マンション・メンテblog

集合住宅管理新聞「アメニティ」のブログです。工事業者募集やセミナーの案内などを随時掲載していきます。

マンション法律Q&A 「組合員名簿の閲覧」

2020-07-09 16:48:21 | マンションQ&A

 私は管理組合の理事長をしております。今回理事の1人であるAさんから組合員の5分の1以上の賛成を集めて、臨時総会の招集を求めるつもりであるから、組合員名簿を見せて欲しいという要求がなされました。私に対して臨時総会を招集して欲しいという要望もありませんでした。それでも組合員名簿は見せなくてはいけませんか。また、組合員名簿には電話番号も記載されています。これら全ての情報を見せなければならないのでしょうか。


 本件と同様に理事の1人が理事会を通さずに、臨時総会を招集するために組合員名簿の閲覧請求したことの可否が争われた裁判例があります(東京地方裁判所平成29年10月26日判決)。

 この裁判で被告となった管理組合は、原告(閲覧請求した理事)は突然、理事会に出席しなくなり、閲覧請求の根拠となる議案の内容について理事会で提案や説明もしてないので、閲覧請求は権利の濫用であると反論しましたが、裁判所は「本件閲覧請求は、被告の組合員である原告が、組合員による総会招集権を行使して本件規約の改正を内容とする本件議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握することを目的としている。まさに組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求であって、本件閲覧請求の目的に不当性又は乱用的な側面を見いだすことはできない。

 被告は、原告が理事会を通さずに本件議案を直接総会に提案することが問題であるなどと主張するが、被告又は被告の理事会がそのように考えるのであれば、本件議案が提案された総会においてその旨主張し、他の組合員の賛同を得るように努力すべきであって、本件議案の総会への提出自体又は本件閲覧請求が妨げられる理由にはなり得ない」として、原告の閲覧請求を認めました。
 
 さらに、この裁判で、被告管理組合は、仮に閲覧請求が認められるとしても、閲覧の範囲は、自宅電話や携帯電話は機密性が高い個人情報であるから、除外すべきで、閲覧の範囲は「組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所」に限定されるべきであると主張していました。

 この点に関しても裁判所は「本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に個人情報が記載されているとしても、その閲覧の範囲を限定することには慎重な検討が必要である。」として組合員名簿の情報全てについて閲覧を認めています。

 他方で、裁判所は閲覧の範囲を限定しない理由として「被告が本件議案の総会への提案自体を阻止することを目的として本件請求を拒否していると認められる」ことを指摘しており、被告管理組合の閲覧拒否の理由が不当であることが閲覧の範囲を限定しない理由としてます。

通常は、総会招集が目的であれば、氏名、住所、部屋番号等が分かればよく、自宅の電話番号や携帯番号までは必要性はないと思います。

管理組合としてはAさんの閲覧目的が総会招集のためであることが認められるのであれば、閲覧を認めた上で、Aさんに対して電話番号は必要性を確認した上で、その理由が合理的でない限りは、電話番号は除外して開示することも許されると考えます。

回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年9月号掲載)

Q&A うちのマンションは耐震ドアになっているの?

2020-07-08 15:21:06 | マンションQ&A

 設計事務所にマンションの大規模修繕の設計費用の見積を依頼しました。その際、見積依頼書に玄関扉を耐震扉への取替設計を含めましたが、一部の設計事務所から現地を下見したところ既に耐震扉になっていますので、この設計は対象外としてよろしいですか?という質疑が出されました。
 築24年を過ぎているため、耐震玄関ドアではないであろうと考えていましたが、耐震ドアかどうかを外観から確認出来るのでしょうか?。



 耐震ドアとは、地震で建物にゆがみが発生し、それに伴い扉も変形した場合に扉が開閉出来なくなるのを防ぐ機構の付いた扉のことです。大きな地震が発生すると外壁がひび割れると共にゆがんでしまいます。その際、外壁に固定されている扉の周囲枠が外壁と共にゆがみ変形し、周囲枠が扉に接触し、扉を開けることが困難になり、居住者が閉じ込められてしまいます。
 
