どんこの空(そら)に 。

きっと何かが足りない~それを探す日記~

山本茜という騎手に思う。

2008-03-09 | 競馬余談

突然風のように旅立って行ってしまった山本茜騎手。
私が思うに、彼女はとことん業(ごう)の深い人間なのだと思います。
でもまさかこれほどとは。。。
私のような人間にはとても真似のできない生き方です。
それは彼女の若さによるものなのか、それとも持って生まれた資質なのかは、私には知る由もありません。
彼女は今後どこに辿り着くのだろう?
そして、そもそも彼女の目指しているものは何なのだろう?
彼女について、少しだけ知りたくなりました。



「自業自得」という言葉があります。
今後の彼女には、報いを果たさなければならないことが多くあるのかも知れません。
ただそれにしても、何が彼女をこれほどまでに馬に向かわせるのでしょうか?
その馬に対する情熱が、彼女の業をより深いものにしていることは間違いないような気がします。
これまでに彼女に関わってきた人々全てのため・・・・・、
また今回のわがままを聞いてくれた周りの人ため・・・・・、
彼女はこれからさらに自身の目指すもののために、ひたすら前を向いて進んでいかなければならなくなったことは間違いありません。
そうでなければ、これまでの彼女が嘘になる。
それが業というもの。
これまで、それほどまでに自身が守ろうとしたものを、今後彼女は自らの手でそれを証明していかなければならないと思うのです。
少なくとも彼女が少しでもこれまでに関わってきた人々に恩を感じているのならば、その報いは、彼女が自身の目指すものに向かってさらに精進し、そして勝ち取ってそれを示すことしか、もはや方法はないでしょう。



世間を騒がせた師弟関係の話もそのひとつ。
私はあえて本当の理由やその後の顛末など知ろうとは思いませんが、でも想像するに、私はこの師弟関係はまだどこか深いところで繋がっているような気が私にはするのです。
そうでなければ彼女は訴訟を取り下げることはなかったでしょうし、また師もそれを受け入れることはしなかったと思うのです。
どちらも失ったものは、その公表した理由などで簡単に収まるもののようには思えませんでしたし。
師としても、フラれた女に最後に謝られても何がどう取り戻せるわけでもなく(取り戻せないのと同じように)、男のやせがまんとしてああするしか無かったのかも知れませんが。
・・・とはいえ人間は、論理と理性だけで動いているわけではありませんので、きっと今後もこの二人が元のサヤに収まることはまずありえないことも確かです。
また今後も、決してそのことについて公に語ることは二度とないでしょう。
師は、自分や家族の生活を守ることも当然あるでしょうし、それ以上に伝統を守っていくことや騎手と調教師との関係や立場、競馬サークルの今後のモラル等を周囲に示していかなければならないという社会的責任も負っているからです。
ただ私は、この師弟関係は感情的な部分で”馬が合わなかった”だけのように感じるのです。
あの時、師は何のために裸にまでなったのでしょうか?
そして今回、弟子は何のために厳しい海外へ行ってまで馬に跨り続けるのでしょうか?
真実は、分からないことだらけです。
でも、そんな数々の疑問をひとつひとつ考えた時に、私にはぼんやりと見えてくるものがあったのです。
それはまさしく、それぞれの馬に対する情熱。
やり方、考え方は違えど、競馬に対する情熱で、きっとどこかで許しあえているように思うのです。
もしここで彼女が競馬から逃げ出したり、馬と真摯に向き合っていくことを止めてしまったら、それこそ師の情熱やこれまで失ったものは報われないように思うのです。
(本当のところ、まだ彼女にはもう少し時間が必要なのかも知れませんが。。。)



でももしこの推論が正しいならば、彼女のこのあえて厳しい環境の中への挑戦は、より一層意味のあるもののように思えます。
今回の彼女のNZ遠征が、うまくいくかなんて分かりません。
私の見聞いた限りの話では相当厳しい環境のようですし、言葉の問題もあります。
馬とコミュニケーションする前に、人とコミュニケーションできないのですから、もしかしたら騎乗チャンスすらなく精神的に参ってしまうこともありえるでしょう。
たとえ騎乗チャンスに恵まれても、たぶん今程度の技量では、わずか3ヶ月という短い期間でうまくいくはずもないと思います。
それでも「自己責任」という名のもとに、あえて何もわからない世界へ飛び出していった彼女。
学ぶことは、騎乗だけではないはずです。
何もかもが新鮮で、数少ないチャンスにはきっと精神的に研ぎ澄まされるに違いありません。
たとえうまく行かなくても、きっと彼女は何かを持ち帰ってくるはずです。



私は今回、それを行動を見守る周囲の方々の寛大な包容力にも敬意を表します。
でもそれはきっと、今の地方競馬関係者の誰もが心に持っているであろう”現状を少しでも変えて行かなければならない”という気持ちの表れなのかも知れません。
それは、今の地方競馬現状を知る関係者の誰もが感じていることだと思います。
しかしながら、誰ものそこに立ちはだかるであろう「生活」という問題。
だからこそ、誰もが動くのを躊躇う。
現状を守りたいと思う気持ち。
家族を守らねばならないという気持ち。
全体のことを考える以前に、まず誰もがひとりひとり自分のこと・・・。
実際の現場では、それは仕方のないことです。
だからこそ、誰かに期待する。。。期待したい。。。
そして、いつの時代もそれができるのは「若者」であるのです。
新しい想像力と身軽な行動力で、いつも時代を変えていくのです。
真摯に競馬と向き合える彼女達の世代の若者が、この行き詰った地方競馬の何かを少しずつ変えてくれるかも知れない・・・。
周りのそんな想いも、きっと全くゼロではないでしょう。
現状維持論しか持たない周囲の環境であるならば、この遠征は実現しなかったはずです。



ただ、彼女が持ち帰ってくるものが何なのかは、今のところ全くわかりませんが。。。
自分の騎乗のことだけかも知れません。
はたまた調教のやり方や競馬のシステムのこと、もしかしたら雇用関係の在り方のことなのかも知れません。
新しい出会いもあるはずです。
たとえどんな小さなことでも、きっと何かを感じてくるでしょう。
はたして、鬼が出るのか?蛇が出るか?
もちろん既存の人達は、伝えていくべき伝統を守ったり、若い世代にモラルやしきたり教えたりしていくことも当然必要です。
でも実際にこのままの延長線上では、地方競馬の明るい未来は何も見えてこないように思えるのです。



私には、彼女が自分自身の業をどれだけ感じているのかなんて分かりません。
先々何を目指しているのかなんてことは、まるで想像もつきません。
でも私は、彼女が今後長い時間をかけて、いつかきっと競馬場でその答えを出してくれるものと信じています。
そしてそれまで関わってきた人に、彼女なりのやり方で恩を返していくと勝手に思っています。
これは私の古い頭で考える女性への偏見かも知れませんが、今の時代、女性の方が思い切った生き方ができる時代なのかも知れません。
男はつらいよ。





「山本茜という騎手に思う。」













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