マンション・メンテblog

集合住宅管理新聞「アメニティ」のブログです。工事業者募集やセミナーの案内などを随時掲載していきます。

マンションの法律相談「理事会において理事長を解任できるか」

2018-07-18 12:08:57 | マンションQ&A
 
 理事会において、A氏の役職を理事長から理事に変更して、新しい理事長B氏を選任する決議がなされました。この理事会決議は有効でしょうか。規約は、標準管理規約と同じで、「理事長は、区分所有法に定める管理者とする。」「理事長は、理事会で選任する。」「役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない。」となっており(標準管理規約38条2項、35条3項、48条13号参照)、理事会で理事長職を解任できる旨の明文規定はありません。


 標準管理規約では、理事長を区分所有法上の管理者としています(標準管理規約35条3項、区分所有法25条以下)。そして区分所有法25条1項は、「規約に別段の定めがない限り集会(総会)の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる」とあります。したがって区分所有法は、総会の決議以外の方法による管理者(理事長)の解任を認めるか否か、そしてその方法について、自治的規範である規約に委ねていると言えます。
 そこで、規約をどのように解釈するかによって、理事会限りで理事長職を解任することができるか否かの結論が決まります。
 まず、「理事長という重要な地位を喪失させるためには、規約に明確な根拠が必要である。理事会で理事長職を解任できる旨の明文規定が規約にない以上は、理事会限りで理事長職を解任することはできない」とする解釈が考えられます。また、「規約表記上、理事会の決議で可能なのは理事長の『選任』だけであるのに対し、総会の決議で可能なのは役員の『選任及び解任』である。したがって役員の選任と解任とは明確に区別されていることは明らかであるから、理事会の決議で可能なのは理事長の『選任』だけであり、理事会限りで理事長職を解任することはできない。」との解釈もあり得ます。
 以上の解釈に立てば、理事会限りで理事長職を解任することはできないわけですから、ご質問の決議は無効ということになります。
 しかし、類似の事例が争われた最高裁平成29年12月18日判決は、以上のような解釈には立たず、理事会限りで理事長職を解任することが可能と判断しました。すなわち、「本件規約は…理事は、組合員のうちから総会で選任し…、その互選(理事会決議と同旨)により理事長を選任する…としている。これは、理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、総会で選任された理事に対し、原則として、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると、このような(本件規約の)定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは、上記のように解する妨げにはならない。」と判断しました。
 最高裁は、理事会が理事長を「選任」ができる以上、その表裏一体である「解任」もできるという考え方に立ったと思われます。この最高裁の判決を前提とすると、ご質問の決議は有効となります。
 なお、標準管理規約を前提とした場合、理事自体の解任は理事会限りできず、必ず総会の決議が必要ですので、ご注意下さい。

回答者
NPO日住協法律相談会 
専門相談員 
弁護士・内藤 太郎
(集号住宅管理新聞「アメニティ」2018年3月掲載)

「マンション建物Q&A」 タイル張りマンションの異常事態

2018-07-10 14:41:56 | マンションQ&A

 築12年経つマンションですが、6年程前(築6年目)外壁のタイルが一部盛り上がって剥落したため、マンション売り主に足場を掛け補修してもらいました。それから5年後にその近辺のタイルが再び広範囲に剥がれ、またその2ヶ月後、そことは離れた外壁でタイルの剥落が発生しました。再度売り主に工事に欠陥があると思われるので対処してほしいと要求しましたが、5年のアフターサービス期間がとっくに過ぎているので、対応は出来ない。タイル剥落する前に管理組合が定期点検し維持管理していればタイル剥落は発生しなかったのではないかとの回答でした。
 アフターサービス基準による保証期間が5年となっていると、それ以降に発生或いは発覚したタイルの不良は管理組合で補修するのが通常なのでしょうか?