      


 それを防止するために、扉枠が変形しても扉が開けられる機構を組み込んだ扉が耐震ドアです。尚、この機構により地震に耐えるドアになるのではなく、地震の変形に対応して開けられるドアと言う意味で「対震ドア」と扉メーカーで呼称しています。
では、その機構が外観から確認出来るか?ですが、この機構には2種類あり、1つは「対震丁番」によるもの、もう一つは「対震枠」によるものです。
対震丁番とはドアの吊り元で開閉時に回転軸となる丁番に特殊な機構を付加したものです。丁番は扉枠側に取り付けてある回転軸と扉側に取り付けられている回転軸の2つの回転軸を上下につないだもので、丁番の中央につなぎ目があり1~2ミリ厚のワッシャがはめ込まれています。対震丁番は、この上下の回転軸のつなぎ目に高さ1㎝くらいの筒状のカバーが付いていて、手で上げるとカバーが上下します。丁番の上側の回転軸の中にスプリングが内蔵され、このカバーで覆われている1㎝くらいの範囲を上下に伸縮するようになっています。この機構によって、扉が枠に擦れていても丁番部分が上下に可動する事により、摺れを軽減し、扉を開けることが出来るのです。よってこのタイプは丁番の中央付近に筒状のカバーが組み込まれている事から判別できます。

    

  一方、対震枠とは、通常ドアの周囲枠と扉とは4ミリほどのすき間がありますが、対震枠は上部のすき間が7ミリ、戸先側(戸の開く方側)のすき間が12ミリ位に広くしてあります。すき間を広くすることにより、枠が変形しても扉との接触が少なくなり、開ける際にあまり抵抗にならないようにしたものです。よってこのタイプは扉の上部のすき間が7ミリ位ある事と、戸先側は12ミリのすき間があるのですが、そのすき間を扉の面材を伸ばして覆っているため、正面からすき間が見えなくなっている事です。

回答者:NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年6月号掲載)

住戸内のアスベスト含有建材の処理方法

2019-05-31 16:53:22 | マンションQ&A

 マンションで住戸の内装リフォームをしていますが、内装業者からお風呂や洗面室の天井板がアスベスト含有建材であるので、解体撤去の追加費用が掛かるといわれました。西暦1990年に建設されたマンションですが、その頃にはまだアスベスト含有建材は使われていたのでしょうか?また、アスベスト含有建材の処理はどのようにすれば良いのでしょうか?


