えびす顔の造花卸売問屋元社長からの手紙

かすかな希望を抱いて幸せを自慢する尊大な手紙。重複掲載御免。造花仏花の造花輸入卸売問屋ニューホンコン造花提供

「マダンの児」の奥底に流れるものは

2019年02月17日 14時46分18秒 | 本・セミナー
 みなさん こんにちは

 先日、この手紙でご紹介しました「マダンの児」(朴禮和=박예화/パクイェファ著、ケイビーエス)、その時の感想がどうも納得いかずに、再度のお便りになりました。あしからず。

 今年88歳を迎えられる在日韓国人女性の朴さんが、約80年前に朝鮮から日本にわたってきた7歳前後の頃を振り返り描いた幼少記です。

 家族で名古屋の借家にたどり着いたその夜、父がいない時に隣の日本人女性が大声で文句を言いにきました。頼りの母は奥の部屋で「泣きそうな顔で深いため息をついている」だけ。姉も出てきません。日本語も分からず一人玄関で対応した7歳の女の子は「黙ってその女性の顔を眺めている」だけでした。実はそのおばさん、朴さん姉妹が壁一枚の長屋で壁に何度もぶつかるほど大騒ぎして遊んでいるのを注意しに来たのでした。この体験は、彼女に「箱の中に押し込められた窮屈さ」を思い知らせ、「日本に来るんじゃなかった」と泣きたい気持ちにさせます。それでも彼女は朝鮮でマダン(家の庭)で遊んだ青蛙を思い出し、「私に壺に入れられた青蛙もこんな(窮屈な)思いをしたに違いない。ごめんなさい」と謝ります。そしてさらに、空襲で焼け出された際、このおばさんがとても心配してくれたことを引き合いに出し、おばさんも実はさっぱりした方だったと持ち上げます。逆境の中になにか温かい情感が流れ、ほのぼのとした気分にさせてくれます。しかし、大声で怒鳴る女性の前に突然一人で立たされた7歳の女の子の恐怖はどれほどだったでしょうか。そして朝鮮ではあれほど強かった母の泣き姿を見た衝撃は深かったはずです。その恐ろしさや衝撃は、彼女の軽快な文章の中で影を潜めます。

 こんな場面が、幾度も出てきます。どれもこれもすっと読んでしまうと、温かい人情噺で終わってしまいます。しかし当時の朝鮮は日本の植民地支配下にあり、朝鮮の方々は日本国からはもちろん、普段の生活の中でもいわゆる日本人から差別を受け、圧迫されていました。その時代背景を少し頭に入れて読むと、作品の有様は一変します。奥底には支配と被支配、差別と被差別、富と貧困の中で起こる複雑な人間模様が横たわっています。利発な幼い少女の目を通した物語は、そんな深みを帯びながらも、最後にはほっこりとした気持ちに読者を導きます。朴さんの筆力のたまものです。

 と、思いながらも朴さんはどんなお気持ちでこの本を執筆されたのか? この著書の初出は出版元のケイビーエス社の社内報、といっても外部のお客様方に配布していた宣伝広報紙です。読者にはもちろん日本人のお客様もたくさんいたはずです。聡明な朴さんが、そこをどこまで意識して執筆されたのか。はたまた、差別への恨みはないのでしょうか。それとも親身に寄り添った日本人の記憶がそれを上回るのでしょうか。さらには日本と朝鮮半島の将来を見据えた未来思考がこのような文章を書かせたのでしょうか。ここにこそ在日の方々の複雑な思いが凝縮されている。

 巻末には時代背景を理解するための注釈、朝鮮と日本の関連年表も付されています。日本人が自らの歴史を振り返るための必読の書です。

 勝手な感想すみません。

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