 マンション購入者はマンション売り主と売買契約に基づき完成したマンションを購入しています。通常は売り主が提示した保証条件であるアフターサービス基準に基づき契約し購入しているため、購入後の保証はアフターサービス基準が基本となります。アフターサービス基準では、大半は2年保証で、コンクリートのひび割れやタイルの浮き・剥がれなどは5年、漏水や構造耐力上の欠陥を10年としています。しかしアフターサービス基準保証期間後でも、打つ手はないわけではありません。民法による「不法行為(故意または過失によって他人の権利・利益を侵害した場合にその損害賠償義務を負う)」に該当すれば賠償してもらう事が可能ですが、工事の過失をマンション購入者側で立証しなければならないというネックがあります。売り主の対応が納得いかない場合は建築に詳しい弁護士と相談することが良いと思います。
 ここ数年以内に一回目の大規模修繕をする(築10~15年目)マンションにおける外壁タイルの大量浮きが非常に多く発生。それ以前のマンションでの外壁タイルの浮きはタイル張りの総面積の2%前後でしたが、築十数年の最近のマンションでは5%~25%のタイル浮きの報告が出ています。これは異常事態です。
推測ではありますが十数年前からコンクリートの型枠に塗装型枠用合板という通常の木目を表した型枠用合板の表面に塗装をし、コンクリートの仕上がりが滑らかになる様な型枠を多用する様になったのが一因と考えます。塗装型枠用合板はコンクリート打放仕上げ用に開発されたものですが、吸水性が低くコンクリートの水分による型枠の傷みが少なく何度か転用が効きローコスト・短工期で工事が出来る事から打放し仕上ではないタイル仕上や塗装仕上のコンクリートにも使われるようになった様です。この型枠を使うとコンクリート表面がつるつるになり、そのままタイルを張るとタイルの付着性能が低下。この為、数年前に日本建築学会の建築工事標準仕様書でタイル張りのコンクリート表面は目荒し(コンクリート表面に凹凸を付ける)をする様改訂されています。
 アフターサービス基準が5年であっても、築10年以内に大量のタイルの浮きが発生する建物は異常であり、商品として不完全なものと考えます。一般にはタイルは高級で半永久な仕上材と期待されています。マンションデベロッパーも高級ブランドを唱え、高品質イメージを宣伝し販売しながら、10年足らずでタイルが大量に浮いても「アフターサービス基準外です」「3・11の地震のせいでしょう」「多分凍害のせいでしょう」「太陽熱によるタイルの伸縮があるので仕方がありません」と言い訳し、自らの商品をまがい物である事を自白しているように思えてなりません。

回答者NPO日住協協力技術者 
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」掲載)

「専有部配管取替工事」積立金の計画が必要

2018-06-25 15:14:03 | マンションQ&A
 
 経年35年目のマンションで、3年後に排水管の取り替えを計画しています。共用排水管(立て管)は住戸内のパイプスペースに配管されているため、パイプスペース周囲の内装壁(専有部)を解体復旧する事が必要になります。その費用は共用排水管取替工事の一環として修繕積立金からの支出となりますが、共用排水管に接続されている専有排水管との接続部はどこまでが共用部扱いで取り替えるのでしょうか?
 又、共用部と一緒に専有部排水管も同時に取り替えた方がコストメリットはあると思いますが、専有部排水管の取り替えはどのように進めたら良いのでしょうか?