 建物に使われている建材には、ある時期アスベストを含有していたものが多数確認されています。住戸の内装材も例外ではありません。アスベストが含有していた内装材は、ボード類、天井吹付仕上材、ビニル系床材が主です。
 ボード類で仕様頻度が高いのはスレートボード(耐水性と不燃性があり、主に浴室や洗面室など湿気の多い部屋の天井板や台所等の火気使用室の壁(タイルや塗装の下地)に使われている・画鋲が刺さらないくらいに固い)、石膏ボード(不燃性があり、壁や天井でビニルクロスの下地ボードとして使われている・画鋲が容易に刺さる)、ケイ酸カルシウム板(洗面室や廊下の天井板として使われている・画鋲が強くさせば刺さる)、ロックウール吸音板(白色で表面が虫喰い状に穴があいた吸音天井ボード・画鋲が容易に刺さる)などが上げられます。
 天井吹付仕上材は吹付ひる石ー別名バーミキュライトー(無数の凹凸があり手で触るとポロポロはがれ落ちてくる天井吹付材)があります。
 ビニル系床材はクッションフロア(エンボス模様のある長尺シート)やPタイル(30㎝角の固いビニル系床材)と一般に言われている合成樹脂床材があります。
 これらの建材にアスベストを含有していた年代はスレートボードが2004年まで、石膏ボードは1986年まで、ケイ酸カルシウム板が2004年まで、ロックウール吸音板が1987年まで、吹付ひる石が1988年まで、クッションフロアは1990年まで、Pタイルは1987年までで、メーカーにより年代や含有の有無に差異がありますので、国土交通省・経済産業省が公表している石綿含有建材データベース(http://www.asbestos-database.jp/)を参照してください。
 もしこれらのいずれかの建材を解体撤去や改修する際には以下の処置が必要です。
①工事受注者は工事部位の建材にアスベストが含有しているかを調べ、調査結果を発注者に説明し、公衆に見やすいように掲示する。
②発注者は上記調査費用の負担や必要な措置への協力をする。
③石綿含有建材の解体撤去作業者は保護具・保護着を着用し、作業場所はシートなどを敷いたり囲ったりし養生する。
④石綿含有建材使用部に設置されている設備機器を取り外す。
⑤石綿含有建材の湿潤化(=粉塵飛散防止)
 ・ボードは水または湿潤剤を噴霧し湿潤化する
 ・吹付材は湿潤剤を噴霧し湿潤化する
 ・ビニル系床材は湿潤剤を噴霧又はHEPAフィルター付真空掃除機で吸引(場合により作業場を隔離し負圧排気装置が必要)
⑥石綿含有建材の除去
 ・ボードは原型のまま割らないように手ばらしする
 ・吹付材は湿潤状態を保持しながら、スクレ─パーなどで吹付材を除去し、除去面の残留物は浸透性固化材を塗布し固化するかHEPAフィルター付真空掃除機で吸引する。
 ・ビニル床材は接着力が強く電動工具で剥がす事となり、湿潤剤を噴霧しながら又はHEPAフィルター付真空掃除機で粉塵を吸引しながら作業する。
⑦除去した石綿含有建材は「石綿含有産業廃棄物」として所定の梱包・区分・経路・処理場で処理する。

回答者:NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年4月号掲載)


「建物相談会のQ&A」 アルミサッシや玄関扉の取替えを区分所有者が行うには?

2018-11-07 16:22:38 | マンションQ&A

 築38年目になり、住戸のアルミサッシや玄関扉を取替えたいのですが、修繕積立金が足りません。しかし、居住者の中には結露や気密性の悪さ等から早急に取替えたいという希望が出て来ています。このため、管理規約を改正し、区分所有者が自らの責任と負担で共用部であるアルミサッシや玄関扉を取替えられるようにしたいと理事会で考えています。
 当該規約改正と実際に区分所有者がこれらを取替えるに当たってどのような事を注意しなければならないのでしょうか?


 住戸のアルミサッシや玄関扉は、経年と共にパーツの劣化や建具本体の変形等による不具合が発生し、経年30年以降には性能が著しく低下してきます。また、建設当初の性能が、最近のアルミサッシや玄関扉の性能に比べグレードが低い事もあり、新しいマンションに比べると性能の差が目立ちます。
 しかし、これらの取替えには、玄関扉が20万円/戸前後でアルミサッシは設置されているアルミサッシの数により差はありますが100万円/戸前後の費用が掛かります。この費用を賄う修繕積立金が積み立てられている管理組合はごく少数です。よって、管理規約に区分所有者が共用部であるアルミサッシや玄関扉を取替えられるように規定し、区分所有者の自己負担で取替えてもらわざるをえない事態に至っている管理組合が多くなっています。
 標準管理規約の(窓ガラス等の改良)第22条第2~3項相当を規約にもりこむ事になりますが、のちのち管理組合で一斉にアルミサッシや玄関扉を取替える事になった場合を想定し、先行し自費で行った住戸に対する対応基準を決めておく事が必要です。
 また、自費で取替えるサッシや玄関扉の仕様基準を決め、その基準に則して取替えを許可する事が必要です。
 アルミサッシの仕様基準は、アルミサッシの性能(遮音性能・気密性能・水密性能・耐風圧性能・防火性能)やアルミサッシの枠の色、ガラスの種類(透明かくもりか、ガラスの色、網入の要否、ガラスの厚みや断熱・遮熱性能)、取替え工法の種類(カバー工法・持ち出し工法)など建物の高さや立地条件により守らなければならない基準や外観の統一性を維持するための基準です。
 また、玄関扉についても玄関扉の性能(遮音性能・耐震性能・防犯性能・防火性能)、扉の外観(色や形状、取手の種類)、取替え工法の種類(カバー工法・持ち出し工法)など法定基準や外観の統一基準が必要ですが、玄関扉の外観デザインはメーカーや取替える時期により変わってしまい、統一性を確保する事は困難です。のちのち管理組合で一斉に取替える事があった場合には、先行して自費で取替えた玄関扉も合わせて取替える事が望まれます。特に玄関扉は地震の際に変形し、扉が開かず閉じ込められる危険性があるので、閉じ込め防止機能(対震機能)のついた扉に早急に取替えることが必要です。

