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11/4の岩手県の説明会は、丸1年ぶりに急きょ開催され、「説明会」としては時間的にも相当ムリなものになる事は予測できたので「鍬ヶ崎の防潮堤を考える会」としては前回以来の流れと要点を下記の通り質問資料としてまとめておいて当日主催者と出席者に配布した。いわば「鍬ヶ崎の防潮堤を考える会」の立場を表明したものである。
記
鍬ヶ崎防潮堤「説明会」への質問
2014.11.4 「鍬ヶ崎の防潮堤を考える会」
日立浜(けんぼーぶろぐ「港町ギャラリー」より)
1. 防潮堤の鍬ヶ崎の景観への影響は?
● 鍬ヶ崎の宝は景色 海の見える鍬ヶ崎の景色は自然の山、自然の海だけでなく船揚げ場や岸壁での人の働き、漁船の荷揚げ、市場や海産物運搬の賑わいなど全てが景観であり、地元の息抜き、観光ゾーンとなっている。コンクリートが及ぼす防潮堤の影は、観光地の北海道奥尻島のように悲惨なものとならないのか? (当会の次第4回勉強会の課題でもある)
● 防潮堤の圧迫感 刑務所の塀以上の高さは日常的に死や悲しみのイメージにならないか? 防潮堤がなくても鍬ヶ崎の人は津波では死なないのに、毎日毎日高い壁を目にするとは…
● 心象の変化 すでに鍬ヶ崎の平地から退出した人もいる。遠くにいる人の故郷を思う心の変化も見逃せない。防潮堤計画が心の変化を呼び覚まし過疎化を助長しているのでは?
● 景観は鍬ヶ崎のIdentity 大げさではなく海の景観は地元の生きがいである。
2. 地場産業、生業(なりわい)を分断することにならないか?
● 漁業産業を始め加工、港湾、流通が防潮堤で分断される。何よりも外からの漁船の入港、観光船の入港が下降線を辿る。人の交流、物流が衰退すれば地区産業だけでなく宮古市全体の産業に影響を及ぼす。はっきり、防潮堤は宮古市の地場産業をだめにする。
宮古港(宮古伝言板「鍬ヶ崎スナップ(1)」より)
● 陸(おか)人の協力があって海の産業が成り立っている。海の生業があって鍬ヶ崎らしい経済がある。人がいて磯漁業、沖合・遠洋漁業にもつながっている。海を育み海に育まれている鍬ヶ崎の人は海を恨んだり恐れてはいない。すべての絆が密接であるだけに防潮堤は海の恵(めぐみ)を分断し衰退させる。
3. 防潮堤という巨大構造物とは? ハード面に疑問がある
● 鍬ヶ崎を取り囲む防潮堤のかたちは津波の圧力を周りから一点(港町)に呼び込み、越流、部分破壊から、全的崩壊に進むかたちである(田老防潮堤崩壊のかたちと同じ)。
● 10.4mの高さには意味がない。シミュレーションは津波を静的な増水として計算して浸水はないと宣伝している。そうではない、津波は波が波に押されて畳み込んで遡上し越流し防潮堤の弱点を突破口にして浸水する。沿岸の人ならその破壊力をよく知っている。
● 鍬ヶ崎で計画されている直立式(逆T字型)防潮堤はその工学的デザイン、組み立て式構造から津波に対して役に立たないと思われる。構造物として、防災はおろか自立自体が疑わしい。
4. 将来の津波に、役に立たない防災原則
● 開口部が北を向いている宮古湾の特性から北方の釧路・根室沖、十勝沖、三陸北部沖を三連震源とする巨大津波やカムチャツカ半島周辺を震源とする巨大津波の発生は地元住民の視野に入って直立式防潮堤の無効性が再び「想定外だった」と繰り返される不安を抱えている。
● 南海トラフを震源とする西日本の津波対策は、すでに東日本の対策を越えている。破綻した静的シミュレーション同様、岩手県など東日本でまだ捨てきれずにいるが、全国的には意味不明なL1レベル、L2レベルの区別はもう使っていない。
● 同様「一湾一律高」の省庁通達(2011年)も宮城県、岩手県の各湾各湾港で、その原則がほとんど崩れている現実がある。
5. 防災施設は地区の事情を考慮して
● リアス式沿岸に住む小学生なら「V字型湾の津波の波高は湾奥に向かって逓増的に高くなる」事を分かっているのに岩手県は強引に「一湾一律高=10.4m」を宮古市に押し付けている。鍬ヶ崎も藤原も、藤の川も、津軽石も防潮堤や水門は機械的に10.4mだ。いま宮古市だけが裸の王様である。
● 防潮堤で有名な安倍首相夫人昭恵氏は「防潮堤の高さを変えればいいところもあるし、全く必要ない場所もある。もう一回、精査してほしい」と訴えている。まともな発言である。
● 防潮堤によって救われたという人はいないといわれる反面、防潮堤の有効性もいわれているが、3.11の震災の検証がなければならず、行政からの検証の開示は不可欠である。
6. 高台への「避難」が一番確実な防災
● 防潮堤は「津波を防ぐ」「命を守る」というように宣伝されているが、二重の防潮堤に囲まれていた田老地区の惨状に見るように、それは神話であった。田老や他の被災地において防潮堤は津波を防ぎ、命を守れなかったばかりではなく、多くの犠牲者を生む原因にもなった。
● 海と暮らす鍬ヶ崎の人は津波避難にたけている。異常な地震と同時に高台に避難し船は沖合いに出す。鍬ヶ崎地区は特殊な地形で子供でも自分の避難路を知っている。測定機器や情報技術の進歩で警報のは確実にスピード化し、津波で命を落とす事はなくなるだろうと言われている。
● 転入居住者、観光客、地元外からの就労者に対する経験則の伝達、避難誘導は地区のむずかしい課題であるが地元の人は地元と同じレベルまで高めようと努力している。──この避難防災の諸原則から見て防潮堤の役割は疑問である。そこのところの説明が全く行われていない。
7. 現状は明らかなフライング状態、工事の中止、地区の合意を
● 防潮堤問題はいずれにしても住民投票的重要事案である。──鍬ヶ崎地区の震災のくわしい検証と地区住民の合意がないままに防潮堤計画が進行している状態は正常とはいえない。現状は明らかなフライング状態である事を岩手県は認めるべきである。工事は直ちに中止するべきだ。
● 地区住民、宮古市民の中には防潮堤に代わるアイデアや防潮堤の修正、改良の意見を持つ人も多い。向こう百年、二百年、千年の防災計画である。十分な合意形成に時間と労力を惜しむものであってはならない。
8. 岩手県は鍬ヶ崎地区住民への包括的説明プログラムを早急に提示するべきである
● 岩手県は断片的、後追い的、アリバイ的説明会から脱却して、鍬ヶ崎地区住民の生活、地場産業など民政の立場にたった全体の計画プログラムとその説明スケジュールプログラムを早急に策定し、ハード設計計画とともに開示するべきである。
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