切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

5月團菊祭 夜の部「丸橋忠弥」「蛇柳」「め組の喧嘩」(歌舞伎座)

2015-05-28 21:59:54 | かぶき讃(劇評)
ひさびさにちゃんと感想を書きます。だいぶ怒られそうですが・・・。

①丸橋忠弥


黙阿弥が初代左団次のために書き、出世作となった芝居なんだけど、近年は意外と上演回数が少なくて、わたしが生の舞台を観たのは橋之助くらい。あと、NHKのテレビ収録で17世羽左衛門がお濠端と立ち回りだけ演じた貴重な映像(昭和43年)も観たことがありました。また、SP盤で二世左団次のお濠端の声が残っていたりもしますよね。

さて、今回の舞台ですが、松緑の忠弥は、橋之助の場合同様、やや声が高く、いくら酔っぱらってるふりをしている設定とはいえ、どうも腰が据わらない。いっても、今なら反政府組織のリーダー格ですから、軽く見えちゃうんですよね。昔、富十郎が初役で「加賀鳶」の道玄を演じる際、二世松緑から「おまえは道玄をやるには調子がよすぎるから、調子を落とせ」とアドバイスを受けたそうなんだけど、今の松緑や橋之助も少し声の調子を下げる必要があると思いますね。17世羽左衛門とか2世左團次みたいに。

お濠端で義理の父親・弓師藤四郎に会うくだりは、橋之助の納涼歌舞伎では省かれていたけど、今回は原作通り。でも舅役の團蔵と松緑のくだりが少しユニークで、コミカルな味があった。羽左衛門の場合は、舅の演技が地味でかつシリアスで、こっちが本来の形なんだろうけど、若い義理の親子という見え方は、ちょっと現代的な感じがしなくもなくて、これが次の場で生かされるのなら、新しい演出ともいえなくないなとは思ったんですが、さて・・・。

お濠端では、舅がでて、のら犬がからんで(この犬の芝居がたいへん難しいらしいんですが。)、石をお濠に投げて深さを測る「煙管の見得」があって、傘をさした松平伊豆守登場という流れだけど、煙管の見得が足の長い松緑にしては重心を下げて悪くない。一方、伊豆守の菊之助はどうも淡白で面白くなく、羽左衛門の映像の三世左團次くらいの勿体つけた思い入れがほしい気がした。橋之助の時も伊豆は染五郎だし、「知恵伊豆」といわれた切れ者の役だけにベテランがやるか、若手にしても対決姿勢の緊張感がほしいところ。

舞台まわって、忠弥内。女房のおせつの梅枝は、橋之助のときの扇雀のうぐいす色の着物と違い、薄紫で、こちらの方が浪人の妻らしい色合い。そして、駒飼、勝田役のの亀寿、歌昇、母おさがの右之助と、ベテラン、若手で忠弥を追い詰めるんだけど、彼らにしらを切りとおしながら、團蔵のコミカルな弓師藤四郎に秘密を打ち明ける理屈がどうもうまくつながらない。

なぜこんな親父にばらすのか、團蔵の藤四郎が楽しすぎるがゆえに、忠弥がテロリストにしては甘く見えてしまい、由井正雪が頼りにする男にしてはちょっと思慮が浅すぎるという印象を残してしまうんですよね。

従前どおり、お濠端の舅の説教を陰気にするのか、忠弥内でもうひとつきっかけがくるのか、ひと工夫がこれからの演出に求められるなあ~という感想をもちました。

このあとの捕り物は、ちょっと長いけれど、若い松緑の元気いっぱいの立ち回りで見どころ十分。なお、わたし、團蔵さんのコミカルなところ、大好きなんですけどね。


②蛇柳(じゃやなぎ)


海老蔵が自主公演AB会で復活させた演目で、わたしは観るのも初めて。なので、緞帳が上がって、松羽目の舞台だったんで、AB会ではどうだったんだろうと疑問に思ったのと、4世團十郎の時代は当然松羽目物はなかったはずと思ったんだけど、このあたりどうなんですかね?