回答者:NPO日住協協力技術者 一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2018年10月号掲載)

外壁塗装材にアスベストが混入している?!

2018-08-10 14:40:40 | マンションQ&A

 大規模修繕工事を行う計画を進めています。設計等を依頼したコンサルタントからマンションの外壁の塗装材にアスベストが混入している可能性があるので調査した方が良い。もしアスベストが混入していたら、工事費が増大するという話しを聞きました。本当に外壁塗料にアスベストが混入しているのでしょうか?混入しているとしたら、何故今頃アスベストが混入していることが判ったのでしょうか?


 アスベスト(石綿)は優れた物性を持った原料である事から、長期間大量にアスベスト含有建材として生産され使用されていました。しかし、アスベストの繊維は肺に吸い込むと肺がんや中皮腫などを発症する物質であるとして、過去に何度か規制されてきました。1975年に鉄骨造の耐火被覆吹付材として使われていた吹付石綿やロックウールがアスベスト含有率を5%(重量比・以下同じ)以下に規制され、1995年には耐火被覆吹付材へのアスベスト含有率を1%以下に拡大規制されました。それまでは規制対象は耐火被覆などの吹付材だけでしたが、2004年にアスベスト含有率を1%を超える石綿含有建材10品目(接着剤・成形セメント板・屋根用化粧スレート・ブレーキパッドなど)が製造禁止され、さらに2006年にはアスベスト含有率0・1%を超えるすべての製品の製造が禁止されました。この2006年のすべての製品の製造禁止に外壁塗料が含まれます。
  アスベスト含有率0・1%を超えるすべての製品の製造は2006年に中止されましたが、2006年以前の建築物にはアスベスト含有建材が残っています。その一つが外壁塗料です。外壁塗料の凹凸パターンを付けるパターン材(主材)の多くにアスベストを混入したものがあったのです。外壁塗装は大規模修繕時に重ね塗りされ、2006年以前に塗られたいずれかの層、或いはすべての層の塗装にアスベストが含有している可能性があります。塗装にアスベストが含有していても、即座に健康に害はありませんが、大規模修繕工事等でひび割れの補修等で壁に穴をあけたり削ったり、塗装を剥がしたりすると塗料に含まれていたアスベストが飛散し、作業職人はもとより居住者に被害が及ぶ可能性があります。
 そのため、2016年に国立研究開発法人建築研究所と日本建築仕上工業会からなる委員会より「建築用仕上げ塗材からの石綿粉じん飛散防止処理指針」が発刊され、修繕工事の際のアスベスト含有塗装材の処理に関する指針が明示されましたが、その具体的な有効な工法や費用に関しての情報が少なく、業界で混乱しているのが現状です。
 塗料にアスベストが含有しているのが最近判ったのではなく、含有しているのは判っていたが、アスベスト含有建材に対する規制が拡大し、規制に該当する建材が増えてきたのが実情です。現在0・1%を超えるすべての製品が規制対象ですが、今度はアスベスト0%を超え含有する建材の規制になって行くのでしょうか?

回答者
NPO日住協協力技術者
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2018年8月号掲載)