと仮定して、その比率(失われた最後の20個の比率)をジュラヴェナトルに当てはめると、尾の長さは頭胴長の180%となるという。しかし、獣脚類の中でも最も尾が長いシノサウロプテリクスに合わせて、尾椎があと20個もあるとする時点で、相当尾が長いと想定しているのだから、それは胴に対しても長くなるだろう。ジュラヴェナトルがコンプソグナトゥス類でなく、メガロサウルス類の幼体とすれば、尾椎の数も長さも違っていても不思議はない。

この論文のジュラヴェナトルの特徴の中には、頭骨が大きいことや足が短いことも含まれている。また上顎骨の歯が少ないことや、前眼窩窓の長さが眼窩の長さとほぼ同じであること、肩甲骨が長いこと、中央の尾椎の関節突起が弓状であることなども記されているが、いずれも他のコンプソグナトゥス類やオルニトレステスなど基盤的コエルロサウルス類としか比較していない。他のコンプソグナトゥス類にはみられない形質を固有形質としているが、テタヌラ類全体の中でみるとどうなのかという視点はない。



ジュラヴェナトルの特徴として意味がありそうなものに、上顎のくびれがある。コエロフィシス類やスピノサウルス類、メガロサウルス類のエウストレプトスポンディルスでは、前上顎骨と上顎骨の間にくびれがある。一方ジュラヴェナトルの上顎では、上顎骨の中にくびれがある。上顎骨歯はくびれより前方に2本、後方に6本あり、くびれのすぐ後方の2本が大きい。こんな変な位置にくびれがあるのはコンプソグナトゥス類どころか、テタヌラ類の中でもユニークなのではないか。さきのCau (2021)の研究でメガロサウルス類のエウストレプトスポンディルスに近いところにきたというのは、このくびれが1つの要因なのではないか。

さらに、これは文献に書いてあることではなく筆者が気づいたことであるが、上顎骨の上行突起が屈曲しているようだ。上顎骨の上行突起が顕著に屈曲していることは、メガロサウロイドの特徴である。この点について面白いことに、産状の頭骨拡大図(Fig.8)では上顎骨の上行突起が直線が折れるようにカクッと屈曲している。この部分はシノサウロプテリクスやコンプソグナトゥスではなめらかなS字状カーブである(Fig.9)。ところが、コンプソグナトゥスなどと並べた頭骨復元図(Fig.10)では、ジュラヴェナトルのこの部分がややなめらかに描かれている。他のコンプソグナトゥス類と合わせたのではないか。
 そう思ってみると確かにCau (2021)のいうように、メガロサウルス類の幼体の可能性も大きいように思われる。


参考文献
CHIAPPE, L. M. & GÖHLICH, U. B. (2011): Anatomy of Juravenator starki (Theropoda: Coelurosauria) from the Late Jurassic of Germany. – N. Jb. Geol. Paläont. Abh., 258: 257–296; Stuttgart.

Copyright : Chiappe and Göhlich (2011)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )