Q
私たちのマンションでは一人暮らしの高齢者が増えてきました。各戸に非常通報装置(緊急ボタンが押されると警備会社に自動通報されて、警備員が駆けつけます)を導入したいと考えています。費用については修繕積立金を取り崩して充てる予定です。組合員の一部から修繕積立金を取り崩すことは規約に違反すると言われています。規約は標準管理規約に準じていますが、問題があるでしょうか。
A
標準管理規約28条では修繕積立金を取り崩せる場合を規定しています。
この規定は限定列挙であるとされていますので、この規定のいずれかに該当する場合以外には、仮に、取り崩しの決議が圧倒的多数で可決されても、規約に違反するので許されないことになります。
標準管理規約28条1項5号には「その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理」に該当する場合には修繕積立金を取り崩すことができると規定していますが、これに該当するといえるでしょうか。
この点が争われた裁判例として神戸地方裁判所平成30年1月18日の判決があります。この裁判例では非常通報装置の導入は「管理」行為に含まれないという主張に対しては「管理」とは変更行為に至らないものを広く意味していると解され、本件通報装置を導入することも「管理」に含まれると判断しています。
また、非常通報装置は「敷地及び共用部分等」に含まれないという主張に対しては、「本件通報装置のうち本件端末機器及び管理室内設備は文言上これに該当しない。しかし、同号が〝敷地及び共用部分等〟と定めているのは、本件マンションが当該建物と敷地から構成されるものであり、このうち専有部分に関する事項が区分所有者全体の利益に関係することが通常想定されないためであり、同号が本件端末機器及び管理室内設備のような被告(=管理組合)の所有する動産に対する支出を排除する趣旨であるとは解されない。本件通報装置を構成する各設備は、本件マンション内に設置され、機能的に一体として存在しているものであり、それが物理的観点から共用部分等に属さないものがあるからといって、支出を排除する実質的な理由はない。本件通報装置には本件マンション全体に対する共益性(区分所有者全体の利益)と当該目的にかなった各設備の機能的一体性が認められ、本件マンション全体にとって有益な設備として修繕積立金からの支出」することを認めています。
この神戸地裁判決は控訴されましたが、判決後に被告の管理組合が「風紀、秩序及び安全の維持、防災等組合員の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するために必要な物品の購入及び設置」のためにも修繕積立金を取り崩せるとする条項を追加する規約変更と当初の非常通報装置導入決議を追認する決議を行いました。控訴審(大阪高等裁判所平成31年1月31日判決)はこの規約改正と追認決議の存在を理由に管理組合を勝たせていますが、原審の神戸地裁の判決理由については否定的な考えを示しています。
標準管理規約を前提として、修繕積立金を取り崩して、非常通報装置導入費用に充てることは、規約違反行為と判断されるリスクが高いと考えられるので避けた方が良いと思います。
回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年9月号掲載)
集合住宅管理新聞「アメニティ」は、1982年創刊、39年間の歴史を持つマンション管理とメンテナンスの専門情報紙です。1都3県などの分譲マンションを中心に10万部発行。見本紙ご希望の方は、ホームページからお申し込み出来ます。
https://www.mansion.co.jp/mihonshi
私たちのマンションでは一人暮らしの高齢者が増えてきました。各戸に非常通報装置(緊急ボタンが押されると警備会社に自動通報されて、警備員が駆けつけます)を導入したいと考えています。費用については修繕積立金を取り崩して充てる予定です。組合員の一部から修繕積立金を取り崩すことは規約に違反すると言われています。規約は標準管理規約に準じていますが、問題があるでしょうか。
A
標準管理規約28条では修繕積立金を取り崩せる場合を規定しています。
この規定は限定列挙であるとされていますので、この規定のいずれかに該当する場合以外には、仮に、取り崩しの決議が圧倒的多数で可決されても、規約に違反するので許されないことになります。
標準管理規約28条1項5号には「その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理」に該当する場合には修繕積立金を取り崩すことができると規定していますが、これに該当するといえるでしょうか。
この点が争われた裁判例として神戸地方裁判所平成30年1月18日の判決があります。この裁判例では非常通報装置の導入は「管理」行為に含まれないという主張に対しては「管理」とは変更行為に至らないものを広く意味していると解され、本件通報装置を導入することも「管理」に含まれると判断しています。
また、非常通報装置は「敷地及び共用部分等」に含まれないという主張に対しては、「本件通報装置のうち本件端末機器及び管理室内設備は文言上これに該当しない。しかし、同号が〝敷地及び共用部分等〟と定めているのは、本件マンションが当該建物と敷地から構成されるものであり、このうち専有部分に関する事項が区分所有者全体の利益に関係することが通常想定されないためであり、同号が本件端末機器及び管理室内設備のような被告(=管理組合)の所有する動産に対する支出を排除する趣旨であるとは解されない。本件通報装置を構成する各設備は、本件マンション内に設置され、機能的に一体として存在しているものであり、それが物理的観点から共用部分等に属さないものがあるからといって、支出を排除する実質的な理由はない。本件通報装置には本件マンション全体に対する共益性(区分所有者全体の利益)と当該目的にかなった各設備の機能的一体性が認められ、本件マンション全体にとって有益な設備として修繕積立金からの支出」することを認めています。
この神戸地裁判決は控訴されましたが、判決後に被告の管理組合が「風紀、秩序及び安全の維持、防災等組合員の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するために必要な物品の購入及び設置」のためにも修繕積立金を取り崩せるとする条項を追加する規約変更と当初の非常通報装置導入決議を追認する決議を行いました。控訴審(大阪高等裁判所平成31年1月31日判決)はこの規約改正と追認決議の存在を理由に管理組合を勝たせていますが、原審の神戸地裁の判決理由については否定的な考えを示しています。
標準管理規約を前提として、修繕積立金を取り崩して、非常通報装置導入費用に充てることは、規約違反行為と判断されるリスクが高いと考えられるので避けた方が良いと思います。
回答者:NPO日住協法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2020年9月号掲載)
集合住宅管理新聞「アメニティ」は、1982年創刊、39年間の歴史を持つマンション管理とメンテナンスの専門情報紙です。1都3県などの分譲マンションを中心に10万部発行。見本紙ご希望の方は、ホームページからお申し込み出来ます。
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