 共用排水管は、大半のマンションは住戸内のパイプスペースに配管されています。このためパイプスペース周囲の専有部である内壁の解体及び配管取替後の復旧が必要になります。この工事は共用排水管取替に伴い発生する工事なので修繕積立金からの支出となります。
 お問い合わせの専有排水管と共用排水管の接続部については、一般的に共用排水管に設けられている分岐継手(専有排水管との接続するための接続金物)及びそこから数十センチの専有排水管(分岐継手取替に伴い取り替えが必要なため)の取り替えまでを共用排水管取替工事の一環として行っています。よって、パイプスペース周囲の壁だけではなく専有排水管との接続のためにパイプスペース周囲数十センチの床(場合により天井も)の解体・復旧も必要になります。
 又、専有部排水管の取り替えは、共用排水管と同時に行った方がコスト的にも工期的にも有利ですが、その費用が用意されているかが課題です。管理規約を改定し修繕積立金から支出して専有部排水管を取り替える事は可能ですが、修繕積立金の余剰が充分ある事が必要です。専有部排水管取り替えは内装の床の解体・復旧を行うため、内装床材の解体・復旧が必要な専有給湯管や専有給水管・専有ガス管などの取り替えも同時に行う事が望まれます。それらを同時に行うと戸当たり100万円以上の費用が必要になります。
 修繕積立金から支出しての工事は難しいため、専有部の配管取替は専有者負担で、希望者のみが行う共用排水管取替工事のオプション工事扱いにする場合も見られます。この場合は、取替工事を希望しなかった住戸の配管は、この先漏水や排水不良の危険性がつきまといます。出来れば全戸一斉に専有部配管も取り替えたいものです。それには、修繕積立金とは別に専有部配管取替の費用が必要である事を区分所有者にアピールすると共に、共用部の修繕積立金とは別に、いずれ必要になる専有部配管取替工事の専有部工事積立金を管理組合主導で計画する事が望まれます。

回答者
NPO日住協協力技術者 
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2018年4月号掲載)

マンション建物Q&A 大規模修繕工事3回目は安いのか?

2018-06-15 14:11:44 | マンションQ&A
大規模修繕工事、1回目より2回目・3回目の方が安いのか?

 最近、大手の新聞にも記事が掲載されていましたが、国土交通省による「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」結果が発表されました。一部の不適切コンサルタントによる割高な工事費つり上げ問題を未然に防ぐため、適正な工事費かを検討する目安として、大規模修繕工事費の944事例のアンケート結果を公表されたものです。
 それによると第1回目大規模修繕工事費が平均100万円/戸、第2回目が平均97・9万円/戸、3回目以降が平均80・9万円/戸と、回数を重ねるほど戸当たり工事費が低額になっています。
 昨年、当方のマンションで第2回目の大規模修繕を行いましたが、第1回目の大規模修繕工事より第2回目の大規模修繕工事費が3割以上高額でした。12年前の建設物価が3割以上安かったとは思えません。割高な工事費で工事をされたのでしょうか?


 不適切コンサルタント問題とは、格安なコンサルタント料金で受託し、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるよう不適切な工作をし、その結果高額な工事費で管理組合に経済的な損失を与える一部のコンサルタントがいる問題です。
 お問い合わせの件ですが、大規模修繕の工事費は、一般的に1回目より2回目が、2回目より3回目が工事費は高額になります。それは1回目の大規模修繕ではコンクリート躯体の修繕や外壁・鉄部の塗装の塗替え、床防水の修繕、シーリングの取替等の”基本修繕”のみですが、2回目や3回目になると、その”基本修繕”の他に各種金物の取替や建具の補修・取替などが増え、更に設備の修繕等も加わることもあるからです。
 国土交通省による「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の各回の大規模修繕費は、このアンケートを実施した年度の直近3年間(2014年~2016年)に行われた大規模修繕の工事費のデータです。すなわちその間に行われた第1回目の大規模修繕工事費は2004年前後に建てられたマンション、第2回目の大規模修繕工事費は1989年前後に建てられたマンション、第3回目以降の大規模修繕工事費は1975年以前のマンションの大規模修繕工事費に当たります。 2004年前後のマンションと1989年前後、1975年以前のマンションの違いは住戸の専有面積だと思われます。当実態調査には住戸の専有面積のデータがないので定かではありませんが、2000年頃のマンションは専有面積が70㎡台が主流であると共に、80㎡超えのシェアも高くピーク時と言われています。一方それ以前のマンションは専有面積は徐々に狭くなり、1975年以前は60㎡前後の団地型が主流でした。専有面積の大小は外壁等の修繕部位の面積の大小に連動します。同じ戸数のマンションでも修繕部位の面積が小さいと戸当たりの工事費は低額になります。よって1回目の大規模修繕工事が2回目より、2回目が3回目より高額なデータとなっている要因の一つだと考えられます。
 国土交通省が不適切コンサルタントによる被害防止のための参考としてこの様なデータの公開は大歓迎ですが、データの誤解に注意が必要です。
 又、この調査には大規模修繕工事におけるコンサルタントの設計・監理等の業務量データも報告され、不適切コンサルタントの常道な手口である著しく低い設計・監理料を見抜こうとの事ですが、業務量だけでは判断出来ません。業務量は同じでも業務単価が安ければ設計・監理料は低く出来るからです。更にこのデータには不適切コンサルタントからのアンケートデータも含まれているであろう事も考慮が必要です。