さて、舞台ですが、花道から海老蔵演じる助太郎(名前がとぼけてる!)が出てきて、いう台詞回しが、リバーブをかけている如く、ぼんやりと幽玄で、不思議なものでした。実は蛇なので、この世ならぬ声というハラなのかもしれませんが、ちょっと慄然としましたね。ただ、この役って、もともとは三枚目の役だというから、白塗りの色男での登場は批判もあるでしょう。でも、あの声は・・・。

そして、松緑率いる美坊主軍団(?)と海老蔵の助太郎のやり取りですが、それほど面白味はなくて、「法界坊」の「双面」みたいに、蛇の正体が見え隠れしながら海老蔵が踊るくだりは、悪くないんだけど、今は亡き勘三郎が演じた「双面」ほどには、怖さのチラチラでてくるメリハリが効いてない(もっとも、これは勘三郎のが凄すぎた!)。

最後の正体を現すくだりは、良くも悪くも松羽目物のパターン通りなんだけど、途中で海老蔵の蛇柳の精が吹き替えになってしまい、舞台上の精気が意外なくらい失われて、これでは押し戻しが出なくても退治できたのではと思ってしまうほど。演出上の工夫で蛇の怖さを維持するか、押し戻しをなしにするか、なかなか難しいところかも。ただ、海老蔵の二役目押し戻しはさすがに迫力があった。ただ、それゆえに対抗する蛇がもっと強いままで拮抗してないと、なんだか舞台が持たない。でも、これが舞台とか役者の不思議なんでしょうね。同じことやってても、微妙に迫力とオーラが違ってしまうという・・・。

ということで、今後も海老蔵はこの演目を練り上げていくんでしょうね。そのことに期待。


③め組の喧嘩


割りと上演回数があるのに、最後の「水杯、ペ!」が苦手だったのと、辰五郎内がだれるのとであんまり好きじゃなかった演目。

でも、亡くなった三津五郎が襲名披露で演じたビデオと三社祭のサプライズがあった平成中村座の勘三郎の舞台映像を見直し、名作歌舞伎全集を読み直したり、六代目菊五郎のSP復刻を聞いてみたりで、今はすっかり好きになりました。しかし、今までなんで毛嫌いしてたのかな!?

主役の辰五郎の比較でいうと、三津五郎は切れ味鋭くかなり怒っている印象、勘三郎はなぜか耐えるハラの辰五郎という印象で、台詞の詠嘆がその印象を強める。そして、菊五郎ですが、このひとの辰五郎は何度も見ているけど、二人との比較でいうと、ずっと大人の親分というイメージか。怒ってるんだけど、怒っている部分をチラッとしか見せないところがこの人の味ですね。

たとえば、序幕の島崎楼、鳶と相撲は身分が違うといわれて、内心むっとするくだりで、最後に障子を力いっぱい閉めて帰る場面。三人の中で一番大人の対応をしているように見える菊五郎が、笑っちゃうくらい力いっぱい障子を閉めるんですよね。三津五郎、勘三郎より音が響いちゃうくらい。このあたりが、そこまで抑えている分、怒っているのがよくわかる。

芝居前の場でも、納めて帰る花道の一瞬の怒りの表情。これがほんの一瞬で時間にして、三人の中で一番短い印象。

また、親子三人で水を飲むくだり「下戸の知らねえ、旨え味だなあ~」ですが、三津五郎は深く読み込んだ心理主義的っぽい詠嘆だったのに対し、勘三郎は耐える辛さの述懐みたいなニュアンスがあり、菊五郎だとまさに音羽屋という感じ、黙阿弥の世話物の歌う名調子。でも、一見一番深刻じゃないように見えて、一瞬ホロリとくるイメージなんですよね。

