マンション・メンテblog

集合住宅管理新聞「アメニティ」のブログです。工事業者募集やセミナーの案内などを随時掲載していきます。

高齢者増え、各戸に非常通報装置導入検討。修繕積立金を取り崩して費用に充てることができるか?

2020-09-18 17:00:03 | マンションQ&A
 
 私たちのマンションでは一人暮らしの高齢者が増えてきました。各戸に非常通報装置(緊急ボタンが押されると警備会社に自動通報されて、警備員が駆けつけます)を導入したいと考えています。費用については修繕積立金を取り崩して充てる予定です。組合員の一部から修繕積立金を取り崩すことは規約に違反すると言われています。規約は標準管理規約に準じていますが、問題があるでしょうか。

 
 標準管理規約28条では修繕積立金を取り崩せる場合を規定しています。
 この規定は限定列挙であるとされていますので、この規定のいずれかに該当する場合以外には、仮に、取り崩しの決議が圧倒的多数で可決されても、規約に違反するので許されないことになります。

 標準管理規約28条1項5号には「その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理」に該当する場合には修繕積立金を取り崩すことができると規定していますが、これに該当するといえるでしょうか。

 この点が争われた裁判例として神戸地方裁判所平成30年1月18日の判決があります。この裁判例では非常通報装置の導入は「管理」行為に含まれないという主張に対しては「管理」とは変更行為に至らないものを広く意味していると解され、本件通報装置を導入することも「管理」に含まれると判断しています。
 
 また、非常通報装置は「敷地及び共用部分等」に含まれないという主張に対しては、「本件通報装置のうち本件端末機器及び管理室内設備は文言上これに該当しない。しかし、同号が〝敷地及び共用部分等〟と定めているのは、本件マンションが当該建物と敷地から構成されるものであり、このうち専有部分に関する事項が区分所有者全体の利益に関係することが通常想定されないためであり、同号が本件端末機器及び管理室内設備のような被告(=管理組合)の所有する動産に対する支出を排除する趣旨であるとは解されない。本件通報装置を構成する各設備は、本件マンション内に設置され、機能的に一体として存在しているものであり、それが物理的観点から共用部分等に属さないものがあるからといって、支出を排除する実質的な理由はない。本件通報装置には本件マンション全体に対する共益性(区分所有者全体の利益)と当該目的にかなった各設備の機能的一体性が認められ、本件マンション全体にとって有益な設備として修繕積立金からの支出」することを認めています。

 この神戸地裁判決は控訴されましたが、判決後に被告の管理組合が「風紀、秩序及び安全の維持、防災等組合員の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するために必要な物品の購入及び設置」のためにも修繕積立金を取り崩せるとする条項を追加する規約変更と当初の非常通報装置導入決議を追認する決議を行いました。控訴審(大阪高等裁判所平成31年1月31日判決)はこの規約改正と追認決議の存在を理由に管理組合を勝たせていますが、原審の神戸地裁の判決理由については否定的な考えを示しています。

 標準管理規約を前提として、修繕積立金を取り崩して、非常通報装置導入費用に充てることは、規約違反行為と判断されるリスクが高いと考えられるので避けた方が良いと思います。

回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年9月号掲載)


集合住宅管理新聞「アメニティ」は、1982年創刊、39年間の歴史を持つマンション管理とメンテナンスの専門情報紙です。1都3県などの分譲マンションを中心に10万部発行。見本紙ご希望の方は、ホームページからお申し込み出来ます。
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Q&A アルミ製の面格子に白い斑点が付き見苦しい、防止策はあるか?

2020-09-08 15:56:30 | マンションQ&A

 
 マンションの共用廊下に面する窓にアルミ製の面格子が取り付けられています。そのアルミ製の面格子に、経年と共に白い斑点が付き見苦しくなっている住戸が多くなっています。この斑点発生の防止策が有るのでしょうか?
 尚、住戸によっては新品同様のまま綺麗になっているものもあります。この斑点が出ない箇所の違いは何なのでしょうか?お教え下さい。




