Q
理事会において、A氏の役職を理事長から理事に変更して、新しい理事長B氏を選任する決議がなされました。この理事会決議は有効でしょうか。規約は、標準管理規約と同じで、「理事長は、区分所有法に定める管理者とする。」「理事長は、理事会で選任する。」「役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない。」となっており(標準管理規約38条2項、35条3項、48条13号参照)、理事会で理事長職を解任できる旨の明文規定はありません。
A
標準管理規約では、理事長を区分所有法上の管理者としています(標準管理規約35条3項、区分所有法25条以下)。そして区分所有法25条1項は、「規約に別段の定めがない限り集会(総会)の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる」とあります。したがって区分所有法は、総会の決議以外の方法による管理者(理事長)の解任を認めるか否か、そしてその方法について、自治的規範である規約に委ねていると言えます。
そこで、規約をどのように解釈するかによって、理事会限りで理事長職を解任することができるか否かの結論が決まります。
まず、「理事長という重要な地位を喪失させるためには、規約に明確な根拠が必要である。理事会で理事長職を解任できる旨の明文規定が規約にない以上は、理事会限りで理事長職を解任することはできない」とする解釈が考えられます。また、「規約表記上、理事会の決議で可能なのは理事長の『選任』だけであるのに対し、総会の決議で可能なのは役員の『選任及び解任』である。したがって役員の選任と解任とは明確に区別されていることは明らかであるから、理事会の決議で可能なのは理事長の『選任』だけであり、理事会限りで理事長職を解任することはできない。」との解釈もあり得ます。
以上の解釈に立てば、理事会限りで理事長職を解任することはできないわけですから、ご質問の決議は無効ということになります。
しかし、類似の事例が争われた最高裁平成29年12月18日判決は、以上のような解釈には立たず、理事会限りで理事長職を解任することが可能と判断しました。すなわち、「本件規約は…理事は、組合員のうちから総会で選任し…、その互選(理事会決議と同旨)により理事長を選任する…としている。これは、理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、総会で選任された理事に対し、原則として、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると、このような(本件規約の)定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは、上記のように解する妨げにはならない。」と判断しました。
最高裁は、理事会が理事長を「選任」ができる以上、その表裏一体である「解任」もできるという考え方に立ったと思われます。この最高裁の判決を前提とすると、ご質問の決議は有効となります。
なお、標準管理規約を前提とした場合、理事自体の解任は理事会限りできず、必ず総会の決議が必要ですので、ご注意下さい。
回答者
NPO日住協法律相談会
専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(集号住宅管理新聞「アメニティ」2018年3月掲載)
理事会において、A氏の役職を理事長から理事に変更して、新しい理事長B氏を選任する決議がなされました。この理事会決議は有効でしょうか。規約は、標準管理規約と同じで、「理事長は、区分所有法に定める管理者とする。」「理事長は、理事会で選任する。」「役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない。」となっており(標準管理規約38条2項、35条3項、48条13号参照)、理事会で理事長職を解任できる旨の明文規定はありません。
A
標準管理規約では、理事長を区分所有法上の管理者としています(標準管理規約35条3項、区分所有法25条以下)。そして区分所有法25条1項は、「規約に別段の定めがない限り集会(総会)の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる」とあります。したがって区分所有法は、総会の決議以外の方法による管理者(理事長)の解任を認めるか否か、そしてその方法について、自治的規範である規約に委ねていると言えます。
そこで、規約をどのように解釈するかによって、理事会限りで理事長職を解任することができるか否かの結論が決まります。
まず、「理事長という重要な地位を喪失させるためには、規約に明確な根拠が必要である。理事会で理事長職を解任できる旨の明文規定が規約にない以上は、理事会限りで理事長職を解任することはできない」とする解釈が考えられます。また、「規約表記上、理事会の決議で可能なのは理事長の『選任』だけであるのに対し、総会の決議で可能なのは役員の『選任及び解任』である。したがって役員の選任と解任とは明確に区別されていることは明らかであるから、理事会の決議で可能なのは理事長の『選任』だけであり、理事会限りで理事長職を解任することはできない。」との解釈もあり得ます。
以上の解釈に立てば、理事会限りで理事長職を解任することはできないわけですから、ご質問の決議は無効ということになります。
しかし、類似の事例が争われた最高裁平成29年12月18日判決は、以上のような解釈には立たず、理事会限りで理事長職を解任することが可能と判断しました。すなわち、「本件規約は…理事は、組合員のうちから総会で選任し…、その互選(理事会決議と同旨)により理事長を選任する…としている。これは、理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、総会で選任された理事に対し、原則として、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると、このような(本件規約の)定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは、上記のように解する妨げにはならない。」と判断しました。
最高裁は、理事会が理事長を「選任」ができる以上、その表裏一体である「解任」もできるという考え方に立ったと思われます。この最高裁の判決を前提とすると、ご質問の決議は有効となります。
なお、標準管理規約を前提とした場合、理事自体の解任は理事会限りできず、必ず総会の決議が必要ですので、ご注意下さい。
回答者
NPO日住協法律相談会
専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(集号住宅管理新聞「アメニティ」2018年3月掲載)