この場は、時蔵の女房お仲が傑作。勘三郎のときの扇雀はややヒステリックに詰問するお仲という印象があり、それが耐える勘三郎=辰五郎のイメージにつながっていたんだけど、時蔵は怒っていても粋で色気があり、落語「三軒長屋」のおかみさんを連想した(個人的には志ん朝のそれ)。

また、この場面の重要な役・亀右衛門だけど、三津五郎のときの秀調、勘三郎のときの錦之助、今回の菊五郎の團蔵とそれぞれ傑作で、秀調の老獪、錦之助の威勢の良さ、團蔵の軽みといった感じか。今回の團蔵は菊五郎と息の合った、菊五郎劇団らしいアンサンブルで十分堪能させてもらいました。

最後に気になったことを書き残しておくと、まず、八つ山下のだんまりが、役者が揃っているにもかかわらず照明が明るすぎる。だんまりの闇を役者に頼りすぎるのはどうかと思う。昼の部の「合邦」も「しんたる闇~」で始まる演目で照明が明るすぎた。照明を落とすか、美術的な処理で暗く見せるか、検討が必要なのでは。

次に、序幕の菊之助の三河町藤松。三津五郎のときの松緑、勘三郎のときの勘九郎との比較でいうと、一番クールで、若気の至り感が薄い。語気は鋭いんだけど、怒っている感じがもうひとつ。この喧嘩がすべての発端であることを考えると、少し透かしたカッコよさみたいになってしまっていて、以前の「髪結新三」のカッコ良すぎた勝奴を思い出した。もっと、カッコ悪い役のニュアンスでもよいと思う。

そして、最後の大立ち回り。大勢が出演しないと成立しない芝居なので、多少見せ場をつくってあげないといけないという現場の事情は致し方ないんだと思う。でも、やっぱり、すこし長いですね~。

で、最後の仲裁を行う炊き出し喜三郎の梅玉。ニンにあっててよいんだけど、もうひとつ声量がない人なんで、菊五郎劇団の客演ではちょっと気の毒な面もある。

というわけで、長々と書きましたが、終演の9時まで、十分楽しませてもらいました。今後もぽつぽつ劇評書かせてもらいます。

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一、慶安太平記(けいあんたいへいき)

丸橋忠弥



丸橋忠弥 松 緑
女房おせつ 梅 枝
駒飼五郎平 亀 寿
勝田弥三郎 歌 昇
母おさが 右之助
弓師藤四郎 團 蔵
松平伊豆守 菊之助

二、歌舞伎十八番の内 蛇柳(じゃやなぎ)




丹波の助太郎実は蛇柳の精魂/金剛丸 海老蔵
阿仏坊 亀三郎
覚圓 亀 寿
普門坊 巳之助
誓願坊 尾上右近
徳善坊 種之助
随喜坊 鷹之資
住僧定賢 松 緑

三、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)

め組の喧嘩
品川島崎楼より
神明末社裏まで

め組辰五郎 菊五郎
女房お仲 時 蔵
九竜山浪右衛門 又五郎
柴井町藤松 菊之助
背高の竹 亀三郎
三ツ星半次 亀 寿
芝浦の銀蔵 歌 昇
伊皿子の安三 萬太郎
おもちゃの文次 巳之助
御成門の鶴吉 竹 松
新銭座の吉蔵 尾上右近
二本榎の若太郎 廣太郎
亀の子三太 種之助
狸穴の重吉 廣 松
烏森の竹次 隼 人
花籠の清三 男 寅
山門の仙太 鷹之資
左利の芳松 橘太郎
三池八右衛門 松之助
葉山九郎次 橘三郎
神路山花五郎 由次郎
宇田川町長次郎 権十郎
尾花屋女房おくら 萬次郎
露月町亀右衛門 團 蔵
江戸座喜太郎 彦三郎
四ツ車大八 左團次
焚出し喜三郎 梅 玉
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