国破山河在
城春草木深
感時花潅涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵萬金
白頭掻更短
渾欲不勝簪
高校時代の恩師、久貝良夫先生の漢文の授業はすごかった。小柄な久貝先生はその当時すでに定年間際で、まさに碩学という言葉にふさわしい老学者のような威厳のある先生であった。
自由放漫のやりたい放題の学校であったが、久貝先生の授業は張り詰めたような緊張感がみなぎっていた。怒られるわけではないし、先生からの質問もめったにないはずなのだが、先生の威厳がそうさせていたのだと思う。
なかでも冒頭の杜甫の春望の授業は、今の時期になるとふと思い出す。「国は春にして草木深し」「時に感じては花にも涙をそそぐ」と朗々と読むあの声はいまだに耳に残っている。
30年近く前の、その当時定年間際だったので、おそらくはご存命ではないだろう。小学校から大学、専門学校などを通じて、いろんな先生に教わったが、最も印象に残り、最も豊かな影響をもたらしてくれた師であった。