回答者
NPO日住協協力技術者 
一級建築士 山田 俊二
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2018年6月号掲載)

マンション 法律相談Q&A 民泊使用をやめさせたい

2018-06-11 16:30:00 | マンションQ&A
Bさんは規約違反して居室を民泊使用
管理組合として民泊をやめさせるには


 
私達のマンションでは規約を改正して民泊禁止の規定を置きました。ところが、組合員のAさんから隣のBさんの部屋に入れ替わり外国人らしき人が出入りしている。民泊として使用しているのではないかとの報告がありました。外部居住者であるBさんに連絡をして確認したら、民泊には使用していない。留学したときに知り合った友達に一時的に貸しているだけだと反論されました。Bさんは嘘をついていると思うのですが、管理組合としては民泊をやめさせるためにどのような手段がとれるのでしょうか。

 
 まず、Bさんが民泊には使用していないと反論しているので、民泊に使用しているという証拠を集める必要があります。管理組合側として最初にやるべきことは民泊として使用していることを裏付ける事実を記録して残しておくということです。記録は写真とかビデオで残しておくことが望ましいですが、違法駐車している車とは異なり、対象が人物ですので撮影に際してはトラブルになることも想定されるので注意が必要です。業務日誌等に詳細に記録しておくことも有効な方法です。また、役員等に英会話等の語学ができる人がいれば実際に出入りしている人に、どこから来たのか。どういう経緯でBさんの部屋を使うことになったのか。Bさんと面識があるのか等を確認してそれを記録化しておくことも有効な方法です。
 本件のようにBさんが否定して裁判になる可能性ある場合は、どの程度の証拠が必要か、それをどのように集めるのかはマンション問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
 民泊使用の証拠が集まれば、民泊は規約に違反するものですから、その是正を求めることができます。
 一般的には、管理組合から民泊の停止を求める文書を送付して、それでも従わない場合は、区分所有法57条1項に基づいて、民泊を止めることを求める裁判を提起することになります。
 この裁判を提起する場合は集会の決議が必要です(なお、管理組合が法人化されている場合は管理組合自体が原告となることができますが、法人化されていない場合は集会で訴訟を遂行する者を指定する必要があります。通常は理事長に訴訟遂行権を委ねるとともに弁護士に依頼する権限も付与しておくことが多いと思います)。この決議は特別決議ではなく、普通決議で足りますが、相手方(本件ではBさん)に対して予め弁明の機会を与えなければなりません。
 また、集会の決議では相手方となるBさんも議決権を行使する権利がありますので、議案書などはBさんにもきちんと送付する必要があります。
 Bさんが民泊として部屋を使用している場合はそれは違法民泊になります。民泊について規定している「住宅宿泊事業法」では違法な民泊について罰則規定が置かれています。違法民泊は犯罪行為に該当しますので、警察に告発して処罰を求めることが可能です。もっとも、十分な証拠もなくて告発して、民泊ではありませんでしたということになればトラブルも予想されますので、告発する場合は弁護士に相談することをお勧めします。
 また、告発ではなくて、違法民泊の可能性がありますので捜査(調査)をお願いしますという申し入れをしてもらうことも検討できます。

回答者:NPO日住協・法律相談会 専門相談員 弁護士・石川 貴康
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2018年5月号掲載)