認知症

自分でも年代的に認知症を心配する時期になっている。

　認知症とは何だろうと思ってしまう。人間はみんな多かれ少なかれ認知症の症状がある。経験したすべてのことをきっちりと覚えておくことはできないし、必要でないことは片っ端から忘れている。反対に、忘れられなかったら発狂して死んでしまうだろう。当然ながら、脳のキャパシティーは限られている。この脳に何でもかんでも詰め込めば満杯で飽和してしまう。また、新しいものを覚えるためには古いものは消してゆかなければならないのだろう。

誰だって少なからず認知症であることを前提としなければならないのだろう。

　そうであれば、認知症の人を区別したり差別したりするのは間違っている気がする。認知症も一つの個性だと思う。周囲に迷惑をかけないような認知症であれば何も問題ないはずである。たとえ認知症であってもある程度のことは受け入れて、そんな人でも生活できる環境が必要なんだろう。何でもかんでも医療に依存して、医者が認知症の検査をして、認知症と診断されれば医療機関に送り込んで治療することが当然となっているが、おかしいと思う。

認知症は困った病気ではない。

　周囲に迷惑をかけ問題行動を起こす人もいるかと思うが、その人にもそうしなければならない理由と原因があるのだろう。そこから考えるべきであり、直ちに認知症の治療に移行するのは短絡的だと思う。周囲の理解がないから不信感が生じて閉塞感と孤立感から問題行動を起こしているのだろう。認知症は脳の老化であり、年齢に伴う老化は自分で防ぎようがない。その老化が受け入れられないのなら、その状態は差別以外の何物でもない。そんなことが許されて良い訳がない。

認知症になることは幸福度が増大する。

　我々だって若い頃、嫌なことや辛かったことは努めて忘れてしまうようにしていたではないか。これは生きるための知恵でもある。過去の嫌だったことや辛かったことを忘れれば楽しかったことや有意義だったことが残り、全体としては幸福な気持ちになるはずである。そんな人間の本能が認知症を促しており、年齢とともに忘れる度合いが高くなるだけではないかと思う。残ったものが人生のエキスとも言える大切なものなんだろう。

昨日今日のことを忘れても何も問題ないではないか。

　確かに日常生活の細かいことを忘れるのは現実の生活に支障が出てくるだろうが、その人の全体の人生の中でそれにどれほどの重要性があるのだろう。忘れてもいいではないか。忘れても日常生活が困らない環境を整備するのが求められるのだろう。できないことを責めるよりできることを見つけてそこを真ん中において生活して行かなければならないだろう。ある年令に達したらやるべきことのほとんどがやり終わっていて、その後は楽しく過ごせば良いのである。

楽しく過ごすためにどうしなければならないかを考えなければならない。

　大きなイベントは必要ない。通常の日常生活の中の小さな楽しみで十分なのである。大きな事業を起こすわけでもなく、やったこともない事に挑戦するわけでもなく、社会に大きな影響を及ぼす必要もない。すでにその時期は過ぎているのであり、やるべきことはやってきているのである。何か勘違いしているのではないだろうか。それなのに、認知症前の人に以前の立派な人物を期待するから落胆や失望が大きくなるのだろう。

確かに高齢であっても現役世代以上の体力と気力と能力を保有している人がいる。

　それも個性ではあるが、そんな人ばかりではないことを認識すべきである。ほとんどの人は年齢相応に老化しているのである。それなのにスーパーマンのような高齢者になりなさいというほうが間違っている。そして間違ったイメージを植え付けられている。まずは、日常生活が不自由なくできれば上々であり、不自由な部分はなんとか補いながら生活するのである。そんな生活の中に最終的なささやかな幸福を謳歌するのである。その幸福さえ奪うというのであればそれは許されない横暴であり、人権侵害に近い。

認知症と思われる人もためらうことなく周囲の援助を受ければいい。

　障害者が援助を必要としていることと同じであり、赤ん坊がすべてを委ねて生きていることと同じである。障害だから問題なのでもなく、赤ん坊だから問題なわけではない。そんな援助が受けれる環境の整備が必要なんだろう。認知症だけを特別扱いする必要もない。本人の幸せを最優先に考えなければならないと思う。だからと言って周囲に迷惑かけっぱなしという訳にもいかない。どうやったら迷惑をかけないか、迷惑を最小限にするかに知恵を絞る必要がある。ただ、お金をだして医療機関に押し付けるだけが解決策ではないと思う。