 アルミ製品は、アルミ素材にアルマイト処理といって、表面に酸化皮膜を形成しアルミ素材を保護する加工がなされ錆びにくい製品とされています。よってステンレスと同様錆びない金属として色々な製品に加工されています。しかし、アルミもステンレスも手入れを怠ると錆びてしまいます。
 お問い合わせの白い斑点はアルミの錆(点食と言います)です。屋外ではアルミ製品の表面には種々の汚れ(埃・すす・排気ガス・塩化物等)が付着します。それを放置しておくと、空気中の湿気や雨水がその汚れに含浸し腐食性水溶液となり、表面の保護層である酸化皮膜を溶かしアルミ素材を錆びさせていきます。アルミ面格子はアルマイト処理のグレードがアルミサッシのものに比べ低いため、より錆びが発生しやすいのです。
 アルミ製品表面についた汚れを放置せず定期的に清掃する事により、この錆を防ぐ事が出来ます。お問い合わせの「住戸によっては新品同様のまま綺麗になっているものもある」のは、その住戸の住民の方が小まめに清掃をしているためと考えられます。よって白い斑点を発生させない方法は全居住者に清掃してもらうことですが、なかなか実施されないのが実情です。よって、管理会社に年に2~3回程度廊下に面する面格子やアルミ手摺の清掃を清掃業務に追加してもらう事が現実的な策だと思います。
 また、既に発生してしまった錆は、紙やすり等で削り、全面塗装する補修方法はありますが、塗装のグレード(アルミ風メタリック仕上)により、高額な補修費が掛かります。
 アルミ製品に限らず、ステンレスや鉄製品なども日頃清掃する事により、錆びの発生を低減でき、耐用年数を延伸することが出来ます。
回答者:NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年8号掲載)

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Q&A/台風でバルコニーの隣戸避難板が割れた。外壁の塗装剥がれなど、2次被害も

2020-08-17 13:08:03 | マンションQ&A

 台風15号でバルコニーの戸境に設置されているパーティション(隣戸避難板)のボードが破損した住戸が10戸程ありました。比較的高層階に多く見られましたが下層階でも確認されています。使用されているボードは補修業者に確認したところケイカル板5㎜であるとのことでした。滅多に無い強風だったのでやむを得ないと思いますが、割れたボードが飛散して手摺のガラスが割れたり、外壁や天井の塗装が傷付いたりする二次被害も発生しています。地球環境が変わりこの様な強風が今後多発する事が想定され、ボードの破損防止対策をしたいと思います。その方法を教えて下さい。
 令和元年台風15号は一部の地域で最大瞬間風速が60m/sに達したとの報告があります。この風速は木造の建物の倒壊が始まる風速と言われています。最大瞬間風速が60m/sに達していなくても、30m/s以上でも多くの物が破損する可能性があります。その立地条件や建物高さなどから予想される風圧力を計算し、設計されている建造物・工作物等もありますが、長年の経験や感だけで作られている工作物や建物の付属物が多くあります。
A
 隣戸避難板のボードは厳密に耐風圧強度を計算しているものはあまり無く、過去の事例から仕様を決めているものが多いものと想定されます。尚、このボードは非常の際、人力で割って隣戸へ避難するためのものです。そのため、割りやすいことも必須条件であり、風圧強度確保と相矛盾する設計条件が課せられています。
 ケイカル板(=ケイ酸カルシウム板)の5㎜厚のボードは隣戸避難板に使用されている例が多いボードです。このボードは割りやすい反面風圧で破損しやすいボードです。解決策としては、隣戸避難板が中棧が設けられ上下2枚に分かれている場合は、下段をケイカル板5㎜とし、上段をセメントと繊維を主原料とし、強度と弾力性をもたせたフレキシブルボード5㎜とする事です。上段のパネルは手摺より上部にあり強風をまともに受け破損すると外部へ飛散しやすい一方、避難の際、上段から避難することはないからです。下段は手摺が屏風代わりになり若干風圧が小さくなることと、避難に使われる部位であることから割りやすいボードにする必要があるからです。
 必ずしも下段が強風で割れないわけではありませんが、避難上割りやすくする本来の機能を考えるとやむを得ません。又、割れる要因には、風で飛散した物がボードに当たることも考えられますので、台風時にはバルコニー設置物はエアコン室外機や給湯器以外はすべて室内に取り込むことも重要です。

回答者:NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年12月号掲載)

マンション共用廊下に植木鉢等を置く区分所有者に撤去の裁判を起こす為の総会決議は必要?

2020-07-22 16:55:54 | マンションQ&A


マンションの共用部分である廊下に、植木鉢などの私物を置いて利用している区分所有者がいます。管理組合から撤去の要請を再三しているのですが、まったく応じてもらえません。そこで、撤去を求めて管理組合が裁判を起こしたいのですが、そのためには総会決議が必要でしょうか。当管理組合には、「区分所有者が規約や使用細則に違反したときは、理事会決議により裁判を起こせる」旨の規約があり、使用細則で、廊下に植木鉢などを置くことは禁止されています。


 
理事会決議により訴訟提起できる旨の規約があるのですから、一見すると、総会決議を要せず、理事会決議限りで訴訟提起することは問題なさそうです。しかし他方で、区分所有法57条1項と2項は、区分所有者の「共同の利益」に反する行為(区分所有法6条1項)につき、行為の停止やその結果の除去等を請求する訴訟を提起するには、総会決議を要求しています。廊下に植木鉢等を置いて、あたかも自分の庭のように使う振る舞いは、「共同の利益」に反するようにも見えますから、法57条に従えば、総会決議が必要となりそうです。

まず形式的に、①規約細則には反するが「共同の利益」には反しない行為、②規約細則にも「共同の利益」にも反する行為、③規約細則には反しないが「共同の利益」には反する行為、の3類型に分けて考えてみましょう。①は総会決議不要で、③は総会決議必要と考えられますが、問題は②です。通常、訴訟までいく案件では、②の類型が多いと思いと思います。今回ご質問の案件も、②に該当しそうです。

法律(区分所有法など)に反する規約の運用は許されません。法57条は、「共同の利益」に反する行為の停止やその結果の除去等を請求する訴訟を提起するには、常に総会決議を要求しており、例外を認めていません。規約で別段の定めはできません。したがって、規約細則と「共同の利益」の双方に反する行為をやめさせようと訴訟提起する場合は、総会決議を取っておくのが無難です。

ここで「無難」という曖昧な書き方をしたのは、この論点については、あまり議論が活発とはいえず、判例も見当たらないからです。実際の裁判では、「共同の利益」に反する行為の案件で、理事会決議限りで総会決議を取らず、規約細則違反のみを主張して訴訟追行し、認められることもあるかもしれません。しかし、訴えられた側が総会決議がない旨反論してきた場合などは、訴えが不適法と判断されることもあり得ます。

標準管理規約は、「共同の利益」に反する場合に法57条に基づき必要な措置をとることができるとする一方で(単棟型66条)、規約細則違反の場合に理事会決議により訴訟で行為の差止め等ができると規定しています(単棟型67条3項1号)。そのため、その適用範囲について混乱が生じることも少なくないかと思います。例えば、「せっかく規約を標準管理規約どおりに改正して、理事会決議限りで差止めや原状回復の請求などの訴訟提起できるようにしたのだから、もはや総会決議は必要なく、理事会限りで迅速な対応ができる」と考える方もいらっしゃると思います。しかし、「共同の利益」が問題となり得る案件では、総会決議を取って訴訟提起することをお勧めします。

回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年3
月号掲載)

窓のアルミサッシの不良パーツの取り替え費用は誰が負担?

2020-07-17 14:46:10 | マンションQ&A

 築35年のマンションでアルミサッシの更新を計画をしましたが、費用が高額で取りやめ、アルミサッシの不良パーツを取り替え延命することとしました。ところが過去にアルミサッシのパーツ取り替えは各戸で自費で取り替えてきた経緯があり、今回、修繕積立金で一斉に取り替えると自費で取り替えた住戸から異議が出そうです。
 そもそもアルミサッシのパーツは共用部なのでしょうか? 専有部なのでしょうか? また、その取り替え費用は誰が負担すべきなのでしょうか?



A
 マンションの住戸に設けられているアルミサッシは、マンション標準管理規約では「窓枠」「窓ガラス」と称し、共用部分と規定しています。ここで「窓枠」とは、ガラス戸が走行する外周の枠ととらえるか、外周の枠およびガラス戸そのものの枠ととらえるか解釈が分かれています。

前者ではガラス戸は専有部と解釈されてしまいます。アルミサッシは外周の枠とガラス戸の枠は一組の製品として販売され、別々に購入することはできません。よって、後者(外周枠も窓ガラス枠共「窓枠」と解釈する)と判断すべきと考えます。
 ではサッシの付属パーツは共用部分になるのかですが、前記管理規約で「窓枠」としか明記されておらず、パーツについては触れていません。窓枠をアルミサッシ本体と解釈すれば、その付属パーツもアルミサッシの一部であることから共用部と解釈するのが自然だと思います。

 では、その取り替え費用を誰が負担すべきかというと、共用部であることから修繕積立金で負担すべきとなります。しかし、戸車の走行が悪いから、サッシの鍵(クレセント)が壊れたからといって管理組合に申請し、取り替えてもらうのも管理組合業務として煩雑です。サッシパーツ取り替えは大規模修繕時などに定期的に一斉に実施しするようにしコストダウンすることが望まれます。

又、過去に自費で取り替えた事例にしばられ先の計画が決められないのは不合理ですので、新規約制定と共に過去の事例は切り捨てることも必要です。

回答者:NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年2月号掲載)